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羊の毛刈り動画を見ていたら「幸福について」という本を読むことになった


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:宮本 晃伸(2026年8月開講 ライティング・ゼミ福岡)

 

 

羊の毛刈り動画はおすすめだ。とってもモフモフだからだ。

少なくとも、この動画を見るまではそう思っていた。

 

今年の夏も暑い。柴犬は暑さ対策のために夏毛にかわる。実は羊も本来は夏毛、冬毛がある。しかし、羊毛がたくさん収穫できるように品種改良された結果、伸びたら伸びっぱなしで伸び続けていくようになった。

そのため、暑くなる前に毛刈りを済ませてあげる必要がある。

 

私が見た動画では二人がかりで毛刈りを行っていた。

一人が羊を押さえておき、一人がバリカンで刈っていく。

 

主役はもちろん羊なのだが、なぜだか押さえ役の女性に目が吸い寄せられる。

その人の横顔を見た途端、ときめきが襲い掛かってきた。

羊の様子をうかがう伏し目な横顔。切れ長な目じり。通った鼻筋。高めのポニーテール。

内臓がグッと重くなるような、そんなときめきだった。

 

以前にも似た経験があった。

社会人になってから知り合った女性がいる。その人の横顔を見て雷に打たれたような衝撃を受けたことがある。

時折「雷に打たれたような」という表現を耳にしたことがあったが「誇張しすぎなのでは?」「その人の感受性が高いだけでは?」と疑っていた。

まさか、自分の身にそれが降りかかってくるとは思っていなかった。

 

余談だが私が雷に打たれたのはその女性に告白し、しっかりと振られた後だった。

雷の打たれ損である。

 

癒されたくて羊の毛刈り動画を見ていたのに、まさか嫌な記憶が掘り起こされるなんて……。

 

その思い出を反芻し、嫌な連想ゲームが始まってしまった。

「あのときの振る舞いがよくなかったのかな」

「これからも同じように振られるのかな」

「結婚なんてほど遠いな」

「一生、私は孤独のままなのだろうか」

 

一人の女性に振られた。それだけの話だったはずなのに、人生すべてに波及していく。

私の頭の中はそんなモヤモヤでいっぱいだ。他のものが入ってくる余地がない。

 

こんなときにはどうすればいいのだろうか?

 

友人に相談するのは難しい。

「そんなことを相談できる友人がいれば孤独にさいなまれていない」というそもそも論になってしまう。

 

ChatGPTに相談するという方法もある。悩み事を伝えればしっかりと私に寄り添った返事をしてくれるだろう。

それもなんだか違う。いっそ血の通っていないロボット視点で話してくれたほうが助かる。

 

私には、自分自身をできるだけ遠くから眺めてみるという対処法がある。

具体的には、進化生物学の視点から「ホモ・サピエンスはなぜ孤独を感じるのか」と考えてみることだ。

うんと前に人間は超危険な自然の中で群れで暮らしていた。というよりは、そんな自然の中では群れで協力していかないと生きていけなかった。

一人ぼっちは命の危機に直結する。そのため孤独に不安を感じ、仲間とのつながりを求める性質を持ったご先祖様が生き残ってきた。

この性質を受け継いでいるので孤独はつらく感じる――というものである。

 

こんな風に考えていくと、ある種、自分自身が実験動物のように感じられる。

苦しんでいるのは私自身なのだが、「本で読んだ通りの症状はこれか」と他人事のように眺める自分が出てくる。

 

それでも、その日の私にはまだ少し足りなかった。

 

そこで、他人に関心を向けてみることにした。

私以外の人は、孤独について何を考えてきたのだろう?

 

自分の悩みというのは自分にとって唯一無二な感覚があるが、意外にそんなことはない。

例えばAmazonで「孤独 本」と検索すれば書籍がわんさか出てくる。

それらは私よりも賢い人が時間を掛けて考え抜いた結果だから、私一人でぐるぐる考えるより、何かしらヒントが見つかる確率は高いだろう。

 

そこでショーペンハウアーの『幸福について』を読んでみることにした。

ショーペンハウアーは1788年に生まれたドイツの哲学者である。

ここでは親愛をこめてショーさんと呼ぶことにしよう。

 

この本のもととなる書籍の執筆が終わったのが1850年ぐらい。

日本ではバリバリ江戸時代でペリーが黒船で来航してくる少し前の時代。

一方ドイツは蒸気機関で動く鉄道をガンガンに作っていた。

 

この時代にはLINEの既読無視もないし、SNSでキラキラした人生をアップしている人もいなかった。それでも孤独は、本書で何度も顔を出すテーマの一つだった。

 

ショーさんは本の中で孤独について下記のように記述している。

 

才知あふれる人物はまったく独りぼっちでも、みずからの思索や想像ですばらしく楽しめるが、鈍物は社交や芝居、遠出やダンスパーティーと絶え間なく気分転換しても、地獄の責め苦のごとき退屈をはねのけることができない。

『幸福について』ショーペンハウアー(光文社, 2018)

 

200年近く前の文章なのに、現代にも通じるところがあるように感じる。ショーさん自身が思い悩んでいたのかはわからない。それでも、孤独についてこれだけ書くということは、少なくとも何度も考えたテーマではあったのだろう。

 

ショーさんはどんな表情でこの文章を書いたのだろうか?

理路整然と落ち着いた様子で書いたのだろうか?

友達の多い友人を見て、負け惜しみを多分に込めて書いたのだろうか?

 

私の孤独は解消されていない。

それでも、さっきまで頭の中にいっぱいだったモヤモヤが少し小さくなる。

そのぶんだけ、少し楽になるのだ。

 

 

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