やはり、根っからの文系と気付いた《週刊READING LIFE Vol.240 私、実は〇〇なんです》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2023/11/20/公開
記事:山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
私、実は化学オンチなのです。
常に赤点(34点以下)スレスレか、5回に2回は赤点を付けられていたからだ。
何しろ高校時代、化学のテストで獲得した最高点が47点なのですから、正確にはオンチを通り越しているのだが。
或る時、そんな化学オンチが、バカなことを思い付き有頂天に為っていた。
それは丁度、温室効果ガス排出により、地球温暖化が問題視され始めた頃のことだった。温室効果ガスとは、早い話が“二酸化炭素(CO₂)”のことを指す。何かを地球上で燃やした際、発生するのがCO₂だ。
化学オンチにも、『C』が炭素、『O』が酸素の元素記号であることは、辛うじて理解出来ていた。
更に、地球上を温暖化させないシールドと為っているのが、大気のオゾン(O₃)層であることも知っていた。しかも、そのオゾン層に穴が開き、地球温暖化に拍車が掛かっているとの報道にも出遭っていた。
更に更に、地球上でいちばん固い物質のダイヤモンドが、炭素の純粋結晶であるとも頭の隅っこに記憶していた。
その浅はかな知識と、持ち前の化学オンチは、
『それならば、地球温暖化の元凶であるCO₂を炭素と酸素に分離すれば良い』
と、思い付いたのだ。
しかも、
『CO₂を分離すれば、ダイヤモンドとオゾンが生成出来る』
と、何とも子供じみた想像を始めた。
その上、
『ダイヤモンドとオゾンが大量に生成出来たら、アフリカ等の重労働(ダイヤモンド採掘の)が無用に為り、オゾンホールも簡単に塞ぐことが出来る』
と、最早、荒唐無稽な想像が先走っていた。
そればかりか、
『これ、もしかしたら、ノーベル賞並みの発見かも』
と、正気ではない領域に発想が向かっていた。
だいたい、赤点常連の化学オンチが考え付くこと等、専門の研究者達が既に思い付き方法を探求しているに決まっている。
化学オンチの私は、厚顔にも自分の‘ノーベル賞級’の思い付きを、既知の博士号を持つ専門家に投げかけてみた。私の話を、一通り聞いて下さった彼は、呆れ顔に為りながら、
「素晴らしい発想ですね。いかにも素人らしい」
と、真面目に返答して下さった。
そして、
「山田さん。CO₂は、安定した化合物質なのですよ。それに比べて、ダイヤモンドやオゾンは、単体なので不安定なのです」
継いで、
「だから、ダイヤモンドは希少だし、オゾンホールが開いてしまうのです」
と、化学オンチにも理解し易い説明を付け加えて下さった。
その研究者は、日本の老舗製鉄会社の方だ。東京大学とアメリカの大学院を出た、博士号所持者だ。当然、上級研究員の職に就いていらっしゃる。
そんな彼から以前、製鉄高炉では何故CO₂が大量発生するかも教えて頂いたことが有る。
彼からは、空撮写真からでも製鉄所はすぐ解かると教わった。
先ず製鉄所は、必ず海岸沿いに立地している。主原料の鉄鉱石と石炭といった重量物を、荷揚げするのに便利だからだ。
従って、製鉄所を空から見ると赤い山(鉄鉱石)と、黒い山(石炭)が積まれているので、直ぐに判別出来るというのだ。
化学は苦手でも地理は得意な私は、また一つ知恵が付いたと喜んだ。
そこで気に為るのが、赤い山(鉄鉱石)だ。何故なら、鉄は“クロガネ”という位なので、黒っぽい色が通常だからだ。何故、原料の鉄鉱石は赤いのだろうと訝しく思った。
赤く為った鉄は、錆びてしまった証拠だからだ。
研究者が言うには、資源として埋蔵されている鉄は『第二酸化鉄』いわゆる‘錆びた’状態なのだそうだ。
それを製鉄時に、還元といいって錆びた状態から戻す必要が有るというのだ。そこで必要と為るのが石炭だ。
化学オンチの私でなくとも、一般人は‘石炭’と聞くと燃料として使用すると考えがちだ。
ところが製鉄所では、石炭を燃料としてではなく“還元剤”として高炉に投入するらしいのだ。
超高温に熱せられた『O(酸素)』を含んだ酸化鉄に、『C(炭素)』の塊でも有る石炭を投入して、鉄と結び付いた『O』を取り除く(還元する)寸法なのだそうだ。この還元法は、『CO₂(二酸化炭素)』が安定した(組成し易い)物質なので、古くから行われていた方法なのだそうだ。
当然の結果として製鉄所からは、大量の『CO₂』が排出されているのだ。
地球環境にダメージを与える、温室効果ガスが大量に排出されているのだ。
化学オンチの聞いたところでは、赤い鉄鉱石を黒く還元する為に石炭を使用し、大量のCO₂と為っていると判断した。
私にも理解出来たので、大半の方も理解出来たことだろう。
ただし、『鉄は国家為り』と言われて久しいが、現代的生活を送らんが為には、大量のCO₂排出が必須と為ると、どこか暗澹たる気分に為るのも事実だった。
恥ずかしながら、環境問題を余り重視せず暮らしている私だが、良心のホンの片隅が地味に痛むのだ。
生活の為に、これ以上地球に負担を掛けても良いものだろうかと考えて。
