魂の生産者に訊く!

【魂の生産者に訊く!Vol.9-1】時代が求める花を作り上げるのは、一鉢ごとに注ぐ愛情(前編) 藤沢洋蘭 湯澤雄一さん《天狼院書店 湘南ローカル企画》


2021/12/27/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
花屋の店頭でもひときわ目立ち、華を添える胡蝶蘭。
お祝いに贈る、またはいただくなどして、その美しさに触れることも多いかもしれません。
あの見事な花は、どのようにして生まれているのでしょうか。
きちんと「人を喜ばせる、一人前の花」に育てるまでには、どんなエピソードがあるのでしょうか。
 
 

自分スタイルの農業を探してたどり着いた胡蝶蘭


就農して14年目になります。今は胡蝶蘭、カトレアと、米を生産しています。
湯澤家は代々農家の家系で、祖父は野菜中心の農業を営んでいました。特にトマトに力を入れており、藤沢市西俣野地区で初めてトマトの施設栽培を手掛けたと聞いています。
父が祖父から農業を継ぐときに「祖父とは違う、何か変わったことをしてみたい」という気持ちがあり、トマトの施設栽培と並行して花の栽培も始めました。最初に栽培に取り組んだ花はパンジーやシクラメンでした。その後模索しながら、父はカトレア栽培に落ち着きました。
 

 
父がカトレアを選んだ理由ですが、知人に「こういう植物があるよ」と教えてもらったそうです。そしてカトレアの栽培方法や出荷サイクルなどの面で「自分に合っている植物」と感じて、本格的な栽培に移りました。カトレアは開花調節をすれば1年中咲かせることができるので、周年出荷が見込めるのが魅力だったようです。
 

 
僕は小さい時から、親の刷り込みじゃないんですけど「おまえは農家をやるんだ」と言い聞かされているような環境で育ちました。何となく自分の中では「将来農業をやるのかな」という感覚はありましたが、高校卒業後の進路は「就農か、大学進学か」で悩みました。大学に行けば様々悩みながら勉強もできるかなと思い、東京農業大学に進みました。
結果的に行ってよかったなと思います。農業大学なので、農家の後継ぎや、同じ洋蘭をやっている方も先輩・後輩限らずたくさんいたことが心強かった。何かあると相談できる人間関係が得られました。
 
父はカトレア中心で、胡蝶蘭は少ししか生産していませんでした。僕が就農するとき、父が祖父に対して思ったように「父と同じことをやっても面白くないんじゃないか」という気持ちがありました。かといって父のように、野菜から花へと全く違う分野に行くのではなく、同じ洋蘭の中で何がしたいかを、学生の時に色々考えていました。そのとき父がやっていた花の直売で、胡蝶蘭が一番売れていたのを見て「自分は胡蝶蘭を中心にやってみよう」と決めました。
 
 

「農業の基本はどの作物も同じ」ことを叩き込まれた修行時代


大学卒業までには胡蝶蘭を作ろうと決めていましたが、父は「カトレアなら教えられるけど、胡蝶蘭は本格的に作っていないから教えられない」ということだったので、卒業後1年間、胡蝶蘭栽培の研修に行きました。
 

 
研修先は神奈川県内でいい胡蝶蘭を作っていると評判の農家でした。でも最初に教えていただいた仕事は野菜苗の栽培だったんです。そこでは主に胡蝶蘭と野菜苗を生産していて、僕が研修に入った時期がちょうど野菜苗が一番忙しくて「こっちを手伝って」と言われました。
 
そのときは正直「胡蝶蘭で研修に来たのに?」って思いましたが、後に、「最初からいきなり胡蝶蘭を教えてもよかったけれど、野菜苗が忙しくて人手が欲しかったのと、『農業って、何をするにも基本は一緒』ってことを教えたかったから」と話してくれました。
当時、野菜苗の仕事はきついと思っていましたが、振り返れば確かに学べるものが多かった。体の使い方、ケアの仕方、どちらも農業経営をして行くうえで必要不可欠のものだと思います。
 

 
研修先の師匠は、毎日胡蝶蘭の一鉢一鉢を全部見回っていました。鉢に名前をつけて呼ぶくらい、毎日熱心に見て回っていました。時には話しかけていましたよ。
師匠は「この鉢は、ハウス内のどの場所に置いてあったか」まで覚えているんです。「何列のあそこらへんだろ?」って言われて、「それ適当に言っているんじゃない?」と思って見に行くと、ちゃんと言われた場所が合っている。だから自分も、鉢を見て回る癖はついています。そのくらいの熱意とこだわりが必要だと思います。
 
 

一鉢一鉢、目をかけて、手をかける胡蝶蘭


花を咲かせることができる株のことを「開花株」といいますが、うちでは開花株を台湾から輸入して育てます。
この開花株の輸入に、実は大学時代のコネクションも役に立っています。同じ研究室に台湾から来た研修生がいまして、その縁で今扱っている開花株の輸入につながりました。現在彼女は社長になっており、頻繁に連絡を取り合っていて台湾現地の事情も教えてもらっています。
 
台湾で、胡蝶蘭の茎が出てくる前の状態まで育ててもらって、それを輸入して花をここで咲かせます。今、取材をしていただいているこのハウスの中だけで、開花株を含めて15,000鉢ほどあります。
 

 
胡蝶蘭が他の花に比べて高価な理由のひとつとして、花が咲くまでに時間がかかることがあります。開花株を輸入してからつぼみがつくまでには3~4か月、つぼみから開花までは約1ヶ月です。
 
