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週刊READING LIFE vol.46

お気に入りのチョコレートボックスを作ろう《 週刊READING LIFE Vol.46「今に生きる編集力」》


記事:ギール里映(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「いやあ、時間がなくてさ」
 
と、言ったことがある、もしくは言ったことがなくても思ったことがある人は多いと思う。何を隠そう私もその一人だ。
 
個人的には時間は作るものだと思っているし、1日の時間は24時間、これは誰にでも平等に与えられているものなので、時間がないわけではない。時間がないのではなく、やること、やりたいこと、やらなくてはならないことが多すぎるのだ。それだけたくさんのことをしなくてはならないのに、1日の時間が増えることはない。だから人は毎日自分のやることを選んでいる、つまり、編集しているのだ。
 
日常はまるで、チョコレートのアソートボックスみたいだ。
 
フランスのショコラティエ、レオニダスのチョコレートをご存知だろうか。箱のサイズにあわせて、自分で好きなものを詰め合わすことができる。
 
ミルクチョコとか、ガナッシュとか、プラリネとか、ラズベリーとか、フレイバーの種類がたくさんあって、自分の好きなものを好きなだけ詰められるのだ。
つまり1日って、24個入りのボックスに、毎日24個のチョコを詰め合わせているようなもの。何をどう選ぶのかは、自分たちにかかっている。
 
甘い仕事もあり、辛い家事もあり、ピリッとした出来事あり、まったりした時間あり、いろんな要素を組み合わせて、その日一日が構成される。
ときに自分では選べず、強引にビターチョコが詰め込まれる日もあるが、基本的に選ぶ権利は自分にあるのだ。ビターチョコを入れてほしくなかったら、そういう環境にいなければいい。
 
たまに間違えて、最高に不味いボックスになることもある。
美味しそうだと思って入れても、食べてみたら美味しくなかったり、期待はずれに数倍美味しかったり。硬いかな、と思っていたら、思いのほか柔らかかったり。自分ではしっかり選んでいるつもりでも、なかなか美味しいボックスができあがらない。だから毎日私達は自分の箱にチョコレートを詰めて、お気に入りのボックスを作ろうとする。
 
果たして、本当に美味しくて大満足のチョコレートボックスは、一体いつ完成するのだろうか。
 
美味しいボックスにするためにまず必要なもの、それは集めるチカラだ。
選ぶに先立ってまずはたくさんの選択肢があったほうがいいわけで、それらを収集できるチカラが必要になってくる。たくさんの選択肢があれば、作り出せるボックスの種類が増える。日常の出来事はたくさんあり、仕事、遊び、趣味や人間関係などの選択肢が増えれば増えるほど、自分好みの美味しいボックスが作れる可能性があがるのだ。
 
次に必要なのは、それらをどう選ぶのかという選ぶチカラだ。
こういうボックスにしたい、というゴールを設定して、それに向けて選択できるチカラがないと、ただの集めただけのものになってしまう。大人な味のボックスが作りたければダークやビター、お酒入りを選んだほうがいいだろうし、子どもが大好きなボックスにしたければミルクやキャラメル、クッキークリーム味が必要だ。どういうゴールを手に入れたいかによって、選ぶ基準がまったく変わってきてしまうから、どういうボックスにしたいかは、しっかりと決めておいたほうがいい。
 
最後に必要なのは、それらをどう構成するチカラだ。
ただ並べればいいのではない。
 
さっぱりしたものを先に食べないと他の甘みが引き立たないし、味のきつい、パンチきいたものを先に食べてしまうと、ほかのものが引き立たない。集め、選んだものをどう並べて組み合わせるか、その組み合わせ方で印象は全然ちがうものになってしまうし、ボックスへの満足度は天と地ほど変わる。
最後のさじ加減を決めるのは、やっぱり構成次第なのである。
 
昔は編集力なんて、そんなに必要なかったのかも知れない。
日常はもっとシンプルだったはずだ。
今と100年前とでは、選択肢の数が違いすぎる。
 
朝早起きして、農作業に行き、食事の支度をして家族で食べて、また作業に戻る。
作業が終わったら家に帰り、家事をし、ご飯を食べ、床につく。情報やテクノロジーが今ほどなかったおかげで、選択する必要はあまり存在しなかった。
 
だけど今は仕事も遊びも家事も多様化しすぎていて、それを全部なんてやっていられない。
私達は知らない間に、時代の移り変わりとともに、ものすごい編集力を手に入れてきたのだ。やりたいかそうでないかには関わらず、もうやらなければ生きていけないぐらい、編集力が問われる時代になってしまった。
 
これから、選択肢が減っていくことはない。テクノロジーの進化とともに、むしろ増え続けていくと予想される。
増え続けるフレイバーを一つずつ試していくのもいいし、お気に入りの逸品を食べ続けていくのでもいい。たまには苦手に挑戦することもあっていいと思うし、無理に24個を詰め込まない日があっていいと思う。
 
自分の人生をどうしたいのか、それがなんとなくでも思い描けていれば、人生のチョコレートボックスは自ずと、自分の好みの詰め合わせになっていくに違いない。
 
いいんです、別に。他の人が美味しいと思ってくれなくても。
自分のボックスですから、自分さえ美味しいと思えれば。
 
人類全員編集者時代、これからますますエッジを効かせたボックスができていくと面白い。
 
あなただけのお気に入りボックス、今日はどんなフレイバーですか。
ゆっくり楽しんで、お召し上がりください。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

 
 
 
 

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2019-08-20 | Posted in 週刊READING LIFE vol.46

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