「横浜中華街の中の人」がこっそり通う、とっておきの店めぐり!

【第1回「横浜中華街の中の人」がこっそり通う、とっておきの店めぐり!】 「おもてなし」が作り上げた、行列が絶えない家庭の味 ~愛群(アイチュン)~ 《天狼院書店 湘南ローカル企画》


2021/06/29/更新
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)

「家族だけで切り盛りしている、愛群っていう小さな店があってね。全くの無名なところから頑なに味を守り抜いて、名物料理の牛バラをはじめ数々の料理を生み出し、行列ができる名店に築き上げた。
亡くなられた先代が街の名士で、一族が華僑社会に大変尽力された。その孫が店長をやっているよ」

— 「横浜中華街の中の人」・順強さん推薦文

おかみさんが完成させた「優しい味の牛バラ飯」が呼ぶリピーター


中華料理店を始めるときに、何か目玉になるような料理が欲しいと考えていました。
その時「広東では豚バラ肉はよく使うけど、牛バラ肉ってあまり食べないな」と思いついて、牛バラを使った料理のメニュー開発をしました。

私は特に中華料理の修行をしたわけじゃないんです。牛バラ料理も、元はコックさんに味を全部教わって、その味をベースに自分でアレンジしていきました。自分の舌で食べてみて味わって、どんなふうにしたらいいのかしらと試行錯誤しましたね。目指したのは、家庭の優しい味。家で食べるような「ママの味」みたいな味です。そうやって開発した「優しい味」がお客様に評価されました。

なので、初めから日本人向けにアレンジしようと思ってレシピを作ったわけじゃないんです。あくまでも、私がいいと思った味だから。中華街で牛バラを出しているお店は沢山ありますし、1軒1軒その店の味ってありますよね。たまたまうちの味が、お客様に合ったんでしょうね。
よく材料のアク抜きをして、手間暇かけて調理することは気をつけています。ちょっと甘くて香辛料が少なめだから、子どもでも食べられますよ。そんなに難しいレシピじゃないんですけどね。

張 潔蓮さん

中華料理店としては28年目ですけど、時々メディアに出ると口コミでどんどん広がって、ここ2年くらいは行列がすごくなりました。「アド街ック天国」に出た時はすごかった。2時間半待ちになっちゃいました。その時は2月で寒いのに、外で2時間半待っててもらって申し訳なくてね。とてもありがたかったんですけど、あまりの混雑のためにランチができなくなった時期がありました。店の2階も回して1階もとなると手が足りない。いつも行列で入れないことが続いていて、やっと今頃になって短い時間で入れるようになったかな。

1日に牛バラが最高で何食出たかっていうのは数えてはいないんですね。他にもメニューには中華蕎麦もあるし、チャーハンもある。でも皆さんほぼ9割方、牛バラ煮込みを注文されます。

素材にこだわりは持っています。冷凍物は一切使わないんです。例えば春巻きなんかも、冷凍しないから一味違うんですよ。素材は高くてもいいものを使う。だから油も日本の豊年を使っています。「愛群の料理は胸焼けしないんです、だからまた来ましたよ」って、常連さんが話してくれました。20年来のリピーターの方がいるのは、ちょっとした自慢ですよ。

「いい人に囲まれて楽しかった」と言い切れた、流転の人生


創業者である先代は、主人の父です。名前は張湖順と申します。1907年生まれです。
1934年に安徽省の高河鎮の農家から、横浜にいた従兄弟を頼って来日して米国領事付きのコックになり、終戦後の1947年、野毛で屋台形式の店を始めました。そして洋食レストラン「駅馬車」を開店し、その後喫茶店「ノーブル」に改装します。1993年に「愛群」が開店したのを見届けて、1995年に他界しました。

野毛(桜木町駅の北側の地名)にいた時は喫茶店と中華料理店が一緒になった店でした。1階が中華料理店、2階が喫茶店です。店が駅前にあったので、とても儲かっていました。
今の愛群がある場所(関帝廟通り沿い)は、元々は私たちの住まいだったんです。でも人通りが多いから「住居にしていたら、もったいない」って話になりまして。そこで野毛から関帝廟通り沿いに30年前に店を移し、その2年後に中華料理店1本にして今に至ります。

主人の父は横濱華僑總會副会長を務め勤め、その後に理事になりました。
台湾と日本を往復して、両国の懸け橋になっていました。戦前から流転の人生だったと思いますが、「いつもいい人が周りにいてくれたから、楽しかった」と生前はよく申していましたね。

経営のバトンは、既に次世代に渡している


(左から)張 明發さん、張 儀さん

息子は高校卒業後、料理の専門学校に行こうとしていましたが、知人に料理の修行ができるところに勤めている人がいまして、その縁で息子は料理の修行に入りました。足かけ10年、3店舗に渡っての修行でした。「いつくらいに店に戻る」とも言わなかったです。若い時に苦労したおかげで、今、息子が店を切り盛りできています。

息子は人の気持ちを読むのがすごく上手いんですね。
元々真面目な子なので、修行したことが身についたのはとてもよかったと思っています。今はほぼ店は息子が仕切っています。私なんかは今は息子の言うことに「はい」って従うだけ。店を子どもが継いでくれるって、とても幸せなことじゃないかって思っています。

