魂の生産者に訊く!

【魂の生産者に訊く! Vol.11-2】地域が誇るレモンを、後世に残すための取り組みとは?(後編) 廣井農園 廣井博直さん《天狼院書店 湘南ローカル企画》


2022/05/16/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

昨今、ブームに沸くレモン。では生産量を増やそう! と単純に行くわけではありません。そこには農業が抱える大きな課題がありました。次世代にも栽培を続けてもらうために、農家が考えていることはなんでしょうか。「片浦レモン」として栽培に取り組んでいる、神奈川県小田原市の廣井農園・廣井博直さんにお話をお伺いしました。
 
前編記事はこちら。

 
 

ブームが後押しする、レモンの加工


レモンが今はブームになっていまして、生で食べるものだけではなく、加工にも出しています。生食の果実はこの近隣や通販で消費されて、あとは加工に回します。加工に回すのは年が明けてからで、年内に出荷する分はほぼ生の果実です。
 
レモンの加工品の中では、特にレモンサワーが長く人気で売れていますよね。その加工原料を大手の酒造さんに卸していて、製品になっています。あとは、洋菓子店にもレモンの香り付け用に出荷しています。
加工原料を一手に集めている業者さんがいて、そこで原料を搾り、お菓子メーカーや、その他需要があるところに卸しています。今も問い合わせがかなり多くあって、商品が足りないくらいです。
 

 
加工と生食の割合ですが、2020年は生産量の半分が加工に回りました。
2021年は台風が来なかったので7割が生食になって、残りを加工用に出荷しました。
 
加工用に出すレモンですが、メーカーが希望するロットがありますのでそれをクリアする量を出します。来年以降のこともあるので、最低限の量プラス、メーカー希望のロット分を出すので、最低限を超えた分だけは生食分、つまりいい果実も潰して持っていってもらっています。
ただしその場合は価格も加工原料の最低価格ではなく、多少高くしています。状態のいい果実も、先方が希望するギリギリの量だけは確保して、一緒に潰していますからそうなりますね。しかしこうも全国的に「レモンがいい」って言っていると、さらに大勢の人が参入してきて果実の価格がまた安くなっちゃうかもしれないかなとは思っているんですよ。
 
生産量としてはまだまだ足りていなくて、神奈川県全体にもなかなか行き渡ってなくて。もし県民がみんな片浦レモンを買ったら、加工に回す分がなくなっちゃうくらい。だから本当は生産量を増やさないといけないんだけどね。
 
 

片浦レモンを続けるために、今、必要なこと


地域としてレモンの生産に取り掛かってから約30年が経ち、後継者のことは大きな問題になっています。
この地域のレモン農家後継者の多くが、定年退職した時点で親から引き継いでバトンタッチしているパターンです。うちの部会にも何人かいます。新規参入者がほぼなくて、他地区には研修生が2〜3人いますがまだ独立はしていません。
 
後継者って言っても企業を定年になった人だから、継いだ時点で決して若くない。レモン部会の平均年齢が60歳〜70歳、役員ともなるともっと年上の世代ですよね。全体的に年齢が上のところから農業を始めないといけないし、レモンは急斜面に植わっていて手入れや収穫の作業もあるから、なかなか厳しいんですよ。このままだと組織が維持できなくなるかもしれなくて、JAさんでも「これからはレモンがいいですよ」と農協全体に呼びかけているんですけどね。
 

 
本家は16代続く農家で、うちは分家の2代目です。本家は、親御さんから引き継いで今農業をやっている人が病気になってしまい、その息子は別の仕事をしているから跡継ぎが決まっていない。だから畑が荒れてしまいました。
 
うちの跡継ぎもまだ決まっていなくてね。畑の1カ所は完全に減反で廃園にしてしまいました。もう1カ所は貯蔵用の青島みかんだけしか作っていない。でも将来的には、今持っている畑だけでもなんとか後世に残していきたいと思っていて。今、やる気のある人が入ってくれればどうにか持ち堪えるんだけど、果たしてどうなるかなというところです。
 
