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週刊READING LIFE vol.124

アニメ「BEASTARS(ビースターズ)」から学ぶ、「苦しみ」を分かち合いながら生きるということの大切さ〜「強者」と「弱者」の苦しみに違いなどはない〜《週刊READING LIFE vol.124「〇〇と〇〇の違い」》

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2021/04/19/公開
記事:すじこ(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
あなたは、「BEASTARS(ビースターズ)」というアニメをご存知だろうか。
アニメ好きや、マンガ好きは「名前だけ聞いたことがある!」と思う方も多いだろう。
 
「BEASTRAS(ビースターズ)」は2018年のマンガ大賞を受賞した作品で、翌年の2019年にはアニメ第1期が放送され、瞬く間に人気アニメとなった。
そして、昨年の冬から春にかけて待望の2期が放送され、無事物語が完結した。
 
2期と言えばアニメの主題歌とエンディングをYOASOBIが担当したことでも話題になった。
しかも、主題歌とエンディングのMVが「BEASTARS(ビースターズ)」のアニメーションをそのまま採用されているのでYOASOBIとアニメのファンである私はたまらなく嬉しかった。
 
しかし、なぜだろう。
YOASOBIの曲は話題になっていたが、「BEASTARS(ビースターズ)」を見たことがあるという方は少ない気がする。
 
いやー、もったいない。もったいなさすぎる。
と、いうのもこの作品、非常に面白いのだ。
 
しかも、ただ「面白い」というわけではない。
色々考えさせてくれる、「深い作品」とでも言おうか。
作品通してのテーマが非常に深いのだ。
 
この作品のテーマをひとことで表すと「共存」である。
 
物語の舞台は擬人化された肉食獣と草食獣が共に生活・共存する世界。
普通なら「食べる側」と「食べられる側」の関係性である2つの動物が対等に暮らすという
少し複雑な世界にある学園、「チェリートン学園」内で草食獣アルパカの生徒テムが、何者かに食べられた。食肉殺人だ。
 
外部犯という線は薄く、「肉食獣の生徒が食べたのではないか」という
あらぬ噂が流れる中、ハイイロオオカミのレゴシは、友人であったテムを食べた犯人を追うために様々な試練に立ち向かう。
「本当の共存」とはなんなのかを問いかける、そんな作品だ。
 
ね、面白そうだろう?
 
「BEASTARS(ビースターズ)」の表紙や、ポスターを見たことがある方はわかると思うがこの物語に人間は出てこない。
登場人物全員、擬人化された動物だ。
動物しか出てこなく、アニメのタッチも可愛らしいので、ぱっと見「ほのぼの学園ストーリー」かと思ってしまう。
私の友人もあらすじを教えるまで、「ほのぼの系」だと思っていたそうだ。
全く「ほのぼの」からかけ離れた作品ということは、もうお分かり頂けたと思う。
 
内容は第一話からミステリー要素が強くすぐに物語に引き込まれていく。
 
テムを食べたのは誰か。
なぜテムは食べられなくてはいけなかったのか。
 
一気に押し寄せるミステリー要素が読者を「BEASTARS(ビースターズ)」の世界観へ導いてくれる。おそらくアニメを見始めたら止まらなくなると思う。
 
アニメの1期目は、主に「チェリートン学園」内での生徒の心境が丁寧に描かれており、
特に殺されたテムとレゴシが所属する「演劇部」の生徒の心境が如実に描かれている。
「食肉犯がこの部にいるかもしれない」と怯えながらも「同じ部の仲間を怪しんではいけない」と相入れない感情が複雑に絡み合う草食獣の部員。
 
そして、「草食獣を怯えさせている」ことを申し訳なく思いながら「いつか、肉食の本能が目覚めて、草食獣を食べてしまうかもしれない」と自分の本能に怯える肉食獣の部員が同席する部活は、次第に廃部の危機に追いやられる。
 
肉食と草食が交わる部活は、危険と判断した大人都合の決断に最初は戸惑い、悩む部員だったが次第に「今部活に大切なのは、演劇を続けて『本当の意味での共存』を示すことではないか」と活動を再開する。
 
アニメ2期になると学園内の話だけではなく、学園外のシーンも多くなる。
学園の外の世界は一見、草食獣と肉食獣の共存がうまくいっている社会だが、一歩「闇市場」に足を踏み入れると、そこでは「食肉用の肉」が売られていた。
表面的に「共存」が上手くいっている世界は裏で予定調和がなされた世界だったのだ。
 
そんな「理想」と「現実」のギャップに打ちひしがれそうになりながらも、レゴシは草食獣の仲間の命を守るために体と精神を鍛え始める。
全ては『草食獣と肉食獣が本当の意味で共存できる社会』それを目指して。
 
このマンガのすごいところは、被害者サイドである草食獣と加害者サイドである肉食獣の両サイドの気持ちを繊細に描いているところだと思う。
こういう、「強者」と「弱者」がはっきりと分かれている作品は、どうしても弱き者の心情に加担してしまいがちになる。
その理由は簡単で、「弱者」の心情の方が読者は共感しやすいからだ。
 
