居場所ってなんだろう《週刊READING LIFE Vol.226 私の居場所》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2023/8/7/公開
記事:都宮将太(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「居場所ってなんだろう?」
この記事を書くときそう思った。
ドラえもんのように、就寝するための押入れのような場所か?
サザエさんに出てくるような団欒の家庭か?
はたまた、どんな自分の考えも肯定してくれるキャバクラやガールズバーのような場所なのか?
これが正解! なんでないかもしれないが、私なりに答えを出した。
『自分をオープンにさらけ出す』
これが答えだ!
えっ? 居場所じゃないのか?
そう!
「私の居場所」というのは、場所ではない。
言い換えれば、どんな状況、どんなところであれ、自分をオープンにさらけ出すことができることができれば、それが私の居場所なのだ。
「私に居場所はあるんだろうか?」
中学時代、私はいじめが原因で引きこもっていた。その経験からか、自分の居場所というものを、常に探していた。
「ここは自分の居場所じゃない」
自室で引きこもっていたとき、いつもそう思っていた。
ある日、母親が涙を流しながら、当時の担任と学年主任と三人で話しているのが聞こえてきた。
母親が涙する姿を見たことあるだろうか?
私が生まれたときに泣いたかもしれないし、大好きな韓国ドラマを見て泣いたかもしれない。
実際、生まれた時なんて覚えてないし、韓国ドラマで泣いている姿を見ても何とも思わないだろう。
だが、自分が原因で母親が涙する姿を見るのは、非常に辛いものだ。
「いじめられている人にも原因がある」
なんて言っている評論家を、テレビで見たことがある。
非常に呆れたものだ。そんなことを本気で言っているのか? と疑ってしまった。
いじめられている人を、更なる地獄に突き落としたいのなら、正解かもしれないが……。
私は約20年間、引きこもった過去を封印してきた。向き合おうなんて一切しなかった。もし、願いが叶うなら、そんな惨めで、情けない過去など葬りさりたい。ずっとそう思っていた
当時のことを知られるのが恥ずかしい。当時の出来事を知られたら、皆が自分のところから離れてしまう。本気でそう思っていた。
そう思うと、いつも周りの目を気にしてしまう。こんな自分を変えたいと思いながらも、中々変えることができなかった。
一冊の本と出合うまでは……。
『かがみの孤城』
この本との出会いは、私の人生を大きく変えてくれた。
辛かった過去を隠すのではなく、そんな過去と向き合い、オープンにさらけだす。そんな勇気をくれた本だ。
かがみの孤城は過去に本屋大賞を受賞。昨年末には映画化もされ、160万人が泣いたという。ちなみにその内の一人は私だ!
かがみの孤城は、オオカミに変装をした一人の少女が、ランダムに中学生7人を選ぶ。オオカミ少女に選ばれた7人の中学生は、鏡の中に建てられたお城で一年間、お城のどこかに隠された鍵を探すゲームを行う。その鍵を見つけた者は、願い事がなんでも叶う。という、実にシンプルな内容だ。
選ばれた7人の中に、中学一年生の女の子がいる。
この少女は、非常に活発で学校で目立つ存在。友達も多く、クラスでも中心人物……というわけではない。むしろ逆だ。
少女はいじめられており、学校で居場所をなくし、閉じこもっていた。
オオカミ少女がこの少女を選んだ時、まるで、当時の自分が選ばれたように感じた。
その少女は、作品の中で、自分らしさを出し、他に選ばれた中学生と一緒に、協力して、笑顔で活き活きと鍵を探すゲームを行う。
「自分の居場所は学校でなく、鏡の中の城だ」
もし、私がオオカミ少女に選ばれていた中学生だったら、間違いなくそう思っただろうし、実際に見ていてそのように感じた。
何故その少女は自分らしさを出し、笑顔で活き活きと行動できたのか?
