メディアグランプリ

ネタ探しの旅


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:鐵谷知会子(2026年8月開講 ライティング・ゼミ福岡)

 

 

 

明け方4時に目が覚める。まずい、課題の2000文字のネタがない。結構追い詰められてきた。失敗談は山程あるが自己開示をどこまでするのかは、大きな問題である。人生の全ての出来事をつらつら綴っていては私の人生史になり、そんな物語、誰も興味はない。かといって部分的な自己開示で裸になってしまっては、これから先それこそ体を切り刻まなければならない。

 

こういう時は小さなメモ帳に思いつく単語を書いてみる。「犬」「猫」「家族」違う。「渦巻き」「蚊取り線香」「蚊やり」「団扇」いや違う。これでは只の連想ゲームだ。まずい、思考が2000文字の恐怖で固まっている。やり直してみる。「犬」「猫」これは外せない。「渦巻き」「謎」「仕事」「お酒」「カラオケ」又だ。全くインテリジェンスがない。

 

今度はアトランダムに本棚から本を引っ張り出し、目を閉じページを開いてから指を差してみる。建築雑誌だったから「極細スリットが垂直と水平のラインを強調する」とある。おっと、これは収穫だ。メモに「水平」「垂直」「ライン」「強調」と書きつける。気を良くして今度は本棚全体に目をやる。仕事柄、建築関係の本が多い。「間取り」「インテリア」「デザイン」「アンティーク」限界だな。もう本から離れよう。

 

今度はインテリジェンスを意識して知っている画家の名前を挙げてみる。「マチス」「ピカソ」「エゴン・シーレ」「ゴッホ」こう書くと生前から評価されている人、死後にしか評価されなかった人がいるのがなんとも切ない。それに画家の名前を書いたところで研究者ではないから内容に自信がない。自信のある内容といえば猫。これは猫好きの人にしか刺さらないし、犬も同様だ。眉間にシワが寄ってくるのを感じる。鏡をみるとカッターで切ったような深いシワ。このシワの深さの分、ストーリーがあるはずだ。しかし、それではオチが深刻になって読んでくれた人を泣かせてしまうかもしれない。いや、笑わせたい。

今度はさっきメモした紙を1枚ずつ、天地をひっくり返してみる。別にナゾナゾではない。学生時代、美術の時間に私はデッサンをしていた。すると先生が私の画を見ながら「デッサンが上手くいかないと思ったら天地をひっくり返してみるといいですよ。不自然なのが判りますから」とアドバイスされたのだ。という事でメモの文字を全部ひっくり返してみる。少なくとも脳のスイッチが切り替わるやもしれぬ。しばらくメモを睨んだ。いや切り替わらなかった。

 

今度は掛け合わせ作戦である。これも目をつぶりメモを2枚引いてみる。犬とコーヒースタンド。なんか違う。私の中にその組み合わせが見つからない。シャッフルしてもう一度。私は余程コーヒーが飲みたいのか、コーヒースタンドとラインと出た。性懲りもなく、もう一度。家族とコーヒースタンド。これはヤラセではない。ドキュメンタリーである。少し考える。例えば、お気に入りのコーヒースタンドというと、あの角のコーヒースタンドか。という事は取材しに行けばいいのか。イケメン風の店長が話をしてくれるだろうか。まさか何かの天の啓示? いや、もうメモは飽きた。

 

今度は目の前のデスクカレンダーの絵に目を移す。イルカがいて泡をつついている。クラゲもいるし、イカもいて珊瑚もイルカを見守っているかの様。まるで水族館。それなら沖縄美ら海水族館だ。ジンベイザメがゆったりと泳ぐ姿に感動した。いや違う。そうではない。ネタを探すのだ。

 

 ほぼ日の糸井重里さんの凄さを考える。日常のすべてをネタにして、ほぼ毎日発信している。ならば私も糸井重里さんを真似て今日の行動を振り返ってみよう。朝、二度寝したから午前中一杯眠くて会社から給料を搾取。午後からは役所に申請している幾つかの助成金の期日を確認。今日は暇だったからデスク周りの整理整頓を行う。それが終わると同僚に見えない様に、こっそりライティングゼミの課題をwordに入力して、会社から給料を搾取。そうだ、このドキュメンタリー自体、勤務時間に実行している。本を開き、メモを書き、眉間にシワをよせる。仕事をしている様に見えている筈だ。だが搾取も早々にばれると思う。見つかったら反省文を書かされる事だろう。

 頭を整理してみる。結局インスパイアされるようなワードは出てこなかった。メモ紙をシャッフルして何度か選んだがコーヒースタンドがしつこく出る。画家の名前を出してはみたが、なんか切なくなってしまう。美ら海水族館がでてきて、ジンベイザメで終わってしまった。結局、次のネタも身を切らなければならないのか。まずは腕を差し出し、傷をつけて何かが出てくるのを待つか。ぶよぶよの脂肪を採取し、脂肪細胞を薄くスライス。顕微鏡で眺めて何かを発見できるのか。

 

 だが今回は、ネタ探しの旅で切り抜けられそうだ。明日からも、脳内の森へとネタ探しの旅は続く。光れ! シナプス!

 

 

 

 

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