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週刊READING LIFE vol,117

モブな私は主役になりたい《週刊READING LIFE vol.117「自分が脇役の話」》


2021/03/01/公開
記事:黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
タケシ(仮名)は先制ゴールを取られた悔しさを吹っ切るべく、サッカーボールを必死で蹴る。そして猛烈な勢いでドリブルを続け、相手陣地にボールを運ぶ。
 
体育の授業とはいえ、実際のサッカーゲームと遜色ない広さのグラウンドだ。両ゴール間の距離は長い。
 
そこへ相手チームが走りを止めにくる。だが、そんな奴らは問題ではない。モブにかまってはいられない。
 
ようやくゴールは目前、このままシュートを打ちたいところではあるが、ゴール前にはやつがいる。
 
「タケシ!」
 
そら、やってきた。
 
「トウヤ!」
 
そう、タケシのライバル、トウヤ(仮名)だ。
勉強面においても、運動面においても、常にトップを争ってきた二人。おそらく「終生のライバル」というものになるであろう。
 
そんな二人が別チームになっているのだ。ぶつかり合わないわけがない。
 
距離的にここからのシュートはやや無理がある。もちろん、できないわけではないが、目の前にはトウヤがいる。
となれば……
 
(抜かないわけにはいかないよな)
 
二人とも不適な笑みを浮かべ、タケシはトウヤを抜こうと、そしてトウヤはタケシからボールを奪おうと、双方死力を尽くす。
 
もちろん、言ってしまえばただの体育の授業である。だが、二人にとってそんなことは関係なかった。
体育の授業だろうが、ワールドカップの決勝だろうが、二人が相まみえた瞬間、この必死さはごく自然の成り行きだった。
 
負けたくないという気持ち。
そして何より、ここで本気を出さないことは、相手を裏切ることだ、という気持ち。
彼らは、ライバルであると同時に親友である。
二人の間に、手加減などという他人行儀は存在しない。それがどんな場面であってもだ。
 
どのくらい経っただろうか?
おそらく時計を見れば大した時間ではないだろう。
だが、二人にとっては膨大な時間が流れていた。
 
そして、ついにトウヤの足が、タケシのボールを捉える。
しかし、タケシも負けじと、ボールから足を離さない。
もつれるようにボールを取り合う時間が、しばらく続いた。
 
誰も手を、いや、足を出せなかった。
当然だ。
この白熱の戦いに、一体誰が水をさせよう。
二人の友情に、誰が介入できよう。
 
そう、この時間の主人公は彼らだ。
自分たち脇役の出る幕ではない。
 
二人を囲む生徒はみな、同じ気持ちで、固唾を呑んで勝負の行方を見守っていた。
 
……とは限らなかった。
 
二人の白熱の決戦は、遙か時の彼方に昇華される(意味不明)と思った、その瞬間である。
 
バホッ
 
と、やや間抜けな音を立てて、ボールが二人の足から離れた。
 
そのボールは微妙な速度でゴールに向かっていき、あっさりとキーパーに止められた。
 
「へ?」
 
二人とも愕然とした。いや、二人だけではない。手に汗握りながら見守っていた。周りのモブ生徒たちも、一気に目を丸くしたに違いない。
 
当たり前だ。自分たちは白熱の戦いに身を投じていた。お互い以外に敵はなく、また味方もいない。
 
漫画やアニメでいう、最終決戦のただ中にいたはずである。
 
それが、だ。ふと傍らを見ると、とても気まずそうに笑うモブがいたのだった。
 
現状から考えるに、このモブが、白熱の戦いをしている二人の間に割って入り、ボールを蹴ったらしい。だが、その力は強くなく、そのままキーパーの腕の中に入っていったわけだ。
 
一瞬で熱は冷め、現実に引き戻されたタケシは、しかし、そのモブを責めるわけにもいかず、
 
「い、入れるならもうちょっと強く蹴れよ~」
 
と、やや力のない声をかけるだけであった。
 
そう、このモブこそ誰あろう、私である!
 
みんなの視線が刺さった。
痛い。痛すぎる!
顔から火が出るほど恥ずかしいとはこのことだ。
「恥の多い人生を送ってきました」というが、その中の一つがこれだ。
 
どうしようもないことに、これ、実話である。
 
なぜそのような愚行に走ったのか。
そのとき私は、脇役から脱して主人公になれると思ったのだ。
それこそ千載一遇のチャンスとばかりに。
ここでゴールを決めれば、自分は脇役ではなくなり、瞬く間に主役になれるのだと、そんな風に思ってしまったのであった。
 
