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「依頼が絶えないカメラマン」榊智朗氏に訊く!フリーランスが仕事を受注し続ける秘訣《WEB READING LIFE》


2023/5/16/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

どんなジャンルであっても、クリエイティブとして継続していくためには欠かせない条件がある。それは「仕事が続くこと」。
 
いくら優れた人材でも、仕事が続かなければフリーランスで食べていくことはできない。全ての人脈をたどり、あらゆるSNSを駆使して発信し続けたとしても、フリーランスとして生計を立てられているのは全員ではないはず。
 
今回天狼院書店ライターズ倶楽部では、華々しいフリーランスでの受注実績を持ち天狼院書店フォト講座講師も務めるカメラマン・榊智朗氏を迎え、「常に指名されるフリーランスになる秘訣」について伺った。撮影依頼が絶えないためのポイントは、どんな角度から語られるのだろうか。
 

来た仕事は断らない。地味にシンプルにコツコツと

 
——まずは簡単にカメラマンになるまでの経歴をお伺いします。
 
榊:大学の写真学科を出て、証券会社で働いていました。自分だけで写真を撮っていた25歳くらいの時に、写真家の森山大道さんにゴールデン街で写真を習う機会がありました。
 
世界の森山大道に習ってから撮ったものが、写真界の新人賞を受賞しました。「これは写真で生きていけという神の啓示かもしれない!」と思い、「写真は趣味にしておけ」という周りの反対を押し切って証券会社に辞表を出しました。
 
勢いで会社辞めたはいいけどコネもなく仕事もない。とりあえずカメラマンのアシスタントにはなったけど食えない。そんな時に、ブックデザイナーの井上新八さん担当の書籍の著者撮影が入ってきました。女性著者を撮影して、初めて書籍の帯に写真が付いた。その本が結構売れました。そこから写真の仕事が増えてカメラマンとしての認知度が上がってきました。三浦崇典さんには当時からいろいろ仕事関連でお世話になり、長いお付き合いになっています。
 
——カメラマンの仕事が徐々に増えていく段階はいくつかありましたか。
 


榊智朗 Tomoaki Sakaki / 福岡県出身 フリーカメラマン、写真家。広告、書籍の表紙、PV等様々な分野で活躍。年間撮影件数は雑誌200件以上。書籍30冊以上。《近年の主撮影実績(一部抜粋)》 -雑誌(年間200件以上)- 週刊プレイボーイ(集英社) PRESIDENT (プレジデント社) THE21 (PHP研究所) リンネル(宝島社:二階堂ふみ担当) -書籍:表紙・巻頭・帯 (年間20冊以上刊行)- ひろゆき(元2ちゃん代表) 『無敵の思考 働き方無双 』(大和書房) 森川亮(LINE元社長)『シンプルに考える』(ダイヤモンド社) 他多数

 
榊:実は今まで営業というものをしたことがなく、ホームページもないから仕事の依頼は全部口コミ。ネットを遮断しても連絡をくれる人は絶対に俺に興味があるし、確実に仕事をしてほしいことがわかります。BtoBの撮影がしたかったので、知り合いの手配で仕事をたどりました。
 
書籍や雑誌の写真撮影でいろんな代理店が絡むと「僕らの仕事もやってもらえませんかね?」なんて依頼が来るんですよ。そんな時はなんでもやります。基本断らない。
やれるかどうかわからないのに受けるのは逆に怖いけど、仕事はやってみないと絶対に伸びませんからね。
 
ある時、編集者にこう言われました。
「榊さんが本屋に書店に並んでいる本の中で、一番写真家として部数売っているかもしれないね」
本や雑誌の仕事は派手じゃないけど、それ自体数十万部売れたりします。あとは日めくりカレンダーの売り上げ1〜3位を独占したこともありました。
 
——撮影をするときに心がけていることがありましたらお話しください。
 
榊:写真の実技の知識が全くないままに写真の仕事を始めたから、撮影のライティングにはこだわりはなく、光のコントロールはとてもシンプル。書籍の帯や表紙の撮影では、作家としての自分を消して黒子に徹します。著者が前に出過ぎる写真はいけないので、自分がシンプルなライティングが好きなことは有利でした。
 