そして胡蝶蘭の栽培は機械化できない仕事、人の手を借りないといけないことが多いです。温室の管理は、どうしても人の手を使わなければ出荷まで行きつかない作業が多い。例えば胡蝶蘭の鉢への水やりですが、この15,000鉢だと週に1回、2人でやって約3時間かかるんです。
 

 
あと人手がかかるポイントは、花の仕立てですね。
胡蝶蘭って芽が出ると太陽の方向に伸びていきます。そうなると作業がしにくいので茎を真っすぐに矯正します。茎に沿わせて棒を立てて、茎をクリップで棒に止める。胡蝶蘭は花がついてくると、しなって前に垂れてくるんですけど、その垂れ方を出荷しやすい角度にしてあげます。花屋さんの店先でよく見る、見栄えがする角度にしてあげるんですが、あの角度は自然にはならないので人の手で曲げてあげる作業になります。
 
それと胡蝶蘭の株は1つずつ育てますが、それを販売用に鉢に植え替える作業があります。大体売っているものは1つの鉢に3株植えてあります。それが終わったら見栄えがするように和紙を巻いて仕立て直して、箱詰めして出荷。このどれもが人の手がないとできない仕事です。一鉢一鉢、人の目で様子を見ますので時間と手間がかかります。
 
 

1年中カトレアの花を咲かせるための秘訣


胡蝶蘭を置いているハウス以外は、全てカトレアのハウスです。総数20万鉢ほどになります。
カトレアは胡蝶蘭とは違って切り花で出荷しますので、鉢が残ります。周年で出荷が可能になるように栽培のサイクルを作っていて、20万鉢を12か月で割り、この列は1月の1週目、次は2週目というように栽培の時期を管理しています。
 

 
カトレアは1つのハウスに入っている鉢の数が多いので、2人がかりで1つのハウス内にあるカトレアに水をあげるのに約1日かかるんです。
専門的な話ですが、胡蝶蘭は温度によって花を咲かせるスイッチが入りますから、温度管理をしていれば花を咲かせることができます。しかしカトレアは日照時間によって花を咲かせるスイッチが入るため、日照の影響をカトレアはもろに受けます。
 

 
カトレアは新しい芽が出て、その芽が葉になります。その葉の根元から花芽が付き、花が咲きます。花を取ったあと、そこから続けて芽が前へ前へと出てきます。花を取ると発芽して、葉が出て開花するサイクルになります。
日照に左右される花ですが1年中需要があるので、花を切らさないように管理するのが難しい。そのため、人工的に光を当てて開花調節をかけています。それでも花を切らしてしまうことはあって、開花サイクル調整が難しいのがカトレアなんです。
 
 

天候に左右されない栽培環境を作るために


どんな農産物もそうですが、天候に左右されます。日照不足や高温が続くと開花のサイクルが狂い、花の質に関わってきますので調節が必要です。
胡蝶蘭のハウスの天井には、日よけのカーテンを設置しています。気温35℃以上の猛暑日などにはカーテンを閉めます。ハウスの中は暗くなり温度が抑えられますが、植物なので光合成が必要ですから、陽射しを遮断すると悪影響が出ます。葉だけの状態とか、つぼみのものもありますから、日光を当てないと花が咲かないので歯がゆいところです。
 

 
常にハウスの中は25~26℃にしておくので、例えば外気温が35℃の時などは10℃下げるのに本当に大変です。まんべんなく24時間この温度を保たせないといけません。冬でも暖かくしますので、もう人に言えないくらい光熱費はかかっていますよ。
 
天候のことでは、台風も気になっています。毎年のように襲来するようになってしまいました。鉄骨を使ったハウスなので雨はある程度多く降っても平気ですが、暴風だと壊れる可能性は大いにありますね。昨年の台風の時も被害を受けました。
 
去年は冷夏で日照が短かったデータはありますが、今年は暑い日が続きました。毎年データは蓄積していますが、近年は過去のものが当てはまらないため、天候から栽培方針を予測するのも仕事のひとつになっています。開花サイクルが変わると出荷予定も狂ってきますから、そこに対応するためには欠かせない作業です。
 
 
 
見事な花を咲かせるために払うご苦労はうっすらと想像はしていたものの、その多くが人の作業によるものなので、日々大変な注意を払っておられることが伝わってきます。
花も生き物と同じで、環境によって大きくできあがりが違ってくるとなると、どうか天候よ、保ってくれと祈るような気持ちで過ごされていることと思います。そんなご苦労を経て咲かせる大輪の花たちに囲まれている湯澤さんの生き生きとした表情が印象的でした。

 
 
 
後編記事はこちら
 
 
(取材・文:河瀬佳代子、撮影:山中菜摘)

藤沢洋蘭
神奈川県藤沢市西俣野2652
TEL:090-5561-6175    FAX:0466-81-2403
営業時間:9:00~17:00 ※12:00~14:00まで昼休憩
定休日:なし(年末年始臨時休業あり)
アクセス:小田急江ノ島線善行駅より車で5分・駐車場完備
HP:https://nouenweb.enopo.net/orchard-etc-menu/hujisawayoran-page.html
SHOP:https://fujisawaran.buyshop.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100063469959965

※取材時の情報です。営業時間等変更している場合がございます。

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(READING LIFE編集部公認ライター)

東京都豊島区出身。日本女子大学文学部卒。天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて、湘南地域を中心に神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul、 「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/ 連載中。

□カメラマンプロフィール
山中菜摘(やまなか なつみ)

神奈川県横浜市生まれ。
天狼院書店 「湘南天狼院」店長。雑誌『READING LIFE』カメラマン。天狼院フォト部マネージャーとして様々なカメラマンに師事。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、カメラマンとしても活動中。

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2021-12-22 | Posted in 魂の生産者に訊く!

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