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老舗料亭3代目が伝える 50までに覚えておきたい味

第4章 これぞジャパニーズソウルフード、味噌汁《老舗料亭3代目が伝える50までに覚えておきたい味》


記事:ギール里映(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「ぶはあ、うんまい!」
と、思わず鼻から息を漏らしつつ食べるもの、それがお味噌汁の本質なんじゃないかと思う。味噌汁は半沢直樹における榎本明さん。主役ではないけれど、圧倒的な存在感を放つもの。主役ではないから、外食ではめったに美味しいのが食べられない。また家庭でも主役になれないどころか、作るのがめんどうだからと邪険にされ、省略されてしまうこともある。どこまでも脇役である味噌汁、しかし絶対になくてはならなず、またあることで全体が引き締まり、整え、調和する、そんな影の大御所フィクサー的な役割りを果たすもの、それが味噌汁なのです。
 
人生も50になったら、ほんまに美味しいマイ味噌汁、なるものがあったほうがいい。また味噌汁は究極のソウルフードだから、コレが美味しい、なんて偉そうなことは本当は言えない。生まれ育った土地で、代々食べ続けている家庭の味の究極がお味噌汁だから、そのランキングなんてつけようがない。地方によって、また家庭によって、同じ味噌汁といえど、まるで違う料理と言えるぐらいバリエーションが豊富です。つまりその総体がすばらしいのであって、単一の味噌汁がベストであるとは、口が裂けても言えないではないですか。
 
ところでみなさんは、どんなお味噌汁を飲んではりますか。
 
 

何は無くともまずは出汁〜味噌汁を構成するもの


なにはともあれ、まずは味噌、と言いたいところですが、何よりも大事なのはやっぱりお出汁なんです。味の基本、料理の根底をしっかりと支えているのはお出汁の力、ここが弱いとその上に何をもってきても、味が決まりません。
 
出汁は私たちの食文化の基礎、底辺を支えてくれています。旨味がUMAMIという英語の単語にもなりました。味のなかには何やらその味を「美味しい」と決める決め手があるらしい、それを旨味と呼ぼうということで、従来の五味(酸味、苦味、甘味、辛味、鹹味)に加わったのが旨味です。
 
旨味を作り出すのに顆粒出汁はご法度、質のいい天然素材でお出汁をとりたいところです。昆布やカツオ、いりこといったところがまずはスタンダード、それに飛魚やあごなど、様々な干し魚が使われることもあれば、あさりやしじみ、貝柱などの甲殻類や、干し椎茸や干ししめじといったきのこ、にんじんたまねぎなどの野菜も出汁をとるのに使われます。出汁の種類は具材や味噌との組み合わせでもかわります。どらがいい、悪いではなく、とにかく好みで使い分ける。といいながらも普段なかなか変わったことはできないので、バリエーションを2つ3つ知っておくことも大事です。
 
具材がシンプルな時は海藻プラス魚介のしっかりめの出汁があいます。また具材が魚、野菜などがたくさん入る場合は、海藻プラスきのこなどのあっさりめの出汁があいます。肉類が入る時はむしろそれから出汁がでるので、それだけで充分な場合もあります。好みもありますが、やはり相性は大事です。
 
出汁の素材も大事ですが、忘れてはいけないのがお水です。どんなお水を使うかで、出汁の味ががらりとかわってしまうため、日本の食文化では水の質をとても大切にします。
 
出汁に向いている水はいわゆる軟水と言われるお水です。軟水とは含有しているミネラル分が少ない水のことをいいます。軟水の名のごとく、飲み口がふうわりと柔らかいのが特徴です。これに対して硬水は、ミネラル分を多く含んだお水です。ミネラルが多い分その味をしっかりと感じることができ、時に苦味や重みを感じたりします。ミネラル分が多いと出汁の旨味成分となるアミノ酸がうまく溶け出していかないため、お出汁の味が決まらず、もうひとつ味に深みや甘味が生まれません。
 
このお水は、日本全国場所によって全く違うものになります。
 
例えば水が美味しいことで定評があるのは関西です。関西地方に流れる川や湖の水はミネラル分が比較的少なく、そこから作られるお水は軟水になります。そのため大阪や京都では、お出汁文化といわれる料理文化が生まれました。ほんのりと香る昆布と鰹節の味に、薄口醤油を少したらして黄金色をしたお出汁が、関西の料理の基本となっています。
 
反対に東京をはじめ関東地方では、お水のなかに含まれるミネラル分が多いので、水が硬水になります。硬水では旨味成分があまりうまく溶け出せず、軟水と比較した場合に明らかに味が落ちてしまうので、東京では薄口醤油ではなく濃口醤油で、薄い出汁の味を補おうとしているのかもしれません。東京は赤坂にある京都の有名料亭では、使うお水を京都から東京に輸送しているほど。お水こそ実は裏で料理を支える重要な影の主役なのです。
 
 