書籍写真を撮るときは、本屋に本を置いた時のバランスを考えています。本屋に平置きした時のことを考えると、実はめちゃめちゃかっこいい写真は使いにくい。平置きした本たちの書影の中で違和感があると、書棚の統一感がなくなってしまう。書籍写真において求められているのは写真におけるクリエイティブではなく、著者のその人らしさしかないから、そこはこだわって撮っています。
 
本って、何十年もその家にあるものじゃないですか。家の中のインテリアとしても長く置かれるものとして考えると、書籍写真はシンプルな方がいい。だから仕事が絶えないのかもしれないですね。
派手な感じは売れやすいけど、実は消えるのも早い。地味にコツコツと、ノーコンセプチュアルなスタイルでやっています。
 

コミュニケーション力と仕上がりの正確さがもたらす安心感は、受注への大きなアドバンテージ

 
——撮影依頼が継続している理由がいくつかあるかと思いますが、ご自身のなかで思い当たることはおありですか。
 
榊:自分で言うのもなんですが「謎のコミュ力」的なものは必要じゃないでしょうか。
カメラマンの良し悪しの条件の1つに「現場で初めて会う人に、安心感を与える速さ」があります。喋ってみて「この人が撮るのなら安心」という空気感ってあるじゃない。そこら辺は実家が洋服屋で、証券会社の営業もやっていたから口八丁はお手のもの。笑顔で入っていって、相手に一歩踏み込める人が仕事は来やすいですね。
 
東京とか横浜みたいに都会の人ってある一線から先は踏みこまないから、実はカメラマンって地方の人の方が得意です。田舎独特の濃密な距離感に慣れているから人の懐に踏み込む速さがあります。
 
——顧客や発注先に信頼してもらえれば、無数のフリーカメラマンの中から選ばれるには有利になりますね。
 

 
榊:フリーランスで仕事をもらうには、相手先の担当からファーストチョイス、一番手に選ばれないとダメですね。
1人の編集者には10人くらいお抱えカメラマンがいる。その中から「榊くんに」って頼まれる一番手じゃないといけない。「この仕事はこの人に頼みたい」って思われなければフリーランスの仕事はありません。
 
クリエイティブとしてのファーストチョイスに選ばれるのは恋愛に近いものがあります。好きな人がいても片思いだったら仕事はできないわけだから。今ならデジカメだから誰でもある程度は綺麗に撮れるけど、一番手で指名されるにはそうじゃないところで勝負しないといけない。必要なのは「どんな被写体でも相手が笑ってくれるカメラマンであること」です。
 
それから「現場で撮る速さがダントツに早いから、ビジネス系では重宝されている」と編集者に言われたことがあります。被写体って、特に男性だと撮影にすごく負担がかかる。でも俺の場合は撮るのがものすごく早い。例えば男の社長さんだと、セッティング込みで10分くらいで撮り終わります。ベストショットのジャッジが早いから安心してもらえるらしいです。
 

選ばれること、フリーランスで仕事ができることは奇跡である

 
——榊先生ご自身がいい意味で面白いから、そこで心を向けていただけるのでしょうね。
 
榊:性格と仕事の相関関係はあります。俺は結構気軽に人に話しかける方で、以前「その車、カッコいいですね!」と声をかけた相手が企業の社長でした。「君、何してるの?」と訊かれて「カメラマンです」と答えたら仕事に繋がりました。
 
あとは先に書いた井上新八さんの仕事だって、ゴールデン街の写真関係者が集まるバーで飲んでた時にたまたま井上さんがいて「今、依頼来たけど受ける?」みたいな感じで、隣に座ってたら仕事になっちゃった。
 
ライターだったらSNS経由での依頼もあるし、AIが出てきてもライター業は無くならないだろうから、必ずしも対面が全てではないのかもしれないけど、とにかく人に対してはアクティブに会った方が仕事にも繋がります。
 
