週刊READING LIFE vol.15

無人島に持って行きたい文具!≪週刊READING LIFE「文具FANATIC!」≫


記事:吉田けい(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 
 

文具FANATIC! なんて素敵なテーマ! 文具大好きな私にはとても嬉しい企画だ。私はモレスキンノートとジェットストリームというペンを紹介することにした。が、その前に一つ質問をしたい。

 

もしも無人島に行くとしたら、貴方は何を持って行くだろうか?

 

「サバイバルナイフ」
「メタルマッチかライター」
「縄!」

 

人によっていろいろな回答がありそうだ。ここでちょっと前提を追加したい。無人島に一人で何日か滞在する予定。通信や電気の類は使えないが、食料や飲み水、寝床などはまあ何とかなる程度の荷物と環境。本格的なキャンプだと思っていただければよいのではないだろうか。そこで、生活必需品以外で、何か一つだけ持ち込めるのだとしたら、何を選ぶだろうか。

 

私だったら、醤油を持って行く。

 

いかにもここでモレスキンと言いそうな流れだったのに、突然の醤油。勿論モレスキンも持って行きたいのだが、それでも醤油は譲れない。今ここで醤油の話をすることも譲れない。サバイバルには醤油とモレスキンとジェットストリームが必要なのだ、絶対に。

 

私が醤油を必須と確信するに至ったのは、子供の頃に読んだ「猿島の七日間」(彦一彦/福間書店/1989)という本の影響だ。釣りが趣味の小学五年生の主人公は、夏休みに両親に内緒で無人島まで海釣りに出掛ける。が、帰りの船に間に合わず、次の巡視船が来るまでの一週間、たった一人でサバイバルをすることになってしまうのだ。猿島は伊豆諸島に実在する島で、主人公も日本人。他の冒険ものに比べて親近感がわきやすく、ワクワクハラハラしながら読み進めた。たくましくサバイバルする少年は、何日目かで、自分が釣った魚を食べながらこう独白する。

 

「ああ、たったひとしずくでもいいから、しょうゆがあったらなあ」

 

家にいた頃は、特に気にもせずたっぷり使っていた醤油。それがほんのひとしずくでもいいから欲しい、と切望する少年。少年と同じ年頃だった私は、身近な醤油が全くない状況は想像しきれなかった。が、それがかえって、少年が置かれている状況の厳しさをリアルに感じ、夢中で読み進めたものだった。

 

時は過ぎ、大学四年生となって就活も無事終えた私は、最後の夏休みにちょっと冒険してみたいと思い立った。そんな折に大学の掲示板でインドへのスタディツアーの募集をしていたので飛びついた。初めての海外でインド、十日間。今思えば無謀なことをしたものである。私は荷造りをしている時、なぜかあの少年の一言を思い出した。たったひとしずくのしょうゆがあったらなあ。

 

「そうだ、醤油持って行ってみよう」

 

ほんの冗談のつもりで、スーツケースの底に100mlの小さな醤油ビンを入れておいた。
旅が始まってしばらくは、醤油のことなど忘れていた。何もかも色鮮やかに見える世界、ターメリックの匂いがする空気、楽しい旅の仲間。食べ物はどこに行ってもカレー、カレー、カレー。味付けはそれぞれ違うのだが、スパイシーさの違いを説明できる気がしない。ヨーグルトは日本人が食べるとお腹を下す。卵焼きのような食べ物にはこれでもかとパクチーが入っている。インドのミルクティー、チャイはものすごく甘く、かつ舌がピリピリするほどの香辛料入り。箸休めになりそうな食べ物も、ぜーんぶスパイシー。日本で食べるインド料理は、所詮日本人向けにアレンジされていて、香辛料は程よい量に抑えられていたのだ、と痛感させられた。現地の、現地人向けのレストランでは容赦なくスパイスのハーモニーが繰り出される。舌とお腹が休まる暇がないのだ。私も旅の仲間も、はじめは本場の料理に喜んでいたが、三日もすると食事の時間になると苦々しい表情をするようになった。かといって、シンプルな平パン、チャパティを食べても、なんだか虚しい。そんな時、私はスーツケースの底の醤油を思い出した。早速醤油をポケットに忍ばせて、次の昼食に挑むことにした。

 

できたてのチャパティをちぎって、醤油をひとしずく。
口いっぱいに広がる、嬉しい祖国の味。

 

「……美味しい!」

 