ディープでワイドな味噌の世界


味噌汁、というからには、味噌が使われていることが大前提です。味噌汁の要となる食材はこれ以外にはあり得ません。
 
味噌は大豆を麹と塩で発酵させて作られる発酵食品で、起源は飛鳥時代にまで遡ります。中国から伝わった調味料は日本の食文化に定着し、鎌倉時代になって味噌汁として食されることが当たり前になりました。つまり味噌汁の歴史は軽く見積もっても800年ほどになるということ!それだけ長く愛され食されているものが、私たちにとってよくないものであるとは考え難い。
 
江戸時代になると「医者に金を払うよりも、みそ屋に払え」ということわざが生まれました。「本朝食鑑」これは江戸時代のことわざです。
 
「本朝食鑑」(1695年)によると『みそはわが国では昔から上下四民とも朝夕に用いたもの』で、『1日もなくてはならないもの』であり、『大豆の甘、温は気をおだやかにし、腹中をくつろげて血を生かし百薬の毒を消す。麹の甘、温は胃の中に入り食及び滞りをなくし、消化を良くし閉塞を防ぐ。元気をつけて、血の巡りをよくする』効果があるとしています。つまり味噌は美味しいだけでなく、ありとあらゆる薬効をもって、人を元気にする力があることが、かなり昔から明らかになっているのです。
 
味噌の効用は、大きく5つに分けられます。
1つめは、温める力があるということ。人の体は冷えることで病気を生み出してしまいますが、味噌の塩と発酵の力で血行がよくなり、体全体を温めてくれます。物理的に温かくなるから、だから私たちはほっとするのかもしれません。寒い冬の日や酔っぱらって寝てしまった次の日、風邪をひいて寒気を覚えた時など、この力をより感じることができるかと思います。
 
次に消化を助けるということ。人の体は食べ物を消化・吸収・代謝することで命を繋ぎ、生きていきます。そのとき起こる消化というプロセスは、食べ物と出会った時にまず起こる重要なファーストステップ。ここにはものすごく多くのエネルギーが必要になりますから、食べたあとに人は眠くなります。
味噌汁を食事の一番最初に飲むと、その温かさで内臓がふわりとゆるみ、血液が巡り始めます。また味噌のなかに含まれる塩分が消化液の分泌をよくし、酵素が消化を助けてくれます。また味噌の中に含まれる様々な菌は腸にはたらきかけ、腸で吸収する力までをも強化してくれます。つまり味噌汁を食事に取り入れることで、より効果的に食べ物から栄養やエネルギーを取り入れることができるようになります。
 
さらに重要な機能として、デトックスがあります。デトックスとはつまり、排出、排毒する力のこと。私たちの体は日常的に、多くの不必要なものを取り入れていますし、また体内で作られる代謝産物という不要なものもあります。これらは速やかに体から出していくことが体の機能を保つポイントになるわけですが、味噌はその働きを驚くほど助けてくれます。
味噌の排出力のメカニズムは解明されていないところも多いのですが、こちらでお伝えした効用の1つめ、2つめも関わってきます。血流がよくなることで体の代謝機能がアップしますし、そうすると体のなかによい循環が起こります。循環が起こっているからこそ、体が本来の機能を取り戻し、すみやかに排出をするようになることが考えられます。
 
味噌のデトックス能力は想像以上に高く、放射性物質までをも排出する力があると、長崎で活躍した医師秋月辰一郎氏の記録は述べています。1945年、核爆弾で被曝した長崎で活動していた秋月医師は、味噌汁の力で被曝患者の命を多数救ったとされています。これを聞いたロシアがチェルノブイリの事故の後、日本から大量に味噌を買って帰ったという逸話もあるぐらい、味噌のデトックスパワーには目を見張るものがあります。
 
4つめはお肌のトラブルを改善すること。血流がよくなり消化吸収が整い、かつ排泄がスムーズに起こるようになると、自然と体全体の機能が整い、そのせいでお肌のトラブルが解消されるということが起こります。
皮膚に出る症状は体の内側からのサインです。何か滞っていたり、何かよくないことが起こっていると、体はなんらかのサインを出してきますが、その中でも皮膚に現れるものはまず目につきやすいのでわかりやすい。体の内側からのサインですから、いくら外側からだけアプローチをしてもキリがないですし、時には的外れになることもあります。
体が本来の機能を取り戻すと、お肌も本来の機能を取り戻す。シンプルですが、それこそ自然が成しえる力と体本来の機能なのです。
 
最後は、心を整える作用です。
 
心は目に見えません。しかし傷ついたり、痛かったり、きゅんとしたり、どきどきしたりしますから、確実に存在はしています。見えないけれど感じている。感じているということは存在しているということで、そこに味噌汁は確実に働きかけてくれます。
 
