第7回 《週間READING LIFE「けっこん、します」》
記事:藤原 宏輝(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
‘おふたりの土台作り、関係性を築く基本’をこれまで、第2章としてお伝えしています。
個人の見解で異なる事もあるかと思います、個人差もございます。
これらをよくご理解頂いた上で、読み進めて頂きたいと思います。
今回は‘違いを理解する’について、です。
結婚すると決めてから、後々になって気づくのは色々な‘違い’です。
‘違い’とは、ご夫婦によって様々かと思いますが、恋人の時には気付かなかった‘違い’。
その中でも違うのは、性格、価値観、育った環境などが挙げられます。
最初の違和感は、黄色い境界線。
日曜の昼下がり、結婚式の打ち合わせにご新郎様とご新婦様は、
「昨日は、2人家族会議したんです」
と嬉しそうに仲良く手を繋いでいらっしゃった。
「卵焼き、しょうゆでいいよね」から始まった1日。
窓から差し込む光が気持ちいい。それは、土曜日の遅い朝食の席でのこと。
卵焼きに何をかけるのか?
彼がフライパンで手際よく焼き上げた、湯気の立つ卵焼きがテーブルの真ん中に置かれた。
彼は当然のように、冷蔵庫から醤油を取り出す。そして、
「卵焼き、しょうゆでいいよね」
迷いのないその言葉に、彼女の心臓がちくりと跳ねた。
彼女の右手は、無意識にケチャップのボトルを掴もうとしていたからだ。
「ダメ! 私、ケチャップだから」
思わず声を荒らげて、彼の手を止める。
彼はまるで、未知の生物を見るような目で彼女を見た。
「ケチャップ……? 卵焼きだよ。オムレツとかスクランブルエッグじゃないんだし」
「私の家では、卵焼きはケチャップって決まってたの。お母さんも、おばあちゃんもそうだったし」
「でも、これは和風の出汁を入れたんだ。醤油のほうが合うに決まってる」
怪訝そうにポツリと呟いた彼の言葉が、彼女には自分の育ってきた文化そのものを否定されたように聞こえた。
テーブルの真ん中に置かれていた大きな卵焼きは姿を消し別々の小さな皿に、それぞれが納得する味付けの卵焼きをのせて、黙々と食べた。
卵焼きにお醤油をかけるか? ケチャップをかけるか?
何をかけるか?
という、あまりにも具体的な違いからの出来事。
それは、喧嘩ではない。
けれど、分かち合うことを諦め、お互いを尊重する結果となった。
性格が似ているから分かり合える。そう思っていたのは、外で恋人としてデートをしていた頃の話。
社交的で、本が好きで、笑いのツボが同じ。
けれど、2人の生活が始まり、家の中でのお互いの性格や価値観は、もっと別の場所に潜んでいた。
次の違和感は、タオルの正解
その夜、洗濯物を畳んでいた彼女に、彼が脱衣所から声をかけた。
「ねえ、このタオルさあ、使う時になんか使いづらいんだよね」
彼女は手を止めた。
自分のタオルの畳み方が、おかしいとか、間違っているなんて、人生で一度も思ったことがなかった。
三つ折りにして、さらに半分に折る。
それが彼女にとっての‘タオルの完成形’だった。
「なぜかしら……?」
つい口から漏れたのは、怒りよりも純粋な疑問だった。
「私の当たり前が、彼にとって使いづらいになるのか?」
棚を開けて見ると、彼が以前自分で畳んだタオルは、くるくると丸められるようにして棚に並んでいた。
「うちは、ホテルのバスルームみたいに縦に三つ折りにしてから丸める派だったんだ。そうすれば、棚から片手でスッと取り出せるだろ?」
その瞬間、彼女は悟った。
この家には、2つの異なる‘それぞれの正解’が持ち込まれているのだ。
タオルだけではない。Tシャツの首の向き、靴下の丸め方、下着をしまう場所。
二十数年かけて築き上げてきた‘それぞれの心地よさ’が、
今、この狭いリビングで激しくぶつかり合っている。
そして、彼女は山積みの洗濯物を前に、彼を呼んだ。
「あのね。タオルの畳み方、もう一回教えてくれない? あなたのやり方の方が、確かに取り出しやすいかもしれないって思ったから」
彼は少し驚いた顔をしたが、
「収納した時の見た目の綺麗さ。も捨てがたいんだよな。三つ折りのほうが、棚がスッキリ見えるし」
2人は、1枚のタオルを挟んで向き合った。
「じゃあ、こうするのはどう?」
