あなたの上手な酔わせ方

この冬は、ホットワインで冷えない女になる 《あなたの上手な酔わせ方~TOKYO ALCOHOL COLLECTION~》


記事:松尾英理子(READING LIFE公認ライター)

ああ、ホットワイン飲みたい……。

会社からの帰り道、寒くなってきた夜風に吹かれながら、ふと、ホットワインの幸せな香りと味を思い出しました。
今日も帰りが遅くなり、でもまたお酒を飲んでしまい、寝不足になり、の悪循環な毎日。

この秋から、勤めている会社で部署が変わり、ワインの仕事をしています。
大好きなお酒のお仕事なので、本当ならハッピー全開なはずなのに、最近、人に会うたびに、

「あらー、さすがにくたびれてる感じだね」
「ちょっとちょっと、やつれたんじゃない?」

と、言われることが増えてしまって。
実際、自分でも鏡を見るたびに顔がどよーんとしているのを感じる日々。
もしかして私、負のオーラ出てる? 年取ったなとか思われてる?
うわ、ヤバイ。こんなことでは、ワインの神様に叱られてしまう。

そんなことを思いながらも、「美」に対してなんの努力もせず、毎日お酒を飲み、あっという間にまた一つ年取ってしまいそうな勢いの中、寒い夜風にあたって、我に返り思い出しました。

そうだ、私には、ホットワインがあったんだ。

ホットワイン。
それは、ココロとカラダをふわ~っと温めてくれる、お風呂みたいな存在。
一口含む毎に、自然と笑顔にしてくれる存在。 
ちょっと尖ってしまった日も、優しい私に変えてくれる存在。

こんな素敵な救世主がいてくれたことを忘れてました。

私がホットワインに最初に出会ったのは、もう25年くらい前のこと。
大学を卒業してデパートに就職し、念願のお酒売場に配属になりました。ワイン、日本酒、焼酎、リキュール、ウイスキー、ブランデー、輸入ビール……。今まで見たこともないお酒が何千種類と集まった売場は、私にとってワンダーランドみたいな場所でした。

でも、売場は当然、冷蔵庫に囲まれていました。制服はスカートだったし、今のようにヒートテックもなかったし、トイレもそんなに頻繁にいけませんでした。知らないうちに常に足先手先が冷たい末端冷え性になっていて、さらには膀胱炎にもなりかける始末。

そして、私は売場担当の大事な業務の1つだったレジ打ちがすごく不得意でした。今のようにバーコードはなく、品番や金額を手打ちでしていた時代。元来、大雑把な性格の私がレジ当番になると、閉店してレジを閉めた時、決まって収支が合わないのです。

当時、売場を仕切っていた強面の先輩に、
「あんたがレジやると、皆が迷惑するのよね。大学の勉強なんて、ホント何の役にも立たないのね」

なんて言われ、打ちひしがれることも多かった毎日。

ああ、私。相当イケてない。

そんな社会人1年目、クリスマスが近づいてきた頃でした。お酒売場で毎週、週替わりでオススメのお酒を紹介するプロモーションコーナーで、グリューワインを紹介することになりました。

グリューワイン? 何ですかそれ? 私の問いかけに、ベテラン販売員の女史が説明してくれました。

「グリューワインはね、ヨーロッパではクリスマスが近づく11月中旬、ちょうど今くらいから各地で始まるクリスマスマーケットで飲まれる、とってもメジャーなお酒なのよ。温めたワインに、シナモンなどのスパイスやオレンジ、レモンなどの柑橘類、はちみつなどの甘味を加えて楽しむのが主流だけど、この商品は既にそれが全てミックスされてるので、温めるだけでいいのよ」

そう言って、保温ジャーに入った温めたワインを試飲用のコップに少し注ぎ、私に勧めてくれました。

うわー、すごく美味しい……。
なんだろう、この、ココロとカラダが芯から温まるような、ホッとする感覚。

そのワインのラベルにはドイツのクリスマスの光景が描かれていました。行ってみたいなあ、ヨーロッパのクリスマスマーケット。そんなことを思いつつ、楽しい気分で飲み干すと、ベテラン女史は言いました。

「その笑顔、とってもいいわよ。最近なんだか元気ないから心配だったのよ。あんまりいろいろ考えすぎないことね。まだまだ1年目なんだから、たくさん失敗していいんだと思うわ」

