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老舗料亭3代目が伝える 50までに覚えておきたい味

第11章 最高の朝ごはんを食べるという選択《老舗料亭3代目が伝える50までに覚えておきたい味》


2021/06/14/公開
記事:ギール里映(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
実は朝ごはんを食べない生活になってから久しい。かれこれ15年以上、旅行や特別な時以外に朝ごはんを食べることはなくなってしまった。なぜならその方が体調が良いことに気づいてしまったからです。
 
「朝ごはんを食べないと午前中に頭が回らなくて、勉強ができなくなる」と言われ、また「朝ごはんを食べる子のほうが、食べない子よりも成績が良いというデータがある」と言われることから、朝ごはんは食べた方がいいと多くの人が信じているけど、果たして本当はどうなんでしょう。
 
もし何かの義務感に駆られて、食べなきゃいけないからと毎日何らかのものを口に放り込むという程度の朝ごはんなら、むしろ食べないほうがいいんじゃないかと思います。義務感で食べるご飯ほど、体に悪いものはない。美味しくもなければ、消化吸収もしない。何より心に悪い。食べることはいつでも、べき、ねば、が最初にきてはいけない。せっかく食材という命をいただき、自分の血肉にするのですから、義務感で食べていいことがあるはずがありません。
 
 

朝ごはんにはその人の在り方が表れる


そこで、朝ごはんのはなし。
 
朝ごはんを食べない生活をしているから、といって、朝ごはんがいらないと言っているわけでも、食べない方がいいと言っているわけではなく、食べるなら、とびきりテンションのあがる朝ごはんを、1日の最初のご飯として食べたいと思うのです。
 
日本人が朝ごはんを論じる時、最初に考えるのがパンかご飯かの二択です。しっかりとした統計があるわけではないですが、体感として朝はパン派が多いのではないか。もう少し掘り下げると、ご飯派とご飯じゃない派にわかれるのではないでしょうか。なぜならご飯を食べないならばシリアルやヨーグルトだったり、フルーツだったり、スムージーやプロテインドリンクだったり、ライフスタイルや行動指針に応じて本当に様々です。それでなくてもいろんな異文化を節操なく取り入れる日本人ですから、朝ごはんのバリエーションはおそらく世界一なのではないかと思います。
 
何でも食べてオッケーだからこそ、朝ごはんにはその人の価値観や大切にしているもの、その人の想いが如実に現れているのです。
 
なるべく手間暇かけずにさっと食べたい、という人は効率優先で行動をするし、カレーやどんぶりなどガッツリと食べたいという人は、仕事や人間関係においてもガッツリ熱くなりがちです。フルーツやスムージーでスマートに済ませたい人はそのあり方もスマートだったりするし、日本の典型的朝ごはんのようなご飯味噌汁焼き魚を好む人は、そういう古き良き時代の和の魂を大切にしがちです。朝ごはんの選び方には、その人のあり方や人生観がありありと反映されています。
 
 

心地よい旅は朝食で決まる〜日本一の朝食「沖縄第一ホテル」


そこでぜひ食べたい朝ごはんが、沖縄にあります。
沖縄第一ホテルの朝ごはんは日本一の朝食とも言われるぐらい、その朝ごはんを食べるためだけに沖縄を訪れる人もいるぐらいです。
 
ここの朝食は沖縄の野菜をふんだんに使った精進料理で、20品以上のお皿がテーブル一杯に並ぶ様が圧巻です。しかし全て食べてもたったの585キロカロリーにしかならないという、旅行者に優しいメニューでもあります。
 
旅行では往々にして食べすぎたり、野菜不足になったり、また旅の疲れも出やすいものです。旅ではおいしいものを食べたいと、どうしても普段よりたくさん食べるし基本全てが外食になる。楽しいはずの旅行も食べ過ぎで体が重く、時には便秘にもなりやすかったりと、旅行と食事の関係はいつもなかなか悩ましい。
しかしこちらの朝食は、沖縄で採れる新鮮な野菜をたっぷり使い、旅の疲れを癒しつつ、滋養たっぷり、食べ応えもたっぷりのコースになっています。50品目以上の食材を使っているにもかかわらず、このような低カロリーに抑えることができている秘密は、その調理法にありました。
 
