ハイボールとカツサンド、それは宇宙一美味しい組み合わせかもしれない 《あなたの上手な酔わせ方~TOKYO ALCOHOL COLLECTION~》
記事:松尾英理子(READING LIFE公認ライター)
「私、ウイスキーが苦手で。だから、いつもビールを飲んでしまうんです」
その日、バーにご一緒した女子が、少し恥ずかしそうに、つぶやくように言いました。
こんな言葉を聞いてしまったら、それも、若い女子から聞いてしまったら。
もうどうにかして、「やっぱり、ウイスキー好きかも」って言わせたくなります。
お酒自体がダメとか、ビールが苦手とかだったら、私のやる気スイッチはオンしません。
でも、ビールが好きということは、麦やホップ由来の苦味や旨み、炭酸のどごしに美味しさを感じている証。
それなら、ウイスキーからつくるハイボールも、本当は苦手じゃないはず。
そう思いながら、ハイボールを最高に美味しく感じてしまうに違いない、魔法のような「アテ」をオーダーしました。
さて、話は変わりますが、私はハイボールが大好きです。
ハイボール歴25年くらいです。15年くらい前までは「ハイボールって何?」って言われるくらい、マイナーなお酒でした。それが今から数年前、ブームが来て今や万人が知るお酒になりました。人気のない時代から応援していたアイドルが、メジャーになったみたいな感覚です。お店でハイボールを美味しそうに楽しむ若者たちを見ると、「いつも応援してくれてありがとうね」と、まるでハイボールの母になったような気持ちになり、その光景をずっと見ていたくなってしまいます。
そして、今年もあと1ヶ月を切りました。お酒を飲む機会が一番多くなるこの季節を、美味しく楽しく乗り切るために。記憶に残らないお酒にならないように。こんな季節だからこそ、香りが華やかなタイプのウイスキーで割ったハイボールを、ゆっくり飲む日も作りたいですね。
ハイボールはウイスキー由来の香りで、とてもリラックス効果があります。もともとウイスキーは「飲む香水」と呼ばれるくらい、香りが強く、特徴があるお酒です。そんな、香りの個性いっぱいのウイスキーを炭酸で割ることで、香りをほのかに感じるくらいまでにおさえ、その代わりに喉越しが感じられるようにし、爽快感のあるお酒に変えて愉しむのがハイボールなのです。
そしてハイボールは氷が入っていてちびだら飲みができるので、ビールよりもゆっくりと時間を過ごせるお酒です。アルコール度数は、ビールと同じくらいのアルコール5%前後が主流です。ただ、作る人によって濃くも薄くもできるお酒なので、時々びっくりするくらい濃いものが出てきて、「こりゃだめだ~」って思ってしまうこともあるでしょう。ウイスキー自体がちょっと苦手と思っている人は、「少し薄めで」とオーダーしてみてください。そのほうが、味はもちろん身体にも楽で、心地よく酔える気がします。
また、ウイスキーをソーダで割った飲み方を、なぜ「ハイボール」と言うのかは豆知識として知っておきたいところですよね。直訳したら「高い球」なので、とっても飲み物っぽくないネーミングですが、その名前の由来には諸説あり、その中でもイギリス生まれとアメリカ生まれの2説が有名です。
まずはイギリス説から。あるイギリスのゴルフ場のクラブハウスでウイスキーのソーダ割りを飲んでいた英国紳士が、その飲み物をとても気に入って、お店のマスターに「これ、なんて飲み物?」とお店のマスターに聞いた瞬間、ちょうどゴルフボールがクラブハウスに飛び込んできました。この光景を見て、思わずマスターが「ハイボール!」と叫んだのが由来という説。
そしてアメリカでは、「鉄道のボール信号機説」が有力です。開拓時代のアメリカ南部の鉄道では、長い棒の先にボールをつけた信号機が使われていました。ボールが上がっていれば、つまりハイボール状態であれば「進行してよい」、下がっていれば「停止しなさい」を意味する、という具合です。つまり、「ハイボール」とは「出発進行」の合図だったので、「乾杯!」にぴったりの言葉として、当時使われるようになったのではないか? という説。
どちらが起源なのかは謎のままですが、「球が高く上がる」のが共通点ですね。グラスからたくさんの炭酸の球が次々と上がっていく様子は、まさにハイボール。飲んでいるだけで気分が上がるのは、今も昔も同じだったのかもしれません。
さてさて。
一番最初にお話した、ウイスキーが苦手という女子にご用意した「アテ」をそろそろご紹介します。
そのアテは、カツサンド。
それも、ただのカツサンドじゃない。
赤身の牛挽肉100%でできたメンチカツサンド。
揚げたてサクサクのメンチカツを、マデラ酒や赤ワインをふんだんに使ったソースにからめ、炒めていい感じにしんなりした千切りキャベツをひいたトーストに挟む。まさに三位一体、極上の逸品です。
メンチなのでサクッと噛み切れる食べやすさで、女子が頬張っても恥ずかしくない大きさ。そして柔らかく、とってもジューシー。三角形のカツサンドを手にしてウイスキーを飲んでいると、それだけでいい女になれたような気分になれるカツサンドなのです。
