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週刊READING LIFE vol,110

今年も転職するつもりがない人はほど、「御社を志望した理由は」の続きを書いてみて欲しい理由《週刊READING LIFE vol.110「転職」》

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2021/01/11/公開
記事:すじこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「御社を志望した理由は」
この決まり文句から始まる文章を定期的に書くと決めてから3年がすぎた。
年に1回、ちょうど1月ごろに書いている気がするが毎年転職をしているわけではない。
ただ毎年「御社を志望した理由は」で始まる文章をノートパソコンに書き綴っているだけ。
それを誰に見せるわけでもなく、ただ、自分の中で書いて満足するだけの文章。
 
転職をする気もなければ、他人に見せる気もない文章を毎年何の為に書くのか。
と、思われる方も多いだろう。
別に病んでいるわけではない。それなりにちゃんとした理由がある。
 
そもそも学生時代は
「御社を志望した理由は」
で始まるこの定形文を書くのは一生で1度きりのことだろうと思っていた。
 
私は高校卒業後、都内のIT企業に入社した。
会社から内定をもらった時はやはり嬉しかった。
何しろ、友人が続々と進路を決めていく中、私だけ進路が決まらなかったのだから、喜びも一入であった。
「九死に一生を救ってくれた会社に何としても恩返しがしたい。一生この会社で働くんだ」
そんな気持ちで4月の入社式を迎えたあの日ことを今でも覚えている。
 
「生涯雇用」なんて言葉が死語であることは、社会経験をしたことのない当時の私も知っていたが、周りに「転職」をしている大人がいなかったためか「会社に入ったら一生そこで働くもの」という固定概念を持って社会人の1日目を踏み出したその日に、固定概念は、音を立てて崩れた。
何とその会社は私以外、みなさん中途採用で来たと言うではないか。
 
私が新卒で入社した会社は創業10年足らずの歴史が浅い企業だった。
歴史が浅いからそもそも「学校を卒業したばかりの人を雇い一から育てる」と言う文化がなかったそうだ。
つまり、私はその会社の新卒第一号になったわけである。
 
新卒がいない会社はどのように運用していくのか。
そこには当然中途採用の方々がいる。
重役にはかつて他の企業で重要なポストに就いていた方が座り、一般社員も他の会社で様々な経験をしてきた方ばかりだ。
やはり、創業10年足らずのベンチャーに産毛が生えたような企業にとって、他の畑でビジネススキル確立した「即戦力人材」である中途採用者は、会社を支える柱の役目を担っていた。
まさに「中途採用で回る企業」といってもいいだろう。
 
だが、育った企業が違う者同士が働くのは、時にして、人間関係の歪みを生じさせる。
社風も、会社のルールも違う場所で育った人たちが、一つの会社で働くからといって「考え」や「仕事のやり方」が全て同じであるはずがない。
 
家庭で例えるなら、家庭環境が違う場所で育った新婚夫婦が、味噌汁の具材で揉めるみたいなやヤツと同じだ。(この例えが的確かどうかは、わからんが)
 
会社にしろ、家庭にしろ、違う場所で育った人たちが、協同して何かを行うと言うのは、それだけでストレスであり、歪みが生じるのも必然なことなのであろう。
 
そんなある意味、特殊な光景を若いうちから見てしまった私は尚更
転職はしたくないと思うようになった。
転職をすれば、転職先の会社の社風やルールに合わなくてはいけないが、この会社にずっといれば、その必要はなくなる。
 
「俺は、この会社で初めての新卒として、定年まで働くんだ」
当時は本気で思い込んでいた。
 
今思い出したのだが、入社して半年、私は先輩に
「もっと他の会社も見た方がいい」と言われたことがある。
 
「一生この会社にしがみついてやる!!!」と意気込んでいた当時の私にとってその言葉の真意がわからなかった。
 
先輩も当然、中途採用者。
先輩のことは尊敬していたし、素敵な人だったが正直「転職」という選択肢を一度とったことも、その言葉の真意も当時の私は理解ができなかった。
 
私の中で「一生同じ会社で働くことが正義」なんてガラパコス的な考えがあったのだろう。
逆に転職をどこか「卑怯」と思っていたのも事実でそれを一度選んでしまった先輩方をどこか「卑怯者」と思っていた自分もいた。
全く、過去の自分を殴ってやりたい。
 
ま、そんな古い固定概念が入社6年目にして身を滅ぼすのだが。
 
入社6年目。私は精神崩壊の渦中にいた。
会社は異常な早さで成長を遂げると同時に私への労働負荷が絶大なものになった。
会社のスピードに合わせて人を雇うが、「人を育てる」なんて悠長なことを言ってられない状況がまだ続いていたため雇うのは中途採用者ばかり。
すると、何が起きるかというと中途採用者はこの会社では「労働と賃金」が前の会社と比べて割りに合っているかを計算する。
結果「割りに合わない」と思い会社を断つという悪循環が生まれる。
 
まさにその悪循環の中で6年間踠いていたのが私である。
 
もっとも酷かった時は月1回のペースで歓送迎会をやっていた。
そんな巣立っていく人たちを私は心のどこかで「卑怯者」と罵っていた。
 
しかし限界がきた。
仕事の負荷もそうだが、何より人間関係にストレスを感じ始め、3年前の冬、ついに転職という選択をした。
あれほど「卑怯な手段」だと思っていたのに。
あれほど先輩たちを「卑怯者」と思っていたのに。
散々心の中で罵っていた過去の自分からビンタが帰ってきたような気持ちになった。
そして6年ぶりの
「御社を志望した理由は」
に心がどよめいた。
 