「弱い者」がストーリーを重ねるごとに強くなりやがて「ヒーロー」となるという流れはマンガやアニメによくあるが、まさにあの流れが読者を共感に導くステップだ。
もし、はじめから「ヒーロー」だったら誰も読もうとはしないだろう。
最初から「最強」の力を備えられた人物がアニメの主人公だったら多分私は観ない。
 
やはり物語は「弱者目線」で描くことで共感を得るように作られている。
そのためどうしても「強者」の感情はおざなりのが常だ。
 
しかし、この作品は「草食獣」の心情も、「肉食獣」の心情も、バランスよく描いている。
特に2期になると、裏社会を占拠する肉食獣の暴力団が登場する。
本来、強いはずの組員が実は、差別的目線で見られていた過去を持っているなど、「強者」
にとっても、生きにくい社会という描写を描くことでこの物語がより魅力的になるのだ。
 
「強者」と「弱者」の苦しみを平等に描く。
言ってしまえば、これが『本当の意味での共存』なのかもしれない。
「弱者」の苦しみだけに寄り添うのではなく、両方の苦しみを分かち合う世界が『本当の意味での共存』なのかもしれない。
 
作中でも、草食獣が肉食獣の苦しみに耳を傾ける姿が描かれている。
例えば、クマは、筋肉が成長しすぎると草食獣を怖がってしまうから毎晩、筋肉抑制剤を飲んでると言う描写があったり、オオカミは草食獣に怖がられないようにあえて距離をとっているなど、草食獣側が思いもよらなかった苦労をしていたことに、驚いてる姿が各所に描かれていた。
 
やはり、この作品で一番描きたかった『本当の意味での共存』は、「お互いに分かち合う」ということ何かもしれない。
 
それは、現実社会も同じことが言えるかもしれない。
私は前職でそう思える体験を春になるたびにをしていた。
 
春というのは多くの会社が人事再編を行う。
新入社員が入ったり、部署が異動する人もいたり、中には転勤する人もいたりと、何かと騒がしい時期だ。
 
私が務めていた会社も例に洩れず人事再編が行われ、毎年、新たに何名か転勤で入ってきた。
私が属する部署は本社にあるのでつまりは、地方から転勤して来たことになる。
 
「地方」から「本社」へ配属になったことで
「今まで支社単位ではできない仕事を任される」、「会社を買える仕事に就ける」と感じる方も多くいらっしゃるが実際の本社業務はそこまで華やかなものではない。
 
「本社」と聞くと独断で方針を決める権限を持っていると思われがちだが、
各地域にある支店の意見を取り入れた上で最適解を導き方針を決める、いわば支店間の調整役に徹しているケースが多い。
 
その動作が支店の方にとっては「大きなプロジェクトを本社の独断で決めている」
と思われているのかもしれないが、実際は様々な立場の人の利害を一致させるための「調整役」になっている。
メール一つ送るにしても、様々な立場の方に送るため言葉の選び方については細心の注意を測っており、常に、誰かの癇癪に触れないかヒヤヒヤしながら送信している。
 
それでも、時にはやむなく意見が取り入れられないの支店もあり、その度に「支店の気持ちが本社はわかってない」と嫌味を言われたりもする。
 
しかしながら、その支店を嫌っているから意見を取り入れなかったわけではなく、他の支店と折り合いがつかなかったのでやもなく取り入れなかっただけだ。
その裏事情を知らない方には、やはり「本社」は現場の意見を聞かない独裁的な集団と映ってしまうのだろう「本社」だけで決められるものは何もない。
 
「支店」の意見があって初めて「本社」が機能する。
その方式は「本社所属」を背負った人間なら嫌という程知っているが、やはり側から見ると「本社」があって「支店」があると立場が逆転してしまう。
 
毎年本社に転勤される方は皆、口を揃えて「本社がここまで考えているとは思わなかった」と言っていた。
まさに草食獣が肉食獣の苦しみを知った瞬間と似ている。
 
「本社の苦しみ」と「支店の苦しみ」
形は違えど、苦しみの量に違いはないのではないか。
そう思った。
そしてお互いに苦しみが分かち合えれば、きっと良い会社のなるのでは。
そんなことを思った。
 
「草食獣」に苦しみがありように、「肉食獣」にも苦しみがある。
「支店」に苦しみがあるように、「本社」にも苦しみがある。
皆、苦しみがないように見えて、どこかで歯を食いしばっている。
形は違えど、必ず苦しんで、必ず悩んでいる。
その他人の苦しみを少しでも想像できれば
『本当の意味での共存』は達成できる。
そんなことを思わせてくれるアニメだった。
 
「BEASTARS(ビースターズ)」ぜひとも見ていただきたい。
そして、あなたも『本当の意味での共存』の意味を共に探していただきたい。
見終わった後、他人に優しくなろうと思える、そんな作品だ。
 
 
 

□ライターズプロフィール
すじこ(READING LIFE 編集部ライターズ倶楽部)

読者に寄り添えるライターを目指し修行中

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2021-04-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.124

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