例えば、イライラする、怒る、という感情については、味噌に含まれる乳酸菌の酸味がききます。またついついハイテンションになりすぎてしまうときは、味噌の味に含まれる苦味成分が、テンションを整えてくれます。不安、心配で心が震える時は、大豆の甘味がほっとさせてくれますし、寂しい、悲しいときには味噌のデトックス作用で心のゴミですらデトックスしてくれます。また恐怖で心が震えるときには、味噌の塩味が体の奥にしっかりと芯を通します。東洋医学的にもオールマイティに働くお味噌は、体の機能全体を整えることに加えて、体と両輪で動く心の機能にも同じように働きかけてくれます。
 
東洋医学では腸と脳はつながっていると言われています。つまり腸の調子がよくなることは、脳、つまり心の調子がよくなることとつながります。昨今研究がすすみ、うつ病など精神疾患の改善に食が役にたつことも証明され始めているところ。しかし味噌汁の底力はその研究が進む大分まえから、私たちが生活の中で知り尽くしていることなのかもしれません。
 
そんなたくさんの働きがあるお味噌には、いろんな種類があります。
原材料が大豆であることは同じでも、使う麹が米麹、麦麹、豆麹と違いがあり、それぞれ米味噌、麦味噌、豆味噌と分類されます。
また色で分けられることもあり、京都を連想させる白味噌、名古屋を連想させる赤味噌などもあります。
味噌は単体で使うこともあれば、2、3種類の味噌をブレンドして使うこともあるので、味噌の種類は無限大にあると言えます。どの味噌でもお好みで使えばいいのですが、私としてはやはりブレンドが美味しい。それも麦味噌と豆味噌を合わせた合わせ味噌は、味に奥行きと深みを与えるだけでなく、旨味のバランスをも整え、味噌が持ちうるパワーを存分に発揮してくれると感じています。
 
 

具はなくてもいい?最強の味噌汁にするために


最後にいよいよ、具材の話です。
肉魚、魚介、野菜、海藻、豆腐など、それこそなんでも味噌汁の具になります。具材のバリエーションの可能性は無限大です。その中で一体何を基準に選べばいいのでしょう。
 
シンプルにいくなら具材は一切なくてもいい。お出汁と味噌だけのシンプルなものが、一番心に染み渡ります。疲れている時、気持ちが大きくダウンしているときなどは、食欲がなかったりするもの。そういうときに具なし味噌汁は大きな力を発揮してくれます。
 
日常の食事で、ほかのおかずがあって、一つの汁物として食べる時は、多くても具材は3つまでがいい。それも海藻で1つ、豆腐やお揚げなどの植物性タンパク質が1つ、最後にねぎや玉ねぎなど消化を助けてくれる食材を1つプラスするぐらい。なぜなら日常の食事では、ご飯や他のおかずなど、たくさんのものを一緒に食べるからです。
 
栄養が偏らないようにたくさんの種類を食べなくちゃとせっせとメニューを増やす、食材を増やす傾向もありますが、時にこれは却って消化の負担となり、思っているより効率よく栄養がとれないことがあります。
 
そんなとき、さらに味噌汁の具材で食材の数を増やしてしまったら本末転倒、味噌汁は消化を助けるためにあるもので、決して消化の負担を増すために食べるものではありません。
 
もちろん、味噌汁を一つのおかずとしてガッツリ食べたい時は、てんこもりの具材でもかまいません。大切なことは「なんのために、何を食べているのか」をきちんとわかっておくこと。そうでないとよかれと思ってやっていることが結果として、自分の足をひっぱってしまったりと、うまくいかないばかりかかえって負担になることもあります。
 
 

自分だけのマイ味噌汁を


これでもか、というぐらい、昆布と鰹節の香りが漂い、中にはお餅とほうれんそう、白味噌で甘めに作った味噌汁。これが京都で生まれ育った私のソウルフード味噌汁です。ちなみに通常はお雑煮といわれ、お正月にだけ食べるものです。
 
年に1度、お正月にしか食べない味噌汁(雑煮)ですが、これを食べると心がリセットされます。美味しさに舌が喜び、心が温かさで満ち溢れます。終わった1年を振り返り、これまで生かしてくれてありがとうと感謝しながら、また1年の無病息災を願い、家族で集って食卓を囲む。
 
皆が元気で、共に食卓を囲めることは、本当に奇跡に近い。誰かが病気になったり、または亡くなったりと、この世での存在が消えてしまえば、一緒に食べることはかなわない。
また食材も、今日は豊かに手に入るかもしれないけれど、明日はどうかわからない。今日当たり前に手に入るものが、明日も手に入る保証はない。
 
味噌汁は、ただ味噌の入ったスープではないんです。
ここには私たち日本人のソウルがたくさん詰まっています。
 
あなたの、マイ味噌汁を、どうか一つ手に入れてください。
それがあなた自身を守り強くしてくれる、自分の鏡となるものですから。
 
 
《第5章に続く》
 
 

□ライターズプロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)

READING LIFE編集部公認ライター、食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

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