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週刊READING LIFE vol.56

プロレス愛に溢れたイケメンレスラーたち《週刊READING LIFE Vol.56 「2020年に来る! 注目コンテンツ」》


記事:篁五郎(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

山手線の車体広告でこんな文字が載っているのを見たことはあるか?
 
”TOKYO DOME2DAYS”” 1.4(イッテンヨン) 1.5(イッテンゴ)”
 
この文字と一緒にどこかで見たことあるようなイケメンの男4名がペイントされていた広告だ。これは来年の1月4日と翌5日に東京ドームで日本プロレス界最大の興行である新日本プロレス「レッスルキングダム14」の宣伝だ。
 
僕はこの広告を見た時、きっと2020年にはイケメンのプロレスラーは世間をざわつかせると確信したのだ。
 
既に初日の4日に2試合行われるのが発表されている。一つが平成元年に初めて東京ドームで行われた試合でデビュー戦を行った獣神サンダーライガーの引退試合。もう一つが日本プロレス界最大のタイトルマッチであるIWGPヘビー級選手権チャンピオン・オカダカズチカと挑戦者・飯伏幸太の試合だ。
 
この二人、現在のプロレス界を引っ張っていると言っても過言ではない。チャンピオンのオカダカズチカは2012年に海外武者修行から帰国した直後にタイトルマッチに挑戦し、一発でチャンピオンになってしまったほどの才能に溢れた若者だった。この若者に惚れたファンが会場で「オカダ」コールを繰り返し、彼を応援してきた。その後も新日本プロレスが真夏の祭典としてトップ選手が連日シングルで対決するリーグ戦・G1クライマックスに最年少優勝をし、東京スポーツ主催のプロレス大賞MVPを獲得するなど一気にプロレス界のスターに上り詰めた。
 
他にも”滑舌が悪くて何を言っているかわからない”ことでお茶の間の人気者になった天龍源一郎の引退試合で相手を務め、プロレス界のトップから魂を託されるほどの男になった。ルックスも良くてお腹がボコッと出ているアンコ型からはほど遠い均整の取れたスタイルで女性人気も抜群のプロレスラーだ。タイトルマッチで勝った後にマイクパフォーマンスで
 
「金の雨が降るぞ!」
 
と締めるのはその日のメインを締めた男として許された叫びでもある。
 
しかし、順風満帆に来ていたオカダにも苦悩の時期があった。それは2017年の4月、両国国技館で行われたIWGPヘビー級選手権でのことだ。対戦相手の柴田勝頼と38分を超える壮絶な打撃戦の末に最後はオカダが得意技であるレインメーカー(短距離式ラリアット)で勝利。いつものように「金の雨が降るぞ!」と締めた裏でとある事故が起きていた。
 
対戦相手の柴田が試合後にコメントブースに向かう途中で倒れてしまい都内の病院に搬送されたのだ。搬送先で急性硬膜下血腫と診断され、緊急手術を受けることになった。命にかかわる重篤な症状だが、幸いにも素早い対応ができたので柴田の命に別状はなかったが、長期欠場を余儀なくされ、現在もリングから離れている。
 
オカダは次のタイトル戦で勝利した後、リング上で「プロレスラーは超人です! これからも素晴らしい試合を見せていくからな!」とレスラーの強さをアピールしていたが、裏では苦しんでいた。
 
先日、テレビ朝日で放送されたドキュメント番組で彼は「なんで自分の試合であんな事故が起きてしまったんだろう? とずっと考えています」と告白した。
 
「プロレスラーは試合中に自分が事故に遭うことや最悪の事態になることを覚悟はしていた。でも、実際になってみるとなんと言っていいかわからなくなった」
 
と、リングで強気を見せていたのとは一転して苦悩に満ちた顔を覗かせていた。しかし、今年の3月に新日本プロレス春のトーナメント戦・ニュージャパンカップの決勝戦に進出したオカダは解説者として放送席に座っていた柴田と再会。優勝を決めた後にオカダから柴田に歩み寄っていった。そこで柴田が手を差し出し二人はがっちりと握手。柴田がオカダに二言三言耳打ちをして別れた。
 
あの時を知っているプロレスファンには涙が浮かんでしまうが、それはオカダも一緒だったようだ。2018年にタイトルを失ってから低迷期に入りかけたオカダは、柴田との再会の後に見事IWGPヘビー級のベルトを取り戻し、今回の東京ドーム大会でメインを務めることが決まった。
 
もう一人のメインを務める飯伏幸太は、今回が初めて東京ドーム大会でメインに名前を連ねた。端正な顔立ちとシックスパックに割れた腹筋が美しい肉体美。華麗な空中技を得意で破天荒な試合を繰り広げる姿は”プロレス女子”ブームに一役買うほどの人気レスラーだ。周囲からは「プロレス界を背負えるほどの器」と評価されていた。しかし、迷走を繰り返してようやくここまでたどり着いた。
 
