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週刊READING LIFE vol.5

還暦ロック《週刊READING LIFE vol.5「年を重ねるということ」》


 

記事:射手座右聴き

 

「年齢を重ねたお肌は、丸い毛穴が縦にゆるんで、楕円になります」
「アイラインがひっかかる、それは年齢肌のせい」
「見た目の年齢は、肌の年齢で変わります」
そんなコピーばかり考えている時期があった。
その頃自分は、広告会社で働いていて、
いわゆるアンチエイジング化粧品のCM制作を担当していた。
薬事法という法律に抵触しない範囲で、いかに、効果を伝えるか。
「年齢より若く見えるようになりそう」と思わせるようなコピーを
考え、「年齢より若く見えるモデルさん探し」をすることがルーティーンになっていた。

 

化粧水、クリーム、美白、健康食品、ダイエット食品、どれもこれも
「若返った」という言葉を使わずに、そういうイメージを印象づけるような
広告を作ることが求められていた。

 

そんな生活を送っていたせいか、
知らず知らずのうちに、「若く見えるにはどうしたらいいか」ということばかり考えていた。

 

道を歩いていても、「あの人は何歳くらい」と無意識に思ってしまう。
重症だった。

 

もちろん、自らも少しは注意していた。あまり、くすんだ色の服を着ない、
赤や青のはっきりした色の服を着る、髪は短くしないほうが若く見える、
喋り方をあまりきちんとしすぎない。
などなど。クライアントと年齢差があまりないように振る舞うことも
大切な気がしていた。

 

いびつな若作り至上主義は、突然終わりを迎えた。40代後半のある日だった。
「すみません。もっと若い女性と仕事がしたい、とクライアントに言われたので
今回はなかったことにしてください」
一緒に仕事をしていた広告代理店の方から、こんな電話をもらった。

 

「おじさんでは、不安だ」そう言われたのだという。
そんなにはっきり言われたことがないので、数日かけてじわじわと落ち込んだ。
年齢で判断される。初めての経験だった。人として否定された気持ちだった。
仕事の仕方や、アイデアの方向性の話だったら、なんとでもなる。

 

しかし、年齢は受け入れるしかなかった。いつまでも若くはいられないんだ。
みんなが30代で気づいていたことを、やっと、やっと実感した。

 

年相応とはなんだろう。ふと、自分を振り返ってみると、広告の撮影現場で
最年長であることが多くなっていた。年齢にふさわしい振る舞い、仕事の仕方、
会話の内容、もっと大きく構えないといけない。安定感をださなければいけない。そんな風に思った。

 

仕事だけではなかった。
趣味で始めたDJの現場でも最年長になることが多くなっていた。最年長らしい振る舞いとは。お酒を奢ること。何があっても、余裕で遊んでいることなど。

 

仕事もプライベートも、おじさんとしての自覚を持とう、と日々意識するようになった。加齢を受け入れようとしていたが、まだまだ、どこかで甘かった。

 

今月、私は年齢をいつもより強く意識した。
それは、前職の先輩からのDJオファーがきっかけだった。ライブの幕間でDJをしてほしい、ということだった。
ライブのコンセプトを聞いて、私は身が引き締まった。

 

「還暦祝いのライブ」だという。出演者は、全員還暦。
赤いちゃんちゃんこを着る、というのはさすがに昔のことだろうけれど。
バンドを続けてきた先輩たちだからこその企画だ。

 

先輩たちの気持ちに届く選曲は、できるだろうか。私はいつもと違って、少し迷った。
「そうだ、同い年のアーティストの曲をかけてみようか」

 

マドンナ、マイケルジャクソン、プリンス、小室哲哉、高橋ジョージ、
石川さゆり、、、、、、

 

おそるべし、60歳。

 

「少し懐かしい感じの曲を」というリクエストを受けたので、6.70年代の曲をあらためて調べてみた。

 

ビートルズ、ローリングストーンズ、ジェームスブラウン、エリッククラプトン、ドゥービーブラザーズ、、、、、、
有名どころがどんどん出てくる。
映画もミュージカルも、超定番の名前が並ぶ。なんということだ。

 

選曲をしながら、追体験したのは、なんともキラキラとした文化だった。
10代、20代に豊かな体験をしながら、バブルへと突入していったんだなあ。

 

還暦といっても、おじいちゃん、おばあちゃん、ではなく、
バリバリ現役じゃないの? という気持ちも湧いてきた。
落ち着いたジャズや、やさしめの音楽ではないな。

 

とはいえ、子どもっぽくてもいけないし、彼らが演奏する曲と重なりすぎても
いけない。

 

当日まで悩みに悩んだ。

 

ライブ会場に着いて、驚いた。演者の皆さんの元気さ。続々と登場する友達の若さ。還暦ってなんだか、わからなくなるほどだった。

 

ライブが始まると、驚きに驚きが重なった。
声が強い。リズムやギターの一体感がすごい。
そして、無理がない。
力強いけれど、自然で丸みを帯びているのだ。

 

「17歳からこのメンバーでやっています」
2つめのバンドも元気一杯だった。

 

「ちょっとやんちゃかもしれませんが、見守ってやってください」

 

MCのとおり、メンバーは踊りながら演奏していた。

 

「もう歳なんで、アンコールは勘弁してください」
と言われるまで、還暦のバンドであることを忘れていた。

 

「映像もだしてもらえないでしょうか」
3つめのバンドさんのリクエストがあった。
用意された映像の中に、幼い頃からのスライドショーがあった。

 

バンド少年、バンド少女が、大人になり、仕事に就き、家族を作り、
その合間合間に音楽がある。働いているところしか、見たことのない先輩たちの生き様を垣間見た気がした。なんだか、熱いものがこみあげてきた。

 

自分のDJが、受けたかどうか、なんてことよりも、彼らの還暦という
節目、新たな人生のステージに向かう演奏がとてもとても、厳かに感じられた。
いや、ご本人たちは、お酒も飲み、楽しそうに演奏していたけれど。

 

フィナーレは、すべてのバンドのメンバーが歌い、演奏した。
全員で手をつなぎ、上にあげて、挨拶をする。

 

赤いTシャツ、赤いギター、みんなどこかに赤を入れていた。

 

年齢を自分たちのスタイルで受け入れ、進んでいく先輩たちの
赤は、見たこともない、鮮やかすぎる赤だった。

 

いつか、私は、あんな赤を描けるだろうか。

 

いつか、と書いている時点で、まだまだ年齢を受け入れていない自分に
「おいおい」と突っ込んでみた。

 

 

❏ライタープロフィール
射手座右聴き 
東京生まれ静岡育ち。バツイチ独身。
大学卒業後、広告会社でCM制作に携わる。40代半ばで、フリーのクリエイティブディレクターに。退職時のキャリア相談を
きっかけに、中高年男性の人生転換期に大きな関心を持つ。本業の合間に、1時間1000円で自分を貸し出す「おっさんレンタル」に
登録。4年で300人ほどの相談や依頼を受ける。同じ時期に、某有名WEBライターのイベントでのDJをきっかけに
WEBライティングに興味を持ち、天狼院書店ライティングゼミの門を叩く。「人生100年時代の折り返し地点をどう生きるか」
「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。
READING LIFE公認ライター。
メディア出演:スマステーション(2015年),スーパーJチャンネル, BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバー
として出演

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2018-11-09 | Posted in 週刊READING LIFE vol.5

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