週刊READING LIFE vol,119

ノートから自分を考える《週刊READING LIFE vol.119「無地のノート」》

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2021/03/15/公開
記事:すじこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
まさにこの瞬間。
近所のファミレスの1人席に座り、アイスコーヒーを口に含み、お気に入りの曲を聴きながら、ノートPCを開き、キーボードに手を置いた、まさにこの瞬間。
まさにこの瞬間が私にとってライティング活動を行う上で、テンションが上がるタイミングだ。
と、いうのも、今皆さんの画面には、この文章以降にも文が連なって表示されていると思うが、170文字程度しか書き終えていない現段階において、画面の大半は空白。
この瞬間がたまらなく好きなのだ。
「これからこの空白にどんな文字を埋めよう」と考えるこの瞬間。
この瞬間こそが一番興奮するのだ。(変態だということは十分理解している)
 
この瞬間が心地よくって気づけば2〜3時間何も書かずに過ごしてしまうときもあるが
書き始めてしまえば芋づる式に言葉が出てくるので「考えている時間の方が長かったな」
と思うときもしばしば。
 
逆に「考える時間」が少なく、考えがまとまっていないタイミングで書き始めるとイマイチ思いが乗せきれずに不完全燃焼で終わるときもある。
不完全燃焼で、結局、イチから作ることもよくある。
「イマイチならイチから作るのではなく、既に出来上がった文章を修正すればいいのではないか」と思われる方もいると思うが私にはそれができない。
加筆したり、修正したりすると必ず話の流れが崩れ、満足いくものが作れないのだ。
だから私は、ある程度考えをまとめてからでないと文章を作る事ができない。
かっこよく言えば「一筆書き」だが、それは単なる「編集力の欠如」とも言える。
 
昔からそうだった。
 
中学生のとき、私は友人と共作で小説を書いた事がある。
共作といっても、私が大部分を書き、友人が誤字脱字を修正し、製本を担当するという「作家」と「編集者」的関係性で4冊ほど発行した。
1冊10ページにも満たないとても薄い本であったが、書き終えた瞬間は達成感で満ち溢れていた記憶がある。
そして、 物語を書き始めるまさにあの瞬間。
何も書いてないノートにどんどん物語を展開させていくあの瞬間、書あの瞬間のゾクゾク感というのは今も昔もそう変わらない。
もしかしたら、中学生の時あのゾクゾク感を知ってしまったから、今も書き続けているのかもしれない。
まさに、中毒者。
まあ小説の内容としては……厨二だなって感じだったが。
(これが黒歴史というやつかもしれない)
 
内容はさておき、在学中で書き切った4冊の中で、初回で書いたものと最後に書いたものを比べると明らかにクオリティーが違う。
それは、単純に「私の文章能力が上がった」という要因もあるだろうが、一番大きい要因は友人の「編集」が加わった事だ。
初回は私の文章の誤字脱字を直すだけだった。
後から友人に聞くと私のストーリー展開や、文章にケチをつけるみたいであまり口を出せなかったという。
それを聞いてから2冊目以降は、誤字だけではなくストーリー構成も直した方がいい部分があれば直して欲しいと依頼した。
すると2、3日後に明らかに私の書いた文より良い物が帰ってきた。
口では「これめっちゃ良いじゃん、これで発行しようよ」とは言ったものの、ショックだった。
「まさかこんなに面白く帰ってくるとは!」と敗北感を抱いてしまった。
私だって自分の文章が100パーセント面白いとは思っていないし、パーフェクトだとも思っていない。
ちょっとここの言い回し気に入らないけど、これ以上いい文章が見つからない」
や「もうひと盛り上がりしたいけどこれ以上言葉が見つからない」など四六時中思いつめている。
実力不足であることは承知済み。
小説も全力で書いたが、その実力不足のせいで満足度100%とはいかなかった。
話はほぼほぼできていて、文章化ができているのだが、何かが足りない状況。
カレーで例えると、具材もカレーのルーもあるが、何かのスパイスが足りない状況だ。
見た目も、匂いも、味も、100人に聞けば100人「これは普通に美味しいカレーです」と答えるが、誰も「これは絶品のカレーです!!」とは言わない状況。
そんな「普通に美味しいカレー」を友人に提出した2、3日後にまさかの「絶品のカレー」で帰ってきたのだ。
 
「え! 何入れたの!? ヨーグルト? クミン? なに? なに入れたの?」
と、聞きたいくなるぐらいの絶品が帰ってきたのだ。
 
こうして、3冊目、4冊目以降も私が大体書き、友人が編集し、発行するという流れができた。
明らかに読みやすく面白くなったことで同級生の中でも人気作品となった。
読者が喜んでくれるのは嬉しい反面複雑な感情もあった。
編集や装飾のない私の文章が喜ばれているのなら嬉しいが、読者に渡った物は、友人が手を加えた文章。
「普通のカレー」を「絶品のカレー」にしたものだ。
共作というものはそういうものなのだから、読者の感想を素直に受け止めればいいものの私は、どこか穿った感情で感想を聞いていた。
 
