「心と身体がバラバラ」を身をもって体験中~中間管理職であるアラサー女の苦悩~《週刊READING LIFE Vol.194 仕事で一番辛かったこと》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2022/11/21/公開
記事:川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「すみません、ちょっと私、自分で思っていたよりも疲れているみたいです」と、私が泣きながら上司に電話をしたのはつい先日のことだった。
8月付けで未経験の部署に異動したのと同時に、マネージャーへ昇進もした。昇進の話があった際も、未経験の部署であることや、その上で人の上に立つという立場になることへの不安もあり何度か断ったのだが、現状の平社員のまま働き続けても自分の成長できる範囲は限られているような気もして話を受けた。自分で納得して受けた話ではあったのだが、その大変さは、私が当初想像していたものを遥かに超えていた。
中小企業で人員も限られているため、マネージャーといってもプレイングマネージャーだ。チームをマネジメントするだけでなく、自分でも顧客の担当を持つ。未経験の業務を覚えて、前任担当から顧客の引き継ぎを受けて一緒に往訪して挨拶をする、という通常業務に加えて、チームをまとめていかなければならないのでメンバー各々の管理、必要に応じてのミーティング等、私は一通りの業務をこなすだけで精一杯だった。
そしてこれも中小企業ならではだと思うが、他部署の業務までつまみ食いのような形で参戦することになる。加えて昇進したことにより参加する会議が莫大に増えた。私のスケジュールには、自分で入力しなくても会議の予定がびっしり入るようになった。参加する会議が増えるということはそれに伴い資料作成も増え、上司への報告書作成の回数も増えた。そこへ上司からの「この前話したあれ、どうなってる?」「この案件、進めといてくれない?」や、部下からの「これってどう思いますか?」「あれって誰がやるんですかね?」など、上から下から、どんどん話が吹っ掛けられてくる。正直頭は常にパンク状態であったが、自分なりに頭の中を整理して、一つずつ順番に片づけていった。どれも自分の仕事ではあるが、顧客対応にかけられる時間が今までに比べて格段に減った。かと言って質を落とすわけにもいかない。中間管理職の難しさや大変さを、まだ数ヵ月ではあるが十分に感じている。
愚痴のように見えるかもしれないし、正直腹が立つことや「え、これも私の仕事?」と上司に思うこともあるし、「いや、それぐらい自分で考えてやらんかい」と部下に対して思うこともあるが、決してやる気がないわけではない。中間管理職の板挟みがしんどいなと思うことは多々あるが、やりがいがあるなと感じているし、これから働いていく上で、仮に違う会社に勤めることになったとしても、今の経験は必ず役に立つだろうと思っているし、何よりこれから昇進していくには乗り越えなければならない壁である、と思っている。
そう頭では思う反面、身体の方はその気持ちに追い付いていなかったようである。
10月中旬、虫垂が痛くて眠れなかった夜があった。虫垂炎には4年ほど前、ちょうど実家に帰っていた時になったことがある。その日は日曜だったため救急に駆け込み、内科医師が不在だったため外科医師に診てもらったのだが、点滴を打ったら痛みが治まったので、以降特に何も意識することなく生活をしていた。
しかし、急に痛みが再発したのだ。4年前ほどではないし、のたうち回るほどの痛みでもないし、救急車を呼ぶほどでもないが、それでも痛いものは痛い。なんだかんだ夜中になっても眠れず、やっと寝つけたのは朝の4時半頃だったと思う。起きたら痛みも治まっていた。
翌日上司にそのことを報告し、「次痛くなったら病院行きます」と伝えると「なんでもいいから一刻も早く病院へ行け」と言われた。無理に働けと言わない上司で良かったと思いつつ、そう言ってくれたので遠慮なく病院へ行かせてもらった。
血液検査の結果、軽い貧血だとは言われたが虫垂に関して特に異常はなかった。ただ一度CT検査をしておいた方が安心だろうという話になり、大きな病院へ検査を受けに行くことになった。
そうこうしている間に、会社の健康診断の時期になった。虫垂の痛みも治まっており、特に異常はないと思い受けていたのだが、心電図を測っている時に「あー、不整脈ですね」と看護師に言われた。ふ……不整脈!? って、どういうことだ!?