幸せな一杯で気持ちがほぐれた後にもらったこの一言に、どれだけ救われたかわかりません。

こんな素敵な一杯がきっかけになって、社会人1年目の私はホットワイン作りにハマり、時にはハーブを生姜や胡椒や八角などにしてみたり、フルーツはりんごを入れてみたり、はちみつやジャムを加えてみたり、いろいろ試してみました。グツグツさせればさせるほど、部屋中がいい香りでいっぱいになって、まるで飲むアロマテラピーみたい、と幸せな気持ちになりながら、疲れたココロとカラダを温めると、ぐっすり眠ることができました。

そんな出来事から25年の月日が流れました。
夜風に吹かれながら、ホットワインの幸せな香りとベテラン女史のやさしい言葉に救われたことを久しぶりに思い出し、久しぶりにホットワインを作ってみることにしました。

■ホットワインのつくり方
普通の赤ワインでも作れますが、簡単でオススメなのは、スーパーなどでも手に入りやすい「赤玉スイートワイン」を使うレシピ。甘くて渋みが少ない赤玉スイートワインを使えば、ちょっと手を加えるだけで本格的なホットワインが作れちゃうんです。

材料:赤玉スイートワイン・・・200cc
レモンもしくはオレンジ・・・1/4個分の果汁と、スライス2枚程度
スパイス(シナモンスティック、クローブなど)・・・1本

1.鍋に「赤玉スイートワイン」とスパイスを入れ、沸騰直前まで温めます。
2.耐熱のグラスに温めた「赤玉スイートワイン」をスパイスごと注ぎ入れ、果汁を加えます。
3.最後に薄くスライスしたレモン(もしくはオレンジ)を添えれば出来上がり♪

お酒があんまり強くない、というみなさんは、沸騰してから弱火で5分くらいグツグツと沸かし続けて、アルコール分を飛ばしましょう。とっても飲みやすくなります。風邪気味の時にもオススメな飲み方ですよ。

最後に、ホットワインのように、ココロを温めてくれる本を紹介しますね。
作家・近藤史恵さんの短編小説「タルト・タタンの夢」です。商店街の中にあるフランス料理店「ビストロ・パ・マル」を舞台にしたミステリー短編集のシリーズ1作目なのですが、もう、出てくる飲み物や料理全てが美味しそうで、読んでいるだけでお腹が空いてしまいます。ミステリーと言っても、主人公のシェフが、お客さんのちょっとした一言から悩みを見抜いて解決したり、悩んでいるお客さんをおいしい料理で体も心も温めてあげたり、ほっこりした気持ちになれる癒し系小説です。
主人公のシェフがここぞという時に、お客様に振る舞うのが、なんとヴァン・ショー(フランス語でホットワインのこと)なのですが、これがまたかなり美味しそうに描かれているので、この本を読みながらホットワインを飲んだら、きっと幸せ気分アップです。
ちなみに、シリーズ2作目「ヴァン・ショーをあなたに」には、シェフこだわりのホットワインのルーツが種明かしされているので、2作目から読んで1作目を楽しむのもいいかもしれません。

今年の冬は、ホットワインでココロとカラダを温めて、冷えない女になりませんか。

【予告】福岡天狼院の新メニューに「ホットワイン」が加わります!
寒い時期にぴったりのホットワイン。11月下旬からお披露目予定です。
お楽しみに!

❏ライタープロフィール
松尾英理子(Eriko Matsuo)
1969年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部社会学専攻卒業、法政大学経営大学院マーケティングコース修士課程修了。大手百貨店新宿店の和洋酒ワイン売場を経て、飲料酒類メーカーに転職し20年、現在はワイン事業部門担当。仕事のかたわら、バーデンタースクールやワイン&チーズスクールに通い詰め、ソムリエ、チーズプロフェッショナル資格を取得。2006年、営業時代に担当していた得意先のフリーペーパー「月刊COMMUNITY」で“エリンポリン”のペンネームで始めた酒コラム「トレビアンなお酒たち」が好評となる。日本だけでなく世界各国100地域を越えるお酒やチーズ産地を渡り歩いてきた経験を活かしたエッセイで、3年間約30作品を連載。2017年10月から受講をはじめた天狼院書店ライティング・ゼミをきっかけに、プロのライターとして書き続けたいという思いが募る。ライフワークとして掲げるテーマは、お酒を通じて人の可能性を引き出すこと。READING LIFE公認ライター。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2018-11-16 | Posted in あなたの上手な酔わせ方

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