2021年は、開店して30周年になります。お店の区切りということもあるけど、そろそろ新しく建て直そうかって話になっていて、計画は息子にほぼ任せているんです。息子は今45歳ですがまだ独身なので、お嫁さん募集中ですよ。

開業30年目、新店舗への想い


今の店のままでもいいんですけど、ずっと前から建て直す話は出ていたんです。私たちも若くないから、今の店の形態だと少しきついかなって思っていて。そろそろ誰かを雇ってもいい頃だったし、もうちょっと食事できるスペースも増やしたかったし。ですので2021年1月からはここは建て替えに入ります。仮店舗でも営業しますが、この場所での新店舗は2022年にオープン予定です。

新しいお店は今の店の雰囲気を残しつつ、客席は増えて今の1.5倍くらいになります。
1階はカウンター席があって、正面から厨房を見ることができます。階段も螺旋階段にして、バーみたいな雰囲気かもしれないですね。外壁には壺を飾る予定です。面白いでしょう? 親類に設計士がいてお願いしたら、ユニークでスタイリッシュなデザインにしてくれました。

設計図は新しいんだけど、今の店の要素も入れていて、例えば古いお店の、客席から厨房に吹き抜けているようなところも残してみました。和の要素も入れつつ、でも中華料理店ですという雰囲気を出しています。

あまり高級な感じじゃなくていいんです。高級感を出してしまうと、それは愛群じゃなくなってしまう。うちのお客さんが求めているのは高級感ではないからね。だから「今のお店の雰囲気を残しながら設計してください」って設計士さんには伝えました。

「広東家庭料理」のおもてなしをいつも大切に


建物は新しくなりますが、うちの店の雰囲気は変わらないですよ。お客さんがうちに求めているのは家庭的な雰囲気ですから。
看板には「広東家庭料理」ってつけています。家庭料理ってついている店はあんまりないですよね。もし調理場にいるのが男だけだったら、家庭料理ってつけなかったと思う。自分が調理場に入っているから家庭料理にしたのかなと思うんです。

お客さんが「雰囲気がいいから」って言って来て下さることが本当にありがたくて。振り返ると、そこにはちょっとした「おもてなし」があったからじゃないかと思うんです。

例えば、うちは春巻きは3本で出してますが、お客さんが2人で1皿注文した時なんかは1人1本半になるように切って出したりします。お子さん連れのお客さんが来たときは、赤ちゃんをあやしたりしますよ。そういう細かい気配りがいいんじゃないかしら。お客さんだって、気分よくお食事できたら嬉しいでしょう? 「愛群、また行こうかな」って思ってもらえますよね。

本当にちょっとしたことだと思うんです。少しばかりの心遣いがあったら、人ってとても嬉しいじゃないですか。印象に残ります。だからリピートして下さるお客さんがいます。温かい家庭的なお店ですねって、TVにも取り上げていただきました。こんなコロナ禍の時代に、おかげさまで今もちゃんとお客さんが来て下さる。行列までできて、なかなか入れないのも申し訳ないけど、ありがたいことですよね。

取材が終わって、早速名物の牛バラ飯をいただく。
温かく、味わい深い牛肉とご飯のハーモニーがたまらなく、身体に沁み込んでいく。
これはご飯が進む味。また食べたくなる味というのもとても納得する。
「心を込めて、丁寧に自分たちの味を作って、おもてなしをするだけ。ただそれだけなんです」というおかみさんの言葉が胸に残る。簡単なことほど、持続させるのは難しい。
来年、新しいお店がオープンになったら、絶対に行こう。またあの温かい、おもてなしのお店に。

(文:河瀬佳代子、撮影:山中菜摘)

愛群(あいちゅん) 愛群 ぐるなびはこちら
仮店舗(~2021年末迄):神奈川県横浜市中区太田町2-28大黒ビル1F
営業時間: 平日11:30〜17:00  土日祭11:30~21:00
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日休)  TEL:045-641-6245
本店舗(2022年オープン予定):神奈川県横浜市中区山下町138 關帝廟通り
※現在店舗改装のため仮店舗にて営業中。記事中の情報は取材時のものです。確認の上お出かけください。

「中華街の中の人」・順強さんのプロフィール
1964年横浜生まれ。華僑4世。
曽祖父母が広東省より来日(来日年は不明)。 祖母は1902年生まれ。両親ともに華僑。
幼稚園~小学校を横濱中華學院に通う。中学・高校は公立に通い、早稲田大学へ進学。
卒業後就職ののち、同じく華僑3世の奥様と結婚、5世のご子息と3人で横浜に暮らす。
酒を愛し、知己を愛し、横浜を愛する気持ちは誰にも負けてない! ホスピタリティ溢れる熱い男である。

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京都豊島区出身。日本女子大学文学部卒。天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて、湘南地域を中心に神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」連載中。
http://tenro-in.com/category/manufacturer_soul

□カメラマンプロフィール
山中菜摘(やまなか なつみ)
神奈川県横浜市生まれ。
天狼院書店 「湘南天狼院」店長。雑誌『READING LIFE』カメラマン。天狼院フォト部マネージャーとして様々なカメラマンに師事。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、カメラマンとしても活動中。


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