そんな話はたくさんあって、5年後にもしこの地区を見たら、レモンの生産者は今の半分くらいになってしまっているのではないかと危惧しています。せっかく「片浦レモン」としてブランドができているのにもったいない話ですから。今後は畑を保って、片浦レモンを継承していきたいんです。
 

 
レモンの新規就農者が入らない一番の理由は「定着しないから」。就農に必要な土地を貸す人は多いけど、借りる側は1年や2年やって、もう辞めてしまう。それだと真似事で終わってしまいますね。少し農業を勉強した人が研修で来たとしても、農業委員会が1年後に追跡調査をするともういない。本気の方でないと難しいかなと思っています。
 
だから我々は逆に新規就農を正面から定着させることにこだわらないことを考えたいんです。東京とか横浜の都市部の人たちが農業体験をして、遊んで帰ってもらうイメージから何かが生まれないかなという発想です。例えば古民家カフェを作る、貸し農園をする、キャンピングカーも入れるような農業体験を企画するとかね。果実のお持ち帰りつきなんていいじゃないですか。
 
JR東海道本線根府川駅のすぐ隣にJAがあって、毎月10日と25日にレモンの出荷作業をしています。そうすると「レモンの香りがしたから来ました」って、わざわざ電車を降りて駅からやってくる人もいましたね。今の根府川駅は無人だけど、我々が出荷を始めた頃は駅員さんがいたから、使っていない線路の脇にレモンの木を植えていました。そうすると木が伸びてきて特急に傷がついたり、運転手さんが止まれの合図と勘違いして止まってしまったり、まあそれはいろんなことがありました。もう今は線路の木は切ってしまったけどね。
 
我々のレモンは香りが強いから葉っぱをちぎると繊維からも香りが出てきて、そのままレモンティーにできる。そんなみずみずしい、感動の体験を、神奈川県内の人だってまだまだ知らないでしょう。そういった、遊びがてらから入ってもらったら後継者が見つかるんじゃないか? なんて淡い期待を持っていて、どうなるかなというところです。
 

 
大学に通っている孫がいるんですが、彼女が言うんです。
「この辺りの農家はね、じじ、やりようによっては面白くなるんだよ」ってね。
「Instagramとかクラウドファンディングとかあるじゃない、なんでもネットに上げて周りに広めると食いついてくるよ」って教えてくれます。何かで火がつくといいんだけどね。
昔からのやり方だと行き詰まるので、何かを変えていかないといけないと考える方も非常に多いんです。神奈川にも質のいい国産レモンがあることを広めたいから、孫にいろいろ教わって、若い世代の考えを聞きながら考えていきたいですね。
 
 
農業につきものの後継者問題をどうやって打破しようか? 多くの農家さんが抱えている悩みを、次世代からアイデアをもらって解決したいという取り組みをお話ししてくださった廣井さん。世代を超えて協力することで、片浦レモンが続いてくれることを願ってやみません。
 
 
 
 
(取材・文:河瀬佳代子、撮影:森 団平)

廣井農園
神奈川県小田原市根府川80-1
TEL: 0465-29-0475
H P:https://guangjingmikan.webnode.jp/
※取材時の情報です。

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(READING LIFE編集部公認ライター)

東京都豊島区出身。天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて、湘南地域を中心に神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul、「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/  連載中。

□カメラマンプロフィール
森 団平(もり だんぺい)(雑誌「READING LIFE」公認フォトグラファー)

滋賀県生まれ。天狼院フォト部発のフリーカメラマン (ソニー・イメージング・プロサポート会員)
天狼院パーフェクトポートレートゼミで、雑誌・広告等多くの媒体で活躍されているカメラマン榊智朗氏に師事。
風景写真も得意とし、周りの景色を取り入れたロケーションポートレートには定評がある。「Web READING LIFE」にて「いまから・ここから フォトさんぽに出かけよう 湘南天狼院編」 https://tenro-in.com/photosanpo/ 連載中。

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2022-05-11 | Posted in 魂の生産者に訊く!

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