週刊READING LIFE vol.126

万年肩凝り脱出への道 ~ たかがマウス、されどマウス。《週刊READING LIFE vol.126「見事、復活!」》


2021/05/03/公開
記事:中川文香(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
私はひどい肩凝り持ちだ。
 
美容院に行くとサービスで頭や首肩周りのマッサージをしてくれることがある。
その時に毎回必ずと言っていいほどこんな声をかけられる。
 
「わ、肩バッキバキですね! こんなに凝ってて具合悪くなったりしませんか?」
 
そんなに心配されるほど?
と内心思いつつ「そうなんですよね、よく言われます」とお茶を濁す。
ここまでが美容師さんとのお決まりのやりとりになっている。
美容院をコロコロ変えるし、特に指名もしないので、毎回新しく出会った美容師さんとフレッシュにこんな会話を繰り返すのだ。
 
美容師さんの他にも、たまに通っていたマッサージの人にも整体の先生にも、色んな人から肩の心配をされてきた。
けれど、これまで特に問題は無かった。
ただただ肩がものすごく硬く凝り固まっているというだけで、頭痛や吐き気に見舞われるなどの体調の変化も無く、ごくごく平和に暮らしてきたのだ。
“肩が硬く凝っている” という事実があるだけで、私にはそれ以上も、それ以下の問題も生じていなかった。
とりわけ問題が無かったので特に気に留めることもしておらず、一体いつから私の肩はこんなにバキバキなのか、なんてことはもう覚えてもいない。
記憶をたどる限りでは、高校時代にはすでに肩が凝っていた気がする。
私は昔から心配性で荷物持ちだったので、学生の頃から大きなカバンを持ち続けた長年の積み重ねが、文字通り私の肩に重くのしかかっていたのだろう。
 
その上、いくら揉んでもほぐしても、私の肩は柔らかくはなってくれない。
つまり、常に肩が凝っている状態がデフォルトで、その状態で私なりに快適に暮らしていた。
 
しかし、そんな風にうまい具合にバキバキの肩凝りと付き合ってきた私に、転機が訪れる。
 
加齢である。
 
ここ最近、というか30代に入ってから、もっと正確に言うと30代半ばに差し掛かった頃から、私の右肩は悲鳴を上げ始めた。
これまでどんなにバキバキに凝っていても何ともなかったあの肩が、ついに痛みだしたのである。
 
掃除機をかけ始めると10分ほどで、右肩が痛み出す。
掃除の途中で手を止めて肩をぐるぐる回さざるを得ない。
紙に文字を書いているときにも痛み出す。
私はどうやら筆圧が強いらしい。
ペンをぎゅっと握ってしまう癖があるようで、右手中指にぷっくりと膨らんだペンだこは小学生の頃からの付き合いになるし、ペンを握っている時に親指と人差し指の付け根境目にくっきりとしたくぼみが出来る。
それでも、以前はいくらノートをとっても肩が痛くなることなんてなかったのに、今では20分ほど継続して書き物を続けると肩に激痛が走るようになった。
毎朝ノート3ページ分、頭に思い浮かんだことを片っ端から書き留める、という “モーニングページ” を一時期試していたのだけれど、あまりの肩の激痛に耐え切れず辞めてしまった。
“モーニングページが続けられない” 、という原因の中には、「面倒くさくなった」「時間がとれない」などの他にも「肩の痛みに耐えきれなくなった」というものも存在するのだ、ということを、身をもって知った。
さらに困るのが、パソコンだ。
原稿を書いたり、資料を作ったり、仕事をする上でも欠かせないパソコンだけれど、以前は何ともなかったこの作業中にも肩が痛みだすようになってしまった。
パソコンを触り始めてしばらく経つと、いつの間にか頭を左右に傾けている自分に気付く。
首筋を伸ばして少しでも痛みを和らげようという無意識がなせる業である。
“また肩が痛くなるかもしれない” ということを考えると、パソコンを触るのが憂鬱になってしまう。
 
困った。
 
これまでは何ともなかったのに……
加齢にはどうしても勝てないのか……
 
しょんぼりしながらネットサーフィンしていると、とある動画が目に入った。
 
“トラックボールマウスは肩凝りにおすすめ”
 
トラックボールマウス、名前は聞いたことがあったけれど使ったことが無かったし、身近に使っている人を見たことも無かった。
 
肩凝りに、いいの?
 
