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週刊READING LIFE vol.126

勝手に、復活!《週刊READING LIFE vol.126「見事、復活!」》


2021/05/03/公開
白銀肇(週間READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「もう学校に行きたくない」
 
次女がそう言い出したのは、中学生になった9月、体育祭が終わった直後だった。
 
小さいときは、とにかく外で遊ぶのが好きで、男の子と一緒になって飛びまわり、ダンゴムシをポケットに詰め込んで帰ってくるような子だった。
 
その性質のまま小学生となり、それこそ卒業するまで同級生の男の子と、渡り合うようなやり合いもしていた。
仲のいい友達もいた。
中学校は、小学校と同様に地元の公立中学校だから、その交友関係はそのまま中学校でつづいていく。
 
体を動かすことが好きだったから、中学校に入ってから陸上部に入った。
先生からも「素質あり」といわれて、本人も結構がんばっていたように思えた。
実際、体育祭ではリレーも走った。
 
だから、「学校に行かない」と聞いたとき、我が耳を疑った。
突然であったことは、もちろんなのだが、いままでのことを振り返ってもその理由がわからなかったからだ。
 
それは、家内も同じ思いだった。
青天の霹靂とは、まさにこのことだ。

 

 

 

親としては、ありきたりの対応だけど、行きたくない理由を聞き出そうとする。
しかし、彼女は頑なにそれをいわない。
この子が、頑固なのは知っている。
おそらく、ここまで決め込んでいるのであれば、この子は絶対にいわないだろう。
そして、理由をいわないだけではない、きっとこのまま不登校を実現させるだろうな、と思った。
 
理由もわからずに不登校か、と思ったとき、さすがに悩んだ。
このときは、次女がなんとか学校に行く方法はないだろうか、と思っていたからだ。
言い換えれば、「学校にいかせるには、どうしたらいいだろうか」という表現にもなる。
 
しかし、理由もわからないしどうしようもない。
学校の先生も、お手上げの様子であった。
何かのきっかけで、学校に行く、と本人が言い出すまでどうしようもないのだろうか。
 
しかし、この出来事は、私にとってもいい経験だった。
これを機会に、自分の気持ちにも向き合えたからだ。
 
このときの正直な思いは、我が家の娘が不登校になった、ということの「引け目」だ。
なぜ「引け目」なのか。
その思いを突き詰めたら、それは人の目を意識している、ということだった。
結局、娘のことではなく、自分の家がどうみられるのか、ということに意識が向いていたことに気がついた。
これに気づいたとき、我ながら情けない思いだった。
 
このとき腹を決めた。
次女の気持ちに付き合うことにしよう、と。
 
本人の思いを尊重するしかない。
こちらがあれこれ言っても、本人が納得しなければ意味がない。
そう思うようにした。
 
私の場合は、まだ救いだったと思う。
このタイミングで、北陸地方に単身赴任となったからだ。
いくら、腹を決めたとしても、家にいて、次女の姿をみたら何かしら干渉してしまうこともあっただろう。
しかし、物理的な距離が離れているから、その心配がない。
 
その点、家内は頑張ってくれたと思う。
時としては、次女とやりあったこともあったようだ。
だけど、家内も思いは同じで、次女の気持ちに踏み込むようなことはしなかった。
 
もうひとつの救いは、引きこもりではなかったことだ。
不登校といいながらも、抵抗なく外に出かけることもあった。
家のなかでの様子は、いままでとまったく変わりはなかった。
そう思うと、不登校の理由が何なのか、ますます気になってくるというものだ。
だけど、もう聞かない。
それを聞いたところで、もう何かができるわけでもない。

 

 

 

中学校2年の2学期だっただろうか。
ちょっと面白い現象が起こった。
中間テストの理科で、90点以上の点数を取ってきたのだ。
 
試験は、学校ではなく、不登校生が不定期に通う教室で受けた。
 
このようなことは、後にも先にもこれだけだったが、自分なりに勉強しようと思い、トライアルした結果での出来事だったと聞いて安心したことを覚えている。
点数がどうこう、ではない。
自分でやるべきことを決め、それを行動に移していたからだ。
ちゃんと状況判断しているのだな、と思えた。
だとすると、彼女の不登校も、実は何かしら意味があるのではないだろうか。
 