思わず涙がこぼれるほど、醤油チャパティは美味しかった。すぐさま醤油をシェアし、仲間たちも次々と感嘆の声を上げた。スパイシーでなくて、でも味がある。醤油とはこんなにも美味しいものだったか。自分たちが日本人であることを深く深く再確認した瞬間だった。その日から帰国するまで、私の小さな醤油ビンは大人気、食事の度に皆に回して味わった。同行者が二十人以上いる中、小さな醤油ビン一つだから、みな一滴、二滴、と大切に垂らして使っていた。それでも帰国する頃にはビンの中身はあと僅かになり、帰国後片付けをしているときに笑ったものだ。

 

猿島の少年は、醤油があればどんなにいいか、と切望した。遠い異国で、醤油は私の胃袋の支えとなった。あんなにも祖国日本の味を熱烈に恋しいと思ったことは、それまでもその後もこの時しかない。私にとってモレスキンとジェットストリームとは、この醤油に匹敵するような存在なのだ。サバイバルのような毎日を生きていく中で、熱烈に、望郷の想いのように、モレスキンとジェットストリームを愛さずにはいられない。

 

モレスキンを初めて見かけたのは、会社帰りの駅ビルの文房具屋だったと思う。「伝説のノート」と仰々しいコピーとともに、特設売り場が設けられていた。コピーにホイホイつられて売り場を覗いてみた私は、一瞬でその虜になってしまった。もともとはフランスの小さな製造業者が作っていたノート。百年以上の歴史があり、ゴッホ、ピカソ、ヘミングウェイ、チャトウィンなど、著名な芸術家や作家、政治家が愛用していた。1986年に製造業者は廃業してしまうが、1997年にイタリア・ミラノの出版社が復活させたのだという。

 

それが今こうして日本で、私の目の前に並んでいる!
ミーハーな気持ちで買ったモレスキンだが、使い心地は本当に最高だった。

 

まず、表紙が堅い厚紙なので、書く場所を選ばない。手に持って書くときも、ぐにゃぐにゃせずにしっかりと書くことができる。ソフトカバーのモレスキンも販売しているが、ぜひともハードカバーをオススメしたい。
続いて、ノートを開くと、どのページを開いても、180度ぺったんこに開く。最初から最後まで、全部180度開くノートというのは実はあまりない。二つ折り中綴じ式だと、初めの方はノートの厚みの違いで段差ができるし、貼り合わせたタイプだと、のりの分だけ折り返すことができず歯がゆい思いをする。全部開こうとすると、ノートが真っ二つになってしまったりもする。その点、モレスキンは少しずつ丁寧に綴じ合わせているので、どこを開いても右と左の段差や、変な折り返しが発生しないのだ。ぜひともモレスキンの上に手を置いて何か文字を書いてみていただきたい。小さな段差や折り返しは、実は書くことへのストレスになっていたのだと発見できるはずだ。
紙の質感が滑らかで素晴らしいのはもはや当然だろう。巻末にはポケットがついていて便利。ゴムバンドがついているので、ちょっとしたチケットやチラシをはさめるし、鞄の中でバラバラになることもない。粋な演出として、品質保証のシリアルナンバーシールまでついている。いろいろな作品やキャラクターとコラボして、多彩な表紙を楽しむこともできる。不思議の国のアリスの柄のモレスキンを手に入れた時は、嬉しくて一週間ほど使うのをためらってしまった。

 

機能的な面での使い心地もさることながら、メンタル面での使い心地も最高なのがモレスキンだ。モレスキンは、すべてのメモをモレスキンに集約させることを推奨している。そのためのノート術を研究している人がいるくらいだが、そんな堅苦しいことは考えなくていい。今までデスクに付箋で貼ったり、スケジュール帳の隅にちょっと書いたりしていたようなちょっとしたデータも、すべてモレスキンに書くようにするのだ。会議の議事録も、今週のタスクも、最近の悩み事も、旅行の計画も、全部モレスキンに書く。なんなら旅先のふとしたスケッチや、感動した映画のチケットのスクラップもモレスキンにしていい。そうすると、「あれはどこに書いたっけ?」という、メモの探し物がなくなる。何か困ったら、モレスキンをめくれば必ずどこかにある。その安心感は絶大なものだ。

 

