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週刊READING LIFE vol,112

モテる女性になる改造プロジェクト《週刊READING LIFE vol.112「私が表現する理由」》

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2021/01/25/公開
記事:石川サチ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
ドキドキしていました。
もうすぐ、私の番が回ってくる、ちゃんと言えるだろうか。
 
入学したばかりの学校の新しいクラスでの出来事でした。
廊下泡の前の席の子から、一人一人順番に、自己紹介をすることになりました。
 
30人ばかりのクラスメートは、誰一人知っている人はいません。
 
私は窓際で、後ろの席の方で、順番も後のほうでした。
名前と出身地、出身校、そして何かひと言添えるだけだったのに、異常なまでに心臓が高鳴って、全身が震えていました。
 
私の前の席の人が終わり、いよいよ、私の番になりました。
 
シーンとした空気が重く感じました。
私はゆっくり立ち上がりました。椅子が床にギーッとなって後ろに下がりました。
 
声を振り絞って言いました。
 
「石川サチコ、トメ市出身です、ササ沼高校卒業しました、どうぞよろしくお願いします」
 
言い終えて、ほっとしたのも束の間。
 
経室は、シーンとしたまま。
 
誰からも何の反応ありませんでした。
 
他の人たちは拍手があったのに。
 
教壇から聞いていた講師が言いました。
 
「聞こえなかったから、もう一回言って」
 
私は、声を振り絞って繰り返しました。
 
前にいた講師は、両手を耳の後ろにして、必死に私の声を聞くジェスチャーをしていました。
 
「トメ市? どこそれ?」
 
「県北の岩手県との県境の方です」
 
それだけ言って、席に着きました。
 
拍手がパラパラありました。
 
私の田舎、やっぱり誰も分からなかった。県内の人ですら分からない。なんて説明したら良いのかも分かりませんでした。
 
私は、県内でも過疎地の出身でした。
 
小学校は、1クラス20人弱。卒業までクラス替えもなく、年間一緒でした。
皆、知り合いであり友だちで、特別何か目立つことをしなくても、忘れられることはありませんでした。
 
唯一、学年が上がると、新しい担任になるのが苦痛でした。クラスの中でも何の特徴もない私は、いつもしばらくの間、新しい担任に、覚えてもらえませんでした。
 
新い担任が最初に覚えるのは、可愛い子、ハキハキした子、頭の良い子、人Nuts濃くて新しい先生にも甘えられる子、そういう子たち。
 
私はどれにも属さず、ぼんやりしていたから、最後まで覚えてもらえませんでした。
 
私の方も、新しい先生の授業に慣れるまでしばらく時間がかかりました。私は、新しい先生の言っている内容を理解するのが苦手でした。
 
一学期は、「おとなしい」と書かれ、成績も可も無く不可も無くという感じの評価をもらい、二学期になってやっと存在を認められて評価も高くなるという感じでした。
 
それでもたった20人弱。自己主張しないと名前すらも覚えてもらえないという苦労はありませんでした。
 
高校を卒業して、家を出てました。
 
開放感に包まれたのもつかの間。自己主張しないと誰からも相手にされないという現実を目の当たりにしました。
 
誰も私のことを知らないというのは、まるで透明人間になったようでした。田舎では、いつも誰かに見られ、監視されていて窮屈でした。
 
だから透明人間も、最初は、嬉しかった。
 
透明人間は、いてもいなくとも良い存在で、大衆の中ですれ違う人混みの中の独りに過ぎません。知らない人ばかりの中では、誰とも関わることが無い存在でした。
 
覚えてもらうこともありません。孤独で、寂しい存在だと気づくまで時間はかかりませんでした。
 
ぼーっと一人で歩いていると、生協前広場で声をかけらえました。
 
宗教の勧誘です。女性が声をかけてきて、生協の食堂に連れて行かれました。
そして「幸せ」について、話しを聞かされ、毎週ある会合への参加を勧められました。
雑居ビルの中にあったその宗教のサロンに何度か通いました。
友だちのいない私にとって居心地の良い空間でした。しかし、そのサロンに来ている人たちは、みんな傷ついていました。特に親から酷い傷を受けていて、私たちは、親の悪口で盛り上がってい他のでした。
 
しかし、サロンを出た後のむなしさは半端ありません。親の悪口を言ったところで何も解決しませんから。その宗教に入信したら救われるようだけれど、私は足踏みしていました。
 
そんな宗教に入らなくても、
 
どうやったら知り合いができるのだろうか?
どうやったら友だちになるのだろうか?
恋人になるには、どうしたら良いのか?
 