飯伏は新日本プロレスに今年の4月に新日本プロレスに入団。その前はフリー選手として参戦をしていた。更に遡ると新日本プロレスとDDTという団体の二つに所属するというプロレス界でも異例な所業をやってのけたことがあった。通常プロレスラーは一つの団体と所属契約を結んで試合に出るものだ。その団体が巡業を組んで試合を組むためには所属選手がいないとできないからだ。他の団体に出場するときは、必ず所属団体の許可を取らないいけないのだが、飯伏は二つの団体に所属が許されるほど才能が評価されていたのだ。
 
しかし、そこから飯伏は椎間板ヘルニアを発症してしまい伸び悩んでしまった。ドクターストップがかかり長期欠場。所属していた二つの団体も退団をしてしまった。半年近く治療とリハビリをして復帰をするも主役の座からほど遠い位置になってしまった。
 
そんな飯伏に転機が訪れる。それは昨年夏のG1クライマックスだ。飯伏はフリー選手として参戦をして新日本プロレスのトップ選手と連戦シングルで戦い見事決勝戦に進出した。対面のコーナーに立っていたのは飯伏が「神」呼ぶレスラー棚橋弘至だ。彼はこの試合に全てをかけていたが、棚橋のペースのまま試合が進んでいった。膝攻めで得意の空中技も封じられた飯伏は打撃に活路を見出すが棚橋も負けずに応じた。必殺技のカミゴエ(相手の両腕をつかんでヒザ蹴り)を狙うもすべて回避されてしまった。打つ手がなくなった飯伏は棚橋の必殺技であるハイフライフロー(コーナートップからのボディアタック)3連発を喰らって破れてしまった。
 
敗れた飯伏は「本当に、ここまで頑張ってきた。36年で一番頑張った1カ月だった気がします。それでもまだ何か足りないですか? まだダメですか?」と両手で顔を覆った。勝った棚橋からは「飯伏には覚悟が足りない」と断言されてしまった。その後、飯伏は今年の東京ドーム大会で試合中に脳震とうを起こし、また欠場に追い込まれてしまった。
 
しかし、そこから飯伏は変わった。復帰したとき彼は
 
「僕は、どこにも行きません。新日本プロレスでプロレスをします」
 
とハッキリと言った。その表情からは迷いが消えていた。4月には新日本プロレスに再入団をすると骨を埋めると宣言。今年のG1クライマックスでは後一歩届かなった優勝の栄冠を手にしたのだ。優勝した直後に飯伏は
 
「僕の中では覚悟があった“つもり”だったんですよ。今までも分かっていたつもりだったんですけど、分かっていたフリをしていただけかもしれない。今は本当に覚悟しています。自分が前に言っていた覚悟とはまた違う覚悟が出来ました」
 
と語った。そこには一年前に棚橋弘至から「覚悟が足りない」と断罪された姿はなかった。
 
その飯伏をここまで引き上げた棚橋弘至は悩んでいた。新日本プロレスで”エース”と呼ばれている男は現在、メインストリームから外れかけている。今年の東京ドーム大会でメインを務めてチャンピオンに輝いたのにあっという間に成長著しい若きヒールレスラーのジェイ・ホワイトにベルトを奪われてしまいベルトから遠くなってしまった。
 
再起をかけた春のトーナメント戦・ニュージャパンカップでは準決勝で敗退。その後、ニューヨークのマジソンスクウェアガーデンで開かれた新日本プロレスの興業でシングルマッチが組まれたが相手の関節技にギブアップ負けを喫してしまった。しかも、その試合で左ひじを痛めてしまい欠場してしまったのだ。
 
夏の風物詩G1クライマックスの前に復帰はしたものの精彩を欠いてしまい、リーグ戦は負け越しで一発逆転とはならなかった。20年のキャリアを持つ棚橋の肉体は満身創痍だ。今年も欠場したが、昨年も膝を痛めて長期欠場をしている。一昨年も試合中に左肩をラダー、パイプ椅子で乱打されて欠場に追い込まれた。
 
だが、そんな状況に追い込まれても棚橋は決してあきらめない男だ。彼の口ぐせに「疲れない! 落ち込まない! 諦めない!」というのがある。昨年のG1クライマックスでも同じ言葉を発して優勝をした。そして、新日本プロレスが低迷したときも空席が目立つ会場で全力で試合をしてきた。
 
棚橋が新日本プロレスに入門した年は総合格闘技が大ブームで、大晦日には民放テレビが3局も総合格闘技大会の生中継をするほどだった。そこから多くのスターも生まれて世間は”ガチンコ”を楽しみ、エンターテインメント性の高いプロレスには見向きもしなくなった。
 
新日本プロレスも総合格闘技路線に進む中、当時のエース武藤敬司が反発をして期待のレスラー・小島聡とケンドー・カシン、5人の幹部社員を引き連れてライバル団体である全日本プロレスに移籍をしてしまった。棚橋も誘いを受けたが「俺は新日本プロレスでプロレスをやります」と言って断った。
 