出汁はカツオと昆布、塩のみ。調味料は沖縄の塩ぬちまーすや粟国の塩、島胡椒など自然のものだけを使います。素材そのものが力強く、過度な油や砂糖による味付けがいらないため、シンプルでありながら素材の味の個性が際立つ調理法になっています。
 
沖縄の食文化を和食と呼ぶのは少々憚られるのですが、ここには和食文化に通じる調理のコツがあります。おいしい料理を作るための大きなポイントの一つに、素材の味を生かすということがあります。人間ごときが小手先で調味料を駆使するより、素材そのものが本来持っている豊かで複雑な味を引き出すことのほうが、結果として美味しい料理に仕上がるというものです。自然の力に育まれた野菜には、大量生産で作られる野菜には感じられない奥深くて複雑、かつ強くて野趣に溢れた風味があります。その風味を存分に引き出すことによって、個性豊かで滋養溢れる料理になっていくのです。
 
食材の選び方や調理の工夫など、随所に旅行者に対する配慮が感じられます。そのすべては二代目女将である渡辺克江さんのおもてなし精神から来るものです。
 
ゆっくりとくつろいでもらいたい、優雅な気持ちで朝食を食べてもらいたい、心地よく沖縄の旅を味わってもらいたい。すべては女将の、お客様目線からのおもてなしが基本です。
 
旅館やホテルの食事というのは、その旅館やホテルのおもてなし精神がより明確になるところです。お客様に喜んでもらいたいから、とやたらめったら品数の多いビュッフェを出すようなところもあります。これはこれで嬉しいお客様もいらっしゃるかもしれませんが、もしかしたら健康に配慮したり、土地の滋味溢れる食材を堪能できるもののほうが良いのかもしれません。例えば周りに山しかない山間の旅館で、お客様には御馳走がいいからとアワビや伊勢海老なんかのおもてなし魚介類が並んでいたとしても、そんなに嬉しくないと私は感じてしまう。山には山にしかない食材があるし、海には海にしかない食材がある。その土地のものを、その土地の人が美味しく料理してくれること、その土地でしか食べられないものをその土地で味わうこと、これが旅をすることの醍醐味だと思うのです。
 
ここ沖縄第一ホテルの朝食は、宿泊施設としての朝食のあり方を、優しくかつ雄弁に語ってくれています。
 
 

世界が認めたコンフォートフード〜世界一の朝食「Bills」


日本で世界一の朝食が食べられる場所があります。その店はオーストラリア発祥のカジュアルレストランBills(ビルズ)です。
 
オーナーのビル・グレンジャー氏は、オーストラリアの雄大でリラックス感のあるライフスタイルを代弁する料理を作り出し、その味は瞬く間に世界中で愛されるようになりました。日本でも現在東京、神奈川、大阪、福岡に8店舗がオープンし、かつては朝8時に大行列していた混雑ぶりもようやく少しおさまってきました。
 
ここでの朝食メニューとして筆頭にあがるのがなんといってもリコッタパンケーキ。リコッタチーズと卵をふんだんに使い、ふわっふわの食感に仕上げています。添えられたハニカムバターの甘味だけでも充分なのですが、添えてあるバナナとメープルシロップをかけて食べると何とも言えない幸せな気分になります。
 
パンケーキは全国でいろいろと食べ歩いてきましたが、このリコッタパンケーキを超えるパンケーキにはまだ出会ったことがありません。ふわふわとは言え、3枚プラスバナナも食べるとお腹一杯になるこのパンケーキは、私のパワーフードでもあります。
 
少し一人で贅沢したいときや、自分を思いっきり甘やかしたいとき、朝8時からのカフェ時間を堪能したいときに、私はビルズを訪れます。他にたくさんあるメニューに心を奪われながらも、なんだかんだいつもこのパンケーキに落ち着いてしまう。何かと言う時にいつも食べたくなる、そんなパワーフードであるのが、ビルズのパンケーキなのです。
 
