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週刊READING LIFE vol.56

再び来るぞ、クリステル《週刊READING LIFE Vol.56 「2020年に来る! 注目コンテンツ」》


記事:山田THX将治(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

「お・も・て・な・し」
持ち前の美貌と流暢なフランス語、そして、流行語にもなったこのセリフで、滝川クリステルさんこそが、2020年に開催される東京オリンピック誘致成功の立役者と言っていいだろう。
今では、将来有望な国会議員の妻として認知されることが多いクリステルさんだが、2020年早々には、母として再度注目されることだろう。
 
さて、東京オリンピック開催が決定したことにより、外国人旅行者が激増している。近年では、中国からの、俗に言われた“爆買い”目当ての旅行者が目立っていた。しかしこのところ、それも一段落し、日本に再訪される方々が増えているらしい。これは、
「日本に来てみたら思っていた以上良かった」
「まだ行きたい所が有る」
「もっと、日本を知りたくなった」
といった、好意的な反応なので、日本人として嬉しくなるのは当然のことだろう。
古い歴史を有し伝統国である日本は、観光国としても立派にやっていけそうだ。
 
海外から多くの旅行者を迎え入れるということは、日本独自の迎え入れ体制が問われることになる。日本人が海外へ出向いた時、その体制・姿勢に驚かされることがある。それは、個人主義が一般的な西洋諸国と比べると、日本は過剰に接待してしまうところが、一般的と思ってしまっているからだ。
一方、滝川クリステルさん以来、国内でも “おもてなし”精神が重要視されることとなり、全国の観光地では至る所で海外観光客を喜ばせている。これは、日本がやっと、観光という文化で一流国の仲間入りを果たす直前まで来たということだ。これが、全国民のコンセンサスとなった時こそ、日本の文化がグローバルスタンダードの域に達したと断言出来ることだろう。何故なら、現代の海外観光客に対する接客(もてなし)は、貴族階級の旅に対するものを起源とする、西洋型・騎士道型のものだからだ。
 
日本の地理的位置は、英国から見ると極東に位置している。遠く東に、離れているということだ。経度だけで考えれば、流刑地であったオーストラリアと変わらない。必然的に、文化的にも隔たりが生まれる。日本の文化は英国から見ると、風変わりではあるとういうことだ。
しかし、英国を始めヨーロッパの諸国から見ると日本の文化は、風変わりではあるものの一定の価値は感じられたようだ。これは、浮世絵に代表される日本独特の絵画が、ヨーロッパの画家達に大きな影響を与えていることでも理解出来る。それは多分、日本はヨーロッパに負けない歴史や伝統を有しているからだろう。
またこれらのことにより、ヨーロッパ社会からも日本は一目置かれ、我々が何気なく行っている行動が、海外では格好良く(クール)に見えることも有るらしい。
 
現在佳境に入った、ラグビーワールドカップで、その好例を観ることが出来た。
ラグビーでは、試合終了を“ノーサイド(敵味方無し)”という言葉で表現する。これは、ラグビー独特の文言で、試合後は同じ競技を愛する同士として、共同で試合を全力でプレイしたことの証明として使われているのだ。
今回、日本で開催されているラグビーワールドカップでのこと。ノーサイド後イタリア代表チームの選手が、メインスタンドの観客に向かい一列に並ぶと、日本式の御辞儀をしたのだ。それだけではない、選手の列はバックスタンドやサイドスタンドの前にも立ち、帰り支度をしている観客に向かって同じく御辞儀をした。場内に残っていた観客は、大喜びで歓声を返した。
このことをインタビューで問われたイタリアチームのキャプテンは、
「雨の中、一人も帰らず観続けてくれた観客に何か御礼がしたくて」
と、照れながら答えた。
この光景は、瞬く間にSNSで拡散され、次々に試合後観衆に向かってお辞儀をするチームが現れ出した。
「#Take a Bow Ojigi」
のハッシュタグで探すと、ニュージーランドやウルグアイの代表選手が、試合後、深々と御辞儀している写真を探すことが出来る。これは、日本式の“おもてなし”を、大変クールに感じた世界のラグビー選手が、率先立って取り入れてくれた結果であろう。
その他にも、台風の影響で試合が中止(引き分け扱い)となったカナダ代表チームが、訪れた釜石の地で地元の住民が台風豪雨の後始末に苦労している様子を見て、“Take a Bow”の代わりに力仕事を買って出てくれた。体力勝負のラグビー選手のこと、力仕事はお手の物で大層役に立ったとニュースで報道された。
話は、これで終わらない。
カナダ代表チームのボランティア精神に共鳴した帰国便の航空会社スタッフが、ボランティアに感謝する、大きな大きなメッセージボードを作り、代表チームを成田から母国へ送り出した。カナダ代表チームはコメントで、
「次に日本でワールドカップが開かれる時も、胸を張って凱旋出来るチームになってきます」
と、語ったという。
 
