第39章 何を食べるかより、誰と食べるか《老舗料亭3代目が伝える50までに覚えておきたい味》
2023/10/30/公開
記事:ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
「確かに、美味しいんだけどね」
目の前に、全国から取り寄せた美味しそうな肉や魚が並び、それを腕のいいシェフが心を込めて料理してくれたとしましょう。ああ、美味しそうだな、と思い、食べてみると、美味しい。だけれども、何か物足りない。そんなふうに感じることはないですか。
たった一人で食べるご飯は、美味しくても不味くても、その感動を分かち合う相手がいません。一人で食べることが良い時もありますが*1、やはり食事は、誰かと食べることによって別物になります。
どうせならやっぱり、美味しく食べたい。
人が一生涯で食べることができる食事の回数は多くはないですから、どうせならその一回一回を、なるべく美味しく食べたいじゃないですか。であれば誰とどんなふうに食べるかは、何を食べるかと同程度、いやもしかしたらそれ以上に大切なことなのかもしれません。
別に私は、ご飯は誰かと一緒に食べるべきだ、と申し上げるつもりはありません。
一人で食べるもよし、二人で食べるもよし、大勢で食べるもよし。誰とどう食べようと、それは個人の自由ですから、それをいい、悪いとジャッジしたいわけではないのです。
私はただ、せっかく目の前に美味しい食べ物があるのであれば、それが最大限美味しく食べられることが、食べ物に対しての最大の感謝だと思うのです。
また食べることは生きること、ですから、食べることが自分の幸せにダイレクトに繋がるような、そんな食べ方をしたいと思っているだけ。身近な人、身の回りにいる人と食べるご飯を想像して、お付き合いいただけたら幸いです。
ご飯が喉を通らない?〜食事が美味しくない時
体調不良のときはもちろん、食事が美味しく感じられません。そんなときはむしろ「食べないほうがいい」という体からのサインです。栄養を摂らなくちゃと無理に食べることは、体にとって負担になるばかりか、焦りやプレッシャーが心にも負担をかけてしまいます。食事が美味しく感じられない時は、食べない方がいいとき。そんなときはすっぱりと食べることをやめて、体の機能を回復させるために休息を取ることが必要です。
「栄養が不足することが心配」
「病気のときこそ、栄養をつけないと心配」
と言われます。
しかし体が受け付けないのは体からの「要らない」というサインですから、その時はそのサインをしっかりと受け止めた方がいい。
私の親もそうなのですが、どうも食べることを強制するような、食べないと心配、というような、そんなプレッシャーを感じることがあります。食事は1日3回食べるのがいい、1日30品目バランスよく食べるのがいい、肉魚、野菜、果物と、いろいろなものを食べるのがいい、といわれますが、実際現代の日本人の食生活は「食べすぎ」です。その結果国民の約1/3が肥満、またはぽっちゃり体型、また約1/5は糖尿病および糖尿病予備軍です。これらは明らかに食べすぎている証拠、そのため少々食事を抜いたところで、栄養が不足して死ぬことはほぼ、考えられません。
普段日常的に食べすぎ、かつ運動不足気味な私たちですから、少々食べないぐらいがちょうどよく、1日3食は食べすぎに繋がります。であれば、体調が悪い時には食べない選択をすることが、むしろ体にとって正しい選択であることは、ちょっと考えてみたら納得だと思うのです。
美味しくないときは、食べない。
そうすることで回復したあと、最も美味しい食事を食べることができます。
食べない時間を作ることは、心と体にとってプラスでしかありません。
緊張すると不味くなる?食事を一番不味くいただく方法
堅苦しい場で食べるご飯は、やっぱり美味しく感じられません。
例えば、お偉いさんばかりが集まる場にまじって食事をするとき、緊張のあまり何を食べているのかもわからなくなります。例えば、皇居で主催される晩餐会にご招待されたと想像してみてください。もちろん実際にそんなことがあれば名誉なことですし、ワクワクもすると思います。
しかし、普段とは違う環境で、周りを取り囲むのは社会的な地位が高かったり、社会の役割が大きい人たちばかり。そんな中に、一人異質な自分が混じって食べると想像しただけで、食べたものが喉を通らなくなる感覚がわかるようです。人は緊張したら、何を食べているのかがわからなくなります。
またさらに、自分が責められているような場だったらどうでしょう。
