週刊READING LIFE vol.50

日頃の中心軸《 週刊READING LIFE Vol.50「「書く」という仕事」》


記事:山田THX将治(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

「プロのライターって、ギャラの発生ではないと思うんですよね」
1年ほど前だったと思う。天狼院ライターズ倶楽部の前身“ライティング・ゼミ プロフェッショナルコース”で、私が提出した記事に頂いた、天狼院の三浦店主からの講評だ。
当時、ややもすれば目標を見失い挫折しそうになっていた私にとって、大いに勇気付けられる言葉だった。
 
天狼院ライターズ倶楽部では、ライティング・ゼミ プロフェッショナルコース時代から、プロのライターを目指すことが前提とされていた。
また、三浦店主は以前から常々、
「収入を得ることだけが仕事ではない」
と、いくつものゼミで講義している。多分、大学で行っている講義でも、同じことを言っていると思う。同じく、
「時給マインドで働いたらダメだ」
も、三浦店主の代表的発言だ。要するに、生活費を稼ぐための行為を仕事にすると辛いということだ。これは、自分で切り開いた訳でもない家業をしている私には、痛いほど刺さる言葉だった。
 
では私が本当に、
「ライターを生業にしていきたい」
とか、
「これからの生活費を、書くことのみで稼ぐ」
といった覚悟で、天狼院のライティング系ゼミを受け続けた訳ではない。何故なら、本心のどこかで、
「この歳で、プロのライタ―なんてなれっこない」
と、たかをくくっていたからだ。
その上、なんの間違いか、毎週の課題が5,000字目標という、プロフェッショナルコースの入試を通ってしまい、正直なところ、他のメンバーに付いて行くのがやっとだった。課題提出がやっとだったからだ。
少し、格好付け過ぎた。正確には、初期のライティングラボ時代から受講し続けてきたことへの恩情で、最上級コースで学ぶ場を与えられと自認していた。何故なら、他のメンバーは遥か先を走り去っているのが実情だったからだ。それに、天狼院で書き続けるには、私の筆力はあまりに稚拙だったからだ。
 
受講を許可されるというのが恩情なら、少しでもそれに報(むく)いるのが年長者の礼儀だ。しかし、筆力はそうやすやすとは向上しない。
では、どうするか。
退場を宣告されるまで書き続けることが、筆力に乏しい私に残された唯一無二の方法だと考えた。“勝ちを諦める迄、敗けたことにはならない”が、私の信条だからだ。
それともう一つ、自ら始めたことを継続することが、私が他の人に比べて少しは楽に出来ていることではないかと思っている。例えば、映画やスポーツといった好きで観始めたものは、幼いころから今まで苦も無く続けることが出来ている。読書も、好きなジャンルの本は、いつでも読むことが出来るし何度も読み返している。
これを使わぬ手はない。
 
実際、天狼院のライティング・ゼミが始まって以来、多くの書き手がこの場を去って行った。皆、私より数段優れた筆力を持った人達だ。辞めた理由はいくらでもある。中には、本を出版し誰もが“物書き”として認められる立場になった人もいる。書いた記事が、天狼院のWebページに載ることだけでは、飽き足らなくなった人もいる。ゼミの費用が捻出出来ない、経済的理由の人もいた。
また、天狼院で習得した技術を使い、天狼院のWebほどではないにしろ、そこそこの閲覧数の所で書いている人もいる。勿論、少額とはいえギャラを稼いでいる人もいる。
また、度重なる掲載見送りに心折れ、志半ばで去って行った人もいた。
そういった数々の去って行った仲間を思い返す時、私はただ、
「筆力が有るのに、勿体無いなぁ」
と、感じてしまうのだ。
その点、私が鈍感なのか、止める理由が見付からないでいるのも事実だ。プロフェッショナルコース時代から、継続の為に何度も‘反省文’だって書いてきた。辞めたくなかったわけではない。辞める理由が、皆目見当が付かなかったからだ。
それは、進歩は著しく遅いものの、折角一度は手にした技術を、全て放棄することにしか、私には思えなかったからだ。
これまで費やしてきた、他の者よりは確実に残り少ない時間を、辞めてしまったら全て無駄にしてしまうとも感じたからだ。
 
