メディアグランプリ

バーベキューで生き抜く力


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:井上今朝(ライティング・ゼミ、2026年1月開講、通信、4ヶ月コース)

 

先週末、桜が咲き始めた。

職場の近くにある測候所の標本木。

駐車場から職場へ歩く道沿いにある。

少し前まで小さな芽だったのに、今は五分咲きくらいだろうか。

馴染みの桜よりも濃いピンク色。

花びらのすぐそばに、赤紫色の葉っぱも小さく添えられている。

そろそろバーベキューの季節だなと思う。

 

本州出身の私。

実家の近くには桜で有名な親水公園があった。

花見の時期には、コンクリートで囲まれた水路のような川に沿って並ぶ桜の木々の黒い枝から淡いピンクの花の塊がポンポンと弾けるようにあふれていた。

ソメイヨシノはエゾヤマザクラとちがって、花が散ってから葉が出てくるので、ノイズがなくて、花そのもの美しさ、儚さを感じることができる。

夜にはライトアップされて、土手というか通路の両脇の芝生のような広場にブルーシートを敷いて、カラオケして呑んでいるおじさんたちの陽気な歌声を聞きながら、出店の中を歩くのが家族のお花見の思い出だ。

 

北海道のお花見はバーベキューが定番。

だけど私はまだ、桜を見ながらバーベキューをしたことはない。

この季節、強い風が吹くし、風はまだ冷たいから、結局ゴールデンウィークに集まることになる。

離れたところに住んでいる親戚も帰ってくるバーベキューは一大イベントになっている。

 

夫の祖父は大工だったそうで、実家の外にはトタン屋根の作業場がある。

雨風しのげる広い作業場は、バーベキューをするにはうってつけ。

その日、まず準備するのは椅子だ。

プラスチックのビールケースをいくつか裏返しにして、少し離して並べ、長さ150cmくらいの長板をわたす。

そこに小さな座布団を3つ置くと、3人座れる簡易ベンチの出来上がり。

それをバーベキューコンロの四隅を取り囲むように設置する。

そのあとは炭を起こすのだけど、これはまだ慣れない。

ホームセンターで買ってきた木炭を、コンロの中にトンネル状に組んで、燃料に火をつけて真ん中に入れる。

そこからうちわで仰ぐ。パタパタパタ。

じいちゃん、パパ、息子。

3人でうちわを必死に振る姿は可愛らしい。

 

無事に火がついたら、いよいよ肉を焼き始める。

すでにみんなの手には、クーラーボックスから出してきた、よく冷えた缶ビールが握られている。

もちろんサッポロ・クラシック。

十勝は肉が美味しい。

肉を買い付けるお店も種類も決まっていて、お義母さんがすでに準備してくれている。

肉は(焼き鳥以外)全部味つきだ。

一番最初は、みんな大好きな牛タン。

ネギやレモンみたいな洒落たトッピングはなく、焼いたらすぐに食べる。

弾力がある、少しシャキッとした噛みごたえ。

あっという間になくなる。

 

その脇で焼き鳥を並べて焼き始める。

塩とこしょうをパラパラ振って焼き加減を見ながら串を回転させていく。

焼き上がるまでは、ちょっと待たないといけない。

 

「次、どうする? サガリ、行くかい?」とお義母さん。

ここからは、サガリ(牛の横隔膜の背中側)、厚切りジンギスカンと続く。

サガリは、少し棒状というか、「わかさいも」(洞爺湖温泉の銘菓)みたいな紡錘形をしている。

赤身に斜めに筋みたいな線がいくつも走っている。

焼くと見た目は固そうに見えるのだけど、食べるとやわらかくて、タレが染みていて美味しい。

厚切りジンギスカンは、7mmくらいの厚みだろうか。

間に入ったスジで花びらみたいな見える肉で、こちらもやわらかくて弾力がある。

牛タンみたいな硬さの残る弾力じゃなくて、柔らかい弾力。

臭みがなくて、カルビみたいな強い脂っ気もない。

サガリもジンギスカンも、さっぱりとした味わいだから、だんだんとオイルを受けつけなくなってきている身にはありがたい。

 

大人は肉に夢中だけど、飽きてきた子どもたちは、庭に穴を掘り始めたり、石を集めたり。

庭に生えている行者ニンニクを採ってきて焼くこともある。

晴れていれば、青空と肉とビール、ほんっとうに最高! 

 

馴染み深くなってきた短い夏の風物詩のバーベキューだけど、数年前、その威力を感じたことがある。

夜中に大きな地震が起き、数日間停電したときのこと。

職場から帰る夜道、ランタンのような灯りをともして、暗闇の中、家の軒先でバーベキューをやっている人たちがいた。

わー、ちょっと楽しそう。

災害時だから職場も非常体制になっていて、その後も油断ができない状況ではあったのだけど、だからこそ自分で火を起こして、ごはんをつくって食べるという行為がとても頼もしく感じられた。

それに少しワクワクする。

停電だから家の冷蔵庫や冷凍庫も機能しなくなったけど、ストックしていたとっておきの食材で、この時期はちょっと贅沢な食事だったと、後日話している人もいた。

災害大国の日本では、まだまだこれから起こるのではないかと予測される大きな地震が控えている。

災害の規模や予想される被害について教えてくれる番組を見ると不安になってしまう。

私たちや家族はその時どうなるんだろう。

わからないけど、自分でごはんを作れる方法があること、大変なとき、自分や家族がちょっと元気になれるような食材をストックしておくこと。

そうやって備えることで少し安心できる気がする。

 

今まで実家の庭でばかりのバーベキューだったけど、今年の夏はキャンプもやってみたいと思っている。

生き抜く力が少しアップすることを期待して。

 

≪終わり≫

 

 

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