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週刊READING LIFE Vol.40

「本当のコミュニケーション力」は量によってつくられる。《 週刊READING LIFE Vol.40「本当のコミュニケーション能力とは?」》


記事:井上かほる(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「未経験者で、ということは、今回は特に必要な経験とか資格は持ってなくて大丈夫ですか?」
「うん、そうだね。今回は本当にだれでもいいよ。ただ……」
 
だいたいそうだ。
未経験でいいと言っても、だいたいコレが付いてくる。
初期費用ゼロ円と言いつつ、実際には少なからず費用がかかる仕組みのように。
 
「ただ……人とコミュニケーションを取るのが好きな人、であれば」

 

 

 

私は以前、求人広告の営業をやっていて、有資格者とか経験がある程度必要な仕事であれば別だが、未経験者の募集であれば、この「人とコミュニケーションを取るのが好きな人」もしくは、「人とコミュニケーションを取るのが得意な人」という、見えない条件がほぼ100%の確率で付いてきて、「あるかどうか自分で判断しにくいから、原稿には入れないほうがいい」と言って入れないように提案することもあれば、「入れてほしい」と言われて「まぁ、それもそうだよな」と簡単に原稿に入れていたこともあった。
正直なところ、「そりゃそうだよ。接客や営業じゃなかったとしても、社内の人とコミュニケーション取ることは必然的にあるんだし、コミュニケーション取れない人とどうやって働いたらいいか、わからないし」と思っていた。
けれど、どうにもしっくりこない。
自分でも原稿に入れたり、入れないようにしたりとふわふわした状態だった。
そもそも、コミュニケーションとは何なのだろう。

 

 

 

「人と話ができること?」
お互いがただ話しているだけで、会話が成り立っていなかったら?
「聞かれたことに答えられること?」
答えを言っただけで、その1ターンで、そのあと無言になったとしたら?
「人に話すのがうまいこと?」
聞いている人がだれもいなかったとしたら?
「だれとでもすぐに仲良くなれること?」
どちらかが相手に合わせているだけだとしたら?
 
いずれも、「コミュニケーションを取っている」とは言えないように感じる。
じゃあ、今のをすべて、組み合わせたとしたら、どうだろう。
人に話すのがうまい人同士が、聞かれたことに対してきちんと答えていて、答えを受けた人がその答えを繰り返したり、言い換えたりできていて、その人たちは同じような形で人と話をすることを繰り返していて、話をした人たちは「みんな友達だ」と言えるしたら?
 
高そうだ。
コミュニケーション力、高そうだ。
けれど、なんか違う。
なんか、怪しい。
頭に浮かんでくるのは、お年寄りを騙そうとする怪しい奴。
私が今回求めている、「本当の」コミュニケーション力、ではない。
 
「足悪いよね、外出するの大変だよね。うんうん、わかるよ、おばあちゃん。僕もね、おばあちゃんが遠くに住んでて心配だから。そっか。おじいちゃん、亡くなったばかりなんだね……。それは不安だよね。うんうん、わかるよ。なんか僕、おばあちゃんに会いたくなってきたよ。じゃあさ、僕が今からおばあちゃんのおうちに行くから、ちょっとだけお話しよう?」
そんなふうに言って、金品を騙し取ろうとする人物が浮かんでくる。
言葉はやさしいし、相手の話は聞いてるし、聞いた話に対して頷いて、相手の言葉も繰り返してるだろう。電話の向こうのおばあちゃんと、すっかり仲良くなっている。ように見えるだろう。
けれど、おばあちゃんの電話相手の正体は、詐欺師だ。
 
ということは。
「会話が成り立っている」だけでコミュニケーション力が高いと判断するのは違うようだ。
人を募集する一般企業は、詐欺をするような人を「コミュニケーション力が高いから」と採用はしないだろう。

 

 

 

年に1度ぐらいだろうか。
「好きな芸能人ランキング」と「嫌いな芸能人ランキング」が発表される。
最近では、俳優編やお笑い芸人編など、細分化されたランキングもたくさんある。
「おもしろいなぁ」と思うのは、好きな芸能人ランキング上位にいる人と、嫌いな芸能人ランキングの上位にいる人の重なりが多いこと。木村拓哉や福山雅治は両ランキングで常連だ。好きであると答えた人が大勢いると同時に、嫌いと答えた人も大勢いるのだ。テレビを通しているから、ランキングに投票した側が持っている情報は同じはずなのに、好きと嫌いに分かれてしまう。
 
