週刊READING LIFE vol.124

妊娠前と妊娠中のメンタル《週刊READING LIFE vol.124「〇〇と〇〇の違い」》


2021/04/19/公開
記事:KATO RISA(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
2021年2月3日。
私に大きな変化が起きた。
 
1週間前くらいから体調が悪かった。
なんとなくお腹が重くて、気持ち悪さを感じる。
熱はないし、普段の体調不良とはなんか違う気がする。
 
もしかして…… と思い、病院にいくと、
予感は的中し、妊娠していることが分かった。
 
結婚してもうすぐ2年。
親や親戚からは会うたびに「まだかな~まだかな~」
と催促はあったものの、私自身は焦る気持ちはそこまでなかった。
 
友人から不妊治療の話を聞いたり、子に恵まれず養子を
検討する夫婦の小説を読んだりしたことはあったので、
不安がないと言えば嘘になる。
 
二人とも30超えているし、このままできないかもしれないな……
おばあちゃんおじいちゃん生きているうちにひ孫の顔を見せたいな。
もしできなかったらやっぱり老後に寂しいかな。
 
そんな思いはあったが、夫婦二人での生活も楽しかったし、
仕事も充実していたので、「このままでもいいかな」という気持ちもあった。
 
そんな時、発覚した妊娠。
 
レディスクリニックのおじいちゃん先生に「おめでたですねぇ~」
と言われて、思わずにやっとしてしまった。
 
最初の検診では、ぽっかりした空洞だけが見えた。
 
空洞は、「胎嚢(たいのう)」と呼ばれる、赤ちゃんを包むための袋だ。
まだ赤ちゃん自体の姿は見えないので、その時は実感があまりなかった。
 
その袋の中に薄いモヤのようなものが写っており、
先生にそれは血液だと言われた。
 
「仕事は、大変なほう? 遅い時間までかかりますか?」
「はい……、広告の仕事で、営業もするので昼間は歩き回りますし、
夜も21時とか22時とかになってしまいますね」
「そうか~仕事だから難しいかもしれないけど、無理はしちゃいけないよ。ちなみに
自転車とか乗ってないよね?」
「あ、今日駅まで乗ってきました……」
「あら~、それはもうやめてくださいね~ゆっくり歩きでね、走ったりもなるべくしないようにね。」
 
無理をすると出血することがあるらしい。
 
社会人になってから生活のほとんどが仕事だった。
結婚したら変わるかなと思っていたが、早く帰るようにしていたのは最初だけで、
なんだかんだ家事もそこそこに、仕事中心の生活になってしまっていた。
 
そして、この春からは新しいプロジェクトのリーダーも任されている。
喜びの一方で、このタイミングか……
職場の人になんて報告しよう…… と思ってしまったのが本音だ。
 
乗ってきた自転車を押しながら、悶々と考えながら帰宅した。
 
まずは旦那に報告。
最近は、サプライズでパーティーのように報告したりするのが
SNSではやっているらしいが、突然のことだったので普通に報告した。
 
「病院どうだった?」
「実はね、実は……」
「なになに、なんか病気だった?」
「ううん、あの~その……」
 
いざとなると照れくさくて言葉が出ない。
もじもじしていると、旦那が察した。
 
「もしかして、四文字の、アレ?」
「四文字?」
「に、から始まる?」
「ああ、うん、そう!!」
 
病院でもらったエコー写真を見せた。
 
「!!!!」
 
私はもしかして、と思って病院に行ったのでやっぱりな、という
気持ちもあったが、旦那には何も言わずに体調が悪いといって
病院に行ったので、とても驚いたようだ。
 
「わーーーい! やったーーー!」
 
気がつくと私に抱きついて、
子どものようにストレートに喜んでくれた。
 
もともと子どもが好きな旦那は子どもが欲しいという気持ちが強く、
大喜びだった。
 
仕事はこれからどうする?
上司や同僚にどう報告する?
コロナもまだ流行ってるし、どうやって生む?
そもそもコロナにかかったらどうしよう……
お金は大丈夫かな……
 
仕事のこと以外にも、不安はいくらでもあったが、
ストレートに喜んでもらうと、全部なんとかなるような気がしてきた。
親や、親戚にも報告し、喜びの明るい声をきくと不安も吹き飛んだ。
 
その日から、2カ月がたち、現在妊娠5カ月。
一般的に安定期と言われる時期に入った。
 
よく芸能人が「安定期に入ったので、ご報告します」と
SNSや、ニュースで見かけるので、安定期を心待ちにしていたが、
実は産婦人科の先生からすると「妊娠に安定期なんてない」らしい。
 