ビルズの進出により、朝ごはんを楽しむカフェが増えました。
もちろん名古屋から始まるモーニングの文化が日本にはありますが、もっと優雅に朝食を楽しみたい、もっとリラックスして寛ぎたい、朝ごはんというパワーフードで活力を得たいと願う人たちが、朝食を楽しむ文化を後押ししました。
 
ビルズと同時期にエッグスシングスやサラベスなど、朝食を楽しめるカフェが数多く日本にオープンしました。どのお店も欧米スタイルでパンケーキやミューズリーなどが主体のメニューで、ビルズと共に日本の朝食文化を新しく豊かなものに作り替えていきました。
 
 

自分を元気にするパワーフード


自分を元気付けるものをいくつも持っておくと、いざと言う時に役に立ちます。
 
私たちは弱いところも大いにある生き物ですから、ちょっとしたことで悩み、傷つき、心が折れます。時間が経てば復活するのがわかっていたとしても、辛いことの渦中にあるときは周りや行先が見えずに心を痛めます。
 
そんなとき、傷ついた心を癒し、いつも幸せな気持ちを思い出させてくれるものをたくさん持っていたら、どんな場面でも切り抜けることができるんじゃないかと思います。その中でも食べ物は、最も簡単に、かつパワフルに人を笑顔にするもの。おいしいものは確実に人を元気にします。また自分が心底おいしいと思うものは、その人を心から幸せにし、否応なしに笑顔にします。それほど爆発力があるパワーフード、ハッピードラッグといってもいいぐらいの食事が自分にとってのおいしい食事。それもこれから1日が始まると言う時間帯に食べる朝ごはんであると、その日1日の活力が変わってきます。
 
朝食は英語でブレックファーストといいます。なぜモーニングミールではないのかと英語がわかる方は思うかもしれません。そもそもブレックファーストとは、ファスト=断食をブレック=ブレイク、壊すの意味があります。前日の夕食を食べてからずっと食べない時間があり、その食べない時間を破るための食事ということで、1日の食事のなかでも昼食や夕食とは違った役割があります。
 
もし食事に役割があるとしたら、夕食は寛ぎ、リラックスするため。家族や知人、友人たちと、料理や会話を分かち合い、寛ぐためにあります。また昼食は通常仕事中なので、午後にむけての活力を養うためと、また夜までの空腹を繋ぐ役割があります。
そのなかでブレックファーストというのは、晴れて断食という業を終わらせて、体に栄養素を取り込むことを許可するという儀式的な意味があるのかもしれません。そうしてこれから活動する1日にむけて、心身共にエナジーをチャージするもの、と言えるでしょう。そう考えるとますます朝ごはんに何を食べるかというのは重要になりますし、その選び方がその人の人生の在り方になることもなんだか合点がいくのです。
 
朝ごはん論争はいろいろあります。
食べた方がいい派、食べない方が良い派、さっとすます派、ゆっくり食べる派、その食べ方にいろんな派閥を作るのもそれだけ朝ごはんが万人とって、なんらかの意味があるからだけでなく、結局のところ朝ごはんは誰にとっても神聖、かつかなり大事なものだから、ということにほかなりません。
 
この頃では朝ごはんに食べないようなものまで、朝食のメニューにあがるようになりました。朝カレーや朝ラーメン、朝寿司などがあります。これらは飲食業界のマーケティングでもありますが、何より私たちの朝ごはんへの探究心の賜物。いろんなものを節操なく食べることは雑多な食文化と言われることもありますが、その雑多さは私たち日本人の今を表しているのではないかと思います。
 
もっと楽しみたい、もっといろんな世界を知りたい、もっと味わいたい。
あまり感情表現が得意ではない日本人ですが、こっそりと朝ごはんというニッチな分野で、声高に叫んでいるような気がしてなりません。
 
人生、もっと楽しんでいいんだよ、って。
 
朝ごはんはあなたの人生の在り方です。
 
さて明日の朝は一体、何を食べはりますか。誰と、どんな朝ごはんを食べはりますか。
どうかどうか、心の底から美味しく心が喜ぶご飯を食べておくれやす。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)

READING LIFE編集部公認ライター、食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

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