5冊目を書こうか。そんな話が出始めていた頃、友人に
「お前は自分一人で書こうとしないの? 俺の文章あんなに面白くできるんだから一人で書けるんじゃない?」と聞いたことがある。
友人の返答は意外なものだった。
「いやー、俺、なにも書いていないとなにも思い浮かばないんだよね。白紙のノートとか見るとどこから書いていいのかわからなくなるし。お前の書いた文章を直したりしていくうちにアイディアが思いついて加筆したり、ひと下り追加できるんだよ。一人で書くなんて無理無理」
と言ってきた。
私は「そんなことある!?」と思った。
なにも書いていないノートを見ている時が最高潮に興奮する私にとってはあり得ない話だ。
白紙を見てテンションが上がらず、逆に何か書いてあるものを編集していくとアイディアが浮かぶなんて私にしてみれば奇妙な話だ。
 
ひょっとしたら友人は私に気を使ってそんなことを言っているのかもしれない。
 
そう思うと、なかなか執筆が進まなく、気付けば中学を卒業していた。
全く思春期の感情とはめんどくさいものである。
仮に友人が気を使って言ってくれていたとしても、「友達と共作している」というのが楽しんだからそのまま続けていればよかったのに。
なんだかプライドが許さなかったというべきか、萎えてしまったというべきか。
とにかくめんどくさい年頃だったのだ。
 
空白のノートやテキストを眺めていると「これからどのような話を書こう」とワクワクする。
と、同時に時折、中学生時代の青にがい思い出が蘇る。
 
友人が言った言葉は本心だったのだろうか、と。
 
そんな10年近くの疑問が最近見たオリエンタルラジオ・中田敦彦さんが出演した動画を見てあっさりと解決した。
 
オリエンタルラジオといえばご存知の通り、「武勇伝」で一世を風靡したのを皮切りに、「チャラ男」、「RADIOFISH」、「youtube大学」と様々なヒットコンテンツを生み出し続けるお笑い芸人だ。
オリエンタルラジオは、中田敦彦さんと藤森慎吾さんからなるお笑いコンビで2020年の末にコンビ揃って事務所を退社したことでも話題になった。
 
そんな今や超ヒットメーカーとなったオリエンタルラジオだがそのほとんどが中田敦彦さんのアイディアだという。
「武勇伝」も、「RADIOFISH」も「Youtube大学」も。
ただ、そのアイディアを具現化するには相方の藤森慎吾さんが必要不可欠だそうだ。
特にパフォーマンスユニット「RADIOFISH」は藤森さんがいなきゃ成立しないと言う。
皆さんも一度は聞いたことがあるだろう最大のヒット曲「PERFECTHUMAN」からわかるように歌は藤森さんしか歌ってない。
なので「RADIOFISH」は藤森さんがいないと本当に活動ができなくなると言うわけだ。
と、なると「RADIOFISH」は実質藤本さん個人の活動なのか、と思ってしまうが、中田さん曰く、れっきとしたオリエンタルラジオとしての活動だと言うことだ。
「PERFECTHUMAN」の誕生は中田さんが藤森さんに「俺を讃える歌詞を書いて」と依頼したところから始まった。
たったこの一言だけ伝えたらあのクオリテイーのラップが帰ってきたと言う。
まさに天才だ。
と言うことは中田さんは「俺を讃える歌詞を書いて」と言っただけで紅白にまで行ったことになる。
そう考えるとやはり中田さんはなにもやっていないと思う方もいるだろうが実は「俺を讃える歌詞を書いて」の一言が重要だったと言う。
何しろ、あの一言がなければ藤森さんは相方を讃える歌詞を書こうなんて思いつかなかったのだから。
あの一言があったからこそ藤森さんの歌唱力が引き出されたのだ。
実際、藤森さんは「何か枠組みをくれないとアイデアが浮かばない」と言う。
0からアイディアを生むのは苦手だが、枠組みや要望をくれたら全力で応えられるとのこと。
そんなタイプの人もういるんだなー、と思ったのと同時に中学の友人は本心を言っていたのかもしれないと思い、あの時、素直に言葉を受け止めなかったことを酷く後悔した。
 
人間は様々なタイプがいる。
私みたいに白紙のノートが好きな人もいれば、罫線が書いてあって罫線に沿って文字を埋めることが好きな人もいる。
どちらが優れているとか、劣っていると言う話でもなくどちらいい点悪い点は存在する。
問題はどちらの存在も認め合い、お互いに不足してる部分を埋めあう能力こそが今後ビジネスや生活において重要なのかもしれないとオリエンタルラジオを見ていて思った。
 
あなたはどちらのタイプだろうか?
無地のノートに自由に書くタイプか、罫線に沿って書いていくタイプか。
なにも書いていないものに字を散りばめるときにワクワク感を感じるのか。
罫線に沿って字を埋めているときが心地よいか。
 
社会人はもしかしたらノートを書く機会が少ない方もいるかもしれないが今一度、学生時代どういうノートの取り方をしていたか思い出すと面白いかもしれない。
 
自発的にアイディアを生み出すタイプか。
ある程度アイディアをもらってそこから派生させるタイプか。
 
それによって今の仕事のやり方が自分にとって心地よいものかどうかがわかると思う。
あなたも一度押入れの中からノートを引っ張り出してみてはどうだろうか。
ちなみに私の使用していたノートは罫線があったが、罫線を無視していた。
「それはそれで問題だな」
そんなことを思いながらそっと押入れにしまい直した。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
すじこ(READING LIFE編集部)

東京出身28歳
読者に寄り添えるライターを目指し、修業中。。。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2021-03-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol,119

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