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老舗料亭3代目が伝える 50までに覚えておきたい味

第7章 たった一粒で人生が変わる、チョコレートの魔力《老舗料亭3代目が伝える50までに覚えておきたい味》


2021/02/01/公開
記事:ギール里映(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
チョコレートが大好きすぎる。
 
これほど人を魅了し、笑顔にし、困惑させる食べ物がほかにあるやろか。また嫌いという人がいるやろか。ほぼ万人に愛され食されるチョコレートは、お菓子のなかでも別格の地位を誇っています。チョコを制するものはお菓子を制す。50にもなったら、美味しいチョコの一つや二つ、知っておいていただきたい。
 
なぜこんなに愛されるのか。
それはチョコレートはいつも、相反する矛盾の間に存在しているからです。
魅力というものは間、つまりギャップに生まれます。ギャップが大きければ大きいほど魅力も大きくなります。
例えば頭脳明晰でバリバリのキャリアウーマンが、プライベートではかわいい女子だったり、強面のいかつい男性が子煩悩だったりすると、そのギャップになんとも言えない人間味を感じ、興味を持ちます。そこに私たちは惹きつけられるのです。チョコレートにもそんな、人を魅了して止まないギャップがあります。
 
 

子どものおやつ、大人の愉しみ


子どもの頃、毎日のようにチョコレートを食べていました。
昨今は子どもにお菓子、とくに甘いものを禁止したり控えたりする家庭が増えましたが、1970年代はまだそういう考えが浸透しておらず、甘いものは子どもが喜ぶ美味しいものとして、誰もが普通に食べていたと記憶しています。初めてチョコレートを口にした日のことは覚えてはいませんが、幼少期のころからとにかく好きで、物心ついたときにはすでに毎日のように食べていた記憶があります。
 
子どものおやつの鉄板はなんといっても明治の板チョコでしょう。
1926年、大正15年に生まれた「ミルチ」は、日本が外国からの文化を取り入れ、世の中が大きく変化していた時代に登場しました。それまでは贅沢品だったチョコレートが一般の人々の手に届くものになり、チョコレートは豊かさの象徴のように捉えられていました。
 
戦争中には販売が中止になった時期もありましたが、10年ほどのブランクを経て戦後にはまた販売が再開になりました。1953年にはテレビ放送が始まり、その後1960年代になってから「チョコレート、チョコレート、チョコレートは明治」の音楽が生まれました。これは今でも誰でも聞いたことがある鉄板のメロディで、明治チョコレートが国民的なチョコレートのアイコンになったことを表しています。私の子ども時代はとにかくチョコレートイコール明治、それぐらい強烈に幼少期の歴史に刻まれているのが、明治のチョコレートなのです。
 
子どものおやつである反面、チョコレートは大人の愉しみでもあります。
 
ちょっと高級な、ショコラティエが作ったこだわりの美しいチョコを摘みながらコーヒーをいただく、というような愉しみかたがあることを、大人になってから知りました。
 
1970年代には、バレンタインデーの文化が広まり始めました。
2月14日にチョコレートを好きな人に贈る習慣ができたおかげで、1月から2月にかけてはデパートなどでは大規模な商戦が繰り広げられ、国内外の名店や新進気鋭のショコラティエのチョコが並んで大いに賑わいをみせます。
 
その中でも特に高級なチョコレートは、人に贈るため、というよりは、自分たちへのご褒美として購入していく女性の方が多いぐらい。いつもは買わない、買えないけれど、たまには少し奮発して、1ピースが何百円もするようなチョコレートを買い、一人でゆっくり寛ぐ時間に頂く。バレンタインの季節でなくてもこのように、普段がんばっている自分を癒すために、ちょっと高級なものにお金を使う。その対象はなぜかいつもチョコレートです。ケーキやクッキーでもいいのかもしれませんが、なぜかチョコだけが纏っている高級感、質感が、大人女子の心までとろけさせてくれるのでしょう。そういうチョコは板チョコではなく、ちょっと高級で特別感があるものがいい。
 
フランスのショコラティエ、ジャン=ポール・エヴァンのチョコレートを初めて食べた時には、かなりの衝撃をうけました。
 
明治の板チョコで育った世代です。ちょっと背伸びして輸入物ならハーシーズのキスチョコしか知らなかったわけですから、一つ一つが美しく丁寧に作られたジャン=ポール・エヴァンのチョコレートは、それまでのチョコレートとの付き合いかたをガラリと変えるものとなりました。
 
