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魂の生産者に訊く!

【魂の生産者に訊く!Vol.1】 フルーツトマトの1粒1粒は、夢を乗せて羽ばたく《天狼院書店 湘南ローカル企画》


記事:河瀬佳代子(かわせ かよこ)(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
都心からそう遠くもなく、気候も温暖で、海を擁する湘南。
湘南といえば真っ先に思い浮かべるのが「海」だが、実はそうではない。
海岸線から少し入ると、そこここに畑や果樹園が点在している。
そしてその販売所も多い。
実は湘南は、農業が盛んな地域なのだ。
 
話を伺う人、お会いする人、全ての生産者に共通することは、「熱」だ。
0から何かを作り出そうとする、そのエネルギーが、とてつもなく熱いのだ。
この企画は、その「熱」を生み出す「魂」を伝えていくことになるだろう。
 
 

Vol.1 フルーツトマトの1粒1粒は、夢を乗せて羽ばたく
湘南佐藤農園 佐藤智哉さん

神奈川県出身。
会社員を経て、約100年続く農家の佐藤家に婿養子に入る。現在、4代目として藤沢市亀井野にて湘南佐藤農園を経営。
フルーツトマトを中心とした数種類の野菜を栽培。
『湘南藤沢の農業を守る会』代表。
 
湘南佐藤農園公式HP
https://www.shonansatonouen.com/

 
 

「惚れたもん負け」で飛び込んだ農業の厳しさ



 
結婚前は鵠沼に住んでいて、僕の実家は自営業をしていて農家とはあまり関連がなかったんですね。佐藤農園は妻の実家です。妻は4姉妹の3番目で、実家の後継がいなかった。妻とは学生時代から5年程付き合っていましたが、結婚の話が出たときに、「家を継いでくれなきゃ結婚しない」って言われましてね。当時サラリーマンでしたが、よくこの世界に飛び込んだなと。もう今じゃ農家に婿に行こうだなんて考えられないですけど(笑)
 
全くの未経験だった農業は、義父に教わりました。ついていくのにもう必死で。自分でも勉強しながらの就農でした。
ところが、佐藤家に入って1年くらいで義父が病気になり、農業ができなくなってしまいまして、成り行き上、僕がメインでやるようになりました。
 
2011年9月の台風の時に竜巻が来て、1200坪ほどあったハウスのうちの900坪が破損してしまいました。当面農業ができない状態になり、一旦サラリーマンに戻りましたが、その間に義父が亡くなりまして。
2度目のサラリーマン生活でしたが割と楽しめてはいたので、「このまま農業に戻らなくてもいいかな」、なんて思ってもいました。
 
そんなことを考えていたら、妻が「農園をこのままなくしたくない」と言いましてね。そんな気持ちを聞くと自分でも、それまで約3年農業をしてきて、やっぱりもう1度やってもいいかなって思えたんですね。そんな想いを聞いたら、もうやるしかないって。そして2014年に再び農業に戻りました。
 
2度目のサラリーマン生活は3年ほどでした。そこから農業に戻るとなると、さすがに3年もブランクがあると最初に教わったことは殆ど忘れてしまっていましたね。農業に復帰する前の半年間は土日もずっと作業をして身体を慣らすところから始めて、ひたすら勉強でした。
 
農業に復帰してすぐに大雪が降って、残っていたハウスがそこでやられてしまいました。前の台風でダメになったハウスの片付けや再建もあり、借金があった状態で、その唯一のハウスもダメになってしまったんで、自分で時間をかけて直しました。竜巻といい雪害といい、自然に左右されてしまうことが続きました。
 
 

本格的なフルーツトマト栽培への挑戦



 
 

◎全て独学の栽培方法に変えて収穫量を増やす

トマトは、義父の代から作ってはいましたが、やり方を180度変えました。
義父のトマト作りは、土で昔ながらの大きなトマトを作るものだったんです。義父がやっていた露地栽培も、それはそれでいい部分もあるんですが、どうせ作るならもっと美味しいものを作りたいと思って、自分は義父の時代とは違う形のアイメックというシステムを導入しました。