私は、コミュニケーションもこれと同じなんじゃないかと思う。
受け取る側が、よく思うか悪く思うか。
先の詐欺の電話も、「親切だ」と思う人もいれば、「怪しい」と思う人もいるように。
 
じゃあ、その差はなんなのか。
「好きだ」と思う人、「嫌いだ」と思う人。「親切だ」と思う人もいれば、「怪しい」と思う人。
ここには、どんな判断の差があるのか。
 
私は、それは、「量」なんじゃないかと思う。
「こういう話をしてくる人は怪しい」とか「こういう仕草をする人は好きになれない」とか、子どものころから積み重なっているものから、「好き」なのか「嫌い」なのか、「親切」なのか「怪しい」のかを判断する。
 
つまり、未経験者を募集する際に「コミュニケーションが好きな人」とか「コミュニケーションを取るのが得意な人」と注文をするのは、その未経験者に「量」が足りないと最初から決めつけているからなんじゃないだろうか。
有資格者や経験者であれば、その「量が一定数ある」という認識が、採用担当者の頭の中に最初から決まったものとして入っているから、有資格者や経験者に「コミュニケーション力」を問うことがない。
とはいえ、有資格者や経験者が本当にコミュニケーション力を持っているのかどうかは不明だ。
なぜなら、コミュニケーション力を数値として測ることはできないし、その人に合う人が、その職場に合う人が、「その人やその職場にとってのコミュニケーション力」を備えていることになるからである。
ということは、相手側が求めているコミュニケーション力を理解できなければ、バチっとピッタリ合うコミュニケーション力の持ち主には出会えないのである。そしてそれは、採用する側がどういうコミュニケーション力を持っている人を欲しているかを認識していないと、出会うことはない、ということである。
 
会話がスムーズにできることではない。
相手が求めている答えをすんなり返すことではない。
そこには表情だったり、目の輝きだったり、ジェスチャーだったり、相手との物理的な距離感だったり、発した言葉と受け取る言葉の「間」だったり、たくさんの要素が絡み合ってくる。
 
おそらく、誰にでもあるだろう。
「面接ではいい感じだったのに、入社してきたら全然コミュニケーションが取れない。宇宙人のようだ」
「面接官だった上司は、聞いたことに対してわかりやすく丁寧にやさしく答えてくれたのに、実際に一緒に働いてみると、コミュニケーションが取れない。言葉にしているのに伝わらない」
「最初はかっこいいって思ったけど、何回か会ってみると、なんか違うんだよね」
これらにはきっと、確認する「量」が足りない。
たった数回、たった数時間、たった数日では、足りないのだ。

 

 

 

けれど、たまに、いる。
「ほしかった人材、ぴったりの人が来た!」とか、「入社する前と入社後にギャップがない」とか、恋愛で言えば、「初めて会ったときに、結婚すると思った!」とか。
もはや奇跡と言えるほど。
でも、どうだろう。
毎回必ず、100%求めている答えが返ってきているだろうか。
相手に「もっとこうしてほしい」とか、「この質問の返事、これじゃないでしょ」とか、思ったことはないだろうか。
しかし、そういう人に対しては、許せたり、スルーできたりする。
それは、「自分に合うのはこういう人」とか「うちの職場に合う人はこういう人」という自己分析ができているから、多少のズレが生じても、「ちょっとぐらいは問題ない」と判断できるのだ。
私にも、会って数回で「親友になれそう」と思えた人がいる。今までで1人か2人くらいだけど。
たとえば私は、自分の話ばかりする人が苦手で、人の話を途中で切る人が苦手で、いいことしか言わない人が苦手で、超絶ポジティブな人が苦手で、今まさに目の前で起きている現象でいうと、ほかに席が空いているのに私の向かいに座る人が苦手だ。
だから、反対の人と出会えると、「あ。仲良くなれそう」と思うことができる。
苦手苦手と言うと、あまりよくない感じがするけれど、マイナスを把握することで自分がストレスなく、リラックスできる状態をつくりだせるのではないかと思っている。これまでの30数年間、さまざまな人と出会ってきて、その上で得意な人、苦手な人を把握してきた。
 
量である。
量から、「こういう話し方や聞き方をする人」「こういう声のトーンの人」「こういう間の取り方をする人」「こういう考え方をする人」「こういう物理的な距離を取れる人」など、自分がどういう人が好きで、どういう人が必要なのかを知っておく必要がある。交わす言葉だけではなく、こういったことすべてがコミュニケーションだ。
 
ということは。
コミュニケーション力とは、これまでの人生すべての蓄積であり、自分と同じ人や同じ感覚の人たちが集まる人と出会った時点で発揮されるものである。
ということは。
たった数回で、たった数時間で、たった数日で、「この人はコミュニケーション力が高い/低い」の判断は難しいのである。
ということは。
少々長めのお試し期間が必要だ。
 