フランスはブルターニュ地方マイエンヌで生まれたジャン=ポール・エヴァン氏は、果樹園を経営する父のもとに育ち、父の果物のタルトが家族みんなを喜ばせたことから、「甘いものは人の心を魅了する」ことを知りました。
 
1970年代にはパティシエ、ショコラティエの資格をとり、1984年に日本を訪れたことをきっかけに、クオリティとこだわりに対しての鋭い感性をさらに磨きました。フランスに戻ってからは、MOF(フランス国家最優秀職人章)を受章するなどの功績をのこし、2002年には日本の東京と広島にブティックをオープンさせました。
 
ショコラをこよなく愛し、その探究は止まりません。
 
最高品質のカカオを選び、それらの配合を調整して好みの味を作り出します。彼にとってチョコは進化、創造するもの。常に革新的で、新しい味を作り出すため、高度な技術が駆使されています。
 
また選ぶのも、カカオだけではありません。卵やナッツ類など、全ての原材料を自らで選びます。乳も、その牛の餌が違うだけで味が変わりますから、好みの味を作り出すためには牛の産地や生育環境にまで目を光らせます。そんな吟味された原材料だけを使い、作り出されるチョコレートですから、ただ美味しいだけではありません。
 
チョコレートにかける想いや愛情、プロ意識が全て相まって、私たちの時間を特別で貴重な瞬間に変えてくれます。たくさんの想いが込められているから、たった1粒のチョコレートなのに猛烈なエネルギーを感じます。だからたった1粒であろうと充分な満足感が得られるし、心の底から私たちを満たしてくれるのです。
 
こういうチョコレートは、ちょっと子どもにはもったいないかもしれない。
1粒から広がるチョコレートの世界に想いを馳せながら、ゆっくりじっくり愉しんで、その世界に溺れてみたいと思わせる。そんな大人の愉しみかたが、チョコレートにはあります。
 
 

太る? 虫歯? 健康?


これほどまでに美味しくて魅惑的であるにもかかわらず、どうしても気になるのが虫歯や肥満です。甘いものは歯に良くない、というのは明確な事実ですし、また砂糖の取りすぎは肥満に繋がります。いくらビターチョコとはいえど、かなりの量の砂糖が使われているチョコレートは、果たして健康面ではどうなのでしょう。
 
砂糖を食べると、歯垢の中に棲む細菌は砂糖を分解して酸に変え、その結果、歯垢のpHが低下します。歯垢のpHは、砂糖を食べると5以下になります。そして歯の表面を覆うエナメル質は、pHが約5.5以下になると急激に溶け出すので、そのため砂糖は虫歯の原因になるとされています。私も子どものころ、本当によく甘いものを食べていたおかげで、かなりの歯が虫歯になりました。今思えば、子ども時代の自分に歯のケアをしろと言いにいきたいぐらいですが、当時はまだ歯のケアや予防歯科の存在自体が知られていませんでしたから、仕方ありません。幸か不幸か私の母親は、虫歯が一本もなかったので、歯のケアをしなければならないという概念すらなかったと思います。
 
現代のチョコレートといえばほとんどの場合、砂糖が入っています。そのためチョコレートは甘いもの、という概念が当たり前になりましたが、そもそもチョコレートが生まれたときには、砂糖は入っていませんでした。
 
紀元前から古代メキシコでは、チョコレートが食べられていました。それが16世紀になってスペインに持ち込まれ、その後砂糖を加えた甘い飲み物として、ヨーロッパ全土に広まっていきました。
 
当時はドロドロとした飲み物だったチョコレートは、ヨーロッパで改良が加えられ、19世期に今のチョコレートの原型が作られました。そのためヨーロッパがチョコレートの中心地となっています。
オランダのヴァン・ホーテン、ベルギーのピエール・マルコリーニ、ゴディバ、レオニダス、スイスのリンツやカイエ、フランスのドゥボーヴ・エ・ガレやアラン・デュカス、メゾン・ド・ショコラなど、有名どころだけをあげてもキリがないぐらい、ヨーロッパにはチョコレート屋が溢れています。日本なら京都や金沢にある和菓子屋みたいな感覚なのでしょうか。ちょっとしたお土産や自分の楽しみのために、ちょっといいチョコレートを日常に楽しむ文化が、ヨーロッパにはあります。
 
