週刊READING LIFE Vol.40

時間が掛かっても相手に届く言葉《 週刊READING LIFE Vol.40「本当のコミュニケーション能力とは?」》


記事:しゅん(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

コミュニケーションとは、お互いに言葉を伝えあうことだと思ってた。
 
でも、子供を叱ってるうちに気が付いた。
どうやら違うようだ。
 
相手の心に届いて初めてコミュニケーションが成立したと言えるような気がしてきた。
 
子供を叱る時、私の口から発する言葉自体は、子供には届いているようだ。でも、理解してるか? 腑に落ちてるか? というと、していないように感じる。なぜなら反応が薄いのだ。まさに暖簾に腕押し、糠に釘とはこのことだ。一応、反省してる風の顔はしているものの、しばらくするとまた同じことを繰り返す。
 
もう言っても無駄なんだろうか? こちらの心が折れそうになるが、親があきらめちゃだめだと自分に言い聞かせ、言い続ける。きっと理解できるようになるタイミングがあるはずなんだ。
 
相手の受け取る準備ができてない時にいくら言っても相手の心には届かない。子供に「勉強しなさい」と言って、「うるさいなぁ」と返されるようなものだ。もっとすごい例で言えば、ガリレオが地動説を唱えた時だってそうだったはずだ。天動説をみんなが信じてた時代に、いきなり地動説を聞かされたって受け入れられない。だから1616年に宗教裁判を受けてから、無罪が確定したのは約350年後の1983年の裁判だそうだ。それだけ、人の考えを変えるには時間が掛かる。
 
いつか相手に伝わると信じて伝え続けるしかないんだ。

 

 

 

言葉が伝わるのに時間が掛かると言えば、思い出すことがある。
小学校二年生の時の話だ。
 
その時の担任の先生がとても厳しかった。その時の私は、自分で言うのもなんだか、結構かしこい少年だった。本を読むのが好きで、学年の初めに教科書をもらうとすぐに国語の教科書を全部読んでしまっていた。新しい本が一冊手に入ったくらいの感覚だった。特に悪さをすることもなかったはずだが、先生にはよく叱られていた。
 
でも、先生のことは嫌いじゃなかった。子供ながらに私のことを思って叱ってくれてるんだと理解はして、信頼していた。
 
ある時には、授業が終わった後に一人教室に居残りさせられ、先生に叱られて泣きじゃくっていた記憶がある。その時に確か先生にメモをもらった。その後、夕陽でオレンジ色に染まった教室で、母が迎えに来てくれるのを待っていたのをよく覚えている。

 

 

 

それから大分時間が経ち、私は大学生になっていた。アルバイト先へ、当時の同級だった女の子がたまたまやってきた。
 
「久しぶり」
「うん。私ね、今、小学校の先生目指してるんだ」
「そうなんだ」
「それで、二年生の時の先生のところにも話を聞きに行ったんだ」
「あの先生のところへ?」
「そう。先生『しゅん君どうしてるかなぁ?』って言ってたよ」
 
うれしかった。先生、私のことを覚えていてくれたんだ! 小中高合わせて、先生に覚えられている自信はほとんどない。自己主張しないおとなしい生徒だったからだ。その後、家に帰って、先生からもらったメモを探して見返した。先生にもらったメモは、大切に置いてあったのだ。
 
それから、何回も引っ越しをしているが引っ越しのたびに、先生にもらったメモも一緒に移動している。そして定期的に思い出しては、先生にもらった言葉を読み返してきた。
 
そして、今回、また思い出しメモを探した。もうあれから40年近く経つのに、いまだにメモを持ち続けてるって、我ながらすごい。
 
メモは、原稿用紙を半分に切った紙に、ひらがなの多い文字でこう書かれていた。
 
「じぶんのことはきちんとやれるしゅん君。
さっさとやってあそんでいるのはやめようね。
ほかにすることないか考えてみよう。
それからすすんでしごとをやってほしいなぁー。
学きゅういいんになって先生きびしくやり方を教えたでしょう。
何をしたらいいか自分で考えてすすんでクラスのせわをしてほしいです。
三年生でもね。
しゅん君ならやれます。うたのしきをするとき進んでやろうとしたでしょう。
あの気持ちを大切に。三年でもがんばりましょう」
 
40年近く前に言われた言葉に、いまだに身が引きしまる。まるで今の私に対して言われているようでもある。あの頃から年月は流れたけど、精神的には成長してないんだ、と恥ずかしい気もする。人間の本質って小さいころから変わらないものなんだ。
 
先生は、自分のことだけやって周りを手伝おうとしない私を、周りのために積極的に動こうとしない私を、叱ってくれたんだ。私のためを思って。そして、先生は、私にはやれると信じてくれたからこそ叱ってくれたんだ。
 
こんな風に、その時に伝わらなくても、その後40年近く伝わり続ける言葉ってのもある。
 
だから、今、私が子供たちに言ってることはすぐには伝わらないかもしれない。でも、いつか届くと信じて、言い続けていこうと思う。どこかのタイミングで「あっ、お父さんが言ってたのってこういうこと?」と思ってくれる瞬間があると信じて。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
しゅん(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

ソフト開発のお仕事をする会社員
2018年10月から天狼院ライティング・ゼミの受講を経て、
現在ライターズ倶楽部に在籍中
セキュリティと心理学に興味があります。

 
 

http://tenro-in.com/zemi/86808

 


2019-07-08 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.40

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