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週刊READING LIFE vol,115

わがマンションのスーパー管理人《週刊READING LIFE vol.115「溜飲が下がる」》


2021/02/15/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
今から約16ほど前、私たち家族は今のマンションに引っ越してきた。
会社員だった夫の会社規約によって、借り上げ社宅のシステムが10年をもって終了することになっていた。
そろそろ、期間が終わることを受けて、自分たちの家を購入することになったのだ。
 
どこに終の棲家を構えるか?
マンションなんて、そんな大きな買い物をするのも初めてだった私たち。
高齢の母がいる私の実家近くで、小学生の娘の校区としても申し分ない街にすることにした。
運よく、当時の私たち家族に相応しい分譲マンションが見つかり、ローンなどの手続きを含めてとても順調に契約は完了した。
このマンションへの引っ越しは、家族皆が楽しみにしていたのだ。
新しいお家、環境、そのどれにもワクワクした。
 
特に私は、実家以外に独身時代は引っ越したことがなかった。
もちろん、一人暮らしの経験もなかった。
結婚後すぐに台湾へと赴任し、その後はすべての住まいは賃貸住宅だった。
だから、やっと自分たちの本当の意味での「お城」が手に入ることは、この上なく嬉しいことだった。
マンションの売買契約が終わり、カギの受け渡しをした後、何度も家の中の下見に訪れたとき、他の住人の人たちとあいさつも交わしたが、皆さんとても感じが良かった。
分譲マンションに住むと言うことは、周りの住人の人たちとも、関係性は深くなってゆく。
多分、10年、20年と長く住むことになるはずだから、自分たちと価値観が似通っていて、フレンドリーな人が多くてそれも安心した。
 
そして、何よりも私が嬉しかったのは、管理人のおじさんだ。
毎日、エントランスの管理人室に常駐している管理人さんは、きめ細やかに面倒を見てくれる人だった
まずは、引っ越し日の確認や駐輪場の契約でうかがったのだが、ゴミの出し方など、それはそれは丁寧に教えてくれたのだ。
引っ越し日と時間を伝えると、自分がいる時間帯なのでお手伝いができます、とか。
引っ越し荷物の量を伝えると、メインエントランスではなく、サブエントランスの方がわが家には近いのでそちらを開けましょう、とか。
最初から親切にお世話をしてくれる管理人さんはとても嬉しい存在だった。
 
実家は戸建てだったので、もちろんそんな管理人さんなんていなかった。
水道管が詰まったら、母が水道局へ電話していたし、玄関の外灯の電球が切れると取り替えるのも家族だ。
庭の木の剪定も、自分で探して植木屋さんにお願いしていた。
当たり前だが、何から何まで全部自分の仕事になる。
 
賃貸住宅では、常駐の管理人さんはいなくて、例えば、ガス給湯器の調子が悪くなると大家さんに連絡して対応してもらうので、少し時間もかかる。
 
分譲マンションって、なんて便利で快適なんだろう。
私は管理人さんがいる環境に感動したものだ。
いよいよ新しいマンションに引っ越し、生活が始まると管理人さんの存在はさらに大きかった。
毎日、早朝から来るお掃除担当のおばさんは、廊下や共用部分を掃除してくれるのだが、管理人のおじさんはそれ以外も細やかに掃除してくれるのだ。
専用庭の外側の植え込みの雑草抜きや、駐車場付近の掃除はもちろん、とにかく常に動いているのだ。
そのおかげでマンションの敷地内はいつもきれいだった。
 
また、来客用の駐車場があるのだが、わからずに入り口付近に止める車があると、管理人室から飛び出してきて、上手く対応していたのだ。
なので、とても管理が行き届き、安心、安全を確保してもらえていたのだ。
 
ところが、その管理人さんは、数年経った頃に辞められたのだ。
70歳で定年を迎えられたとのことだったが、とてもそんな年齢には見えないくらいお元気だった。
室内の電球が切れたときに、こっそりと取り換えを手伝ってくれたり、留守の時の消防点検に代わりに立ち会ってくれたり、本当はいけないけれど頼むと引き受けてくれたとても気のいい管理人さんだった。
寂しいような気持ちさえ抱いてしまうくらい、存在の大きな人だった。
 
その後、何人かの管理人さんがわがマンションにはやってきた。
ところが、どうも最初の管理人さんとは違うのだ。
いつ見ても、管理人室に座っていたり。
雑草が伸びてきているけれど、一向に手入れをしようとしないし。
来客者は勝手にいろんな場所に車を止めているし。
なんだか、以前とは完全に様子が違うのだ。
同じゴミが同じところに何日も落ちているのが気になったり、初夏には雑草が伸び放題になったりしたとき、ちょっと怒りに近い感情が湧いてきたのだ。
そして私は思わず管理会社へ連絡をしたのだ。
 
「以前の管理人さんのように、もう少し、共用部分のお掃除やお手入れをお願いしたいのですが……」
 
すると、管理会社の方が言ったのは、
 
「あのWさんが、やりすぎだったんですよ」
 
「へ!?」
 
えっ、そうなんだ。
 
私は、初めての分譲マンション、初めての管理人さんだったので、これが普通、当たり前のことだとずっと思い、受け取っていたのだ。
ところが、あの管理人さんが夏の炎天下、汗をふきふき庭の雑草を取ってくれていたのは、親切心からだったのか。
イヤな顔一つせず、いつみてもマンションのために動いていた管理人さん。
そのおかげで、私たち住人はどれだけ気持ち良い生活ができたことか。
 
主婦である私たちと顔を合わせると、挨拶だけではなく子どもにも声をかけ、ワンコの相手もしてくれたとても気さくな管理人さん。
思えば、オジサンでありながら、オバサンの要素をたくさん持っていた人だったな。
そんなスーパー管理人さんは、やはり気働きの最高にできたひとだったのだ。
 
その後、何人もの管理人さんが入れ替わっていった。
ずっと管理人室にいた人。
虫がキライだから、庭の草むしりができないと言っていた管理人さん。
あいさつ以外することなく、人とのかかわりが苦手そうな管理人さん。
色んな人が通り過ぎていったな。
 
でも、その人たちの仕事が足りていないと思っていたが、ところがその管理人さんたちも、規定通りの仕事はしていたのだ。
何一つ、怠ることもなく滞りなくこなされていたのだ。
 
ただ、あの初代の管理人さんがあまりにも素晴らしかったから、私は勝手にあの人を基準としてしまっていたのだ。
そうすると、それ以外は、みな、それ以下としてしまうのだ。
 
管理会社に連絡をして、私はようやく溜飲が下がった思いがしたのだ。
 
「Wさんがやり過ぎなんです」
 
そう言われると、今度はまるで初代の管理人さんが悪いようにもうつってしまうが、それも決してそうではないのだ。
気働きが出来、良く気が付いた人だったのだ。
多分、やらなくてもいいと言われても、勝手に身体が動くのだろう。
それは、やり過ぎかもしれないが、間違いなく当時の私たち住人はありがたいことだった。
 
何が正しいのか、何が基準なのか、私たちは時に見失うことがある。
基準に達していると、心の中でOKを出せるが、そうでないと一気に不満があふれてくる。
特に、人がすることにはその傾向が強いように思う。
 
あんなにも細やかに働いてくれた初代の管理人さんのWさん。
確かに、管理会社のマニュアルを超えての作業だったのかもしれないが、私たち住人は間違いなく嬉しいことだった。
本当にお世話になったな。
今もお元気だろうか。
またお会いできることがあるならば、あらためて、感謝の言葉を伝えたいと思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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2021-02-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol,115

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