週刊READING LIFE vol.124

結婚20年目、コロナ禍でようやくわかった夫婦円満の秘訣《週刊READING LIFE vol.124「〇〇と〇〇の違い」》


2021/04/19/公開
記事:大久保 尚(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「なんか、最近、今まで以上に家庭がうまく回っている。」そう感じる。
 
昨年から、コロナの影響でめっきり在宅比率が増えた。それまでは、ほとんど毎日外で仕事をし、家にいるのは夜と朝だけであったのが、ほぼ毎日家にいるようになった。世の中でも、そのような働き方になった人も多いのではないかと思う。いわゆる、ニューノーマルという、違和感のある言葉で表現される普段の生活の変革が起こり、社会との付き合い方はもちろん、家族との付き合い方も変わった。
 
そんな中で、一部報道では、コロナの影響で離婚や家庭内DVの増加などが増加したという。
 
我が家もご多分に漏れず、ほぼ在宅勤務になってから、しばらくは、今までと違う生活に家庭内で不協和音が生じていた。
 
私の仕事はコンサルティングだ。
主に、企業の売上促進及び、組織のコンサルと、研修等の講師が仕事だ。
 
会社の足りない部分や、改善ポイントなどを指摘して、業績アップを図る、もしくは、幹部社員や、若手社員にむけて、研修を実施し、意識改革を促すということを実施している。
いままでは、相手先の会社に出向き、改善点の相談やら、講義などを実施していたが、それが、全てオンラインによるものに変わった。
 
一方で、当時、私の妻はちょうど仕事を辞めて、専業主婦状態。買い物等で外に出ることはあるが、ほぼ一日家にいて、さまざまな家事をこなす。ときには、息抜きにテレビをボーッと見る時間もあったようだ。
 
そして、高校を卒業して、大学生の1年生になったばかりの娘は、コロナの影響で入学式も行われないままキャンパスライフならぬオンラインライフを送るようになり、これまたずっと家にいるようになった。
 
我が家は、春を境に、一家総引きこもり状態に突入したのだ。
 
まさに、今までみんなが外に出て、日中誰もいなかった家の中の密度が急上昇した。これは、漫画に例えるなら「キン肉マン」のペンタゴンによるクロノスチェンジという技、もしくは、「呪術廻戦」の東堂の術式のように一瞬で立場が入れ替わるような劇的な変化だった。
 
一つだけ、幸いなことは、我が家は一人一部屋与えられているので、リビング以外では、それぞれの部屋で過ごすことができる。私も自分の部屋を仕事場として使うことができるので、常に誰かと一緒にいいなくてはいけないということはない。なので、一日中誰とも顔を合わせないというようなこともできてしまう。ただ、断っておきたいと思うが、家庭内別居とは違い、基本的に部屋のドアが空いている時は出入り自由、仕事中や授業中もしくは、何かに没入している時は部屋のドアを閉めるという、暗黙の家庭内ルールが出来上がっている。そのため、割と家庭内の仲はいい状態を保っていた。
 
しかしながら、問題のタネは総引きこもりになった時から、燻っていた。
 
一つは音の問題である。私はコンサル、講師という仕事をしているが、基本的に話すことが仕事となる。打ち合わせの時もあるし、講義の時もある。ときには、夜にクライアントと打ち合わせをすることもある。流石に、音楽家でもないので、自分の部屋が防音加工になっているわけではないので、壁越しでも他の部屋に音が漏れてしまう。
 
そして、仕事ならまだしも、外での会食も無くなってしまったので、オンライン飲み会というものが流行った。オンラインで、ただ単に飲んでいるのが面白くないと思った私は、オンラインだからこそできる遊びを考案し、「Kahoot!」というアプリを使ったクイズや、「Youtube」を使ったイントロ早押しクイズなどを考案し、実施した。
 
ところが、これらのゲームが予想以上に夜中まで盛り上がり、特にイントロクイズなどは物理的に音も出てしまうため、私の妻の逆鱗に触れることとなった。
 
二つ目は家庭内の仕事の割り振りの問題である。いわゆる家事というものだ。私は会社に働きに行っていた今までほとんど家事というものをやってこなかった。妻はよくこう言う。「あなた、娘のオムツを一回も換えたことがないよね。」いやいや、流石にありますよ。何回も。だが、妻の記憶の中ではそれくらい私は家のことを何もやらない人間だと認識されているらしかった。
実際、それに近い感じで家事をやっていなかったので、仕方がないが、我が家はまさに、桃太郎家と同様、「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へせんたくに」状態であった。
 