ラグビーの試合後、観客に選手が御辞儀する姿は、古くからのラグビーファンには、誇らしくも安堵する結果となった。
今となっては隔世の感があるが、ワールドカップの日本誘致が決定した時、(日本が残らないであろう)準決勝や決勝戦に、集客が見込まれるのかという懸念がまことしやかに流れた。チケットは、大変高額なのだ。
これには、二つの見込み違いがあった。先ずは、日本が予選リーグを全勝で勝ち上がり、あわよくば、決勝戦まで視野に入る実力が付いてきたことだ。もう一つは、日本代表が、思いの外実力を上げてきたことにより、決勝トーナメントのチケット(しかも、かなり高額!)が、先に売り切れるという現象も起こってきたのだった。
ここには、日本代表の力もさることながら、独特の“おもてなし”の一部であろう、贔屓筋が出来上がったこともある。これは、スポンサー的な贔屓ではなく、事前キャンプや試合で各チームが訪れた、日本各地に散らばる街々が『ホームタウン』として名乗りを上げたことによる。中には、千葉県の柏市の様に、宿泊に訪れただけのニュージーランド(オールブラックス)を、地元の子供達がオールブラックスの象徴とも言うべき“ハカ(ウォークライ)”を踊り迎えた。ニュージーランドの選手たちは、大喜びして子供達と戯れた。
今や柏市では、オールブラックス直伝の“ハカ”を『柏ハカ』として短期間で定着したそうである。
 
この、贔屓筋に関して私は、意外と楽観視していた。
何故なら、私が以前から興味を持ち観戦し続けているF1では、どんなに弱いチームにも、どんなに遅いドライバーにも、決まって贔屓筋が存在している。日本には、判官贔屓の習慣も有るのだ。その熱狂的贔屓を楽しみに、どのドライバーも鈴鹿サーキットへ来ることを楽しみにしているのだ。
今年も、一般客のピット(作業場)見学が許される木曜日には、多くの贔屓筋がピットの奥まで招かれ、記念の写真を撮ったりスタッフ達と談笑していた。
これと同じことが、ラグビーワールドカップでも行われただけなのだ。
例えば、アフリカ代表ナミビアのエスコートキッズ(選手と共にグラウンドへ入場する役)は、難しい現地語の国歌を完璧に覚え、大きく口を開けて合唱していた。
「多分、母国民しか知らないであろう国歌を、こんな子供が覚えてくれた」
喜んだキャプテンは、エスコートキッズと肩を組んで国歌を歌っていた。
素晴らしい光景だった。
 
日本の国民は、ここまで出来るのだ。どこの国にも誇れる“おもてなし”が出来るのだ。
 
間違いなく、来年のオリンピックでは、世界中から集まったアスリートやスタッフ、そして観客達が私達の判官贔屓を含めた“おもてなし”を目の当たりにすることだろう。そして、喜んで帰国の途に就くだろう。そして、オリンピック以外でも日本を再び訪れたいと感じることだろう。
 
その時私達は、一人の母となった滝川クリステルさんを、再評価することになるだろう。
 
来る2020年、日本の“おもてなし”が世界で再度評価されるに違いない。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
山田THX将治(READING LIFE編集部公認ライター)

( 山田 将治 (Shoji Thx Yamada))
天狼院ライターズ倶楽部所属 READING LIFE編集部公認ライター
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
現在、Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックを伝えて好評を頂いている『2020に伝えたい1964』を連載中
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する

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2019-11-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.56

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