いや、ゴールに入れられたところでそうなるわけではない。
結果は同じで、二人のいい勝負を邪魔したことに変わりはない。
 
だが、思ってしまった。
ここで、ここで入れれば、自分は……
 
なぜだろう。
なんでそんな愚かなことを思ってしまったのであろう。
 
そんな「なぜ?」への答えは簡単だ。
 
それは、私が負けず嫌いで目立ちたがり屋だったからである。
 
もちろん当時としてはそんなことは思ってもみなかった。だが年を取った今、冷静にその時分の私を考えてみると、とにかく一癖ある目立ちたがり屋だったことは確かだ。
 
一番でいたかった。褒められたかった。すごい、と思ってほしかった。
 
子どもの他愛ない感情ではあるかもしれない。
しかし、子どもであるがゆえ、当時の私には死活問題だった。
 
思い出してみてほしい。
小学校のとき、一番人気があるのは、スポーツができる子であった。
もっと言えば、足が速い子であった。
 
中学校に入れば、定期試験も出てくるので、頭がいい子が人気者である、かと思いきや、以外にも、ここでも人気なのはスポーツができる子であった。
田舎の朴訥さであろうか。学年1位の成績を持つ生徒は、まあ、有名ではあったが、人気者というわけではなかった。
 
というか、こんなの個人の性格とかの問題であろう。
勉強ができなくても、スポーツができなくても、人気者は人気者だ。
そして逆もまたしかりだ。
いろんなことに秀でていても、目立たない人は目立たない。
 
しかし私は目立ちたかった。というより、褒め称えてほしかった。
しかしそのために実行した行動は、何とも訳の分からないものであった。
 
例えば小学生のときである。
書写の時間があり、低学年は硬筆の勉強だったのだが、そのワークブックを仕上げて、担任の先生に見せ、添削してもらう、というものであった。
 
そして、これも小学生の謎の感覚なのだが、一番早く並ぼうとするのである。
仕上がるや否や、ものすごいスピードで、皆並ぼうとする。
 
だいたい全員同じくらいの早さで終わるので、一斉に立ち上がり、並び始めることになる。
 
ただ、私は書くのが遅く、また字が下手だったので、毎回最後尾あたりになってしまうのだ。
 
それが、毎回不服だった。仕方ないとは思っている。だが、その小さな不服が、積もり積もって、ある日天啓のように私の心を動かした。
 
そうだ、今日は一番先に並ぼう。
 
そうして、丁寧さもそこそこに、一番先に先生の元に行ったが、当然のごとくすべてやり直しになった。
 
とても惨めな気分であった。
 
なぜだろう。
なぜ、僕は主人公になれないのだろう。
幼心にそう思った。
 
漫画やアニメのような活躍が、なぜできないのだろう。
運動が苦手なことは分かっている。だからそこで一番になったり目立ったりしなくてもよい。
勉強は得意だったが、それでも一番にはなれない。
何かで表彰されたこともない。
 
自分は、自分の人生なのに、なぜ脇役なのであろう。
中学生のときは、それでもあがいていた。
幼少時からの持病がひどくなったこともあり、何か、極限で苦しむ主人公みたいに、思うようにもした。
勉強もある程度がんばった。
中二病にも罹患した。痛い言語や痛いポーズを勉強した。
 
そう、私は、何か特別な人になりたかった。
その特別というのは、おそらく誰かからそう認められて特別になるものである。
自分だけが満足しているそれではない。
 
だから、それらはすべて徒労に終わった。
 
結局、自分は脇役のままであった。
 
そしてその思いは、また積もり積もっていった。
「自分は自分でいいじゃないか」とか、「一番じゃなくてもいいじゃないか」とか、「自分は自分でよいところがあるさ」とか、そんな思いで隠してきた。
 
が、それが隠しきれないところまで来ていたのだろう。
そして、そこへきて、あのシチュエーションである。
 
蹴らない道理がないじゃないか!
 
あ、いや、申し訳ない。そんなこともないのであろうが、きっと何か、冷静でいられなかったのだろう。
 
この世の中、残念なことに、主役はいつも自分ではない。
世界を動かすのも、会社を動かすのも、ましてやこれから未来を担っていくのも、残念至極であるが、自分ではない。
 
きっと、自分の前には誰かが並ぶし、自分ではない誰かが白熱の決戦をしている。
私は、その外野で顔も描かれていないモブなのだ。
 
もう一度いうが、「自分は自分」とか「自分の人生自分が主役」とか、そんな慰めは意味をなさない。
 
主人公とは、タケシ(仮名)やトウヤ(仮名)のことを言うのである。
その決戦を邪魔してはいけない。
それは分かっているのに、私は、どうしようもなく、あそこでゴールを決めたかったのだ。
 
あのボールを、私はまだゴールに入れられずにいる。
 
これからも、モブである私は、そのボールを蹴り続けるのであろう。
いつか、ゴールできる日がくると信じて。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校に勤務している。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。デジタルとアナログの融合を図るデジタル好きなアナログ人間。趣味は広く浅くで多岐にわたる。

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2021-03-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol,117

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