オオカミ少女に選ばれたからといって、現状が変わったわけではない。翌日学校に行けば、いじめられるかもしれないのだ。
周囲は変わっていない。自分が変わったのだ。
いじめられ、引きこもっているという、自分の辛い現状を一切隠さずに、オープンに自分をさらけ出した。
自分をさらけ出すことで、それを受け入れてくれる仲間を見つけたのだ。
私はその少女に勇気をもらった。それと同時にこうも思った。
『過去の辛い経験を隠すことはやめよう。むしろオープンにして生きていこう!』と。
今までの私は、過去の出来事を封印して、自分らしさまで隠してきた。
それなら一層、今まで封印してきた過去をさらけ出し、同時に自分らしさも出して行こう! そんな風に思えたのだ。
私はそれからというもの、過去の恥ずかしい経験というものをオープンにさらけ出すことにした。
今までは自分の過去の話しをすることに抵抗があった。過去の話しがでそうなときは、身構え、何とか過去を隠そうと必死だったものだ。
だが違う。
自分をさらけ出すのだ。そして、それを受け入れてくれる人を見つけるのだ。しかしそれは、言うほど簡単なことじゃない。
「こんことを言ったら嫌われるのではないか?」
「今、皆は私のことをどう思っているのだろう?」
「八方美人でいた方が、誰からも嫌われないのではないか?」
そんな考えが浮かんでくる。これらの考えを無視して、自分をさらけ出すのはかなり難しかった。
そこで視点を少し変えてみた。
「さらけ出す」という表現を使うから難しいのだ。それなら言葉を少し変えて
「正直」になるように意識してみた。
相手から聞かれたことに対して正直になる。イコール、自分をさらけ出すことだと思った……。
だが違った。
正直に答えすぎて、相手を不快にさせることが多くなった。これでは本末転倒だ。そして気づいた。
「正直+誠実」が大切なのだと!
自分の気持ちには正直になるが、相手のことも考える。ここでの考えるは、相手の機嫌を伺うことではない。相手を不快にさせぬよう意識することだ。それには、相手の立場に立ち、相手のことを思いやる誠実さが必要だ。
それなら誠実さだけでいいじゃないか!
そう思ったこともあるが実際には違う。
私もそうだが、誠実な人でも自分を隠して本心を見せない人に、人は決して心を開かないのだ。
最初はきつかった。
今まで人の顔色を気にして生きてきたからか、その顔色を無視して自分の意見を言うのは苦行だった。
「こんなこと言ったら嫌われるのではないか?」
言葉にする前に脳内でストッパーがかかる。
だが、そのストッパーを外した先に自分の居場所がある。そんな風にも考えていた。
実際に勇気を出して、脳内のストッパーを外してみた。
驚いたことに案外受け入れてくれるものだと実感した。
過去の話題が出た時も、今まで隠していた「いじめ」「引きこもりの過去」という言葉を出してみた。
「人は弱みで愛される」
と私の尊敬する、メンタリストのDaiGoさんが言っていた。
本当にその通りだった。
弱みをさらけ出すことで今まで以上に自分の下に人が集まってきた。例えとして不適切かもしれないが、夜の街灯に虫が集まる。そんな感じだった。
それからというもの、日常生活が楽しくなった。
職場環境、周囲の人間は何も変わっていない。自分が変わっただけで、外の世界がこうも変わるのかと驚いた。
中には、「自分も過去にいじめられた経験がある」という人もいた。
その人は同じ職場で、これまで挨拶程度の会話しかしたことがない。だが、それ以降は、職場内で一番親しくなった。
自分をオープンに、かつ、正直+誠実になることで、新たな出会いにも恵まれるのだ。
居場所というのは、指を加えていれば誰かが与えてくれるわけでも、翌朝起きたらサンタさんがプレゼントしてくれるわけでもない。
自分で作るのだ。
そう確信できた!
私は本当に感謝している。
『かがみの孤城』の作中、7人の中学生に、自分の過去と非常に似ている少女を選んでくれたオオカミ少女に。それと、この作品を作ってくれた著者に!
□ライターズプロフィール
都宮将太(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
福岡市在住。
自慢できる肩書き・出版実績・メディア掲載は一切なし。
東野圭吾さんの「ガリレオシリーズ」をキッカケに、推理小説を好きになって約六年。自分でも推理小説書きたいと思い、「このミステリーがすごい!」の大賞受賞を目標としている、ビールと本と漫画をこよなく愛する三十歳。
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