そこから新日本プロレスの新しい柱となって全国各地を試合だけでなくプロモーションに飛び回った。試合がある土地に先乗りしてイベントや地元FMラジオにゲストとして登場してプロレスに興味を持ってもらえるように力いっぱい取り組んでいた。
 
試合も全力で向き合い、終わればマイクを握って「愛してま~す!」と叫び、駆け寄ってくるファンに笑顔で握手やサインに応じた。時にはタオルを投げられるが自らの汗を拭いて返すなどファンサービスに努めた。
 
「俺、プロレスを諦めたくないんです」
 
そう語って試合にもプロモーションにも全力で駆け抜けてレスラー生活20年を迎えたのだ。今は、メインを走れていないが棚橋はきっと「Ace is back」と言って戻ってくるだろう。
 
その棚橋に憧れて新日本プロレスに入門した男が現在、会場人気ナンバーワンを誇っている。IWGPヘビー級チャンピオンにも輝き、G1クライマックスとニュージャパンカップで優勝したこともある内藤哲也だ。
 
内藤も棚橋や飯伏、オカダ同様低迷期があった。それは今から7年前のことだ。当時、次の時代を担う存在と評価されていた内藤は東京ドーム大会でもう一人の憧れのレスラー・武藤敬司とシングルマッチで対決をした。だが、試合は武藤が内藤を圧倒し、最後は必殺技のムーンサルトプレスで敗れた。持ち味も発揮できずに敗れた内藤は、この日に凱旋帰国をした後輩オカダカズチカの後塵を拝することになった。
 
翌年にG1クライマックス優勝を果たして、東京ドーム大会でオカダが持つIWGPヘビーに挑戦が決まるも思わぬ横やりが入ることになった。東京ドーム大会はIWGPヘビー級選手権がメインイベントなのが通例だったが、もう一つのベルトであるIWGPインターコンチネンタル選手権が棚橋弘至と中邑真輔という大看板同士の試合決まるとファンから「メインイベントで見たい!」という声が上がった。
 
新日本プロレスはファンの声に応えるべく人気投票を実施。その結果は棚橋VS中邑がメインとなり、内藤はセミに降格となった。試合もオカダに敗れてしまいメインストリームから外れてしまうようになった。それだけならまだしも内藤はベビーフェイスのレスラーにも関わらずファンからブーイングを浴びるようなった。それは、「新日本プロレスの主役は俺だ」という言葉と裏腹に試合内容や結果が伴わない内藤に対するファンの反発だった。
 
「あの時は、試合に行くのがイヤでたまりませんでした」
 
後に内藤はこう語っている。そんな状況から逃げ出すかのようにメキシコに短期の遠征に向かった内藤はとある光景を目にする。そこにはファンの声など気にしないで好き放題暴れているレスラーの姿が見えたのだ。相手レスラーはもちろん気に入らなければレフリーにも手をかける。ブーイングを喰らっても知らん顔をしていた。ブーイングを喰らうのが怖かった内藤とはまったく違うスタイルだが、なんとこのレスラーたちから「一緒にやろうぜ」と誘われたのだ。
 
内藤は彼らと行動を共にし試合スタイルを一変させた。周りの声など気にしない。好きなことを好きなだけやる。そのスタイルは内藤の心に充実感を与えた。嫌いになりかけたプロレスが楽しくなっていたのだ。
 
日本でも同じスタイルで試合を繰り広げるも会場からブーイングは止まらない。しかし、内藤はそんな声を気にすることなく好き放題暴れた。発言も優等生そのままの言葉から悪態を付くようになった。だが、誰も見向きをしなくても己を貫き続けた内藤に発言や行動に共感が集まるようになったのだ。その内藤に春が訪れた。ニュージャパンカップで優勝をし、オカダカズチカが持つIWGPヘビー級に挑戦をし、遂に勝利を果たしたのだ。
 
念願のベルトを獲得した内藤はマイクアピールでまたも毒づいた。新日本プロレスのオーナーであるブシロードの木谷会長が「オカダを2億円規模のプロジェクトで売り出す」と発言したことに対して
 
「木谷オーナー! 俺に負けたオカダを2億円規模のプロジェクトでスターにしてあげてください!」
 
と叫んだのだ。会場は拍手喝采。内藤はブーイングから会場人気ナンバーワンのレスラーにまで上り詰めたのだ。今でも内藤は会場人気ナンバーワンを維持し、メインストリームを歩んでいる。
 
プロレスには物語がある。それは団体のストーリーがあれば、レスラーが持つ物語がある。こんな物語を持つイケメンのプロレスラーを世間が放っておくはずがない。
 
2020年は今まで以上にプロレス人気が爆発すると僕は信じている。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
篁五郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

初代タイガーマスクをテレビで見て以来プロレスにはまって35年。新日本プロレスを中心に現地観戦も多数。アントニオ猪木や長州力、前田日明の引退試合も現地で目撃。普段もプロレス会場で買ったTシャツを身にまとって港区に仕事で通うほどのファン。現在は、天狼院書店のライダーズ倶楽部で学びつつフリーライターをしている日々を過ごす

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2019-11-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.56

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