5カ月くらいになると、赤ちゃんに栄養を届け不要なものと交換する
役割をする胎盤(たいばん)が完成し、妊娠初期の流産の可能性が
低くなっているので安定期と言われるそうだ。
ただ、この先も流産の可能性がないわけでないので、安定期だから
大丈夫、と無理をすることなくかといって流産の心配をしすぎずに
過ごすことが大事だと教えてもらった。
 
妊娠が分かってから今日まであっという間にすぎた。
16週くらいまでがつわりのピークと言われるが、
幸い、私はつわりで苦しむことは今のところほとんどない。
 
来週はつわりで食べられなくなるかもしれないから、と
覚悟して週末にはカツ丼や、揚げ物、ガッツリしたラーメンも食べていたが、
なんだかんだ吐き出すこともなく、ただ体重が増えただけだった。
 
ただ、吐くことだけがつわりではないらしい。
 
ドラマや、漫画では食事や匂いで「ウッ」と吐き出す
姿をよく見るがそれは「吐きづわり」と言われ、
それとは逆に空腹になると吐き気を感じる「食べづわり」も
あることを知った。
 
どちらかと言えば、「食べづわり」気味だったようで、
吐くほどではないが、お腹がすいてくるとなんとなく調子が悪いので、
お昼をしっかり食べた後で、15時ごろにまた一食しっかり食べたり、
クッキーやゼリーを持ちあるいたりもしていた。
 
つわりで吐きすぎて入院する人もいるそうなので、
贅沢な話だと思うが、つわりがなければないで、不安になるのは自分でも驚いた。
 
初期のうちは流産の可能性も高く、つわりがないと本当に赤ちゃんは
お腹の中にいるのかな、無事に育っているのかなと気が気じゃなかった。
 
病院にいって、エコーを見たり、心臓の音が聞こえた時には、
本当にホッとした。
一人の人間の命が私にかかっているのかと思うと、喜ばしいことが
不安になったり、気持ちが不安定だ。
 
ただ、眠気や、頭痛、頻尿の症状もつわりの一部だと聞いて少し安心した。
眠気は、ひどい。
もともと夫婦そろってよく寝るほうで、
休日はいったん起きて、ご飯食べてお昼寝、買い物にいったら
お昼寝、と子どものような生活をしていた。
 
それがさらにひどくなり、眠気が強い日だと
どこにも外出せず、12時間ほど眠っている日もある。
 
トイレの回数も増えた。
子宮が大きくなり膀胱が圧迫されることで、頻繁にトイレに行きたくなる。
ひどい時だと、ショッピングセンターでトイレに入り、
出てきて旦那と合流し、2、3分してまたトイレに行きたいような気がしてくる。
 
一度寝るとトイレに起きることはほとんどなかったが、
夜中に何度か起きてしまう日もある。
トイレットペーパーの量が増えるとは、妊娠前に想像していなかった。
 
そして、一番心配していた仕事のこと。
ちょうど今年の1月に放送された
「逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類! 新春スペシャル!!」
で妊娠と仕事の両立についても描かれていたのを思い出す。
 
主人公のみくりは、つわりがひどく、仕事に行きたいけれど
休まざるをえないという状況に苦しんでいた。
時短にしようか考えるが、育休期間中に貰える「育児休業給付金」は、
産休に入る直前の給与から計算されるので、
辛くても、フルタイムの仕事を続けることにする。
 
私は、幸いつわりはひどくなかったが、
最初の検査の時に先生に言われた言葉が引っかかっていた。
 
無理をして、そのままの働き方をして出血がひどくなったり、
万が一のことがあったらどうしよう。
 
同時に、仕事への責任と、現実的に先々のお金のことを考えると
このまま働くしかない。
 
5週目くらいのころにまだ早いかな、とは思いつつも
思い切って、直属の上司に相談した。
 
「実は、妊娠が発覚しまして……」
「そうなんだ!!! おめでとう!! 良かったね!!!」
 
男性の上司だったのでなんと言われるか心配だったが、
ちょうど上司の奥さんも妊娠しているそうで、
大変さも分かると理解を示してくれたのと、純粋に喜んでくれてホッとした。
 