製鉄会社の上級研究員から、製鉄時の還元工程を教示された私は、今年に入り新しい還元法が実用化されるとのニュースを目にした。
しかも、新・還元法では、環境破壊の元凶と為る温室効果ガスが、一切排出されない画期的な技術とのことだった。
その上この技術は、日本で発明されたものであり、世界中で実用化が進めば莫大な利益を日本にもたらすというものだった。
製鉄時の新しい還元法とは、石炭(炭素)ではなく『H(水素)』を還元剤として使う方法だ。
水素還元ならば、CO₂は排出されない。代わりに排出されるのは、『H₂O(水)』だ。H₂Oならば環境破壊等、起ころう筈も無い。何しろ、排出されるのはただの水なのだから。
このニュースを化学オンチの私は、表面だけ鵜呑みにして得意気に、上級研究員に知ったばかりのニュースのことを話した。貴方の御蔭で、こんなニュースにも注目出来る様に為りましたとの、御礼の意を込めて。
意気揚々と話す私に、上級研究員は、
「あっ、あのニュースですね。山田さんは、気が付くと思っていましたよ」
と、言って下さった。
しかし、
「ただねぇ、水素還元法には、未だいくつか越えなければならないハードルが有るのですよ」
と、仰った。
何でも、大小二つのハードルが有るらしい。
小さなハードルは、還元剤として炭素(石炭)の代わりに水素を使用する場合、大量の水素を必要とするのだとか。
化学オンチにも解かる様に教えて貰った解説によると、排出されるのが『CO₂』から『H₂O』に変化するからだそうだ。問題は、“₂”の位置だとか。
炭素又は水素によって、還元という形で取り除かれるのは『O(酸素)』だ。
『CO₂』の場合、‘炭素1’に対し‘酸素2’還元されるという化学式だ。
これが、水素還元によって排出される『H₂O』と為ると、‘酸素1’を還元するのに必要なのは‘水素2’と倍に為って仕舞うのだ。
従って、石炭よりもかなり多くの水素を用意しなければならないとのことだった。
但しこれは、サプライチェーンの問題だけで、いずれは解決が可能だそうだ。
先ずは、一安心だ。
問題なのは、大きなハードルの方だった。しかも、起きる現象は化学オンチでも直ぐに気が付くことだった。
その、大きなハードルとは、水素還元で排出されるのが『H₂O』なので起こることだった。
炭素還元の場合、排出されるのは『CO₂』だ。『CO₂』は気体(ガス)なので、煙突から排出されれば、大気に飛散して仕舞う。製鉄高炉に対しては、さしたる問題を引き起こさない。
環境にはダメージを残すが。
これが、水素還元と為ると状況が変化する。水素還元で排出されるのは、液体の『H₂O』だ。
環境には、さしたる影響を出さない。
しかしだ、『H₂O』は水だ。超高温で稼動する、稼動し続ける高炉にとって、温度を下げる水は大敵なのだ。
そんな大敵が、還元の為に大量に排出し続けては、折角の画期的技術が使えなく為って仕舞うことを意味する。
何しろ製鉄高炉は、いった稼働し始めると永遠に稼働し続けるのだ。
それは全て、高炉の超高温を維持する為なのだ。
そこへ、水なんぞはもっての外なのは当然だ。
化学オンチでなくとも、十分に解ることだ。
21世紀の現代でも、火災消火の際には放水するのが通例だ。
もっと身近な例では、火傷した際に流水で冷やす行為がそれだ。
ざる蕎麦だってつけ麺だって、茹でた麺を冷やすには流水を使用する。
これ全て、温度を下げるには『H₂O』が最適ということなのだ。
反対に、超高温を維持しなければならない製鉄高炉にとって、最も避けたいのが水なのだ。
理由は簡単。温度が下がって仕舞うからだ。
その水が、大量に発生する水素還元は、製鉄現場にとって招からざる技術だったのだ。
化学オンチの私に、上級研究員はそう説明して下さった。
私は私なりに、一所懸命聞き入っていた。
オンチな頭でも、何とか理解しようと。
何故なら、この話を何とか記事のネタにしようと考えていたのだろう。
だから何とか最後迄、上級研究者の話に喰らい付いて行けたのだ。
何のことは無い、ライティングという超文系的な理由で、最も苦手なことを理解しようと試みただけなのだ。
根っからの化学オンチが、直った訳では無い。
多分、水素還元を理解した今でも、化学のテストを受けたら間違い無く赤点だろう。
そればかりか、0点の可能性だってある。
今回は、ネタを一つ拾うことが出来て、良かったとして置こう。
そして少なくとも、化学オンチから一歩前進出来た様だし。
□ライターズプロフィール
山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター)
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数17,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
天狼院メディアグランプリ38th~41stSeason四連覇達成 46stSeasonChampion
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