興味本位でGoogle検索してみると、変わったフォルムのマウスの画像が出てきた。
やや大ぶりのマウスにでっぱりがあって、そこにコロンとした球体がついている。
パソコン画面上でマウスポインタを移動させる際、普通のマウスは机の上を滑らせるようにマウス本体を動かすけれど、トラックボールマウスはこの球体をコロコロして、マウスポインタを移動させる、と書いてある。
ネットショッピングの口コミ欄には
「使いづらくて慣れるのに時間がかかったけれど、確かに良い」
「普通のマウスと比べると高いけれど、お店で試してみると意外と操作性が良かった」
という好意的なコメントが並んでいる。
 
ほう。
 
もちろん、検索した結果「逆に腱鞘炎になった」「やっぱり使いづらくて普通のマウスに戻った」なんていう口コミもあるけれど、時すでに遅し、もう私の目には好意的な書き込みばかりが目に入るようになっていた。
 
そんなに、良いのかな?
 
トラックボールマウスという未知の物体に、ぐいぐい興味を惹かれている自分がいた。
 
ただし、口コミにも書かれているようになかなかのお値段がする。
今使用しているマウスは確か1,000円程度で購入したものだけれど、おすすめのトラックボールマウスを検索すると最低でも4,000円程度、中には一万円超えのものまである。
 
マウスに4,000円……
お金かけ過ぎじゃない?
 
いやいや、でも背に腹は代えられないし。
これで肩凝り解消したら安いもんじゃないの?
 
私の中の天使と悪魔が両方からささやく中、ショッピングサイトにログインしてポイントを確認する。
「期間限定ポイントが5,000ポイント、あと2週間で失効か……その他にも2,000ポイントくらいあるな……」
その瞬間、心は決まった。
口コミを見て吟味した結果、気付いたら6,000円のお品が購入履歴に並んでいた。
しばらく自分だけの為にこんなに値の張るものを購入していなかったので、なんとなくドキドキしてしまった。
6,000円というとそこまで大した金額では無いかもしれないけれど、それがパソコン作業にしか使えないものだと考えると高価に感じられてしまう。
 
数日後、めでたく家に届いた箱を開封すると、きらりと光る球体を備えたぴかぴかのトラックボールマウスが出てきた。
 
球体はひんやりとして冷たい。
コロコロ動かしてみると、予想以上にスムーズに動いた。
早速、パソコンに接続してみる。
 
お? 意外と動かしやすいぞ。
 
というのが最初に試してみた感想だった。
 
ネットの口コミでは「慣れるのに時間がかかる」という意見が多数派だったけれど、私の親指は割とすんなりコロコロを受け入れてくれた。
普通のマウスとボタン配置が同じものを購入した、というのもとっつきやすかった理由かもしれない。
たまに、これまで使っていたマウスの名残で無意識に掴んで動かしてしまいそうになるけれど、これまでのマウスよりも大きくて重いし、使い続けていればそれも無くなりそうだ。
コロコロを動かすとスーッとマウスカーソルが思い通りの場所に動いてくれる。
微調整をするために球体を少しだけ動かすのにはちょっと神経を使うけれど、それでも以前のマウスを使っていた時のようにドラッグ操作も難なく出来た。
 
入りはスムーズ。
では使い勝手はどうだろう?
 
これまで使っていたマウスは、手の小さい私でも手のひらですっぽり覆うことが出来るくらいのごく小ぶりのものだった。
けれど、今回購入したトラックボールマウスは私の右手のひらを軽く超えるほどの大きさがある。
初めはどうやって握るのかと試行錯誤したけれど、マウスの形状が自然と解決してくれた。
普通のマウスと違い、なだらかに傾斜しているのだ。
手のひらを下にして机の上に無造作に手を置くと、親指・小指の側面とその他の指先が軽く机に接した状態で、人差し指から小指にかけて緩やかに傾斜した形を描くと思う。
今回購入したトラックボールマウスは、その手の形に添うように傾斜しているのだ。
つまり、マウスの上にふわっと手を載せた自然な形でマウスを握ることが出来るようになっているのだ。
さすが、人間工学に基づいて設計されているだけある!
箱を開けて実物を見た段階では「なんでこんないびつなんだろう?」と謎に思っていたあの形が、人の動きを考え抜いて設計されたものだったとは!
思わず興奮してしまった。
 
マウスで肩が凝る理由として挙げられるのが、 “マウスポインタを移動させる際、マウスを掴んで腕を動かす必要がある” というところにあるらしい。
この腕を動かす動作が肩に負担をかけているようなのだ。
今回購入したトラックボールマウスの製品サイトを確認してみると、 “肘をテーブルと同じ高さになるよう椅子の高さを調節し、肘はリラックス出来るようひじ掛けに置く” というのが理想的な姿勢だそうだ。
肘が浮いた状態にならないよう固定して、肩への負担を減らすということらしい。
自宅の椅子にはひじ掛けが無い為、仕方なく机の奥の方をマウスの定位置とし、肘を机の手前端に置いて固定するようにしてみた。
 
