週刊READING LIFE vol.5

30歳からの逆襲《週刊READING LIFE vol.5「年を重ねるということ」》


記事:よめぞう(ライターズ倶楽部)

29歳になったとき、なんだか自分の未来がお先真っ暗な気がした。
良い年した女性が年をとるのは、男性のそれとは違って少々複雑だ。就職、結婚、出産など、人生における転機で今後の人生がガラッと変ってしまう。
周りから見れば、結婚して子供がいる私は「人生の勝ち組」になるのかもしれない。だけど、鏡の前に写っている私の顔はどうも浮かない顔をしている。Instagramを開けば、キラキラした友人たちがいた。自由を謳歌する独身の子、なれない子育てに奮闘しながら、自分の子供にまっすぐ向き合う子、まるでレストランにでも出てきそうな料理を毎晩作る子……それに比べて私は、何もない。
要領が悪く、何をするにも不器用だ。それなのに、育休を終えて仕事に復帰しようとしている。初めての異動。初めての職種。初めての仕事をしながらの育児。もう、不安でしかなかった。
それでも「仕事を辞める」という道を選ぼうとはしなかった。
どうしても、この会社に戻らなければならない理由があったからだ。
子供が産まれる以前、私はいわゆる「売れない営業マン」だった。元々の不器用さと、ミスが続いたときに「仕事をさせてもらえなかった」時の恐怖がトラウマになって、常に極度のストレスと隣り合わせの毎日を送っていた。始業時間ギリギリにやってきて、トイレに駆け込み嗚咽するところから毎日がスタートした。生きた心地は全くなかった。自分の思うことを上司に伝えても、所詮「売れていない」奴が何をいっても通用するわけなかった。「気を遣え」と言われ続けたけれど、何をやっても空回り。気を遣うどころか、かえって「気を遣わせて」ばかり。私はかなり大きな「お荷物」だった。そんな私が子供を授かり、今後の人生において2つの道を選ぶことになった。

ひとつは、出産を期に「仕事を辞める」道。
もうひとつは、産休を取って「仕事を続ける」道だ。

いっそ、このタイミングで仕事を辞めても良いんじゃないかと思った。
毎日、身体をなんとか職場に運ぶのがやっと。辞めてしまえば、嗚咽しなくても良くなるし、常に誰かの顔色を伺わなくて良くなる。ノルマも無ければストレスもない。このタイミングで辞めないと、もうよほどのことがない限り仕事を辞められない。

だけど……このまま辞めちゃったら?

私は「お荷物」のままだ。やっぱりアイツは使えないヤツだった、と言われるならまだマシだ。誰の記憶にも残らないまま、ひっそりと辞めるのが辛かった。
「あー、なんかそんなヤツいたっけ? 確か全然売れてなかったよね」なんて言われるよりは「え? こいつ辞めたの? すごい良いヤツだったのに」って言われたかった。それに、これから大きくなる娘に、対して仕事ができもしないのに「ママはあなたを産んだから仕事を辞めた」というのはめちゃくちゃカッコ悪い。きっと、娘だって「自分のせいで仕事を辞めた」なんて言われたくないだろう。たとえ、自分の身がどうなろうと「ダサい母ちゃん」にだけはなりたくなかった。たとえ、何かが犠牲になろうとも、せめて仕事ができないと言われても「カッコ良い母ちゃん」でありたかった。

「カッコ良い母ちゃん」になるべく、私は頑張った。
仕事に復帰してから、憑き物がついたみたいに仕事にのめり込んだ。事務の仕事とはいえ、商品の提案もするし営業の仕事に繋がるような話もした。「短時間勤務」という時間の制約もあるけれど、逆に「時間内に絶対に仕事を終わらせる」という意識が高まった。私にできることなら、なんだってしようと思った。私が助けられることなら、なんでも手を差し伸べたいと思った。家事は、それなりに手を抜きながらも、なんとかやった。子供を産む前以上にご飯もきちんと作るようになったし、洗濯も苦手だけどするようになった。
怒涛の毎日で、時間が過ぎていくのはあっという間だった。
気づけば、仕事に復帰して1年が過ぎていた。そして、とうとう30才を迎えてしまった。

1年前、鏡の前で浮かない顔……というか老け込んでいたはずの私の顔は、イキイキしていた。29歳よりも30歳の方が若々しくみえた。
その理由は簡単だ。「全力」だったからだ。
子供がいることによって「時間」や「行動」には制約がかかった。はじめは、それが足枷になると思っていた。自由もなけりゃ時間もない。このまま子育てしながら老け込んでいくと思い込んでいた。だけど「制約」があるからこそ、時間が「有限」だとわかっているからこそ、なんでも1発勝負、全力で頑張れた。遊びだってそうだ。いつでも気軽にはできないから遊べるときは存分に遊んだ。子供との時間も、普通の人に比べればかなり少ない。だからこそ、一緒にいられるときに可能な限り「母親」になろうとした。
人生はまるで、ロールプレイングゲームみたいなものだ。年を重ねるということは、レベルアップと同じだ。ただ、レベルだけが上がっていっても自分のスキルを磨いてないと、ボスを倒すことはもちろん、目の前のスライムだって倒すことは出来ないと思う。年をとって、おばあちゃんになったら楽をしようと思っていた。けれども、年を重ねるからこそ、もっともっと頑張らないといけないと思う。
30歳になるまでは、ああ30歳とか「おばちゃん」じゃん……と嘆いていたけれど、30歳になってしまえば「いやいやまだこれからだ」と思った。まだ私にはやることがたくさんある。やらないといけないことが山積みになっている。
今は、全力で「過去の自分」に勝つために毎日を必死に生きている。もちろん、家事と育児との両立は難しい。それでも、私が「選んだ道」が間違ってないと証明するために……大ボスを倒して「ハッピーエンド」を迎えるために、全力で「カッコ良いオトナ」なってやろうと思う。
絶対に見返してやるからな、過去の私。

❏ライタープロフィール
よめぞう
1988年、福岡県生まれ。
福岡女学院大学人文学部英語学科卒業。
大学を卒業後、自動車ディーラーで5年間営業職として勤務。1年間の育児休業を経て「戦う子連れ兼業主婦」として日々奮闘する傍ら、天狼院書店で「モノカキ」の修行中。
お酒と深夜のオンラインゲームが大好き。

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2018-11-06 | Posted in 週刊READING LIFE vol.5

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