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週刊READING LIFE vol,112

この世に残された者に伝えたい想いを僕はあえて文字にする《週刊READING LIFE vol.112「私が表現する理由」》


2021/01/25/公開
記事:中野ヤスイチ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
いくつもの考えが頭に浮かんでは消える、そんな毎日を何処かで止めたかった。
そんな想いが僕の何処かにあったのかもしれない。
 
もし、毎日がつまらない、自分は何がしたいのだろう? と悩んでいるのなら、騙されたと思って、思いっきり、浮かんだことをすべて書いてもらいたい。
 
書き終えた時に、きっと糸口が見えてくるから。
 
僕は、いつからこのように記事を書くようになったのか、そのキッカケは、間違いなく天狼院書店のライティング・ゼミを受けたことがキッカケである。
 
もともとは違うゼミを受けていて、帰る時にチラシを受け取ったのがライティング・ゼミだった。
 
ライティング・ゼミに興味を持ち、受けることにした僕は、はじめて記事を書いてみた。
記事を書き終えた時の身体の疲労感が今まで感じたことがないほどの充実感だった。
 
それは、まるでボクサーがフルラウンドを戦い終わって、後は判定の結果を待つような気持ちに近いのかもしれない。それほど、自分の力を出し切っている感覚があった。
 
書き続けていく内に、その充実感をもっと味わいたい気持ちが強くなってきて、書き続けるようになってしまった。
 
そして、ある時に自分はどんなことについて、書きたいと想っているのか、問いがふと頭の中に浮かんできた。
 
ただ、今までは書くのが楽しくて、好きなことを書いていたのだけど、その好きなことが何なのか、書いている内に見えてきたからかもしれない。
 
僕がなぜ書くのか、生まれてきてくれた息子との時間を心に刻むため、すでに亡くなってしまった父親から教えてもらった教訓を何かの形で後世に残して置きたくて、書いていることに気づいた。
 
人の一生は限れた時間の中で営まれている。これは、生き者として生まれた嵯峨なのかもしれない。人には感情があり、感情を想いを生み出すこともできる。何より、文字を使って、後世に残すことができる。
 
どこか、当たり前のことを書いているように感じるかもしれないが、人生の一瞬一瞬が掛け替えのない大切な宝物なのに、その瞬間を記憶として残しておくことは、簡単なようでとても難しい。
 
その事を書くようになってから、学ばせてもらった。
 
どんなに過去の時の記憶を思い出そうと、頭を使ったとしても、中々出てくることがない。
記憶は忘れるように出来ているから。
 
人は悪い思い出の方が、記憶に残っていると良く言われている、それはなぜなのか、本当の理由は知らないが、生きていく上での防衛本能が働いているからではないだろうか。
 
だから、小さい頃に経験した嫌な思い出は大人になってからも、頭を離れることは無い、
何より、同じような場面に遭遇する度に思い出してしまうから、その回数が増える度に記憶が脳内に定着してしまう。それの繰り返し。
 
一方で、嬉しい瞬間や感動した瞬間は記憶から消えていくのも早い。
 
僕だけかもしれないが、美味しいお寿司やケーキを食べた時は、「こんな美味しいのははじめて」と言っているのに、今、どんな味だったか思い出して、言ってみて、と言われたら思い出すことができない。
 
なんとなく、何が美味しかったのか、その時、誰と食べに行っていたのか、これぐらいの記憶は残っているかもしれない。
 
その記憶を頼りにお店の名前と場所は、インターネットでキーワードを入れたら、見つけることができるかもしれないが、その味までは再現することは難しいのではないだろうか。
 
だから、僕は自分の記憶をあまり信じられないでいる。
きっと、こんな感じだっただろうと曖昧な記憶がほとんどだから。
 
それでは相手に自分が感じたことや考えたことを伝えることはできない。
書くようになってから、そのことがよく分かるようになった。
 
だから、僕は書くのが好きなのかもしれない。
その記憶ができる限り残っているうちに残して置きたくて。
 
悲しいことに、仕事が忙しかったからだろうか、息子がハイハイしている時の記憶がほとんどない、病気をして、妻と一緒に病院に行った記憶は残っているが、どんな表情をしていたのか、その時、僕はどんな想いだったのか、何も残っていない。
 