そうやって、モレスキンは自分の全てを集約していくことに価値がある。丈夫なモレスキンは使い終わっても破れたりちぎれたりしていることはほとんどない。そうして使い終わったモレスキンを積み重ねていくと、自分の歴史が脈々と続いているような気がして嬉しい。私の使い始めは2010年で、現在19冊目となった。時々見返すと、懐かしい思い出のほかに、思いがけないことを再発見できたりするので、これがまた楽しいのだ。まだまだこれからも積み重ねていくつもりである。

 

そんなモレスキンに書き込むペンでお勧めなのが、ジェットストリームだ。ジェットストリームは、ユニ社の油性ボールペンである。恐ろしいほどに書き心地が良い。ペン貸して、と言われてジェットストリームを貸すと、三人に二人は「これ書きやすいね、どこの?」と聞いてくる。残りの一人は既にジェットストリームを使っている人であることが殆どだ。特にお勧めするつもりはないのに、使う人をハッとさせるほどの使い心地なのだ。

 

ボールペンで文字を書くとき、いくつかのストレスポイントがある。
まず、よくある油性ボールペンで文字を書いていると、ペンの先端にインクのかすの塊ができる。インクだまとでも名付けようか。このインクだまが私は大嫌いなのだ。インクだまがあると、変なところにくっついてしまう。くっついたところが見にくくなるし、インクだまを手でこすってしまうと結構な範囲が汚れてしまう。実に許しがたい。
それを解消するべく、しばらくは水性ボールペンやゲルインクボールペンを愛用していた。これらは発色が良く、色数も多いので、選ぶ楽しみもある。しかし、書いてから乾くまで少し時間がかかるので、それだけは注意が必要だった。また、インクが緩くて、ペン先と紙の間に水たまりになってしまうようなタイプもある。これもノートを汚してしまうので大嫌いだった。乾く前に手でこすったり、ノートを閉じたりしてしまうと、やはりあちこち汚れてしまう。また、水性ボールペンは、ペン先が細く詰まりやすいのも難点だった。

 

ジェットストリームは、これらの悩みをすべてクリアしているのだ。
油性ボールペンなのに、インクだまが出来ない。水性・ゲルインクボールペンのように発色がいいのに、すぐに乾く。そして何より、紙の上でペンを滑らせた時、全然ひっかからず、驚きの滑らかさで書くことができる。もう魔法のペンと言っていいのではないだろうか。私はペン先0.38mmで、黒・赤・青・緑とシャープペンがついた多色のものを愛用している。緑インクだけ0.38mmがないので0.5mmなのが実に残念ではある。そしてこの多色も、東急ハンズにて期間限定で販売されていた天然木のグリップのものを使用している。ほどよい重さ、握り心地、感動の書き心地。もうこのペン以外で何か書くことは考えられない。

 

書き心地のいいノートと、ペン。
そこに、すべてを書きつける。ノートを開けば、必要なものが必ず見つかる。
それは、毎日サバイバルのような現代社会を私が生きるにあたって、醤油のような存在なのである。やむを得ずそれ以外ノートとペンを使う事もあるが、一刻も早くあの素晴らしい書き心地に戻りたくてたまらないのだ。

 

さて、もし本当に無人島に行くこととなったら、私なら生活必需品と、醤油と、モレスキンとジェットストリームを持って行く。どれも絶対に外せない。醤油味の食事は心に潤いをもたらすと実体験で知っているし、無人島のようなところでこそ、紙とペンで日々の徒然を記録しておくことが大切だ。キャンプのようなのんびりした雰囲気なら未来への希望など書けばいいし、もっとサバイバルな環境なら様々な情報をメモしておいたほうがいい。無人島では電気もないのだから、きっと夕方にはもうやることを終えて、眠る支度をしているに違いない。夕日が沈む美しいマジックアワーに、モレスキンを広げて、ジェットストリームで今日のことを記す。明日は何をしようかと考える。傍らの焚火で、今日釣った魚を焼いているので、もう少ししたら醤油をつけて食べよう……。2019年は、無人島に行けるかどうかは分からないが、モレスキンとジェットストリームと、あと醤油と共に楽しく過ごしていきたい。

 
 

ライタープロフィール
吉田けい(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
1982年生まれ、神奈川県在住。早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学商学部商学研究科卒。在宅ワークと育児の傍ら、天狼院READING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。趣味は歌と占いと庭いじり。得意なことはExcel。苦手なことは片付け。

http://tenro-in.com/zemi/66768


2019-01-14 | Posted in 週刊READING LIFE vol.15

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