結局、こちらから何かしらのアクションを仕掛けなければ、誰も私なんかを振り向いてくれないのでした。
 
学校生活では、サークルや合コンに参加して、積極的に誰かと関わろうと努力しました。
 
努力の甲斐があり、知り合いがたくさんできました。
 
そして、素敵だなと思う人も現れました。
 
しかし、その素敵だなと思う人は、あっという間に誰かの彼氏になっていました。可愛い人で、人懐っこいタイプの女性でした。なんか、横取りされたような気になりました。
 
本当は私が先に好きだったはずなのに。後から来たくせに。完全に僻み根性丸出しです。
 
あるとき、クラスの会合があり、集合場所に行きました。部屋へ入ろうとすると、私の名前が聞こえました。
部屋の前で、立ち止まって聞き耳を立てました。
 
どうやら、誰か、私を彼女にしてはどうか、という話しで盛り上がっていたようでした。
 
参加者はほとんどが男性ばかりでした。
 
ある男性が言いました。
「お前、あの子と付き合えよ」
 
言われた男性は即答しました。
「石川さん、人間的には好きだけど、付き合うとなると……」
 
はははは、と笑う声が、廊下に響き渡りました。
私は、その笑い声がガラスの破片のようにチクチク心に刺しました。
 
私は、男子たちから、女性という目で見られていなかったのでした。
確かに地味で、可愛くも無いし、ぽっちゃりしていました。話しも面白くないし、女性としての魅力が全くなかったのです。
 
このままでいたら、やばいかも。一生、誰からも愛されずに終わってしまうという焦りが出てきました。
 
私は、モテない女性でした。
それから、どうしたら、モテる女性になるのか、真剣に考えるようになりました。
 
ある日。
 
化粧品屋で、メイクを頑張ろうとして、ファンデーションやリップを探しているときに、その店の二階から音楽が流れてきました。
 
どうやら、そこでジャズダンススクールをやっているようでした。
 
私は興味を覚えて、すぐに体験することにしました。
 
ジャズダンスの先生は、宝塚歌劇出身で、映画にも出演していた有名な女優さんでした。当時、60歳近くだったのに、スタイル抜群で、美人でした。
 
あぁ、私はこんな女性のようになりたい、こんな女性みたいになったらさぞかしモテるだろう。私を馬鹿にした男子をびっくりさせて、私の魅力の虜にしようと思ったのです。
 
安易極まりないですね。
 
早速、チャコットでレオタードとダンスシューズを買いました。週に2回のジャズダンスレッスンに通うようになりました。
 
ジャズダンスのレッスンでは、最初にストレッチをやりました。そのストレッチはバレエのエクササイズです。ひとつひとつの所作が優雅で美しく、これをマスターすれば、モテる女性への道が開ける、と心が弾みました。
 
固い身体を痛み付け、モテる女性への改造プロジェクトを開始しました。
 
そしてとうとう、週2回のレッスンだけでは足りず、大学にサークルを作ることにしました。
 
サークル活動は、社交ダンスサークルの部屋を借りて、使わない曜日があるので、その時に使っても良いといってもらいました。
 
同じクラスメートから3人参加してくれました。
 
その他は、理学部からと農学部から一人ずつ。
 
農学部の子は、大学を休学しているのに、ダンスサークルだけは毎回通ってくれました。
 
一年後。
 
モテるようになったのか、と言うと、全く変化はございませんでした。
 
それでも、ジャズダンスの魅力にはまっていきました。
 
モテる女性への改造プロジェクトは、思うように進見ませんでしたが、このままこの道を進めば、私は、みちがえるような美人になって、モテるものだと信じていました。
 
そんなある日。
 
「学祭に出てみないか」
 
というお誘いがありました。
 
「舞台で踊るんじゃなくて、ストリートダンサーみたいに、突然踊り出したら、びっくりされるかもよ」
 
面白そう、やろうやろう盛り上がり、話はまとまりました。
 
踊りは、シングシングとカルメンに決めました。
 
振り付けと衣装はみんなで作りました。
 
シングシングシングの衣装は、タキシード姿で、シルクハッドを被りました。
カルメンは、真っ赤なレオタードと、レースのフレアスカートを作りました。
 
舞台は、生協前広場です。
 
生協前広場は、中核派の残骸と揶揄されているミナミ先輩という人が毎日昼くらいにメガホンを持って、演説していました。
ミナミ先輩の両親が中核派だったらしく、彼は時代が変わっても、たった一人で世の中と戦っていました。
 