晴れて、現在の会社に転職し、1年目からのリスタートを切り出した。
「1回転職をしたがこの会社で今度こそ定年まで働く」
そんな決意だった。
 
そしてリスタートを切り出してはや半年、経ったある日、新卒で入社したあの会社の先輩から「転職祝いを兼ねて飲みに行こう」
とのお誘いがあり、半年ぶりに再会を果たした。
 
その際、私は「転職が卑怯」との考えも、「定年まで働く」という意気込みも全てさらけ出した。
 
すると先輩は私の目を真剣に見つめながら「お前、また会社で失敗するよ」と言った。
「え、どうしてですか?」私はまた意味が分からなくなった。
 
「昔は会社に一生いることが美徳で長けりゃ長いほど良い人材だったけど、今や在籍年数より、いかに会社へ貢献したかで良質な人材かそうでないかが決まるんだよ。そんな時代の中で「昔の価値」を持っているといざ評価されるタイミングで自分だけが持っている「昔の価値観」と「会社の価値観」に相違が生じて、結果、精神的に病むんだよ」
 
それはまさにあの会社で踠いていた私のことであった。
確かに在籍年数は私の方が長いのにまだ入社して1年そこそこの人が評価される経験を何回もした。
私に実力がないから仕方のないことと思い込み奥歯を噛み締めていた。
と先輩に初めて打ち明けると
「それは違う」と断言した。
 
「みんな得意不得意があって評価は、比較的に得意なことにだけ与えられるんだよ。
不得意分野に評価されることはあまりない。
どんなに不得意分野を努力で補おうとしても努力しないでその仕事ができる人には所詮敵わないからね。
本当は会社で得意を生かせる部署に配属できればベストだったんだけど、できない状況だったから転職は良い選択だったと思うよ」
 
転職は”得意が生かせる仕事”を見つけるための手段。
転職を「逃げる」や「卑怯」と考えていた私に対して、先輩は単なる「手段」として捉えていたことに驚いた。
 
「だからさ、「一生この会社にいる」とか思うんじゃなくって、「やりたい仕事がなくなったらいつでも辞めてやる」っていう気持ちでいなよ。
そしたら、たとえ転職する気持ちがなくっても楽な気持ちで仕事ができると思うよ。
それで結果一生続いた仕事だったら御の字だけどね」
 
”会社は今はやめるつもりはないけど得意なことができなかったら転職をする”
先輩に言われたマインドに切り替えてから会社へ出勤する足取りが軽くなった気がする。
やはり”一生この会社で働く”が目標だと「無理してでも会社の交友関係を広げなくてはいけないのではないか」とか「不得意な仕事でも成果を出さなくてはいけない」など変な緊張をしてしまい、結果ストレスになって身を滅ぼしてしまう。
「転職」を身近な単なる手段と捉えることで余計なストレスを無くし、結果パフォーマンスに集中することができる。
私はまさに今その好循環の中にいる。
好循環になると私の場合、会社に依存してしまう。
「この仕事をずっと続けたい」、「この会社にずっといたい」と思ってしまう。
しかし、この考えこそ悪循環の始まりだ。
 
だからこそ私は年一回のペースで
「御社を志望した理由は」
で始まる文章を書くことにしている。
 
仮に今年、転職すると想定して志望動機を書くのだ。
そうやって”いつでもやめられる”をあえて意識づける気持ちを楽にすることが目的で始めたが、実は想定していなかったところで効果を生んだ。
 
その効果とは、志望動機を書くことで現状の整理にも繋がるということだ。
志望動機。つまり架空の企業で自分が活躍できること、貢献できること、そして挑戦してみたいことを書く。
そのために、現在勤めている会社での実績や、勉強しているという実績を書く。
もし、実績が不十分であれば、それが自分の足りないところだと理解できる。
実績が不十分と確信できれば実績を積むことを目標とすれば良い。
 
なぜ実績が重要なのか。
一つ私の事例を挙げると私は、「ものを書く」仕事に携わりたかった。
しかし、前職ではそのような仕事はできなく「ものを書く」という仕事は諦めていた。
そんな折、少しでも「何かを書きたい」との思いで天狼院のライティングゼミを受講した。
時を同じくして転職活動を始めた。
その時「ライティングのゼミを受講しています」との一文に反応してくれたのが今勤めている会社である。
社内報ではあるが「ものを書く」を仕事にでき、次回号は私が記事作成全般を書くことになっている。(プレッシャーがすごい)
希望だった「ものを書く」にありつくことができたのは「運が良かったから」と言ってしまえばそれまでの出来事だが、あの一文が運を導いたのは紛れも無い事実だと思う。
 
おそらく「ものを書きたいです」で志望動機が完結していれば今勤めている会社もそこまで私の「やりたいこと」について反応を示さなかったのでは無いだろうか。
やはり、実績があるかどうかでその志望動機に意味があるかどうかが変わってくる。
だからこそ実績は重要で、実績がなければ作ろうとする努力こそが自分の価値に繋がるんだと思った。
 
今年転職を考えている方も考えていない方も年が変わった今の時期に1度
「御社を志望した理由は」のつづきを書いてみてはいかがだろうか。
 
自分のできる部分とできない部分、そして目指したい自分が見えてくると思う。
いつ何時やめても良いように準備するのは、一見いま勤めている会社に不義理なことかもしれないが、「ありたい自分」を整理して、今の仕事に臨むことは、きっと好循環に繋がる。
ぜひやってみてほしい。
 
「御社を志望した理由は」
どうか、この続きが明るい一年へ繋っていますように。
そして、来年のこの時期に「良い年であった」と思える一年のなりますように。
2021年。今年はまだ始まったばかりだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
すじこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

1992年東京育ち
読者に寄り添えるライターを目ざし活動中

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2021-01-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol,110

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