<アイメックとは?>

メビオール株式会社が開発した、土の代わりにハイドロゲル膜のフィルムで作物を育てる農法。水不足・土壌汚染に悩まされない画期的な農法として各地で成果を上げている。(メビオール株式会社HPより抜粋)

 
アイメックは土を使いませんので、土の状態に左右されずに耕作ができること、場所を選ばずに栽培できることなどのメリットがあります。トマト栽培にアイメックを使うと、トマトが必要とする養分だけを根に届けることができます。
今はフルーツトマトに関してはアイメック農法がメインですが、その他に従来の露地野菜もやっています。農業に復帰して今年で7年目なんですが、栽培方法を変えたことで、農業に戻る前の約7倍の売り上げにもなっています。
 
栽培技術に関しては、完全なる独学ですね。いわゆる量をたくさん生産するためのトマト、普通に店頭に並ぶようなトマトを作る農家は多いですが、フルーツトマトを作る農家は少ないです。ですのでひたすら独学で、ネットを調べて、本を買いあさったり、いろいろなメーカーにも訊きに行きましたね。企業と共同研究するなどもありました。あらゆる方法を使って、今の栽培のスタイルができ上がっています。去年あたりから今のスタイルになったんですけど、バランスを取るのが非常に難しい。
 
 

◎ストレス過多な環境が美味しさの秘密



 
フルーツトマトの木には、できるだけ根の方に必要最低限の栄養と水分を与えています。その方法ですが、フルーツトマトの木にはちょっと負担なんですけど、ストレスをかけています。なんでも生き物はそうですが、例えば人間も種を残そうとする時も、死ぬ間際に頑張ったりすることでいい種が残せたりすることってあるじゃないですか。それと同じで、木にストレスがかかるということは、実の方に栄養が行き渡るようになるのです。
ただ、ストレスをかけ過ぎると今度はトマトの木が死んでしまうので、そのバランスを取りながら栽培しています。フルーツトマトの実を最大限に甘くしつつも、木もできるだけ正常な状態で残したいということですね。
 
あと、いいフルーツトマトを作る条件としては、照度、肥料の与え方、水の与え方、そういったところも工夫しながらやっています。よくギリギリまで水を与えないといいトマトができると言いますが、かといって栄養が行き渡っていないとダメですよね。水気がなくてカラカラのトマトはおいしくないでしょう? ある程度の正常な状態を保ちながら、ギリギリのところで肥料と水を管理していく。これは技術が必要になってきます。
 
フルーツトマトは、積算温度を測って収穫時期を決めます。うちの場合、花がついてから1日の平均温度を足していって800〜900℃になる頃に収穫します。
作物はできるだけ木についている状態が長い方が良く、長ければ長いほどそれだけ栄養が実の中に入っていきます。
例えば暑い時期だと、平均気温が高くなります。夜も気温が23〜24℃になるような時期は、収穫期になる積算温度に早く達してしまうので、それだけ早く収穫しないといけない。2月〜5月に収穫するものだと60〜70日は栽培期間があるんですが、6月~7月の収穫期だと40日くらいしか木についていないことになります。早く木から離してしまうので、ピークの時期を過ぎるとそれだけ甘みが少なくなるということです。
 
 

◎顧客の声に糖度を合わせたら収穫量アップ!



