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週刊READING LIFE vol.25

小石のさざ波のように《週刊READING LIFE Vol.25「私が書く理由」》


記事:青木文子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

頭にはとんがり帽子、箒にまたがって月夜の空を飛ぶ。
小さい頃から、そんな魔女になりたかった。そして今でもそんな魔女になりたいと思っている。
 
魔法が使ってみたかった。子どもにはよくある気持ちだろう。魔法の杖を一振りすると自分の願いは叶い、思い通りの世界が現れる。
 
もし、あなたの目の前に魔法の杖があるとしたら、あなたはその魔法の杖をほしいと思うだろうか。それともいらないと思うだろうか。
 
「魔法の杖? 魔法の杖ならもちろんほしいですよ!」
 
そう、おそらく誰もがその魔法の杖を欲しがるだろう。
 
でも、こう想像してみてほしい。あなたの足元にもうその魔法の杖が落ちているとしたら。もっと言えばあなたの手にはもう魔法の杖が握られているとしたら。そして、多くの人がそのことに気がつかないだけだとしたら。
 
ちょうど昨年の9月。数日前からfacebookに、あるひとつの広告がチラチラしていた。特に興味はないけれど、目の端で無意識に拾っていた。「ライティング」とか「ゼミ」とか書いてあったように思う。
 
なんだかよくこの広告を見かけるなぁ。そう思ってクリックしたのはただの気まぐれだった。それは天狼院ライティングゼミの広告だった。リンク先のページを読んだものの、最初の感想はあっさりしたものだった。「ライティング」かぁ。文章は上手になりたいけれど。頼まれてもいないのに、毎週2000字の文章を書くなんて。そんなに暇じゃないし。
 
でも、心のどこかで引っかかっていた。
翌日、またライティングゼミのページを見に行った。何度も何度も読んだ。いや、まて、毎週2000字の宿題だよ? それを毎週毎週4ヶ月だよ? いやいや、そんなのありえないから。
 
人はやりたいことが目の前にあるときに、それをやらない言い訳を探すのは天才的だ。私もご多分にもれずに、ライティングゼミをやらない言い訳を山程考え出した。でも結局申し込んでしまった。どうして申し込んでしまったのが、今ではもう覚えていない。きっと無意識が囁いたのだ。そこに宝物があるから、と。
 
ライティングゼミに入った私は、毎週2000字の原稿に七転八倒することになる。ライティングゼミでひとつだけ、決めたことがある。毎週の原稿提出を4ヶ月間すべて提出しよう。そう決めたのはいいが、最初の1ヶ月は1つの記事も掲載にならなかった。
 
はじめて原稿が乗ったのは2ヶ月目のことだったろうか。
いきなり編集部セレクトだった。そしてメディアブランプリ週間1位になった。もちろん飛び上がるほど嬉しかった。でも、それよりも私が驚いたことがあった。ある朝起きるとfacebookメッセージに見知らぬ人からメッセージが来ていた。
 
「はじめまして、青木さんの天狼院の文章を読みました」
 
そこから私の文章の感想と、とても心に響いたから、さっそく行動してみますと書かれていた。
 
また次の日も別の人からメッセージがきた。
 
「文章に書かれているモーニングノート私もやってみたいです」
 
そこから先も、私の文章を読んだ人からのメッセージが幾つもさざ波のように私のもとに届いた。
 
湖に投げ込まれた小石のようだと思った。
静かな水面にぽちゃん、と投げ込まれた小石。そこから静かに波紋が広がっていく。水面に広がっていく波紋は、途中に岩や木があると、そこから波紋が逆にむく。今度はその岩や石を起点に波紋がこちら側に戻ってくる。水面に広がった波紋に、反射した新しい円が重なっていく。
 
私の書いた文章はまるでその小石のようだった。断続的にとどく文章を読んだ人からのメッセージは折り返して戻ってくる波紋のようだった。
 
とても不思議だった。まるで魔法のようだと思った。私の文章が、私の知らない遠くの人の心を動かしている。そしてその人達からその文章を読んだ見知らぬ人から来るメッセージ。
 