以前、三浦店主は、努力不足のゼミ生に業を煮やしたのか、
「書き続けるよりほかに改善方法は有りません」
「量に勝る正義は有りません」
「書くことが楽しい内はプロではありません。ストレス発散の為に書くのです」
と、叱咤されたことが有る。勿論、
「皆さんの実力は、こんなものではないでしょう」
「とにかく、毎日5,000字書いて下さい。きっと、うまくなれます」
と、激励の言葉も添えてあった。しかし、
「でも、誰もやらないけどね」
と、本音も漏らされた。御自分の経験から来るものだろう。
これで、私に負けん気に火が点いた。しかも私は、生来の天邪鬼(あまのじゃく)だ。“そうまで言うなら、俺がやってやろうじゃないか”と、思ってしまった。“これで、上手くならなかったら、三浦さんのせいだ”と、居直りの気持ちも出てきた。それからというもの、私は毎日2時間、ライティングに時間を費やすようになり、5,000字前後は必ず書く様に心掛けた。
これは、プロの写真家となった三浦店主が、教えられた通り毎日5,000枚もの写真を撮ったことと同じだとも思った。
 
また、三浦店主は別の機会に、
「僕は大学にも行かず、毎日原稿用紙40枚書いていました。手書きで」
「その結果、小説を出すのに15年以上掛かりました」
「したがって、毎日5,000字書いていたのでは、本を出すまでに28年かかる計算になります」
と、忠告して下った。
そこで私は、毎日の各目標を20,000字に設定してみた。
還暦間際(だった)私には、28年もの時間は残されている訳が無い。14年だって難しい。ならば、7年だったら何とかなりそうだ。よって、5,000字の4倍、20,000字に日ごとの目標を上げた。しかし、それまでのライティング時間を4倍には流石に出来ない。8時間も書いていたのでは、寝る時間が無くなってしまうからだ。
そこで、ライティング時間の目標を4時間、最低でも3時間とし、ライティングスピードを限界まで上げ、目標字数は具体的にせず、可能な限りとしてみた。結果としては、やはり毎日20,000字書くことが出来たのは、週末だけだった。
 
今年に入り、ゴールデンウィークに10日間集中講義が天狼院で開催された。毎日10,000字書き、10日間で100,000字書こうというものだった。
ただこれでは、普段とあまり変わらないと感じた私は、100,000字の完成原稿を仕上げようと考えた。その為には、最低でも倍の200,000字は書かなければならないと考えたからだ。
結論としては、完成した原稿は、8日間で約40,000字だった。書いた字数は、150,000字位だった。私自身が思っていたより、ライティングのスピードを上げると、クオリティが担保されなかった。その結果、目標には、遥かに未達だった。最終日前日には、ライターズ倶楽部の講義があったが、完全に体調を崩すてしまった。
やはり、連日20,000字書き続けるのは、体力的に無理だった。歳は取りたくないものだ。
私は再び、毎日の字数目標を‘可能な限り’としてみた。それは、プロのライターさんでも、連日、質を担保したものを20,000字も書き続ける体力は無いだろうと感じたからだ。
 
ただし、生活の中心を“書く”という行為に定めることにした。これならば、書くことのプロフェッショナルと、自分でも納得出来ると思ったからだ。
その結果、前から習慣付けてはいたが、毎日必ず納得するまで書けるようになった。無駄な夜遊びはしなくなった。週末、無用な外出はしなくなった。
それでも、私らしくない妙な‘ストイックさ’を出さない様に、好きな映画やスポーツ観戦は、一つも減らさぬようにした。時間を理由に、天狼院のゼミ受講も減らすことが無い様にした。
 
書くことを生活の中心にした結果、ライターズ倶楽部の課題を、教わった通り週に5本以上書くことが出来た。その中で、最も気に入った記事をリライトして提出する様になった。Web READING LIFEで、連載を持つことが出来る様になった。しかも、二連載も。無論、連載は苦も無く書くことが出来る。好きなことを書いているのだから。
ライターズ倶楽部以外のゼミでも、映画の事を毎週書いている。また、ギャラは発生していないが、映画の紹介記事を雑誌に寄稿したり、本業関係の原稿依頼等も、ためらわずに受けている。最近では、仲間内でも私にライティングの依頼をしてくる者も出て来出した。ライターズ倶楽部の仲間からも、応援して頂けることが有る。これは、いい方向だと思う。
 
これが私の、プロとして‘書く’という仕事だ。今のところは、形にはなっていない。しかし、いつの日にか、何等かの結果を出すことが出来ることだろう。
この夏になって、私の連載を目にした編集者が現れた。もしかしたら、もしかするかもしれない。それも含めて、今後を楽しみに待つことにしよう。
 
書くことが好きで、誰にも負けず“量”書いているのだから。
自分だけは、私を褒め続けよう。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
山田THX将治( 山田 将治 (Shoji Thx Yamada))

天狼院ライターズ倶楽部所属 READING LIFE編集部公認ライター
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
現在、Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックを伝えて好評を頂いている『2020に伝えたい1964』を連載中
また、新たに同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を、加えて連載する

 
 
 
 
http://tenro-in.com/zemi/97290

 


2019-09-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.50

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