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週刊READING LIFE Vol.40

しゃべるコミュ障《 週刊READING LIFE Vol.40「本当のコミュニケーション能力とは?」》


記事:小倉真紀(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「僕は人と話をするのが好きなんだ」
僕は自分という人間をそう捉えていた。よく人からも「ほんとおしゃべりだよねー」と言われていた。だから初めて「コミュ障」という言葉を聞いたとき、「人と話せない人がいるのか。大変だな」と思っていた。
「コミュ障」という言葉は、「コミュニケーション障害」の略で、つまりはコミュニケーションをとるのが苦手な人、コミュニケーションをとるのに支障がある人という意味だ。
 
コミュ障の人は話すのが嫌いなんだろうか。いまいち理解ができない。でも、確かに友達には物静かで、到底話すのが好きとは思えない人もいる。友人Aも僕がコミュ障だと思う友達の中の一人だ。
数年前のある日、Aとごはんを食べに行くことになった。しかも初めて会う女の子と一緒だ。合コンというやつらしい。Aの知り合いの友達とか言っていた。そんなことはどうだってよかった。僕はその日が楽しみで仕方なかった。
「初めて会う女の子と話すなんて緊張するなー」そうAは言っていた。
 
「こんばんはー」
「はじめまして。よろしくお願いします」
そう言って合コンは始まった。女の子は2人。あやちゃんとみきちゃんと言った。お酒の力もあって、僕はとても楽しくおしゃべりをした。
その日は一緒に食事するだけで終わった。とても楽しかった。また4人で遊ぶ約束をしたんだ。
 
今度は昼間、映画を見てボーリングをした。映画を見た後だったから、映画についてたくさん話をした。ずっとしゃべっているのがこんなにも楽しいなんて初めてだった。
何回も4人で出かけた。そのうち本当に仲良くなって、いろんなことを遠慮せず話せるようになった。
「ごめん、ちょっとだまっててくれるかな。今A君の話を聞いているから」
いつからか、そんなことを女の子たちに言われることが増えた。
(Aの話?! Aはほとんど話さないじゃないか)僕は納得がいかなかった。
 
あれは忘れもしない、去年のクリスマス前の時期だった。4人で出かけたんだ。僕はその日とても機嫌がよくて、楽しく話をしていた。そしたら、一番話したかった本の話をしている途中でまた言われたんだ。
「ちょっとだまってくれるかな」
話したかったことを邪魔された僕は冷静でいられなかった。反射的に反論してしまった。
「なんでだよ?! Aみたいなコミュ障の話より僕の話の方が面白いだろう?!」
 
僕はそんなことを言ってしまった。
(やばい、Aを否定してしまった……)
 
「は? 何言ってんの? コミュ障の意味わかってない」
 
あやちゃんに怒られた。でもあやちゃんの言葉が理解できなかった。
僕は何も言い返せずにいた。そうしたら、みきちゃんが言った。
 
「コミュ障って、コミュニケーション障害でしょ?! そもそもコミュニケーションってわかる? 日本語に直訳したら意思疎通とか意思伝達だよ。一方的に話し続けるのはコミュニケーションじゃないんだよ」
 
衝撃的だった。頭を殴られたみたいってこういうときに使うんだってわかった。わかりたくなかった。さらにあやちゃんが続ける。
 
「A君はちゃんと話を聞いて、それからしゃべってくれるから、ちゃんとコミュニケーションとれてるの。全然コミュ障なんかじゃない。あなたのは、自分が言いたいことをずっと言ってるだけで、相手の話を聞かないから、コミュニケーションがとれない。あなたの方がよっぽどコミュ障よ!」
 
僕はもはやどうすればいいかわからなかった。
どれくらいの時間がたったんだろう。意識を失っていたんだろうか。
目の前の景色を認識できたとき、それでも3人ともそこにいてくれた。僕を置いてどこかに行くこともなかった。
だから、僕は「ごめん」と言った。
 
3人はちょっと固まって、それから誰からともなく噴き出して、笑いながら言った。
「ほんとお前ってしゃべるコミュ障だよね」
 
僕も笑った。
 
僕は理解した。「コミュ障」っていうのは実際に話すか話さないかじゃなくて、相手とコミュニケーションをとるのが苦手ということだと。つまり、前までの僕みたいに相手の話を聞かないで、むしろ相手に話させまいとしゃべり続けるのも「コミュ障」なんだと。
しかも僕自身が言うのもなんだが、「しゃべるコミュ障」の場合「コミュ障」の自覚がないから周りからしたらやっかいだと思う。
 
Aとあやちゃんとみきちゃんとは今でも4人で遊びに行く。こんな僕を受け入れてくれて本当に感謝している。今度はきっと僕の番なんだ。
君は「しゃべるコミュ障」になっていないかい?

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
小倉真紀(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

千葉県佐倉市出身・在住。千葉大学文学部卒業。
大学卒業後、日本語教師養成の専門学校に通学、資格取得も卒業式中に東日本大震災発生。留学生が日本に来なくなり、日本語学校での職を失う。その後、某大手学習塾の個別指導部門で6年間講師をし、その後地元の学習塾専任講師に。

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2019-07-08 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.40

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