確かに現代のチョコレートには砂糖が多く含まれているので、ダイエットしたいと考える人たちからは敬遠されます。特に最近では筋トレブーム、ボディメイクブームで、糖質制限という食事法を選ぶ人が増えてきました。糖質ですから砂糖だけに限らず、小麦やコメなど、いわゆる炭水化物を食べないという選択をします。糖質制限食がいいかどうかという判断はさておき、とにかく今なんとなく流行っていて、体重を落とすことができ、ついでに糖尿病対策にもよいとして、糖質を摂らない食事を選ぶ人が増えてきました。
 
糖質というのはやっかいで、砂糖とか糖分とか、似たような名称だから混同されがちですが、糖質と砂糖は明確に違います。糖質は一般に、炭水化物のことをいい、砂糖はさとうきびやてんさい大根などが原料の、精製された甘味料です。そして砂糖は糖質の一部でもあります。
 
かといって、糖質と砂糖が同じものとして語られるには少々無理があります。というのもそれらは消化のプロセスが大きく異なるからで、そのプロセスによって体にどれだけ負担がかかるかが分かります。そして負担が大きくかかるもののほうが一般に「体に悪い」ということになります。
 
結論からいうと、他の糖質よりも精製度が高い砂糖のほうが、体に与えるインパクトは大きい。さっと溶けて吸収するのは一旦よさげに聞こえますが、それがあまりにもスムーズだと、血糖値を急上昇させます。血糖値が急上昇すると、それを抑えるために膵臓からインシュリンが分泌されるわけですが、その分泌があまりにも多く頻繁になると、インシュリンの分泌自体がなくなってしまいます。つまり糖尿病を患っていくという仕組みになるわけです。
 
このような理由で砂糖や糖質は健康嗜好の人たちから敬遠されるようになりました。
 
健康は維持したい、だけどチョコレートは食べたいと願う人は多い。
そんな人たちのために、砂糖に拘ったチョコレートも多数あります。
 
甘味にメープルシロップやアガベシロップなど比較的体に優しいものを使う場合です。時に人工甘味料を使っているものもありますが、ココナツシュガーやてんさい頭など、精製度が低い甘味料を使い、よりカカオの風味が味わえるチョコも多数出回っています。
 
甘くて美味しいチョコレートは食べたい。だけど健康には気をつけたい。
危険なものほど甘くて美味しい。これはどんな場合にでも当てはまる真理なのかもしれません。
 
 

やっぱり麻薬


誰がなんと言おうとも、一口食べたら無条件にしあわせになるのがチョコレートの魅力です。難しいことも、大変な努力も一切なくていい、ほんのちょっと、美味しいチョコレートがあれば、人は瞬間的に幸福感に包まれることが可能です。
 
そんな食材が、一体ほかにあるでしょうか。
もちろん、どんな食材だろうと、美味しいものは美味しい。
そもそも食材は動物だったり植物だったりするわけですが、その命を頂くからこそ尊くて美味しい。
 
しかしチョコレートはただその命であるだけでなく、どこか危ない麻薬めいたものを秘めています。たくさん食べない方がいいけど、ついつい後をひいてしまう。体にいいか悪いかといったら充分に悪い要素があるにもかかわらず、その冷静な判断すら取っ払ってしまうぐらい、強烈な何かを持っている。
 
子どものころからの記憶かもしれない。
秘められた長い歴史の裏づけかもしれない。
作る人の想いやクレイジーな熱意かもしれない。
体に悪いものほど美味しいという背徳の味だからなのかもしれない。
 
人の心をなぜか狂わせ、悩ませる。
だからきっとチョコレートは、バレンタインに愛を伝える時の主役になっているのかも、しれません。
なぜなら、素面では愛の告白なんて、到底できるものではないですからね。
 
ちょっとはじけて、ちょっと大胆に、ちょっと雄弁に、心の底から想いを伝えて、自分が自分であることを楽しむ。
50代からはますます、自分であることを楽しんで生きていきたい。
人のため、家族のために生きてきた人生だとしたら、折り返し地点である50というのは、自分の人生を取り戻すタイミング。それを助けてくれるのが、麻薬であるチョコレートの存在なのかもしれません
 
 
 
 
《第8章に続く》
 
 

□ライターズプロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)

READING LIFE編集部公認ライター、食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

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