 
実は「糖度と収穫量は反比例」します。糖度を上げれば上げるほど、収穫量は落ちていきます。例えば糖度10のフルーツトマトを作ろうと思ったら、収穫量は5トンくらいになってしまう。逆に糖度を下げれば収穫量は上がっていきます。そういうことも全てコントロールしながら作っています。
 

<平均的な糖度>グレープフルーツ:10、オレンジ:10、みかん:12、りんご:15(マイナビ農業より引用)

 
10月末からフルーツトマトの収穫が始まりますが、10月末は糖度6からスタートして、徐々に上げて行って2〜5月のフルーツトマトの糖度を8〜9にして出せるように作っています。ゴールデンウィーク以降は、先ほど説明した積算温度の関係でどうしても味が乗らないので、糖度は下がってきます。
味のピークが2〜5月に来るようにして、年間の栽培を設計しているんです。
 
糖度を上げれば甘くはなるんですが、上げ過ぎると収穫量が減ってしまうのと、表皮が固くなってしまうんですね。
うちの場合は、店舗に卸す以外に自分たちで直売所を持っているので、お客さんに売りながら評判を聞くことができるのが強みでして、お客さんから「甘いけど、皮が固い」って言われることが多々あったんです。
「美味しいんだけど、もっと柔らかかったらいいのにね」、
「こんなに甘くなくてもよくて、普通に買うトマトよりもちょっと美味しいくらいでいいよ」、という声を取り入れました。
特別なものでなくてもいい、普段に食べるもので、普通に買うものよりも美味しいものがいい、それがうちのお客さんのメジャーな声だったんです。それに合わせて糖度を少し下げると表皮も薄くなりました。あと、少し糖度を下げたことで経営面でよかったのは、何といっても収穫量が上がったことですね。
 
 

フルーツトマトから広がる次世代就農者への支援



 
湘南では新規就農者が増えているんですね。湘南自体が魅力的な土地で、そこで自分が好きな農業をやっていきたいという人が増えてきています。街も近いし、お客さんも多数いるので、メリットはたくさんあるんです。
ですが、昔から生産している農家さんもたくさんいます。特にトマトに関しては国の指定産地になっています。生産者も多い分、作られるトマトのレベルも高いです。先進的に作っている方、昔ながらの農法を守っている方、様々な方がいます。トマトのレベルが高いということは、売るのも大変なんです。要するに、新規就農者にとって湘南は魅力的ではあるけれど、ライバルも多いしハードルは高いということなんです。
 
栽培に関しては、勉強だけでは会得できません。技術力だけではなく、自然を見分ける目も養って行かないといけないですからね。
今、うちには藤沢市からの紹介で、新規就農に向けての研修生が来ています。1年間しっかり研修します。
最近だとネットで調べて、いくつかの農家に話を聞いてみて、やっぱりうちで研修をしたいと希望する人もいますね。
うちは地元にがっつりと根ざして農業をしています。僕が今40歳なんですけど、うちで働いている従業員が平均して30代、パートさんも若い人が多いです。ボランティアも20人ほど登録しています。他の農家さんに比べて平均年齢がだいぶ若いので、その分勢いもあるし伸び代もあると思っています。そんなところで選んでくれているのかもしれません。
 
そんな動きともつながるんですが、先日、藤沢市の社会福祉協議会に団体登録をしてきました。「湘南藤沢の農業を守る会」という団体名にしました。
団体を作った目的はいろいろあります。まず何をしたいかというと、都市型農業とはいえこの地域でも高齢化が進んでるんですね。後継がいたりいなかったり、それぞれの農家の事情も違うので、耕作放棄地が増えているんですね。その放棄地をうちで研修を受けた人に耕作してもらう活動はどうかなと思っています。
 
今、藤沢市内で小麦や大豆の生産農家がすごく減ってきています。小麦や大豆の関連の会もあったりするんですが、そこも平均年齢が70代とかになって作付面積がどんどん減っています。そんな時に農協の方から「佐藤さんのところで小麦を作りませんか」という話がありました。地元で取れた小麦や大豆を学校給食に使うことで、そこで食育ができるんじゃないかという流れを考えています。
 
 