うん、確かに楽だ。
 
この状態で作業しても、机の上に肘から先を固定した状態でマウスポインタが動かせる。
トラックボールマウスは、マウス本体をスライドさせる代わりに親指での球体操作を採り入れた結果、腕を動かす動作を極限まで減らして自由自在にマウスポインタを動かすことが出来るのだ。
つまり、マウスをスライドさせる際に腕を持ち上げる動作が無くなった為、肩への負担が格段に減ったのだ。
“腕を持ち上げない” というだけでこんなにも肩の痛みが減るのか、というのは驚きだった。
それだけ、腕は重たいということなのだろう。
これがトラックボールマウスの一番のアピールポイントだと思うが、確かに、手首から下の操作だけでマウスポインタが縦横無尽に動かせるようになった。
もしかすると、手首から下をより頻繁に使うようになるので、腱鞘炎になる方も出てくるのかもしれない。
けれど、ここのところの肩の激痛に悩まされてきた私にとっては、肩を労わってくれるこのマウスは画期的以外の何ものでも無かった。
 
なんで、もっと早く買わなかったんだ。
存在自体は知っていたのに……。
 
悔やんでももう遅いので、今後の活躍に期待したいと思う。
ちなみに、今時点で、以前のマウスを使っていた時よりも、マウス操作に対する身体的・心理的負担が格段に減った。
なにせ、肩が痛くならないのだ。
 
さらに、嬉しい副作用もあった。
 
机上の省スペース化につながったのだ。
マウス本体をスライドさせない為、マウス用の空きスペースを確保する必要が無くなった。
さらに、私は作業する際、机上にノートやペンやリップクリーム、その他色々なものをバサッと広げがちなので、以前は動かした腕が物に当たって床に落としてイライラする、ということをよくやっていた。
しかし、トラックボールマウスはマウス本体を動かす必要が無い、すなわち腕を机上で上下左右に動かすことが無いので、物に当たってしまうということが起こらないのである。
これは予想外の副産物だった。
コロナ渦で在宅ワークとなり、自宅の狭い机で困っている、という方には朗報となるかもしれない。
在宅でなくても、ワイドモニタを使っていたり、複数のモニタを接続して使用したりしている方などは、マウスポインタを端から端まで移動させるのに机のスペースが足りず、何度もマウスを持ち上げて同じ操作を繰り返し、イライラする、ということもあるかもしれない。
そんなとき、トラックボールマウスは小さな作業スペースでこの問題を解決してくれる。
 
さらに、コロコロと特徴的な球体ばかりに目が行って見落としていたのだけれど、私が購入したマウスには、左クリック用のボタンの脇に “戻る” “進む” ボタンが付いていた。
これまでWebブラウザの戻るボタンやBackSpaceキーを律儀に押していたのだけれど、このマウスは人差し指をほんのちょっとスライドさせてボタンを押すだけで、戻る・進む操作が出来る。
これも地味だけど便利で、嬉しい副産物だった。
 
肩凝り歴十数年、加齢による酷い肩の痛みに耐え続けることしばらく、ようやく一筋の光が見えた。
少なくとも、私の生活にトラックボールマウスを招き入れたことによって、マウス操作による肩の痛みは激減した。
“私は肩が凝っているのが普通だから、もう治らないから” と半ば諦めていたけれど、日常の中のモノを一つ変えてみるだけで意外な変化が訪れたのだ。
 
普段の生活で肩凝りの原因となる動作はきっと他にもあるはずだ。
困った困ったと悩んでいるばかりでなく、解決策を探してみよう。
 
マウス一つ変えただけで、思考もちょっとだけ良い方向に動き始めた気がする。
そして今日も、あの球体をコロコロさせながら、ネットで肩凝り解消法を調べている。
この新たな相棒は、私の肩が復活する契機となるかもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
中川 文香(READING LIFE編集部公認ライター)

鹿児島県生まれ。
進学で宮崎県、就職で福岡県に住み、システムエンジニアとして働く間に九州各県を出張してまわる。
2017年Uターン。2020年再度福岡へ。
あたたかい土地柄と各地の方言にほっとする九州好き。
 
Uターン後、地元コミュニティFM局でのパーソナリティー、地域情報発信の記事執筆などの活動を経て、まちづくりに興味を持つようになる。
NLP(神経言語プログラミング)勉強中。
NLPマスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー。
 
興味のある分野は まちづくり・心理学。

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2021-05-03 | Posted in 週刊READING LIFE vol.126

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