家事は火事になる。
 
妻は、私にブチ切れ、そして、とばっちりとして私の娘にもブチ切れた。
ある時を境に、妻は「家の家事との絶縁宣言」を出したのである。
 
ここで、私の仕事の話をしたいと思う。
 
前述したように、私は組織コンサルという仕事をしている。この仕事は、主に中小企業に対して、組織がうまく回っておらず、社員がバラバラ、また、社長が一人で浮き足立ってしまっているような企業の中に入り、研修により、社員の意識改革や制度の見直しなどを行い、結果として組織改革をして業績アップにつなげるというのが仕事だ。
 
この仕事をしてみて、人のタイプや組織のタイプには型があることを学んだ。例えば、人に対しては仕事をする上での性格として、概ね4つのタイプに分けられる。1つ目は「独走する人」、2つ目は「ノリのいい人」、3つ目は「分析する人」そして最後は「強調する人」だ。自己主張という点では、一に目から順に強くなる。なので、社長として一番多いタイプが「独走する人」となる。そして、その走りに誰もついてこられず、社員と仲が悪くなり、最終的に社員が辞めてゆく。というような悪循環に陥ったりする。
 
そして、組織については2つのタイプがある。今、巷でよく叫ばれている、「ジョブ型」というものと、「メンバーシップ型」というものである。
 
いうまでもないことかもしれないが、「ジョブ型」という組織は、仕事のタスクを社員レベルまで細分化し、その作業内容に対して報酬を払うという制度である。つまり、企業は、人を雇うというよりも、作業を買うというような姿勢になる。なので、その作業をする人がいなくなっても、新しい人を雇えばいいというような、まるで、機械の歯車を替えるようなイメージで人を採用してゆく。会社が求めるのは、人間としての個の強さであり、水泳選手のような、個人種目のアスリートのような人である。
 
一方の「メンバーシップ型」は、仕事のタスクはあるものの、みんなで助け合いながらチームのゴールを達成しようとする。個の強さよりも、チームのまとまりが必要で、足りないところは他のメンバーの助けも借りながら、チームのゴールを達成する。つまり、団体スポーツ、いわゆる、甲子園出場を目指す高校野球部のような組織のことを言う。企業としては、個人の力に加えて、強調性や寛容性なども求める必要がある。
 
一般的には、会社の企業期と、成熟期は「ジョブ型」の組織が機能し、中間の成長期には「メンバーシップ型」が向くと言われる。
 
しかしながら、世の中には、自分の会社が本当の意味で、どっちの「型」なのか理解していない人が多い。それは、なぜかと言うと、上司、もしくは社長でさえ、自分の組織がどちらの型なのかわかっていないからである。
 
私は、以前、外資系の会社で部長をやっていたことがある。この時、ご多分に漏れず、私は自分の会社が「ジョブ型」なのか「メンバーシップ型」なのか、あまりよく理解できていなかった。「外資系だから「ジョブ型」だよな」と漠然と感じていた。
 
実は、特に、外資系はこの部分に気をつけたほうがいいのである。なぜなら、外資系には中途採用で採用されてくる人が多い。そして、その出身は、日系の企業であったり、外資系の企業であったり、結果至上主義の会社であったり、プロセス重視の会社であったり、さまざまな文化の中から集まってくる。
そうすると、「ジョブ型」と「メンバーシップ型」のそれぞれの文化で育った人たちが入り混じる。
そこに、不協和音が生じる。
 
私自身は、仕事をするときに「チームとして結果を出す」と言うことを目標にして仕事を進めるようにしてきた。もちろん、個人個人に仕事を割り振り、個人の目標の達成を最優先に仕事を進めてもらうのだが、自分の目標が達成できたら、なるべくプラスアルファの仕事をして、さらにチームに貢献する。そうすることが仕事の姿勢だと思っていた。
 
ある時、私のチームとしての年間の目標が届きそうにないという状況があった。そんな時、私の部下には、すでに個人の目標を達成していて、ほぼ毎日定時に帰るAという部下と、年間目標の達成がすでに難しくなっており、だが、毎日遅くまで残業してしまうBという部下がいた。
 