食文化を守る、健康を守る



 
『湘南藤沢の農業を守る会』にはもう1つ社会的な目的を考えています。今は他の地方からも農産物は来ますけど、ある程度地元で完結できる食のシステムを作っていかないといけないんじゃないかと思うんです。例えば今回の新型コロナウイルスのことや、天災などがあったら物流が途絶えることがあるかもしれない。そうならないためにも地場の農産物のネットワークを作れればと思っています。
 
あとは、団体として農地を守る役割もしたいと思っています。例えば、定年を迎えた方などで自然に触れたいという方が多いんですね。健康寿命を伸ばせば医療費も削減できるじゃないですか。ですので、そんな方にはうちの農地で身体を動かしていただいて、健康になっていただいたらいいんじゃないかと。
地域の食文化を守る活動と同時に、健康に向けての基盤を広げていけたらいいなと思っています。
 
 

◎生産者であり続けるために、経営者の目線を


自分は非農家の出身で、元々野菜が大嫌いだったんですよ。野菜のおいしさがわからなかった。それが、妻の実家に行くと「今日取れた野菜だよ」って出してくれる。
困ったなあ、自分野菜嫌いだけど、妻の母が作ってくれたものだから『おいしいです』って言わなきゃいけないなあ、どうしようと思って恐る恐る口に入れてみると、これが本当においしい(笑) あれ? いつも食べてる野菜と全然違う! って。苦味やえぐみもないし。野菜のおいしさが身に沁みてわかったんですね。
思うに、これってめちゃくちゃ贅沢なことなんじゃないかなって。自分で野菜を作りたいように作って、家で取れたものをそのまま食べる、その充実感を少しずつここから発信したいんです。
 
それと農業を離れていた時に、食品メーカーで働いていました。そこが病院食や治療食を専門でやっていたメーカーだったんです。病気のために口から普通に食べられない方が世の中には本当に多い。そんな仕事をしていたので、死ぬ間際までおいしいものを口から食べさせてあげたいという想いが強くなりました。そんな人生を送るお手伝いができたらいいんじゃないかなって。
 
僕も40歳になって思うことは、次の世代にいい形でバトンを渡したいということです。10代20代の人たちに、「農業っていいな」「農業楽しそうだな」って思ってもらえるようにしたい。そのためには、漠然といいなって思ってもらうことだけではなく、現実的に収入がある程度取れるようなシステムもないといけない。農業ってきちんと儲けも出るよ、という観点もないといけないと思っています。
 

 
農業を維持することの厳しさを経験した上で、農業を取り巻く問題にも目を向け、それを解決できる手助けをしたいという希望を胸に行動する佐藤さん。アイデアを出すことは簡単だが、現実として解決に向けて動き出すことはなかなか容易ではない。大きな問題を、農業を通じてできるところから変えていこうとする力強さに心を打たれる。
その根底にはご自身が培ってきた「おいしいものを感じて伝えたい」という感覚があった。生産にあたり計画を立てる、新しいことを導入する、顧客第一に考える。農業以外の経験があったからこそ、他からヒントを得て農業に生かし、生産物に還元することがきちんとできているのではないだろうか。
ここまで広がった素敵なストーリー。佐藤さんが私たちにこれから見せてくれる景色が楽しみだ。
 
 
 
 
(文・河瀬佳代子、写真・山中菜摘)

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(READING LIFE編集部公認ライター)

東京都豊島区出身。
結婚後住んだ神奈川にてパン講師の資格を取得。自宅でのパン教室主宰を経て、現在は団体職員兼主婦。食べ物は素材にこだわりたい派。心のこもった美味しいものをライティングで紹介したい。神奈川の農産物の豊富さ・質の高さ・生産者さんの農業愛に注目している。

□カメラマン
山中菜摘(やまなか なつみ)

神奈川県横浜市生まれ。
天狼院書店 「湘南天狼院」店長。雑誌『READING LIFE』カメラマン。天狼院フォト部マネージャーとして様々なカメラマンに師事。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、カメラマンとしても活動中。

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2020-09-13 | Posted in 魂の生産者に訊く!

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