大きな失敗をして、そのことを咎められているような場合や、浮気がバレて、奥様に詰め寄られているような場、だとしたら。そんなときに食事なんて不謹慎な、と思われるかもしれませんが、詰め寄る側は少しでも場を和らげようとして、食事の席で話す、ということがあるでしょう。そんな時は気付いたら、ハリのむしろの上で食事をしているような感覚にすらなるかもしれません。そうなるともはや食事を楽しむどころか、ただただ自分が攻撃されるのを耐え忍ぶ、食卓がそんな場になってしまいます。そこでは何を食べても美味しいはずがありません。もしかしたら食事が、自分への痛い攻撃の矛先を少しは変えてくれるかもしれませんが、いかんせん、美味しさや楽しさは全く望めない、苦痛の時間になることは間違いありません。
仕事をうまくいかせたいときのお肉
同じ緊張でも、好ましい緊張もあります。
例えば、商談、つまりビジネスの場で食事をするときです。
仕事のオファーをするときや、相手をクロージングする時は緊張が走ります。相手からイエスをいただきやすくなるからと、取引先を食事に誘い接待することは、日本のみならず世界で当たり前に行われていることです。美味しい食事を食べると幸せになりますから、オファーにイエスをいただきやすい。また同じ食事をいただくことによって仲良くなれて親近感もわく。同じ釜の飯を食う、とも言いますが、それほど同じものを食べるということは、お互いにわかりあい、理解しあうための重要な行為でもあります。
ビジネスをうまくいかせるために、最適の食材があります。
日本の文化の礎となる陰陽五行の考え方では、ビジネスをうまくいかせるためには牛肉を食べることがよい、とされています。この世界観のなかで「仕事」は東方仁徳を司ります。仕事はお金儲けをするところではなく、慈愛をもって相手にお尽くしする場所。そんな場で食べるのは牛肉がいい、というのは、牛肉の食べられ方を紐解くと理解できます。
美味しいお肉、それも牛肉を食べることは、相手に対するおもてなしになります。結婚式のメニューでもステーキが喜ばれるように、人をもてなすときには豚でも鶏でもなく、牛が選ばれるのです。
すき焼きやしゃぶしゃぶ、ステーキなど、牛肉はやはり高級食材の一つですから、それを提供すること自体が相手に対する敬意を表していることになります。
また牛肉独特の甘味や旨味、脂身の風味は、他のどの食材よりも濃厚で、その分値段も高くなります。おもてなしを受ける方は、安い食材を出されるよりも、高級な食材を出されたほうが、圧倒的に大切にされていると感じます。気持ちにお金の量は関係ないともいいますが、やはり好きか嫌いかに関わらず、お金のかけ方の違いはダイレクトに人の心を左右してしまいます。
ビジネスには牛肉。覚えておいてくださいね。
家庭がうまくいくためのお肉
ビジネスに対して家庭は、西方義徳を司ります。一般に家庭は「安らぎの場」ととらえられていますが実際は、最も長く付き合う他人である配偶者との関係を構築しながら、自分のエゴと向き合い、自分の役割を果たす場所として陰陽五行ではとらえています。そのような場を円満にいかせるためお肉は豚肉。牛肉よりも豚肉のほうが、家で食べるご飯として、なんとなくしっくり来る気がしませんか。
豚の生姜焼きやとんかつ、豚汁。高級料亭では決して出てくることのない庶民的なメニューからもわかるように、牛肉に比べて安価に手に入る豚肉は、家計に優しい食材です。また逆に、大事なビジネスの商談の場でとんかつを食べようとは思わないですよね。私たちはなんとなく、誰から学んだわけでもないのに、誰とどんなお肉を食べればいいのかを、知らないうちに使い分けているのです。
家庭でも、夫婦や親子、兄弟、姉妹と、いろいろな関係性があります。しかしみんなが喜び、取り合いの喧嘩にならないお肉、そんなお肉が豚肉なのかもしれません。
部下、目下との関係性をよくするためのお肉
同じビジネスの場でも、部下と食べる食事はまた違う意味が伴います。
年下、後輩、年齢の上下に関わらず、自分よりも目下の人たちと食事に行く時に選びたいお肉、それは鶏肉です。
唐揚げやつくねなどの居酒屋メニューだったり、軽く一杯飲みにいける焼き鳥屋など、庶民的で気のおけない空気を作り出すのがこれらのメニュー。ビジネス同士の関係性でも、牛肉をいただくときのような緊張感やプレッシャーではなく、仲間、それも自分の部下になる人たちとの関係性をよりよくするために、上司がご馳走するという文化があります。これは日本だけではなく、万国共通の感覚なのかもしれません。
自分の目下との関係性は、南方礼徳の世界です。