私は、チーム目標達成のためには、Aにもう一踏ん張りをしてもらう必要があると思い、Aに「今の数字をもう少し増やすことはできないか」と頼んだ。しかし、Aの答えは「私は自分の仕事をきちんとこなしています。Bさんが目標を達成はBさんがなんとかするべきです」というものだった。
 
私は耳を疑った。
 
当時の私は、それまでの社会人経験から、数字に困っている人がいたら、助け合って数字を達成するものだと信じていた。実際、社会人になりたての新人の営業の時も、外資で個人の成果連動の給与体系であったにもかかわらず、数字の達成が難しくなった際、先輩が案件を譲ってくれたことなどがあり、私も同様に後輩に対して行ってきた。それが会社のあり方だと思っていた。
 
実は、この思い込みが間違いだった。私の外資=「ジョブ型」という認識は初めから間違っていた。私は外資にいながら「メンバーシップ型」の文化を歩んでいたのだ。
 
当時の私は、このような会社の型を考えることもなく、ただ単に自分の価値観のまま会社の中、世の中を見てしまっていた。要は未熟だったのである。
 
おそらく、多くの会社の経営者、そして経営層の人は、自分の部下に対して、その組織が「ジョブ型」なのか、「メンバーシップ型」なのか、そして、その両方がある、「ハイブリッド型」なのかを説明できていないのではないかと思う。だからこそ、さまざまな不協和音が生まれるし、文化の違い、コミュニケーションの違いなどが絡まり、各種ハラスメントの問題などが起こる。
 
話を我が家に戻す。
 
「家事との絶縁宣言」を出された私と娘は、少し時間をとって話し合うこととした。
そして、出した結論は、「私たちもしっかりと家事をやろう」という至極当たり前のものだった。
 
つまり、今まで、私は「仕事」、妻は「家事」そして、娘は「勉強」というような、「ジョブ型」の家族関係を一度とっぱらい、みんなでしっかりとした家庭をつくるという、「メンバーシップ型」の家庭にすることを決めたのである。
 
そして、一応、家事についての主担当を決め、それを紙に書き、掲示することにした。そして、ルールとしては、誰かが忙しくて主担当の家事ができない時は、気づいた人がその家事を手伝うというものにした。
 
それから、私は、ほぼ毎日、洗濯をし、それを干して、取りこむようになり、朝と昼は自分でご飯を作るようにいなり、そして、食器を洗うようになった。加えて、トイレ掃除と風呂掃除、ゴミ出しなども積極的に行うようになった。
 
毎日、昼過ぎまでベッドから起き上がらず、午前中の授業でさえも、ベッドの中で寝転びながらオンライン授業を受けていた娘も、当たり前だが、椅子に座って授業を受けるようになり、私の取り込んだ洗濯物を畳んだり、食器を洗ったりするようになった。
 
今年で結婚20年目。今までもちょっとしたことで、夫婦喧嘩をすることがあった。よく考えると、多くは私が家事をしないせいで発生していたことが多かった。その都度、私の妻がプチプチ切れて、私を責め立てるということをしていたのだということを、自分が家事をするようになって改めて感じた。
 
そうか、積極的に家事を手伝うことで、家庭というものはこんなにうまくいくものなのか! 結婚20年目にして、かつ、コロナがあったからこそ気づけた、私の中の家庭円満の真理であった。「何事も悪い面ばかりではなく、いい面というものもあるものなのだなー」と感じることのできた出来事だった。
 
さあ、今日もいい天気! さっさと洗濯を終わらせなくては!
 
 
 

□ライターズプロフィール
大久保 尚(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

埼玉県生まれ。中央大学出身
「マーケティングの力で日本を元気にする」というスローガンのもと、マーケティングコーチ、組織コンサルという個人事業主及び中小企業向けに業績を上げるためのコンサルティングを実施。日本HPおよび、アマゾンジャパンにおいて、トータル20年マーケティング職に従事。特にアマゾンでのマーケティング責任者としての経験を生かし、講師や講座などを実施。
その他、自分が英語で苦労をし、それを克服した経験をもとに、3ヶ月で結果が出る英語コーチとしても活動をしている。

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2021-04-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.124

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