測られながら「え、不整脈だったらどうなるんですか? 何かの病気ですか? 死ぬんですか?」と、淡々と心電図を測る看護師に矢継ぎ早に問いかける私。他の検査と総合的に見てみないと、この不整脈が異常かどうかは何とも言えない、と言われ、不安を抱えながらも帰宅した。届いた結果には、心電図の欄に「経過観察」と記載してあり、理由は「痩せ型によるものだと思います」とのことだった。
CT検査の結果を病院に聞きに行くと、医師はすごく丁寧に説明してくれた。ひとまず虫垂に関してはすぐに手術や薬の投与の必要はないが、再発の恐れはあるのでまた痛みが出てきたら今度はすぐに病院に来るように、とのことだった。ひとまず虫垂に関しては安心したのだが、先日届いた健康診断の結果が気になっていた私は、ついでに……という軽い気持ちでその医師に診断結果を見せた。それを見た医師はまたも非常に丁寧な説明をしてくれたが、「この不整脈は痩せ型によるものではないと思う」「心臓のことだから一度きちんと見ておいた方がいいと思う」と言った。健康診断の結果に不安を抱いてはいたものの、「大丈夫ですよ」と言われるだろうと軽い気持ちでいた私は、少し怖くなった。健康体だと思っていた自分の身体に、目に見えた不調ではないが、検査をするといろんな異常が出てきている。毎日規則正しい生活を送っています! と胸を張って言えるわけではないが、かと言ってそこまで不摂生で乱れた生活を送っているわけでもない。タバコも吸わないし、お酒も嗜む程度だし、家では飲まない。夜更かしも、そこまでしない。私の身体、大丈夫なのか……?
受診前より不安は大きくなったが、心臓のエコー検査の予約をし、病院を後にした。でも、これをきっかけに一度気になることはちゃんと調べておくべきだろうなと、帰宅しながら自分の頭を整理した。
これが2週間前で、病院に少し用になったからと言って業務量が減るわけではない。変わらず上から下から、仕事も小言も舞い込んでくる。それぐらい自分で考えてくれ……勘弁してくれ……ということも変わらず投げつけられる。仕事がどんどん溜まっていくと比例するように、ストレスも同時に溜まっていった。
ストレスは溜まっていったものの、私はそのストレスを自分なりに上手く発散できていると思っていた。友人と出かけたり、同僚に愚痴を吐いたり、家でゲームをしたり、電車で本を読んだり、美味しいものを食べたり。自分なりにストレス発散法をいくつか準備して、上手く発散できているつもりだった。仕事が嫌いなわけじゃないし、それなりにやりがいを感じていたし、「今が頑張り時だ!」と8月に異動と昇進をしてからずっと思い続けながら働いていた。中間管理職という立場が上と下との板挟み状態でしんどい、というのは頭ではわかっていたつもりだが実際なってみると想像以上にしんどいこともよくわかった。よくわかった上で、でもこれを乗り越えないと私の成長はないと思っていた。身体に異常が見られ始めて動揺はしたものの、ここで潰れるわけにはいかない。そう自分を奮い立たせて働き続けた。
でも、そんな私の考えに、身体は追い付いていなかったようだ。
ある日、帰宅してトイレで用をたし、トイレットペーパーで拭くと、月経周期でもないのに血が混じっていた。そのトイレットペーパーを眺めて茫然とした。さすがに怖かった。
その時に初めて気づいた。ああ、私、疲れていたんだな、と。頭では「まだできる! 私はこんなもんじゃない! 頑張れる!」とやる気に満ちてあらゆることに手を出し、上司や部下などあらゆる人の意見や話を聞き、どうすればチームが良くなるか、それにより会社にどのような利益がもたらされるのかを考え、聞いた意見と話をもとに一人いろんな資料と睨み合い、パソコンに向かい、紙に何度もいろんな案を書き殴り、ここ数週間はいろんな業務が重なっていくら効率的に集中して仕事をしても、業務時間内になかなか仕事を片付けることができなくなっていた。帰宅が遅くなっても頑張ってご飯だけは食べるようにし、笑った方が良いと思いテレビをつけてバラエティ番組を見て笑うようにはしていたが、そんなもんじゃ私の身体は騙されず、そんなもんじゃ追い付かないくらいに疲れもストレスも溜まっていたようだった。