礼徳とはつまり、礼儀正しこと、そして、丁寧な言葉を使うことが大切とされています。部下だから、と横柄にならず、軽々しく扱わず、丁寧な言葉遣いを心がけることが大切です。もっと言えば、相手が自分の目下、目上に関わらず、常に礼儀正しく、相手を丁寧に扱うことが大切です。
しかしなぜそれが鶏肉なのでしょう。
鶏というのはコケコッコと少し騒がしい動物ですから、そのお肉をいただくことにより、言葉を見直し、気を付けるきっかけにする、という意味が含まれているのかもしれません。
丁寧な言葉使いで、かつ、自分の夢や想いを語る。だからこそ目下との関係性はうまくいきます。上司だからといって説教ばかりしたり、横柄な口の聞き方をしたら、あっという間に嫌われてしまうのは、想像に難くありません。
お肉もいいけど、魚もね
ここまでお肉の話をしてきましたが、じゃあ魚はいつ食べるんだ、と思われたかもしれません。
魚を食べる時、それは、学びたい時、勉強したい時と言われています。
魚は北方智徳を司ります。机の上でする勉強も、外で体験から得る学びも、どちらでも構いません。自分が何かを学び習得していくときに、助けてくれるのが魚です。
魚の中に含まれる不飽和脂肪酸、DHAやEPAは、中性脂肪やコレステロールを減らし、安定させてくれる働きがあります。また「頭がよくなる油」としても知られており、受験期の子供たちにもおすすめされるほどです。動物性の油とは違って、人の体内で固まらない油ですから、血流を良くし、体の機能を改善させてくれる働きがあるとも言われています。
誰と食べるか、という話からは少し外れてしまいましたが、このように食べ物、食事は、誰とどう食べるか、そしてなんのために食べるかによって、最適な食材や食べ方があるものです。
誰と食べるかも食事の一部
人によっては、一人がいい、といいます。
また人によっては、誰かと一緒がいい、といいます。
大勢がいいという人と、少人数がいいという人がいます。
誰とどう過ごすかは、その人の好みですから、一人だろうと大勢だろうと、そこに善悪も良し悪しもありません。
大切なのは、自分が誰といると心地よいか、を自分がわかっていることです。
人とどのような関係性を構築するかは、人生の方向性を大きく左右していきますから、自分が誰と過ごすと心地よく、ご機嫌でいられるか、そういう人との関係性の作り方や、一人の時間の過ごし方を知っているのと知らないのでは、人生の質そのものが大きく変わってしまいます。
一人でももちろんいいのですが、私はやっぱり、誰かと共に歩む人生が面白いと思うのです。
一人では一馬力ですが、二人だと二馬力。大勢だと百万馬力になります。一人の力でできることはたかがしれているけれど、人がたくさん集まれば、できることの質も量も格段にあがります。
一人が好き、という人も、一人も、大勢も、どちらも味わうことができるほうがいい。
どちらかしかできないと、人生の楽しみも半分です。どうせなら、たった一度きりの人生、全方位で楽しめたほうがいい。
私はもともと人と接するのが苦手で、30代半ばまでは「一人で生きていこう」と心に誓っていたぐらいです。しかしそこから人と出会い、人と食べる喜びを知ることで、少しずつ心が開き、人と過ごす時間を楽しめるようになりました。
一人の時間も楽しかったけれど、好きな人、大切な人と過ごす時間は、本当に格別です。
人との出会いは、奇跡のご縁です。ものすごい確率で、私たちは目の前の人と出会っています。
だからもし、一緒に過ごしたいと思える人と出会えたのであれば、その人を手放してはいけません。この世界にたくさん人はいるけれど、心から大切に思える相手に出会えたとしたら、その人は別格です。
人生において、出会い、時間を共に過ごし、食事まで共にできる人はごくわずかです。
大好きな人と食べる喜び。
これ以上、食べ物を美味しくしてくれるものは、この世には存在しません。
だからどうかどうか、目の前のその人を大切に。
*1 第18章積極的おひとりさまご飯のススメ 参照
《第40章につづく》
□ライターズプロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
READING LIFE編集部公認ライター、世界一やさしいSNS軍師、食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。一般社団法人食べるトレーニングキッズアカデミー協会の創始者。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。
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