「あ、それいいかも。使いやすくて、見た目もいい」
二人は笑いながら、新しい畳み方を考案した。
それは、お互いの実家のやり方ではない。世界中で、ここにしかない‘2人のたたみ方’だった。
相手の話を聴くという事は、自分の正解を捨てることではない。
向き合って話し合うという事は、どちらが正しいかを決める事ではない。
2人の新しい形を創り出すという事ことは、お互いの過去をリスペクトした上で、未来の心地よさを発明することだ。
2人が一緒に暮らし始めて1ヶ月。
予想もしなかった、小さな違和感の積み重ねから始まっていた。
‘結婚する’と決めて、お互いに同じ方向を向いていると思い込んでいた。
いざ始まってみると、見えてきたのは‘愛とか好き’という抽象的な言葉ではなかったようだ。
そして、お2人は‘卵焼きと洗濯物のたたみ方’家族会議をし、真面目に向き合った。
こうして今、ようやく共有という真のスタートラインに立った。
その翌日、日曜日の朝。
再び、大きなお皿にのった卵焼きが登場した。
味付けは、半分が醤油で、半分がケチャップ。
見た目は少し不恰好で、境界線は曖昧だけれど、二人はそれを箸で分け合いながら笑った。
性格が違うから、補い合える。
価値観が違うから、新しい視点を持てる。
育った環境が違うから、2人の世界は2倍以上に広がる。
結婚とは、真っ白なキャンバスに、2人の‘違い’という絵の具を混ぜ合わせ、見た事もない色を創り出していく作業。
打ち合わせの帰り道「ねぇ次は、Tシャツの畳み方会議しようか」
彼女は、笑いながら言った。
卵焼きやタオル、これはただの生活の断片だが、そこに結婚の本質が滲み出る。
結婚生活とは、大きな決断ではなく、小さな違いの連続でできている。逆に言えば、その小さな違いをどう扱うかで、夫婦の未来は静かに形を変えていく。
前回は、土台の1つめ。
ご夫婦が長く幸せに、暮らす為の3つのこと。をお伝えしましたが、
今回は、土台の2つめ。
3つのうち、どれ派?
ご夫婦として、意見が違ったり、ぶつかったりした時。
拒絶の道と支配の道、そして新しい道という、交差点に差し掛かる。
- 拒絶の道
「私の畳み方に文句あるの? 使えればいいじゃん。嫌なら自分で洗濯物、畳んで片付けて!」
そう言い放ち、相手の領域をシャットアウトする。効率がいいかも? しれないが、
そこには共に生きる。という温度は失われ、ただの同居人としてのドライなルールだけが残っていくだろう。
- 支配の道
「うちの実家は、こういう畳み方だったから、同じでいいよね。それがこの家のルールだから」
夫婦のどちらかが自分の正解を相手に押し付け、一方が我慢を強いられる。
些細なその歪みは、いつか洗濯物以外の、もっと決定的な場面で爆発することになるだろう。
- 新しい道を創る、ということ
「あのね。タオルの畳み方、もう一回教えてくれない? あなたのやり方の方が、確かに取り出しやすいかもしれないって思ったから」
2人は、1枚のタオルを挟んで向き合った。
「じゃあ、こうするのはどう?」
お互いの‘違い’を理解し、新しい道を切り拓く事で、新しい家族の形が出来るだろう。
好きから始まり、理解に変わり、やがて信頼になる。
‘おふたりの土台作り、関係性を築く基本’は、いかがでしたか?
次回は‘健全な関係をつくる’について、お伝えしていきます。
❒ライタープロフィール
藤原 宏輝(ふじわら こうき)『READING LIFE 編集部 ライターズ俱楽部』
愛知県名古屋市在住、岐阜県出身。ブライダル・プロデュース業に26年携わり、2200組以上の花婿花嫁さんの人生のスタートに関わり続けています。。
思い立ったら即行動、世界中どこまでも行く。好奇心旺盛で知らない事は、どんどん知ってみたい。何があってもすぐ、前向きに切り替える。
ブライダル業務の経験を活かして、次の世代に何を繋げていけるのか? 未来に社会に、何を残せるのか? を模索しています。2024年より天狼院で学び、日々の出来事から‘書く事と発信する事’に真摯に向き合い、楽しみながら学び、日々精進しております。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
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