週刊READING LIFE vol,119

文章が連れて行ってくれるのは、思いも寄らない世界《週刊READING LIFE vol.119無地のノート》


2021/03/15/公開
記事:青野まみこ(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
取材開始の時間が迫ってきた。
zoomや動画の接続を確認する。
スマートフォンを近くに置いて、iPadでスクリーンショットの準備をする。ICレコーダー2台のテストも完了した。
そして取材の相手のトークが始まる。緊張が一気に高まる中、聞き逃すまいとキーボードを打ちながら、時折私はノートにメモを取る。
 
今日はここにこれからどんな文字が並ぶのだろうかと、集中している中にも期待が湧く。
この、無地のノートに。

 

 

 

2020年の夏、自分が考えた企画が通った。
天狼院書店のライターズ倶楽部で企画が通ったので、連載になる。嬉しかったのはもちろんだけど、全く取材は未経験だったため、これから自分は何をどうしたらいいのかが一瞬わからなかった。
 
だんだん落ち着いて、自分がやるべきことがだんだん見えてきた時、その手順の多さと段取りの重要さに気が遠くなりそうになった。
まずは取材相手を見つけて、アポイントを取る。取材に必要なものをリストアップして準備する。同時並行で下調べをする。当日の待ち合わせ場所を確認する。
 
人の話を聞くのはとても好きだし、興味のあることについてあれこれと考えるのも好きだった。でもこれがライターデビューなのかと思うととても緊張するし、なんとも心許ない。できるだけのことはしたいし、ちゃんとした文章を出したい。自分がしっかりしなければ取材相手にもご迷惑がかかる。そんな一心で準備をして、当日お相手の場所に向かう。
 
考えてみれば、何のエビデンスもない私の申し込みに応じてくださるなんて、それだけでも大変ありがたいことだ。天狼院というメディアがあればこその話で、そこだって下駄を履かせていただいている訳だからこれもありがたい話である。
今までもいくつかのメディアにライターとして応募したけど、年齢を聞くとテストライティングすらさせてもらえなかった。これから世の中は高齢者が溢れるというのに、若い人じゃないとだめって、そんなメディアはそれまでの話だよねとすっかり諦めていた。それが、こんな形でチャンスが巡ってくるとは。ここはもう絶対に失敗できないぞと私は力を入れて準備した。
 
そうして始まった、神奈川県の生産者についての連載企画には、本当にたくさんの方にご協力いただいている。
1番最初に伺ったトマト農家さんの、熱のこもったストーリーには胸を打たれた。ぶどう農家さんのご家族の皆さんの笑顔と、果物生産に対する情熱と、美しいぶどう棚の景色も忘れられない。熊澤酒造の、広大な敷地のどこにも溢れている「あるべき姿」とスタイリッシュの両立も見事だった。やまゆりポークの、豚肉の質の向上に対するあくなき探究もとても造詣が深かった。そして早朝の綾瀬市の畑で見たレタスの生き生きとした緑も美しすぎる。あやせコーンの美味たること、文章でこの美味しさってどうやって最大限に表したらいいのだろう。
 
毎回毎回、お話しいただく皆様はどの方も「熱」を込めていた。人の心の、まさに熱が入った部分こそ、伺った甲斐があるというものである。私は外に取材に行くときはいつもPCは持ち歩かないことにしている。持ち運ぶ機材の重量の関係で、PCを持つと身動きが取れなくなってしまうのだ。だから言葉はなるべくノートに取る。後でレコーダーは聞き返すけど、その場で感じたことをできるだけピンポイントで捉えたい時に、手書きのノートはとても簡単にできるのだ。

 

 

 

そしてこの連載が「物を言う」出来事が起こった。
以前の職場の同僚が、地域社会を元気にするオンラインイベントを立ち上げ、その中で行われるシンポジウムを執筆するライターを募集した。何本もあるセッションをレポートするために多くのライターを必要としていたその企画に、私は手を挙げた。応募する際に「過去実績」を問われた時、連載のURLを記載してみた。その結果、原稿作成依頼が来たのである。
 
この先、ライティングをどうしていこうかと考えていたところだったので、この依頼はとても嬉しいものだった。外部の人に認めていただくことこそが、ライターとしての実績を作るために必要だったからだ。
 
セッションは同時進行で何本も行われており、どのテーマをのぞいても皆さん熱心に語られていた。官民取り混ぜて登壇者がおり、不思議なことにどの人にも「我欲」がなかった。「うちの会社の売り上げを向上させるためには」を押し出してくる人が本当にいない。業界は異なるけど、皆さんが「地域をよくしたい」ことから全くブレずにいること、それだけでこのイベントに集っていることがとても感動的なことだった。
 
