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週刊READING LIFE vol.43

仁義なきハゲの戦い《 週刊READING LIFE Vol.43「「どん底」があるから、強くなれる」》


記事:ギール里映(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「もし、女性でつるっぱげの人を見かけたら、ちょっと、ぎょっとするよね?」
 
私はやっぱり、ぎょっとする。
男性でつるっぱげだろうと、部分はげだろうと、バーコードはげだろうと一向に気にならないのに、なぜ女性が剥げていたらぎょっとするのだろう。
 
数年前、私はつるっぱげになった。
円形脱毛症というような生易しいものではなく、文字通りのつるっぱげだ。
髪の毛がない女性は、人格を奪われる。
 
ある日のこと、ふと頭部に手を当てると、なにやらすべすべした頭皮にさわった。
「あれ、これ、もしかして禿げてる?!」
こめかみの横に、500円玉ぐらいの円形ハゲができていた。血の気がひいた。
これがもしかしたら、円形脱毛症というやつなのか?なぜ私にできるのだ?ストレスか?どうやったら治る?ものの1分ほどの間に、色んな思いが頭を駆け巡った。
 
そうだ、まずは調べてみよう。時代はなんでもググればほぼ解決する。
そうすると、おもしろい記事をみつけた。
とある美形タレントが同じく円形脱毛症について悩み、言及していた。彼いわく、
「隠してしまえば、ないのと同じ」
 
そうか、なるほど。
隠れていれば、ないのも同然。隠しておけばいいのか。
幸いロングヘアだった私は、髪の毛をおろしていても、束ねていても、その500円サイズの丸い頭皮を隠すことができた。それでしばらくは事が済んだ。
 
しかし、ハゲは一向にその勢いをゆるめず、どんどん大きくなっていった。
気づいたら5センチ四方ほどのサイズになり、もはや髪の毛では隠せなくなった。私はターバンを巻くようになった。ヨガの講師もしているし、ターバンが違和感なくてちょうどいい。
「隠してしまえば、ないのと同じ」
まだうまく隠しきれていた。
 
が、しかし、である。
 
今度は頭頂部の毛が抜け始めた。
つむじがどんどん広がってきて、これは相当にやばい。
もうターバンでは隠せるレベルではない。
私はついに、帽子をかぶった。
帽子って、ちょっとおしゃれな人達がかぶるものと思っていたが、まさか自分が頭部を隠すためにかぶるはめになろうとは、夢にも思っていなかった。
 
そこから戦いが始まった。
抜け落ちていく髪の毛 vs 女性のプライド。
この戦いは、抜け落ちていく髪の毛の圧倒的優勢であった。
日々、打ち込んでくるジャブがすごい。
朝起きたら枕の上で、お風呂でシャンプーをするとき、ちょっとさわっただけでもするすると抜け落ちていく髪の毛たち。
 
女性のプライドは、それでも戦った。
心の拠り所を見つけようと、なんとかスキンヘッドでもカッコいい女性がいないかと探したが、見つかったのは全員外人だった。日本人の私がスキンヘッドにしたら、さしずめ僧侶か脱獄囚だ。
戦い続けたプライドは、最後の一撃を食らった。最後の1本が抜け落ちたのだ。
 
女性のプライドは完全敗北した。
 
なぜ男性のつるっぱげは見ても気にならないのに、女性のつるっぱげだと、ぎょっとしてしまうのだろう。
男女性差はもうない、とか、男女機会均等なんて言葉は、まったく役にたたない。男性のハゲには人格があるのに、女性のハゲには人格がない。
 
日常生活はまだいい、帽子をかぶっておけばなんとかなる。
あえて帽子を脱がせようとする人はいない。
 
しかし温泉にいけなくなった。温泉のなかで帽子をかぶっていては怪しいじゃないか。
そのため、家族以外の人たちとの旅行もいけなくなった。
誰かと丸一日寝食をともにすることなど、ストレス以外の何物でもない。
 
すべてのスポーツができなくなった。帽子はスポーツをしたら吹っ飛んでしまう。ヨガの講師もやめた。人様のマインドフルネスなぞを考えている場合ではない。私は自分のことだけで精一杯なのだ。
 
そこから真剣に、髪の毛奪回に向けての王者復活戦が始まった。
病院にもいった。皮膚科にも行った。脱毛症のクリニックにもいった。分子栄養学の病院にも足を運んだ。
そしてそのどこでも、
 
「原因は不明です」
 
と言われた。
 
効果があると言われた治療法は全部試みた。
しかし、そのどれもが全く効果がなかった。
髪の毛が全部なくなったらそのつぎは、お財布の中身もなくなっていった。
 
たかが髪の毛、されど髪の毛。ただこれだけのことで、人の人生は変わる。
男性はまだいい。剥げてもかわいいキャラで売れる。だけど女性はだめだ。はげたら可哀想な目で見られる。とんでもない不幸を背負っているように見られる。たかが剥げているぐらいなのだから、どうせだったら「ハッピーなハゲ」でいたいのに、社会がそれを女性には許してくれない。その一線を超えられるほど、私の肝っ玉は座っていない。
いつ治るのか、はたまた本当に治るのかもわからない暗闇のなかで、私は正気を保つのに精一杯だった。
 
しかし、転機のタオルは思いがけないところから放り投げられた。
 
たまたま訪れた講演会で、隣に座っていた女性が歯科医だった。東洋医学をベースにした歯科医、というので興味をもったので、一度いってみることにした。
するとそこで、驚愕の事実を知ることになる。
 
「金属が、もしかしたら原因かもしれない」
 
彼女は言う。
まさか、と思ったが、もうこれ以上どうしようもない瀬戸際にたっていた私は、最後の望みにかけた。歯科治療に使われている金属を全部取り除いてもらうことにしたのだ。もちろん、保険外診療だから、膨大なお金がかかる。
しかし、女性のプライドがお金で買い戻せるなら…。迷いはなったし、私はもう充分に疲れ切っていた。
 
歯科治療から1ヶ月後、驚いたことに毛がはえてきた。
みるみるうちに全部の頭皮にはえそろい、あっという間に剥げている過去など感じさせないぐらいにふさふさしてきた。歯科医が言うことは正解だったのだ。しかしまさか、歯の金属で毛が全部抜け落ちるとは。世界は知らないことが多すぎる。
 
たかが、ハゲ。されど、ハゲ。
悩みの大きさは、他人の尺度では測れない。
以降私はただたた、アイツが敗者復活戦を挑んでこないことだけを、毎日密かに祈っている。

 
 
 
 

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2019-07-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.43

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