魂の生産者に訊く!

【魂の生産者に訊く! スピンオフ】トマト農家からピザ店経営へ。6次産業化を実現した農家の使命を考える(前編) 湘南佐藤農園・佐藤智哉さん《天狼院書店 湘南ローカル企画》


2022/12/19/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)

「湘南って、海が近いのに、野菜を多く作っていますよね」
素朴な疑問から、天狼院書店WEB READING LIFEの連載「魂の生産者に訊く!」が始まって2年が経った。「神奈川県内の生産者の想いを伝えること」を目的として、この間11名の方に登場していただき19本の記事を書いた。
 
第1回記事とスピンオフ回記事に掲載された湘南佐藤農園・佐藤智哉さんが、新たに展開された事業があるとのことで今回再度ご登場いただいた。現在ご自身が手がける農業と、今後の展開についてのお話をお届けする。
 
第1回記事はこちら
スピンオフ回 キッチンカー記事はこちら

 
 

サテライトオフィスとしてのピザ店を開く


気がつけば、妻の実家の農業を継いでから結構な年月が経っています。
うちは元々トマトが美味しいと言われて、ジュースとソースに加工しました。直売所に来たお客さんに「どうやって食べたら美味しいですか?」と訊いたところ「ピザがいいのでは」と言われました。
 

佐藤智哉(さとう・ともや)/ 新卒後会社員として勤務。結婚を機に妻の実家である農家を継ぎ義父よりトマト栽培を伝授される。その後アイメック農法によるフルーツトマト栽培開始、その他野菜を中心に作付け。2021年、キッチンカーにて自家製トマトを使ったピザの販売を開始。2022年、小田急江ノ島線善行駅前にピザ店「畑のキッチン」オープン。
 
2021年4月に開始した、自家製トマトを使ったピザのキッチンカー販売はJAさがみの店舗2か所とうちの直売所の計3か所、週4回程度出店しています。
 
キッチンカーを出してわかったのは、車内の温度が一定ではないのでピザ生地も安定したものを作るのが難しいこと。夏と冬じゃ全然気温が違いますからね。営業中は洗い物ができないですし、衛生面でもキッチンカーでずっと仕込みを続けるのはよくないと思っていました。かねてから冷凍のピザを作りたいという希望もあって、
うちの敷地に作業所を作るか、近くに空き店舗があったらそこを借りてピザを作る拠点にしようと思っていました。そのタイミングで2021年暮れ頃にたまたま今の店舗が出てきて、家のすぐ近くだったこともあり「じゃあ借りよう」と踏み切りました。こうして2022年6月17日にピザ店「畑のキッチン」をオープンします。
 
「店舗を借りるって結構大きい決断なんじゃない?」と言われることも多いですが、キッチンカーの方である程度利益が出ていましたし、自前で作業所を持つか場所を借りるかだけの違いなので、自分の中ではあくまでも流れの1つでした。
 
店舗の営業時間は11時~14時、金・土・日曜日は17~20時の営業、月曜定休です。農家は朝が早いので、実は夜の営業って結構きついのです。そのため、お客さんにはランチ中心に来てもらえるお店にしようと思っていました。
 

 
メインの客層は子育て世代と、そこより少し上の方たちですね。イートイン利用は若い世代が多いですが、コロナ禍の影響もあってか全体的にテイクアウトが多めです。
 
店舗のテーマカラーは白です。「キッチンカーがオレンジなのにどうして?」とよく訊かれますが基本的にあまり多くの色は使いたくなかった。僕は鵠沼出身で海が好きで、サーフィンもしていたので海のイメージで店を作りたかったので、白と水色をメインに選びました。
 
1日に仕込むピザ生地は約100枚になります。
仕込みの手順は生地をこねる→一次発酵→カット→二次発酵、そのあとは生地を丸めて小分けにしてタッパーに入れます。所要時間は3~4時間ですね。
 

 
1日の流れは、まず朝の7時に母が店舗に来て、生地を10時頃までに作ります。そうすると営業時間中に仕込んでもらった生地の発酵が終わります。
僕は朝に畑仕事をして、11時~14時まで店舗に出て、夕方は再度畑に出たり明日の準備をしたりします。金土日の夜の営業は新しく人を雇って任せていて、人件費を考えてもその方が効率的です。
特に土日は来店が多いので、仕込みはできるだけ平日のうちに済ませるようにしています。
 

 
今はテイクアウトがメインですが、イートインスペースもあります。同時にここはキッチンカーの仕込み場と冷凍ピザの加工場も兼ねています。今までは仕込みの時間を確保することがかなり負担でしたが、賃貸料を払ってでも店舗を持つことで、接客をしながら営業時間内に仕込みが全て終わるメリットがありました。ここは単なる店舗ではなく、サテライトオフィス、商品開発もできるラボラトリー的な役割も担っています。
 
 

あくまでも追求するのは「いちばん美味しい」もの


ピザは焼き方や生地を一定期間勉強することと、強い火力、釜がないと本格的なものは作れません。これがもしパスタであれば誰でもある程度のものは作れますが、誰でもできることではだめなんですね。ピザの上に自分のところで作っている野菜を乗せたら「いちばん美味しい」を表現できる。誰もができることではないからチャレンジしようと思いました。
 

 
僕は「全ての人に美味しいと思ってもらう」ことって無理だと思っています。うちで作ったものよりも他の方が美味しいと感じる人は当然いらっしゃると思います。それでもうちの農園では、地元の市場の売れ筋トップ3に入っているトマトを作っています。ピザにしても自分で農家やりながら自家製のトマトで作ったソースを使っているところはなかなかないので、トマトとピザの両方で差別化はできているのではないでしょうか。
 
僕は美味しいものの話が好きなんですよ。人が美味しいって言ってくれたりとか自分が美味しいと思ったりすることって全部が繋がるでしょう。食べているときが一番素の自分でいられるし、何よりも楽しいんです。
 

 
せっかく料理したり食べたりするなら、どうせなら美味しいものを食べたいよねって話ですけど、根底の考えは変わっていません。普通のトマトやピザでは満足できない人がうちのトマトを食べた時に「美味しいね」って言ってもらえるようなものづくりをすること、そこだけはこだわっています。
 
 
<編集後記>
人がなにがしかの製品を買うときは、その製品に価値を見出したときだろう。トマトもピザも、自分たちで作り出すものに絶対的なオリジナリティがあるという自信が、湘南佐藤農園のピザ事業成功の裏付けとなっているのは揺るがない事実である。
そこに至るまでの入念な準備と多くの人の協力が、さらに成功を支えることとなる。「本物は人を集める」ことの法則を見る思いがした。

 
 
後編につづく
 
 
(取材・文・撮影:河瀬佳代子)

畑のキッチン
神奈川県藤沢市善行7-3-1 クレール湘南 1F
定休日:月曜日
営業時間:11時〜14時(金・土・日は17〜20時も営業)
電話予約は070-2037-3100まで
H P:https://www.shonansatonouen.com/
※営業時間・定休日は来店前に店舗にご確認ください

 

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(フォトライター)

東京都豊島区出身。天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul
、「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/ 連載中。2022年より料理写真・ポートレート等の写真を榊智朗氏に師事。

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2022-12-14 | Posted in 魂の生産者に訊く!

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