私はこのシンポジウムで2本の記事を書いた。どこをどのようにまとめるのか、タイトルやサブタイトルのつけ方や、キャッチコピーの書き方も編集の方に細かくフィードバックをいただいて、大変参考になった。そして何が登壇者さんたちのコンセンサスなのかを考えながらまとめる作業をしながら「自分ももしかしたら地域社会を活性化することに貢献できているんだ」と思うと、誇らしくなった。誰しもが1度は頭で考えていて、そうできたらいいんだろうなと思っていること、それが社会貢献だとして、実際にそれを体現できるチャンスは意外に少ない。頭では、心では思っていても、それをどう形にしたらいいのかがわからない。こんな自分でも、役に立てることがあるならと喜んで記事を書いた。

 

 

 

そのセッションの記事が公開されたのが今年に入ってからのことである。
そしてこの記事も、ちょっとした化学反応を起こすことになった。
私が書いた記事の登壇者さんのお1人の方から、オンラインインタビューと、オウンドメディアの記事を書いて欲しいと依頼が来たのだ。
 
私みたいな駆け出しの人に、頼んでいいの? と思ったが、そんなことは後にも先にもないかもしれないから二つ返事でお引き受けした。今度こそ心底びっくりしたとともに、文章は思わぬ方向に色々なことを導いていくのかもしれないと思うのだ。登壇者さんとの1対1のインタビューに失礼がないよう、企画書も悩んで悩んで練り上げた。その方の会社は第一次産業に関連したビジネスをされていたので、天狼院の連載で感じた地域社会のこともきちんと織り交ぜながら質問を完成させた。緊張しながらも当日を迎えた。精一杯考えた質問をして進行していくと、お相手からこんなコメントが来た。
 
「あなたはなんでそんなに鋭い質問するんですか? ちょうど先日株主さんからそのことについて訊かれたばかりなんでびっくりしました」
「生産者さんを取材したときに、地域社会ではこんなお悩みがもしかしたらおありなんじゃないかと思って、質問に取り入れてみました」
「いい質問だと思います!」
 
とてもドキドキしていたけど、この一言で救われたような気がした。自分が感じたこと、第六感とでも言えばいいのだろうか。直感を、肌で感じたことを大事にしていきたいという自分のライティングは、間違ってはいないのかもしれないと思うと少し自信がついた。
 
そして、何かを一から築き上げて成し遂げようとする人は、考えていることも明確でブレていない。まとまっているからインタビューの答えもわかりやすくて無駄がないのだと思う。そんな方とご一緒にお仕事ができただけでも大変勉強になる。それが全て文章が連れてきてくれたことだと思うと、感慨深いものがある。あの時、思い切って連載の提案をしてよかった。めげずに企画書を書き続けてよかったと思うのである。

 

 

 

そんなことをしているうちに、さらにありがたい知らせが入った。先に挙げた知り合いのオンラインイベントの第二弾のセッションが決まって、ここでも原稿作成のご依頼をいただいた。しかも今回は第一弾よりも多く記事を書いて欲しいとのことである。
自分でも、これから先の日本はどうやって再生していけばいいのだろうと考えているので、その企画に引き続き携われるのは本当に光栄なことだと思っている。このようなことを大人数、しかも影響力のある人を選出して連携するだけも大変なご苦労だから、そこに携われるだけでも素直に嬉しいことなのだ。
 
リアルでもオンラインでもそうだが、「何をするか」も大事だけどそれ以上に重要なのは「誰とするか」だと、第二弾で記事を担当した登壇者さんは語っている。人は人と出会うことで化学反応が起こって、さらにそこから新しいことが生まれる。言葉で書くと単純に聞こえるが、これを実現するのは本当に骨の折れる作業だ。そして根気よく交渉しても、自分自身に結果が出ていないと人はついてこない。だからまずは成果を上げたいと思っているのだ。
 
この半年くらいで私の身の回りに起きたことは、全部文章が連れて行ってくれたことに過ぎない。まずは自分の書く文章を客観的な視点から評価してもらいたいとして始めたライティングが、振り返ると色々な世界を垣間見せてくれたことは本当に不思議だし、面白い。これからも誠実に、自分自身の信念に背くことのないように、誰かの情熱と己の感性を表現していけたらと思っている。あくまでも粛々とお相手の望むことと自分の希望との交点を探していきたいのだ。無地のノートから始まって、これから文章が連れて行ってくれるのはどんな世界だろうか。楽しみにしながら、これからも私は書くことを続けていくのだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
青野まみこ(あおの まみこ)

「客観的な文章が書けるようになりたくて」2019年8月天狼院書店ライティング・ゼミに参加、2020年3月同ライターズ倶楽部参加。同年9月READING LIFE編集部公認ライター。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-03-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol,119

関連記事