ごめんよ、私の身体。こんなにいっぱいサインを出してくれていたのに、気づかなくてごめんよ。そう思った瞬間に、涙が止まらなくなった。
翌日、業務は変わらず山積みである。私の体調が悪かろうが、泣こうが、その事実は変わらない。ただ、私は私を一番に大切にするべきである。それは確かだった。
上司に許可も取らず、私は勝手に有休を使って午前中休んだ。そして気持ちが落ち着いたら上司に電話し、昨日の事情を話した。話しているうちに涙が出てきて、中間管理職になって初めて、電話口ではあるが上司の前で泣きじゃくった。「すみません、ちょっと私、自分で思っていたよりも疲れているみたいです」と。
幸い、上司はブラックではないので「もう今日は休め」と、全日有休を使わせてくれた。翌日からの土日も休日出勤の予定だったが、それも白紙にしてくれた。「とりあえず、よく寝て、美味しいもの食べて、散歩とかして、太陽浴びて、好きなことしてゆっくりしなさい」と。
思えば、何も予定のない空っぽの休日は久しぶりだったかもしれない。いつも友人と会ったり、人に会わずとも美容院や整体に行ったり、なんだかんだ予定を詰め込んでいた。何にも縛られない休日って、いつぶりだろうか。
散歩がてらスーパーへ買い物に行く。その道中も、特別時間に迫られてはいないので、いつもと違う道を通ってみる。いつもは自転車だけど、今日は歩いてみた。いつも買わないお菓子も買ってみた。夜はベランダで月を見ながらボーっとして、お茶を飲みながら読書もした。久しぶりに料理という料理もしたし、部屋の模様替えをして掃除もした。
当たり前のことを一つひとつ順番に、丁寧にやっていくだけで、「次はあれやって」とか「明日出社したらこれからやって」と、無意識のうちにせかせかと働いていた頭が少し休まった気がした。SNSでよく見る「丁寧な暮らし」を少々毛嫌いしていた私だが、大切さが身に染みてわかった。私に必要だったのは、誤魔化しのストレス発散ではなく、仕事や時間の制限に囚われない、ゆっくりとした時間を過ごすことだったのだと。
病院へは平日に有休を使わせてもらって行くことにした。有休が有り余っているので、こういう時にはここぞとばかりに、贅沢に使わせていただく。仕事に関してはやる気がないわけではない(むしろめちゃくちゃある)ので、引き続き働き続けるが、今回のように心身のバランスが崩れないように、ゆとりを持った働き方に変えなければいけない、というのが課題だ。少なくとも、今までの働き方ではいけない。上司と相談しながらになるが、誰かを頼ったり、仕事を振ったり、そういうことも覚えなければいけないし、業務に支障のない範囲で「手を抜く」ということも、私は覚えなければならないのかもしれない。
仕事でつらいことなんて、今まで数えきれないほどあった。前職でのパワハラや、話を聞かない年上部下、仕事をしない無責任な同僚、無茶苦茶な要望をしてくる取引先など、挙げだすとキリがない。でも、そんなことよりも、やりたい気持ちはあるのに、自分の身体が言うことを聞かなくなる今の状況が一番辛くて、しんどいことだなと、今回の件を通して思った。それと同時に、働き続けたいのであれば、精神面も含めた健康管理を徹底しなければいけないと感じた。
まだまだこの会社でやりたいことはたくさんある。自分を自分で潰さないために、他の誰かにも潰されないために、私は正しい自己防衛を覚えなければならないのだ。
□ライターズプロフィール
川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
兵庫県生まれ。大阪府在住。
大阪府内のメーカーで営業職として働く。コロナ禍で当時付き合っていた彼氏に振られ、見返すために自分磨きを開始し、その一環で2021年10月開講の天狼院書店のライティング・ゼミに参加。2022年1月からライターズ倶楽部に参加。文章を書く楽しさを知り、振られた頃には想像もしていなかった方向に進もうとしている。
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