週刊READING LIFE vol.50

これからは「半ライター半X」のトレンドの予感《 週刊READING LIFE Vol.50「「書く」という仕事」》


記事:日暮 航平(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

僕がこのライターズ倶楽部を受講して、改めて気づいたことがある。
それは、僕の周りに意外とライティングを仕事にしている人が多いということだ。
 
1人は、某経済系の雑誌のニュースサイトにライフスタイルに関する記事を連載している。
または副業として趣味も兼ねて、週末限定で音楽のライブやフェスに行ってその模様をレポートし音楽系サイトに投稿しているライターもいる。
そして実際に書籍を出版したことのある人(共著を含め)が、僕の周りに何と4名もいる。
 
ちなみに僕自身は、別に出版関係者でもなく、ごく普通のサラリーマンである。
そのライターの人達も、全員が特別な経歴や肩書があるわけでもない。
 
ただ、ライター専業の人はさすがにほとんどおらず、メインの職業で得た知識や特技を生かして、ライターとして活躍している人達が多い。
昨今の「働き方改革」ではないが、ライティングに関わる人達は多様なワークスタイルがあるんだなと、改めて実感させられる。
 
余談ながら、屁理屈を言えば、僕自身もライティングを仕事にしていると言えなくもない。
現在は事業会社で法務やIRを担当しているが、契約書や、株主総会の招集通知や有価証券報告書の作成等、まさしく文章に関わる仕事をしているからだ。
 
ただ、法律に沿った決まり切った定型文しか書くことしかできないから、そんな枠を突破した文章を書きたくて、ライターズ倶楽部の門を叩いたとも言えるのだが……
 
それはさておき、そう考えると文章を書く仕事は世の中にもっとたくさんあるはずだし、そうでなくともブログやSNSで気軽に情報発信できる時代でもあるので、ありふれた表現をするなら「一億総ライター時代」といってもいいのではなかろうか。
 
「今の時代、本を出版しようと思ったら、以前よりは難しくなくなった。ただそれをいかに多く売るかは、かつてないほど難しくなった」と電子書籍を出版したことのある知人が言っていた。
 
さすがに紙の本の出版は、編集者にYESと言わせないといけないので簡単ではないと思うが、電子書籍であればやる気さえあれば、可能というのは本当のようだ。
それが売れるかどうかは本人次第だが、費用と手間さえかえれば、誰でもライターになれる時代でもある。
 
ただ、その知人も言っていたように、これだけ多くのコンテンツが氾濫すると、自分のコンテンツにお金や時間をかけてもらうことが、かつてないほどに難しくなっているのもまた事実だろう。
 
こんな時代には、「なぜ、あなたはそのコンテンツを書くのか?」というのが、よりいっそう問われていくのかもしれない。
自分が書こうとしているコンテンツは、既に他の誰かが似たようなものを書いているかもしれない。
それぞれの独自性がより問われるようになるが、それを出し切るのはそう簡単ではない。
 
このようなコンテンツ過剰供給な時代に、書く意味って何だろうか?
 
そんな問いかけをしていたら、小説を書いてみたいという想いから、最近読んだ保坂和志氏の著作「書きあぐねている人のための小説入門」(中公文庫)にこんな言葉があった。
 
「小説とは"個"が立ち上がるものだということだ。べつな言い方をすれば、社会化されている人間のなかにある社会化されていない部分をいかに言語化するかということで、その社会化されていない部分は、普段の生活ではマイナスになったり、他人から怪訝な顔をされたりするもののことだけれど、小説には絶対に欠かせない。つまり小説とは人間に対する圧倒的な肯定なのだ」
 
「まさしく、これだ!」と開眼する想いだった。
これは、小説でなくても、エッセイやドキュメンタリーなどあらゆるコンテンツにあてはまるのではなかろうか。
 
普段見向きもされない、誰もが気がつかない、または見ようともしない領域にスポットライトを当てる、それこそがその人の書く意味なのかもしれない。
 
その人にしか書けないことは、確実に存在する。
それは、ある人から見たら取るに足らないことかもしれない。
でも、ある人にとっては、「面白い」とか「ためになる」と思ってくれるかもしれない。
そう思ってくれる人が1人でもいれば、それが「コンテンツ」になる。
そのコンテンツに費やした時間はたった数分間かもしれないが、それによってその人に何らかの影響を与えられたら、これ以上の喜びはそうはないだろう。
 
そして、その人しか書けない独自のコンテンツが、もっと世の中に増えれば、選択肢がさらに広がるし、もっと楽しい社会になるんだろう。
誰もが、その人にしか生きられない人生を生きているのだから。
誰もが、自分独自の視点で、自分の経験を基にしたコンテンツが作れるのだから。
 
それは何もライターを専業にする必要はどこにもない。
今の自分の職業やポジションはそのままでも、いやそれを活かすからこそ、その人独自のコンテンツが作れたりする。
 
大分前に、自分のナリワイ(本業)をもちながら、農業に携わる「半農半X」という生き方が注目されたことがあった。
同様に本業のかたわら、それを活かしてライターとして活躍するような、いわゆる「半ライター半X」のようなトレンドが出てくる可能性だってある。
もちろん今までだって「半ライター半X」的な生き方をしている人はいたが、これからもっと増えるだろうという予感はある。
そんな生き方を許容するだけの、懐の深さがライティングにはあると思っている。
 
現在は、「副業」ならぬ「複業」として、複数の仕事を同時にこなす人も多くなった。
様々な仕事の組み合わせの1つとして、ライティングは取り組みやすいとも言える。
 
僕自身も、これからもきっと何らかのかたちでライティングに関わり続けるのだろう。
一生極めようと思っても、もしかしたら到達点はないかもしれない。
そんな「永遠の未完」として追求していくだけの醍醐味が、ライティングにはある。
 
僕にしか書けないこと、僕だから書けることを、これからも追求していきたい。
きっと「半ライター半X」的なライフスタイルになるかもしれないが、そんな生き方をする人が増えて、もっと独自の面白いコンテンツに溢れるような世の中を作る、そんな一助になれたらいいなと思う。
 
そんな想いを心に秘めながら、僕は今日もライティングに取り組み続ける。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
日暮 航平(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

茨城県ひたちなか市出身、都内在住。1976年生まれ。
東証一部上場企業に勤務した後に、現在はベンチャーから上場した企業で、法務に携わる。
平成28年度行政書士試験合格。
フルマラソン完走歴4回。最高記録は3時間46分。
過去に1,500冊以上の書籍を読破し、幼少時代からの吃音を克服して、ビジネスマン向けの書評プレゼン大会で2連覇という実績を持つ。

 
 
 
 
http://tenro-in.com/zemi/97290

 


2019-09-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.50

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