週刊READING LIFE vol.182

「自分の道」は探すものではなく自分で決めるもの《週刊READING LIFE Vol.182》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2022/08/22/公開
記事:深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
「本当はどうしたいですか?」
画面の向こうからコーチが問いかけてきた。
 
「もっと自分のことを大事にする時間をもちたいです。今、仕事が忙しすぎて疲れてしまったし、周りからも『やり過ぎじゃない?』と言われているし。だから、自分をいたわる時間をつくりたいし、家族との時間も大切にしたい」
 
一緒にグループコンサルを受けているAさんが、コーチからの質問に答えていた。
 
「それができたら、Aさんはどうなりたいですか?」
「それができたら……。仕事も自分のことも、もう少しバランス良くやっていきたいです」
「バランス良くって具体的には? 例えば仕事をセーブするとか?」
「うーん、セーブするというか……。仕事は好きなので、やれるならやりたいですけど」
 
コーチからの質問に、段々としどろもどろになっていくAさんを見ながら、私は「自分だったら?」と考えていた。
 
「私は本当はどうしたいのか?」
考えてみても、抽象的な言葉しか出なかった。毎日充実していたい、ワクワクすることをしていたい……。でも、どうしたらそうなれるのか、分からなかった。
 
コーチの質問を聞きながら、私は心の中で
「本当はどうしたいのかが自分で分かれば苦労しないよ」
と思っていた。
 
そもそも昔から私には「どうしてもこれを成し遂げたい」という人生の目標はなかった。24年間会社員をやってきたけれど、もともと自分から「この仕事をやりたい」と選んだわけではない。その会社員生活にピリオドを打ち、フリーになってから1年が過ぎようとしていた。
 
何がやりたいのか分からないままフリーになると、こんなにもしんどいものなのかと思う。何がやりたいのか分からないから、自分がどう名乗ればよいのか分からない。私には「この道一筋何年」というような専門性もない。一番長く続けてきたことといえば「会社員」である。
 
これが、「事業企画の仕事をしていた」とか「営業一筋20年」とか「ずっと人事畑を歩んできた」とかだったら、フリーになってもその経験を十分に生かせそうなのにと思う。でも、私のやってきた分野はニッチすぎた。
 
結局私は、「世の中にニーズがあって、私にもできそうなこと」で起業したけれど、「これが私の道だ」という確信が持てずにいた。
 
「これじゃない何かがきっとあるはず」
私はずっと、自分の魂を燃やせるものを探していた。
 
ピンときたこと、好きなこと、心が動いたことをやっていけば、そのうち見つかると思っていた。けれどもやり散らかすばかりで、自分の魂を燃やせるものはなかなか見つからない。自分が持って生まれた宿命は何かをみてもらったりもした。自分がどんな資質を持っているのか、いくつもの診断ツールでみてもらったりもした。
 
信頼できる人から
「あなただったら、こういうお仕事が合ってるんじゃない?」
とアドバイスをもらうこともあった。でも、「何か違う」という感覚しかなかった。
 
かなりの迷走ぶりである。今から思うと、私は自分がどうしたいのかを考えてはいなかったのだ。ただ探しているだけだった。
 
「こういう仕事はどう?」
「うーん、それも何か違うような……」
そんなやり取りを何度か繰り返した。挙句の果てに、
「そうじゃないんだよ。なんで分かってくれないんだろう」
と怒りにも似たような感情が湧いてきた。
 
「親身になって私のことを考えてくれているのに、怒りを覚えるなんて、私はなんてヤツなんだ」
そう思ったその時、ふと気づいたのだ。私は自分の道を誰かに決めてもらおうとしていたのだと。自分の人生なのに、私は決めることが怖かったのだ。間違うことへの恐れだったのかもしれない。
 
でも、「自分の道」は探すものではなく、「私はこれで生きていく」と自分で決めるものなのだ。それが自分の人生に責任を持つということなのではないか……。
 
私は自分の中で一番キャリアの長い会社員時代のことを、もう一度振り返ってみることにした。何だかんだいって、24年も続けてこれたのだ。自分がやりたくて選んだ仕事ではなかったけれど、その中でもやりがいを感じる仕事もあったし、挑戦できたこともあった。忙しすぎて「もう辞めたい」と思うこともあったけれど、充実した日々だったと思う。フリーになってうまくいかないことが続いた時には、「私は会社員でいた方が幸せだったんじゃないかな」と思うこともよくあった。
 
なぜそう思えるのだろう? どんな時に私は充実感を味わっていたのだろう?
私のこれからのヒントが、会社員時代の自分の中にあるような気がした。
 
「どんな仕事をしたか」という目に見える経歴や実績ではなく、「何をしたか?」という視点で、私は24年の会社員生活を振り返ってみることにした。
 
私の仕事は、自分が学校で学んだこととは全く違う、専門外の分野の仕事だった。「超純水」、「凝集沈殿」などなど、専門用語が飛び交う職場だった。周りで飛び交っている言葉がひとつも分からない。「本を読めば分かる」と言われて専門書を読むが、ますます分からなくなるばかりだった。それで私は、現物を見て分かるものなら現物を見るようにした。何かの現象を指す言葉なら、その現象を観察するようにした。言葉とイメージを結びつけていく作業である。目に見えないものは、「何か他に似たようなものってありますか?」と詳しい人に聞いて、イメージを膨らませた。そうしている内に、専門用語の意味が分かるようになった。
 