残っているのは、妻の悲しそうな表情だけである。
 
昔の写真を見ても、思い出される感情は、今の自分が思い出す過去の自分の感情である。
その為、その時感じていたことは、こんな感じだったよな。みたいな曖昧な感覚しか残すことができない。時間が経てば経つほど、曖昧さは強くなっていく。
 
はじめて、我が子を抱いた瞬間、あまりに軽くて、抱いている感じがしなかったなど、本来であれば覚えておきたいのに、息子の時は全く覚えていない。
 
覚えているのは、待っている間、PCとにらめっこしながら、仕事をしていた自分の姿を看護師さんに見られ、出産を頑張った妻に言われてしまったことである。
 
決して、仕事がしたくてPCをにらめっこしたかった訳ではなかった。
その時は、どうにか自分の気持ちを落ち着かせたくて、あえて仕事せずにはいられなかった。
今となっては、すべては言い訳になってしまう。
 
この時に頂いた感情が残っているのは、自分の苦い思い出になっているから。
仕事をせずに、何もせずに、我が子が生まれてくる瞬間を待っておけばよかったと強く後悔しているから、記憶に残っているのである。
 
その御蔭で娘が生まれる時は、仕事をせずに、息子とずっと待つことができた。
何より、書くことが大切だと知った僕は、娘が生まれた瞬間について書いて残すことができた。
 
それは、本当に良かったと強く思っている。
 
人生において、生まれた瞬間と亡くなる瞬間は一度しか訪れない。その瞬間に立ち会えた喜びを残しておけることは僕にとって、大切な人生の宝物になった。
 
何より、娘が字を読めるようになった時に、自分の父親が生まれた瞬間にどのような事を想っていたのか、伝えることができる。
 
これはとても大切なことである。僕は自分が生まれた時に両親がどう想ったのかを知らない。恥ずかしくて、今更、母親に聞くことすらできない。
 
もし、その時の想いが書かれていたFaceBookの投稿でも良いし、ブログでも良いから、読むことができたらと考えてしまう。
 
僕は自分自身が父親になってからの方が、父親に聞きたいことが増えた。
できれば、今もこの世いてくれたらと思う時がある。
 
人生には良い時もあれば悪い時もある、それを知っているのは先人達であり、その知恵をできる限り教えてもらいたい。
 
その知恵を自分の父親にも残しておいてもらいたかった……。
父親が生きていく中で学んだ一部を今は母親に教えてもらうことしかできない。
 
それがすべてではないと思うし、父親がどこまで考えていたのか、すべてを母親と共有することは難しかったのではないかと思う。
 
だからこそ、父親に自分の生きた証を記憶ではなく、記録として残しておいて欲しかった。
 
今、なぜ僕が記事を書いているのか、もちろん力不足で自分が表現したいことのすべてを出せているのかまではわからないが、いつか自分が死んだ時に、生きている妻や息子、娘に自分の想いの一部でも良いから知ってもらいたいからである。
 
どうしても、恥ずかしくて本音を言えない時もある、父親として言ってはいけない弱音もある。声に出してしまったら、自分の心が折れて前に進むことができなくなってしまう時もある。
 
だから、あえて言葉で伝えずに文字で伝えたい。
もう僕には父親がいない、父親が残したかった想いや学びのほんの一部分しか聞くことはできなかった。あまりにも共に過ごした時間が短かった。本当はもっと長く一緒に生きたかった。
 
それはもう叶わぬ夢である。
だったら、せめて、自分がして欲しいと思ったことぐらいはしてあげたいと思うのが親御心ではないだろうか。
 
僕は自分が生きている間は何か残したいと想った時に、文字で残していきたいと思う。
それが、僕がまだ生きているという証であり、亡くなった時に伝えることができる唯一の方法だから。
 
僕は恥ずかしがりやで臆病だからこそ、後世に伝えたい想いを、あえて文字で書くという表現を選んだのかもしれない……。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
中野ヤスイチ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

島根県生まれ、東京都在住、会社員、妻と子供の4人暮らし、奈良先端科学技術大学院大学卒業、バイオサイエンス修士。現在は、理想の働き方と生活を実現すべく、コーアクティブ・コーチングを実践しながら、ライティングを勉強中。ライティングを始めたきっかけは、天狼院書店の「フルスロットル仕事術」を受講した事。書くことの楽しみを知り、今に至る。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2021-01-25 | Posted in 週刊READING LIFE vol,112

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