自分が好きな仕事に直にアプローチするよりは、いろんな仕事をしていたら最後に好きなものが回ってきた方が個人的にはいいと思う。そういう人の方がその道で食えてます。「絶対になろう」って肩に力を入れるより、関係ない業種から入るからかもしれませんね。ライティングも結局最後は創作で、机上だけで完結して人に会わないと煮詰まるから、なるべく外に出るといいですよ。
 
——嫌な仕事が来たらどう自分のテンションを上げますか。自分を騙しながら仕事をするのでしょうか。
 
榊:以前、森山大道さんに質問をしました。「自分は森山大道さんにはなれないし、クリエイティブの才能があるのかはわからないけど写真を撮らなきゃいけない。どうしたらいいんでしょうか?」と。そうしたら「自分を燃やすしかない」、人間は自分がエンジンであって、自分の中にある好奇心を燃やして創りあげないといいものはできないよと言われました。
 
具体的にテンションを上げたい時は鬱々とした気分を吹っ飛ばすような曲を聴きますね。あとは高い栄養ドリンク飲むとか。そうやって自分を燃やして進む。
 

 
——「心を燃やす」ってアニメとかで聞くセリフですけど、現実でもそのシーンが存在するんですね。
 
榊:よく「仕事だと自分が撮りたいように写真を撮れないから辞める」カメラマンがいるけど、それって実は間違い。写真は真実を写すものではなく「被写体に対して綺麗に嘘をつく」ことです。それで幾許かの金銭が発生して生きていけるわけだから。気が乗らない仕事はたくさんあるかもしれないけど、まずは選ばれないと話になりません。
 
自分の中に社会で果たすべき役割があったこと、「選ばれたこと」に感謝しています。だから仕事があることに慣れちゃいけない。来月からいきなり失業するかもしれないし、自分から進んで仕事をゼロにもできるわけだから、仕事を嫌とは思わないですね。
 
写真は人と話さないと仕事になりにくいけど、昔とは違って若い人はSNSのフォロワー数で発注を判断するドライな世代だから対策も考えないといけない。大学の写真学科の同期250人中、フリーカメラマンで生計を立てているのはたったの2名しかいません。移り変わる時代の中で、仕事があることは毎回奇跡だし本当に有難いと思っています。
 

相手の人生を垣間見ることができるのは、クリエイティブの楽しさである

 
——写真の講評をする中で、その人が撮った写真から何を読み取っていますか。
 
榊:写真は曖昧模糊としたものなので、小説と同じく、行間を読むように写真を見ます。
創作物を作った理由や目的はその作者本人にしかわからない。写真にもその人の癖や性格が出るので、本来は作り手しかわからないものにアプローチしていきます。
 

 
講評は、写真を見せてくれる人と見る人とのキャッチボールです。「自分には、あなたの作品はこう伝わりました」と作者に真剣に伝えます。大事なのは「写真の良し悪しや技術の良し悪しを語らない」こと。それをするとその写真のいいところが削がれます。
 
ずっと1つのことをしているとリテラシーは上がってくるじゃない。文章も同じだけど「この作品は下手くそだな」などと思いますよね。でもリテラシーが上がっていくほどに、技術が上手くなっていけばいくほど新鮮味が薄れるから、実は面白くなくなっていく。時たまそれを失わないまま技術が上手くなる人がいて、それを見るのが楽しみです。
 
——カメラマンとしての、今後の夢や最終目標をお聞かせください。
 
榊:今後ライフワークとして撮りたいのは映画監督や漫画家やゲームクリエイター。自分が好きな人たちを、機会があれば撮りたいですね。
 
この仕事をしていると政治家や東大の教授のように、普通に生きていたら話せない人たち、何かに特化している人に会えます。だから俺はいろんな人に会えるこの仕事が好き。でも誰と会ってもテンションは同じです。
写真って現実しか撮れないし、必ず人が携わっています。ごく普通の人にもその人の人生がある。それを見るのを楽しみに、これからも撮り続けます。
 
《取材・文・撮影 河瀬佳代子》
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)

2019年8月天狼院書店ライティング・ゼミに参加、2020年3月同ライターズ倶楽部参加。同年9月天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて、湘南地域を中心に神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul 、「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/  連載中。他Web記事等実績。2022年より榊智朗氏に写真を師事、取材記事写真等実績。

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