私が尊敬する、ある若い魔法使いがいる。もちろん実在の人だ。
その魔法使いは、もちろん自分のことを魔法使いとは名乗っていない。その彼はとても丹念に「書くこと」をしている。
 
あるとき、彼が書いているノートや手帳をみせてもらって話をした。
いくつかのやりとりのあとで、彼にこう尋ねてみた。
 
「あの~とても熱心に「書かれて」いますよね?」
 
彼はこともなげにこう答えた。
「どうしてみんな、もっと書くことをしないのでしょうね」
 
「えっ?」私は聞き返した。
 
「書くことって目に見えないものをこの世で形にする、一番簡単な魔法なのに」
「書くことって、自分以外の人にも届くという魔法なのに」
 
ハッとした。彼の顔をみた。彼は穏やかに笑っているだけだった。
 
やっぱりそうだ。あの感覚は間違っていなかったのだ。
そう、「書くこと」は魔法の杖なのだ。
 
ライティングゼミ、プロフェッショナルゼミと続けていくうちに、段々とこの魔法の杖の特性がわかってきた。この魔法の杖はどうやら、使う人の力量によってその作用が変わるらしい。そして、使えば使うほど、その力が大きく、そして思い通りになるようだ。逆に言えば使わずにしまいこんでおくと、杖の力は急速に失われる。
 
そして、この魔法の杖は、実は誰もがもっているのだ。でも多くの人はこの魔法の杖を振らない。そもそもこれが魔法の杖だということをしらない。
 
だからこう言うのだ。文章を少し書いてみては、
「あ、書けないから」「文章って簡単じゃないからもういいや」
 
それは少し前の私の姿だ。だから判る。「書くこと」が魔法の杖だということを信じられない気持ちを。
 
でも書き続けるとわかってくる。この魔法の杖の力が。その事を教えてくれたのは天狼院のライティングゼミで書き続けたおかげだった。
 
ライティングゼミの講義の中で忘れられない言葉がある。それは店主三浦さんの言葉だった。
 
「ライティングの力は必ずポジティブなことに使って下さい。もしネガティブなことのためにライティングの力を使っていることを見つけたら、僕は見逃しません。全力で潰しにいきますからね」
 
「書くこと」が魔法の杖だとしたら、その魔法の力を善きことにつかう白魔術と、そうでない黒魔術があるのだろう。
 
私は「書くこと」を善きことに使いたいと思う。
それは自分を鼓舞したり、ささやかなエールを送ることであったり、小さきものに眼差しを向けたり、抗うべきものに声をあげたりすること。どこか遠くに私の声を届けたり、だれかの声なき声を届けること。
 
私が書く理由。それは「書くこと」が魔法の杖ということを知ったから。そして「書くこと」いう魔法の杖をもっと使いこなしたいと思うから。だから今日も私は「書くこと」に向かうのだ。
 
この「書くこと」の魔法の杖を手にした私は、今魔女なのだ。まだまだ半人前の修行の身ではあるけれど、手には間違いなく魔法の杖が握られている。
 
もし、あなたが魔法を使ってみたいとしたら。あなたの手に握られている、その魔法の杖を振ってみればいい。あなたの人生は間違いなく変わる。
 
幼い日に私が目指したあの魔法は、実はとても身近にあった。それに気がつきさえすればよかっただけなのだ。そう、その魔法の杖は昔から私がもう握っていたのだから。

 
 

❏ライタープロフィール
青木文子(あおきあやこ)
愛知県生まれ、岐阜県在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学時代は民俗学を専攻。民俗学の学びの中でフィールドワークの基礎を身に付ける。子どもを二人出産してから司法書士試験に挑戦。法学部出身でなく、下の子が0歳の時から4年の受験勉強を経て2008年司法書士試験合格。
人前で話すこと、伝えることが身上。「人が物語を語ること」の可能性を信じている。貫くテーマは「あなたの物語」。
天狼院書店ライティングゼミの受講をきっかけにライターになる。天狼院メディアグランプリ23nd season総合優勝。雑誌『READING LIFE』公認ライター、天狼院公認ライター。

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2019-03-25 | Posted in 週刊READING LIFE vol.25

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