長い人生のなかでの、3年間のことだ。
世間一般とは違う流れがあってもいいのかもしれない、と何となく思えた。
 
自分たち世代が思う不登校と、彼女たちが思う「学校に行きたくない」という思いは同じなのか、違うのか、果たしてどっちだろうか。
 
時代の差があるから、違うようにも思えるけど、想い叫びたくなる感情は同じなのかもしれない。
ただ、自分たちは、そこまで言えなかっただけかも、という気がしないでもない。
だとしたら、自分も娘も、本質は変わらない。
違うのは、生きてきた時間と環境だけだ。
 
時の流れの価値観もあるし、環境の価値観もある。
ただ、その価値観が真理なのかどうかは、皆目わからない。
多数決の多い意見が、必ずしも絶対的な正解とも限らない。
 
彼女が「学校に行かない」と宣言してから、本当にいろんなことを考えさせられる。

 

 

 

中学校3年になると、さすがに今後の進路をどうするか、否応なしに突きつけられる。
本人は高校に行きたいような、どうしようか、という感じだ。
 
結果として、中学校は1年生の9月から、一日たりとも行ってない。
学校に行ってないわけだから、成績もそれ以上伸びていくわけでもない。
 
定時制、通信制、私立になってしまうのか、公立でいけるのか。
下世話な話かもしれないが、金銭的な面で悩ましく思ってしまうところだ。
まったく予期しなかったできごとだ。
他では、こういうことも想定して貯蓄とかしているのだろうか、なんてことも思った。

 

 

 

彼女が、中学校3年となった春先だった。
思いもよらない、情報が舞い込んできた。
 
それは、やむをえずに不登校になった生徒を受け入れることを前提とした、府立高校が新規に立ち上がるというものだった。
基本的には定時制なのだが、夜間のそれでははない。
 
その開校は、次女が高校進学するタイミングと同じだった。
 
正直に言おう。
誠に下世話なことだが、せめてこの高校に進んでくれたらとてもありがたい、と思った。
 
しかし、これは親だけの思いではなかった。
ありがたいことに、次女もこの学校に興味を示した。
 
このとき思った。
ひょっとしたら、この子は学校に行きたいのではないだろうか。
もともと活発な子だ、外に向かって動きたい気持ちはあるのではないだろうか、と。
案の定、この高校の説明会や、個別進路相談といったイベントに積極的に参加する。
 
この学校を受験する準備に取り掛かる。
本人もその気だった。
 
授業のコースが、午前のみと、午前午後の全日と分かれた。
在籍年数も、午前であれば4年、午前午後でなれば3年、といったものだった。
つまり、最初から、3年間で高校を卒業するコースと、4年かけて卒業するコースがあった。
 
次女はためらわず、午前授業のみの4年生志望で受験した。
ありがたいことに、これに合格する。
 
このとき、私はまだ単身赴任の最中だった。
合格の吉報を、L I N Eでもらったときは本当に嬉しかった。
 
中学校は頑なに学校に行くことを拒んだ次女。
しかし、高校はどうやら行く気満々のようだった。
実際に、高校は最後まで普通に通った。
中学校を、ほぼ3年間行っていないことが嘘であったかのように、高校は卒業まで通いとおした。
 
高校での生活ぶりを、次女自身から聞いたとき、なんのことはない、しっかりと今まで通りの自分をさらけ出しているように思えた。
こちらに心配をよそに、次女は見事に、かつ勝手に復活していく。
 
学校の活動以外にも、バイトもしだしたり、活動範囲が広がっていくのがわかる。
彼女は自分で考え、自分で動いている。
 
こちらは、何も手出しはしていない。
 
高校卒業してから、短大に通い出したが、1年も待たずにそこもやめてしまった。
「自分の思うところにあらず」が、その理由だった。
他にやりたいことがあるから、といってあっさりとやめた。
自分なりに考え抜いてのものだから、それ以上何も言えないし、言おうとも思わない。
 
その後も、自分で仕事を見つけては、面接を受けて、ご縁があれば仕事する、というスタンスを続けている。
親として、そこに付け入る隙はまったくない。
むしろ、自分で自分の行き道を探して進んでいることが、ありありとわかるので、安心していると同時に心強く思っている。
 
これからは、おそらくそういう生き方や考え方が中心になっていくのではないかな、と思うから。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
白銀肇(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)

京都府在住。
2020年6月末で29年間の会社生活にひと区切りうち、次の生き方を探っている。
ひとつ分かったことは、それまでの反動からか、ただ生活のためだけにどこかの会社に再度勤めようという気持ちにはなれないこと。次を生きるなら、本当に自分のやりがいを感じるもので生きていきたい、と夢みて、自らの天命を知ろうと模索している50代男子。

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2021-04-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.126

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