漫画「花より男子」の牧野つくしは、身分が違い、ケンカばかりしてきた道明寺と付き合うかどうかを決める際に、お試し期間を設けている。牧野つくしは本当に道明寺のことが好きなのかどうなのか。それを確かめる期間として、お試し期間を設けた。
企業の採用にも試用期間があるところは多い。こちらは雇用される側を守るため、あまりに長い期間を設けることはよしとされていないが、3~6ヶ月と幅を設けて求人広告などに書いていることは多い。1ヶ月なら1ヶ月。3ヶ月なら3ヶ月。合わないものは合わないのだから、「自分はこの会社に合うコミュニケーションが取れない」と判断する。なんとなく過ごしてはいけない。自分を出し、相手がどういう反応をするのかを確かめないといけない。企業側も同じだ。「この人はこういう頼み方をしたら、どういう反応をするのか」「こういう教え方をしたら、どう思うのか」「目的達成に向けてどういう考え方や行動をするのか」「ミスをしたらどういう行動をするのか」など、面接だけで判断しないで、その人がこれまで蓄積されてきたものがどのように表面に出てくるのかを見て、今後も長く一緒に働きたいのかどうなのか、理解しないといけない。その上で、お互いに改善すべきところがあれば、それを改善できるものなのか、そうでないのかを、見極めないといけない。そして、面接や初対面の時点で、「量」は同じように見えても、お互いの持っている「量」が、ただの重さではなく、綿の重さと鉄の重さが同じだったとしても物自体は全然違うように、量だけではなく、その量がどんな物で構成されているのかも知らないといけない。
 
そう。
そのためには、綿が鉄のフリをしたり、鉄が綿のフリをしては両方とも苦しいのだ。無理が募って、火種ができ、どこかで爆発してしまう。「私は綿です」「私は鉄です」と名乗り出て、お互いが間の物質になりたいと思うのであれば近づける。なりたくない、なれないと思うのであれば、離れるという判断をすることが、お互いのためなのである。
 
なぜなら、コミュニケーションは相手あってのものだから。
1人で完結するものではないからである。
自分がどういう考え方をする人で、どういう考え方をする人が好ましくて、どういう考え方をする人は好ましくないのか。自分はなにか達成したい目標があったときにどういう行動をして、同じチームにいる人にはどういう行動をしてほしくて、どういう行動をする人とは目標達成に向かいたくなくなるのか。
すべては自分起点である。
まずは自分がどういう人間なのかを理解していないと、コミュニケーションは生まれない。
取り繕って、相手に合わせるコミュニケーションもあるだろう。
それを選び取ることは、もちろん間違いじゃない。
ただ、大切なのは、自分がどういうコミュニケーションを取っていきたいか。
だからこそ、自分はどういう相手が好ましいのか理解していないと、本当のコミュニケーションは生まれないし、本当のコミュニケーション力は発揮されないのだ。
 
だれにでも合わせられるコミュニケーション力が「本当のコミュニケーション力」だとしたら、それは存在しないと思う。
もちろん、仕事上で表向きのコミュニケーションというものは存在するだろう。
ただ、自分の人生がかかったとき、自分がこれから長く過ごしていきたい人や場所を探すとき。
自分はどういう人間なのか。
どういう人だと長くコミュニケーションを取り続けられるのか。
それを理解しないと、うわべだけのコミュニケーションを取り続けることになる。
時と場合によって、誰にでも合わせるコミュニケーション力は必要だろう。
けれど、それが、自分が長く関係を続けたい相手や場所だったら?
相手の求める答えを返すことが本当のコミュニケーション力だろうか。
「私はこういう人間です」と提示して、それに対して相手も「私はこういう人間です」と数を重ねて出していくこと。
そして、その量が積み上がり、お互いが同じ物事で構成されていると知っていくことが、本当のコミュニケーションで、それを積み重ねている過程こそが、本当のコミュニケーション力を発揮しているときなんだと、私は思う。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
井上かほる(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

札幌市在住。元・求人広告営業。
2018年6月開講の「ライティング・ゼミ」を受講し、12月より天狼院ライターズ倶楽部に所属中。
IT企業のブログにて、働く女性に向けての記事を書くこともあり。
現在は、プロのライターになるべく勉強中。
エネルギー源は妹と暮らすうさぎさん、バスケットボール、お笑い&落語、映画、苦くなくて甘すぎないカフェモカ。

 
 

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2019-07-08 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.40

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