同じチームの同僚数人にも話したが、
「無理しないようにしてくださいね」
「おめでとうございます!!」
と温かい言葉をかけてもらった。
 
数年前までは、産休、育休制度を使う社員は少なかったが、
最近はたくさん増えてきて、復帰して限られた時間で結果を出している人や、
二人目、三人目と産休、育休を取りながら長く働いている人もいた。
 
それでも、いざ自分が産休、育休となると周りの目はやっぱり気になる。
 
実際に私がしていた仕事は誰かに引継をしなければならず、周りの人の
仕事量は増える。
このご時世、あからさまに迷惑そうな態度をとることはできないかもしれないし、
良かったね、という言葉の裏の本音が気になった。
 
でもそんな心配も最初だけだった。
つわりがひどくなかったので普通に毎日出勤ができ、変に気を使われるすぎることもなく、
今まで通りの仕事量と、生活をしている。
 
営業職でチームの数字を任されているポジションでもあるので、
私にできるのは、私が産休・育休に入った後の契約もできる限り残して、
同僚や後輩に引き継げるようにしていくことだ。
そう決心したら、いつの間にか不安もほとんどなくなっていた。
 
そして、最後の心配はコロナのこと。
旦那は夜勤もある仕事なので、もし夜勤の時に陣痛が来たら……と
思うと恐ろしく、里帰り出産を考えていた。
 
3月頃、希望の病院に電話してみると、
「コロナの関係で、現状は県外からは里帰り出産の予約がとれないんです。
また28週くらいに電話してもらって、その時の状況で判断しますね」と言われて
焦った。
 
昨年のニュースで、コロナで、急遽出産する病院から分娩を断られてしまって
出産直前で慌てて病院を探す女性の姿が流れていたのが思い浮かぶ。
 
もしそうなったらどうしよう。
 
不安を抱えながらも、何件かピックアップした病院に電話をすると、第一希望の
病院より少し遠いが、予約はとれる病院を発見した。
 
ただ、28週には検診にいかないと行けないそうで、さらにコロナの関係で
実家に帰省してから2週間たってからでないと検診を受けることができない。
そうなると、通常よりも1カ月ほど早く産休をとらないといけなくなる。
 
さらに、産後1カ月まで自分はもちろん、家族の不要不急の外出、県外に行くこともNG。
旦那が後から合流するのもNG。
分娩の際も病院に入るのは私一人。分娩時に家族が病院に問い合わせの電話するのもNGで、
万が一のことがあったら病院から連絡をするそう。
 
コロナ禍だからと覚悟はしていたものの、一人で産む、と思うと怖い。
でも、しかたない。
 
先輩ママ達に話をきくと、旦那に立ち合いをしてもらって安心したという人もいるが、
逆に旦那が自分より焦ってしまって一人のほうが気楽だった~と話す人もいたので、
なんとかなるだろう。
 
それに、一人ではなく赤ちゃんも一緒だ。
私も出産は初めてで心配だが、赤ちゃんは全てが初めてだ。
 
だから、一緒に頑張ればいい。
 
こうして不安は少しずつ解決して今日まできた。
今のところ、順調に成長しているようで安心した。
 
これからどんどんお腹が大きくなって、時間がたっていけば、
また新しい不安が生まれ、情報を得て、安心する、の繰り返しなんだろう。
 
生まれてからもずっとその繰り返しなのかもしれない。
 
それでも、大丈夫。
不安があるのは、妊娠していなくてもきっと同じだ。
進級、進学、就職、転職、結婚。
今までの人生でもたくさんの角出で、変化と不安を感じ
それを乗り越えてきた。
 
だからせっかくならば今この瞬間を楽しもう。
検診にいくたびに驚くほどに成長をしている赤ちゃんの姿、
どんどん大きくなるお腹、
最後の夫婦二人の時間。
 
この時間は永遠にかえってこないから、不安でいっぱいになってしまったら
もったいない。
 
出産予定日まであと、163日。
もう少しで性別も分かるかもしれない。
 
海外から日本へ流行がはいってきたジェンダーリビールケーキをご存知だろうか?
ケーキをきって、赤ちゃんが男の子なら青のクリーム、女の子ならピンクのクリーム
で男女を発表するサプライズイベントらしい。
 
妊娠発表はあっさりしてしまったから、
今度は旦那や家族にサプライズで報告するのもいいかもしれない。
 
 
 

□ライターズプロフィール
KATO RISA(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

長野県出身。学生時代からフリーマガジンを発行する
活動に参加。現在は名古屋のフリーマガジンの編集室長を
務める。今秋、出産予定。

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2021-04-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.124

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