さあ、合わせるウイスキーはなにがいいだろう。
ウイスキー苦手女子の、いい意味で期待を裏切るウイスキーを飲ませたい。
迷っていた私に、女性バーテンダーが勧めてくれたのは、極甘口のソーテルヌという白ワインを熟成した樽で寝かせたウイスキーでした。若い彼女にぴったりな、ほんのり甘やかな、可愛らしさを感じる香りと口当たり。甘いソースのカツサンドに抜群にあって、もうこれ以上の組み合わせはないな、と思えました。
まさに、これは宇宙一美味しい組み合わせかもしれない。
そう思って彼女を見たら、ほんのり柔らかな表情に答えが書いてありました。
「ウイスキー、嫌いじゃないかも」って。
このメンチカツサンドとウイスキーの組み合わせは究極として、カツサンドとハイボールの組み合わせは、結構定番です。
そして、カツサンドはバーフードの定番中の定番。有名なバーには、その店それぞれのこだわりのカツサンドがあったりします。バーって2軒目に訪れる場所、というイメージがあるかもしれませんが、1軒目から行くと店内が空いていて、バーテンダーともゆっくりお話できますし、美味しいカツサンドと美味しいお酒をゆっくり飲むほうが、食べすぎ飲みすぎも防げるのはもちろん、お財布にも意外に優しかったりするので、オススメです。
そしてもう一つ、私が近頃大阪に出張に行くと、必ず買ってしまうのが新大阪駅のカツサンドたち。
新大阪駅構内には、カツサンドが恐らく10店舗以上のお店で売っています。カツサンドを日本一品揃えしているのは、新大阪かも、と思えるくらい。その中でも、東京ではなかなか買えない「ビーフカツサンド」はお土産にぴったり。私が知っているだけでも4店舗で取り扱いがあります。その中でも、東海道新幹線駅構内だったら、大阪のれんめぐりコーナーの「ヨコオ」に、JR新大阪駅構内ならエキマルシェにある「梵」へ。しっとりしたビーフカツサンドとハイボール缶は出張帰りのご褒美にオススメしたい最高の組合せです。大阪土産といえば551蓬莱の豚まんが有名ですね。新幹線を豚まんの匂いでいっぱいにしてしまうくらいのパワーも魅力的ではありますが、時には粋にビーフカツサンドのお土産、喜ばれますよ。
といいながら、バーも出張も、日常にはそんなにあるものじゃないですよね。でも、カツサンドは今やコンビニでも売っている定番商品。バーで食べるカツサンドが何であんなに美味しく感じるかと言えば、それはパンがトーストされていて香ばしいから。じゃあ、コンビニのカツサンドもトーストしちゃえばいいんだ! と思い軽く焼いてみたら、やっぱり生まれ変わりました。
この、ひと手間加えたカツサンドには、ジム・ビームやメーカーズ・マークなどのバーボンウイスキーをオススメしたいです。
豚肉のカツサンドは脂の甘さもたっぷりなので、甘い香りと味わいのバーボンにはぴったりなのです。
ハイボールとカツサンド。
それは、きっとこれからも私達を幸せにしてくれる最高の組み合わせ。
そして時には、宇宙一と思える、究極の組み合わせにも巡り合えてしまう。
でも、これでゴールじゃない。次なる「宇宙一」を見つけたい。いや、必ず見つけられるはず。
これが、飲兵衛の究極の道楽なのかもしれない、と思いながら、また今宵も軽く一杯のお酒と共に過ごしています。
これから年末まで忙しい日々が続くと思いますが、皆さんもお酒とほどよく付き合い、楽しく今年を締めくくってくださいね。
❏ライタープロフィール
松尾英理子(Eriko Matsuo)
1969年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部社会学専攻卒業、法政大学経営大学院マーケティングコース修士課程修了。大手百貨店新宿店の和洋酒ワイン売場を経て、飲料酒類メーカーに転職し20年、現在はワイン事業部門担当。仕事のかたわら、バーテンダースクールやワイン&チーズスクールに通い詰め、ソムリエ、チーズプロフェッショナル資格を取得。2006年、営業時代に担当していた得意先のフリーペーパー「月刊COMMUNITY」で“エリンポリン”のペンネームで始めた酒コラム「トレビアンなお酒たち」が好評となる。日本だけでなく世界各国100地域を越えるお酒やチーズ産地を渡り歩いてきた経験を活かしたエッセイで、3年間約30作品を連載。2017年10月から受講をはじめた天狼院書店ライティング・ゼミをきっかけに、プロのライターとして書き続けたいという思いが募る。ライフワークとして掲げるテーマは、お酒を通じて人の可能性を引き出すこと。READING LIFE公認ライター。
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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