大切なことは全てメカから教わった《週刊READING LIFE Vol,87「メタファーって、面白い!」》
記事:黒崎良英(READING LIFE編集部公認ライター)
“バトン”と聞いてブログの“バトン”が思い浮かぶ私は、大概おじさんである。実際この記事を書いている7月4日は私の誕生日であり、また一歩おじさんとなる日であった。失礼、正直どうでもいい情報だ。
2000年代初頭、まだSNSがそれほど騒がれていなかった時代。自分の情報を発信する媒体として、「ブログ」が最盛期であった。
Hatenaブログ、yahooブログ、アメーバブログ、他にも名前こそ忘れたが無数のブログ提供サイトが軒を連ねていた時代だった。
制限も特になく、一人二つ以上のブログを開設している人も見受けられた。
そんな世の中だからこそ、当時ナウなヤングであった私も、流行に流されてブログを開設していた訳である。
ちなみにブログのさらに前はB B Sという掲示板が人気であった。
それはさておき、そのブログ隆盛の中で出現したのが“バトン”というシステムというか文化というか、お遊びの一種である。
難しいことはない。要はいくつかの質問を用意し、その質問に答えてもらう相手を名指しで指名。後は指名された人物が、これまたブログ上でその質問に回答、そして同様に質問に答えてもらう相手を指名するのである。
賢明な皆さんはお気づきであろう。一歩間違えばチェーンメールである。
が、如何せん質問に答えるだけだし、指名されても答えたくなければ答えないで良い、という風潮も確立された頃だった。
日常的なものからその人の趣味趣向、あるいは深層心理的などぎついものまで、その質問は多種多様である。
そんな中、私のところに、大学のサークルの友人から、一つのバトンが回ってきた。
皆さんから見たら、おそらく何てことない質問群である。
それは恋愛に関係した質問群だった。
が、当時の私は今より若いくせに、いや、だからこそか、とにかく恋愛というものにまるで関心がなかった。
関心があるのは、専攻していた日本文学、特に妖怪とか神話伝承とかの、不思議な話が大好きだった。
そしてとりも直さず漫画とかアニメとかゲームとか、いわゆるオタクコンテンツである。
当時の私は愚かにも自分がオタクだとは思っていなかった。コンテンツの中でも、特に巨大メカが登場するものが大好きだったし、そのためプラモデルとか、実際のコンピュータとか、そういったものに惹かれていたので、自分を勝手に硬派な人間だと信じて疑わなかった。
そしてむしろ恋愛話などの、大学生なら真っ先に飛びついてきそうな話に無頓着で、むしろ軽蔑すらしていた。
まあ、若かったのです。スミマセン……
そんな恋愛に全く興味のなかった自分が、しかし、そのバトンをもらって、なぜか拒否しなかった。
一つ、閃いたのだ。
恋愛だぁ何だぁと、うつつを抜かしている愚かな若者どもに(注:当時は自分も若者だということを棚に上げている)、どれ、一つ私が、真に理解すべき至高のものがメカとかレーザーとか、とにかくそういうカッコイイものであるということを知らしめてくれよう、と。
というわけで答えた内容がこちらである。
皆さんは何と答えるだろうか?
Q:好きなタイプを外見で答えよう。髪型、顔、体型、身長、服装、職業、性格その他ご自由に。
A:
髪形…ヘッドギア装着型
体形…スマートでシャープな汎用系or全身是武器の重火器系
身長…普通。15mくらいかな。
性格…奥ゆかしく冷静に標的を撃破するような性能。
服装…センスの良いアーマーであればいい。ミサイルポッドははずせない。
職業…ゲーマー
Q:よくはまってしまうタイプをあげてください
A:レーザー砲装備タイプ
Q:尽くすタイプ?
A:ミサイルの弾数は尽きないように気を付けている。
Q:遠距離恋愛は平気?
A:遠距離戦は得意とするところ。ミサイルポッドで足止めしてチャージショットを打ち込むのがセオリー。
Q:二人を繋ぐ大切なものって何?
A:インターフェース。
いろいろ言いたいことはあるかもしれないが、まあ聞いてほしい。
当時はメカを操り2on2で対戦ができるゲームが、ゲームセンターで大人気だった。仕様は少々変わってきたが、現在も続いているシリーズだ。ぶっちゃけガンダムのゲームなのだが。
とにかく、そのことが頭の中にあり、私が大好きな光学兵器、すなわちビームとかレーザーとか呼ばれる類のものへの愛情と合わさって、こんな返答をしてしまった。
ウケは良かったのだが、反面、こちらは半分冗談・半分本気である。複雑な思いであった。
ところが、その記事のコメントに、先輩がこうコメントしたのである。
「ある意味真理だなぁ……」
先輩が指摘したのはこの質問だ。
Q:二人の関係が続かなくなったときってどんなとき?
皆さんはどうお考えだろうか? 私は、もちろん他意なく、
A:どちらかが戦えなくなったとき。
と答えた。
何が「もちろん」かはさておき、操縦者である自分か、操縦機体のどちらかが戦えなくなった時が、我々の終焉であると思ったのだ。
なるほど、それは例えば、お互いを想いあいながら、相手の不満や将来、環境などといったことと戦いながら、関係を続けている恋人に似ている。
あらゆる障害に耐えながら、それでも一緒にいることを選んだ恋人たちに似ている。
そして、どちらかがその障害に耐えられず、すなわち戦えなくなった時、おそらく、二人の関係は終焉を迎えるのだろう。
それはあたかも、ボロボロになった機体を見上げる1兵士の様に似ている。
辛い時も、苦しい時も、ともに戦ってきた、戦友と書いて「トモ」と読む間柄である。
いろいろな思い出とともに、幸福と悔恨が胸に湧く。
そうして涙を堪えながら、心のうちに呟くのだ。
「すまない」と。
私にとって恋愛とは、程度の差こそあれ、当時も今も「ファンタジー」である。なかなか実感がわかない。
だが、確かに、それが戦場を戦うパートナー同士であるならば、ともに手を取り合いながら激しい荒波の世界を渡り歩く同志であるならば、そこに存在する気持ちは容易に想像がつく。
そう、確かに、あの時ゲームセンターで戦っていた自分にとって、あの愛機、重火器満載でレーザーも備えたあの機体は、確かに恋人だった。
辛い戦いもあった。紙一重の戦いもあった。容易に破局を迎える戦場は数えきれなかった。
だが、その中でも二人は、いや一人と一機は、勝利を信じて力を奮った。
明日(次のゲーム)を信じた。明日また会えると信じ、常に思いを巡らせていた。
そう、あの時、私は確かに恋愛の真っ只中にあったのだ。
確かに私の恋愛経験は無いに等しい。アドバイスの一つもできやしない。
だが、それで悩む若者たちがいるならば、声を大にして言いたい。
「どちらかが戦えなくなった時が、二人の終焉だ」
ならば、自分は戦うしかないじゃないか!
相手を信じるしかないじゃないか!
そう、その先にこそ、勝利はあるのだ。
大丈夫。遠距離だろうが、近接格闘だろうが、手数はある。
あなたが大地を踏み締めている限り、まだ戦いは終わらない。
戦いが終わらない限り、あなたとの関係は終わりではない。
そう信じて、今日もまた、相方の顔を見に行こうではないか。
私もまた、そう思って連コイン(連続でコインをゲーム筐体に投入すること)するのである。
え? もう何言っているか分からないって?
考えるな、感じるんだ!
□ライターズプロフィール
黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校に勤務している。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。デジタルとアナログの融合を図るデジタル好きなアナログ人間。趣味は広く浅くで多岐にわたる。
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