文化祭で踊ることを、実行委員に申告して受理されました。
 
もう、後へは引けません。
 
私たちは覚悟して練習を重ねました。
 
私は、ダンスの先生のようになりたかった。
モテる女性に改造したかった。
 
ジャズダンスに、見果てぬ夢をかけていました。
 
文化祭当日は、早く目が覚めました。
眠りが浅く、緊張した朝だったように思います。
 
顔を洗って、早々と家を出ました。
 
控え室として借りていた社交ダンス部の部室で着替えてストレッチをして身体と緊張を解しました。
 
曲をかけて、一通り踊ってみました。
 
後ろを振り返って決めるポーズが、まだ中途半端。
もう、なるようにしかならない。
集合時間近くになって、部員たちが次々に入ってきました。
皆で一通り踊って見ました。
 
気迫がまるで違っていました。
 
「ホントにやるんだね」
 
厚く塗りたくったファンデーションに、アーチ眉毛を描き、目元にアイラインを入れ、茶色っぽい口紅を塗りました。
 
お面を付けたような顔です。
 
音楽をかけるタイミングと、集まるタイミングの最終打ち合わせをして、シングシングシングの衣装を着たまま、構内に散らば離ました。
 
タキシード姿で、大学構内を歩き回る私を振り返る人は誰もいませんでした。恋人同士だったり、サークルかゼミの集団だったり、一人で学食に食べに来ている人だったり。それぞれ、全く私に無関心でした。
 
誰も私のことなんて見ていないし、関心がない。
それが普通でした。
 
これから私は貴方たちを、あっと驚かせてあげるから、心の中で一人ほくそ笑んでいました。
 
そろそろ生協前広場に集まる時間です。私はゆっくりと、目的地に向かっていました。
 
私が、生協前広場に入ると、クミちゃんが、知り合いと何か話をしていました。私は、知らんぷりをしました。
 
シングシングシングのイントロダクションのドラムが流れました。
 
続々とメンバーが集まってきました。
 
トランペットの音が流れ、私たちは、帽子を目深に被って、一斉に踊り出しました。
 
生協前広場にいた人たちの視線が一気に集まりました。
 
「ひゅーっ」という口笛が聞こえました。
 
これだけ視線を浴びたのは、生まれて初めてかも知れません。
虫眼鏡に太陽の光を集まると、燃えるみたいに、他人の視線を集まり、私たちは踊りながら燃えているように感じました。
 
でっ、でっ、でん、でっ、でっ、ででん。
 
チャララチャラチャッチャラ、ちゃっちゃちゃららちゃらら、ちゃらら、ちゃらら、ちゃらちゃらちゃらちゃらっちゃららら♪
 
私はかっこよく踊れているだろうか。
皆と息が合っているだろうか。
見てくれている人たちは楽しんでくれているだろうか。
 
緊張と快感と自己顕示欲が絡み合って、これまで感じたことのないエクスタシーに包まました。
 
一曲終わると、盛大な拍手が響きました。
 
次の曲は、カルメンです。いったん、退場して、タキシードを脱ぎ、真っ赤なフレアスカートになって集まりました。
 
再登場するとまた盛大な拍手が聞こえました。
私の名前を呼ぶ声がしたので振り返ると、後輩のKくんでした、私はKくんに手を振りました。完全にスター気取りです。
 
完全燃焼でした。
 
その日は、みんなでカラオケで打ち上げをしました。
 
長い長い1日でした。
 
その後、ストリートダンサーとしてやっていこうかと思ったくらいです。しかし、右足の調子が良くなくて、ダンサーの道は諦めました。
 
それでも、この経験は私の人生で、今でも勲章のように光り輝いています。思い出しては、栄光の瞬間に酔っています。
 
動機は、モテる女性に改造することでした。
結局、モテる女性にはなりませんでした。
 
ダンスも下手くそのままでした。
 
ただただ、私がそこにいて、一生懸命生きている、その姿を見てもらいたかったのかもしれません。
 
「変な人たちがいたね、みんんあ頑張っていたね」
「ヘタだけど必死にやっていたね、ご苦労さん」
 
その程度でも良くて、知らない人たちと、ほんの少しでもコミュニケーションできたのが嬉しかったのです。
 
世の中には、そのままでも目立つ人、オーラのある人、天才肌の人がいます。
私は、彼らの持っているものは何もありません。
 
だからこそ、何かしら積極的に表現していかないと孤独で、つまらない人生で終わってしまうように思いました。
 
表現することで、私がここで生きているよ、頑張っているよ、ということを叫びたいのかも知れません。
 
人生とは、表現することで、表現することで、人や社会に関わることができると思います。
 
表現のない人生なんて、アルコールのない人生で、楽しみを半分奪われたようなものです。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
石川サチ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

宮城県生まれ、宝塚市在住。
日本の郷土料理と日本の神代文字の研究をしている。

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2021-01-25 | Posted in 週刊READING LIFE vol,112

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