それから数年して、私は新入社員を教育する立場になった。専門用語を知らない彼らに、どう伝えたら伝わるだろうか? 私は自分が専門用語を覚えてきたやり方を使って、見て分かるものなら見せて説明したり、身の回りのことに喩えたりした。「凝集沈殿」なんて、言葉や図で説明するより、実際にその現象をつくって見せてあげた方がはやい。案の定、新入社員はその「凝集沈殿」の現象を見て「スゲー」を連発し、「凝集沈殿とはこういうもの」と理解してくれた。
 
省エネルギー活動に携わった時には、「生産部門から協力を取り付けるためには、何をどう伝えたらいいだろうか?」を考えて、色んな策を練った。
 
「こんな配管だらけの工場、危ないに違いない」と不安がっている地域住民の人たちに、どうしたら工場の取組みを理解してもらえるだろうか?
 
言葉も考え方も違う中国人に、どう伝えたら動いてもらえるだろうか?
 
振り返ってみると、私の会社員時代はずっと「とうしたら伝わるか?」が一貫したテーマだった。そして、そのために沢山の工夫をしてきたのではなかったか。
 
「あぁ、私のやってきたことってこれだったんだ」
過去の自分と今の自分、そして、これからの自分が一直線に並んだような気がした。この24年間で得た「自分の知恵」を伝えていくことが、これからの私の道なのではないか。
 
大きな扉がゴトンと開いたような気持ちがした。
 
扉を開けた先に続く道が「私の道」だ。そう思うと、これから始まる未来にワクワクするけれど、同時に「これが私の道だ」と決めて歩み出すことは怖いことでもある。それが正解かどうか、やってみなければ分からないからだ。それに、「決める」とは「手放すこと」でもある。時間が限られている中、「自分の道」を邁進するために手放さなければならないことはいくつもあるだろう。それはひょっとしたら、「いい条件の仕事」かもしれないし、「これまで付き合ってきた仲間」かもしれないし、「まだ見ぬ可能性」かもしれない。
 
でも、変わりたいなら決めて動くしかない。
覚悟を決めた今は、ちょっとスッキリした気持ちでいる。
 
「あのまま会社員で居続けたら、どうだったかな」と思うこともあったけれど、この「何がやりたいのか分からない」という問題に、どのみち私は直面することになっていたのだ。
 
仮に会社員を続けていたとしても、あと4年で定年だ。すると、「その後どうするのか?」という問題に必ず直面したはずである。現に、同じ年代の友人たちの中には、「定年後は、自分で何かをやりたいと思っている」という人がいる。
 
だから、もし「何かやろうと思うけど、何がやりたいのか分からない」という人がいたら、「答えは自分の中にあるよ」と私は伝えたい。
 
「ものすごく好きなこと」というよりも、「苦もなくできたこと」、「気づいたらついやっていたこと」の中に必ずヒントがある。
 
特に、会社の仕事でやっていることは、「業務の一環だから」、「仕事だから、やって当たり前」と見過ごしがちだ。けれども、そこに自分の「宝」が眠っている。「会社」という枠を外して、自分がやってきたことを見つめ直してみれば、今まで見えていなかった自分が見えてくるだろう。
 
グループコンサルでコーチからの質問にしどろもどろになっていたAさんと、先日久しぶりに話す機会があった。
 
「私ね、会社員時代のことをもう一度振り返ってみて、やっと自分の道を決めることができたよ」
私は自分の道が決まるまでの顛末をAさんに話した。
 
「Aさんはお勤めをしていた時は、どんな感じだったの?」
 
「私は、お客様から『そこまでしてくれて、ありがとう』って言われることが多かったかも。『この情報は、あのお客様の役に立つかも』と思って、頼まれてもいないのに、情報を整理して渡したりしてね。別に無理をしているつもりもなくて、ただ自分がやりたいからやってたな」
 
「それって、今Aさんがやっていることに繋がってるね」
 
「確かに。目の前に情報を必要としている人がいたら、その人の求めているものを一番いい形で提供したくて、ついのめりこんじゃうもんね。でも、1年前は周囲から『やりすぎじゃない?』とか『お母さんなんだから……』って言われて、心が揺らいでたんだよね。だから、何がしたいのか分からなくなっちゃって」
 
「本当は仕事をバリバリやりたかったんだ」
 
「そう。本当はバリバリやりたいの。でも今は子どもとの時間も大切にしたい。だから今すぐバリバリやらなくてもいい。子どもの手が離れる数年後に照準を合わせて、今は助走期間にするの。そういう選択をしたの」
 
そういう「自分の道」を決めたAさんの顔は、晴れやかだった。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)

愛知県出身。
国内及び海外電機メーカーで20年以上、技術者として勤務した後、2020年からフリーランスとして、活動中。会社を辞めたあと、自分は何をしたいのか? そんな自分探しの中、2019年8月開講のライティング・ゼミ日曜コースに参加。2019年12月からはライターズ倶楽部に参加。現在WEB READING LIFEで「環境カウンセラーと行く! ものづくりの歴史と現場を訪ねる旅」を連載中。天狼院メディアグランプリ42nd Season、44th Season総合優勝。
書くことを通じて、自分の思い描く未来へ一歩を踏み出す人へ背中を見せ、新世界をつくる存在になることを目指している。

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2022-08-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.182

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