姉妹と双子のなむなむ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:秋田梨沙(26年9月ライティングゼミwithAI)
2階から妹の声が聞こえる。
「この人が、ママのママで、こっちがママのパパだよ」
3歳の双子を連れて、仏壇の前へ行ったようだ。そこには、遺影の代わりに、若かりし頃の父母のツーショットが飾ってある。
「はい、じゃぁチリンしてみよっか」
妹がそう言うと、元気の良いお鈴の音が、チリーン!! と家中に鳴り響いた。
「せっかくこんなに貢ぎ甲斐のある私たちがいるっていうのに、なにしてんのよ! って言うんだよ」
父は、双子たちが1歳を迎える前に亡くなってしまった。母にいたってはもうずっと昔のことなので、私の夫も、妹の夫も会ったことはない。だから、双子たちの物語におじいちゃんとおばあちゃんは1人ずつしか登場しない。パパの方の、じぃじとばぁばだけ。そのことに本人たちは何の疑問もないだろうけれど、妹としては話しておきたいと思ったのだろう。その気持ちは、私もわかる。
様子が気になって、私も2階へと上がってみた。
「なむなむ、だね」
妹の声に促されて、双子たちは小さな手を合わせてお祈りを始めた。慣れない仕草が気恥ずかしいのか、口元がちょっとだけ、にまっとしている。やたらと若いじぃじとばぁばの写真が面白いのかもしれない。少しして、パッと手を下ろすと、妹を見上げた。
「ママも! なむなむして!」
妹は、なんとも言えない顔をした。
「うーん、ママは……そこにいると思ってないんだけどなぁ……」
双子たちに聞かせるつもりがないくらいの、ただの独り言だ。子どもに言った手前、妹は大人しく手を合わせたけれど、そこに少しの抵抗感があるのは、なんとなく伝わってきた。思ったより早く逝ってしまった二人への行き場のない怒りと諦めが、素直な仕草を邪魔するのだと思う。その気持ちは、私もよくわかる。私たちは、一人では仏壇の前に座れない。顔を見合わせて苦笑いしながら、双子と手を繋いで、一緒にリビングへと戻った。
おやつを食べ終えたあとは、大人たちによるゲーム大会が始まった。妹がこの日のために持ってきたのは、Switch2の「リズム天国」だ。音楽に合わせてタイミングよくボタンを押す、いわゆるリズムゲームなのだけれど、事前に聞いていた噂どおり、これがとにかく難しい。
「ヒゲがぬけないぃ!」
たまねぎおじさんのヒゲが、美しく抜けない。
「あーっ! ズレた!」
リズム感が無さすぎる私のターンは、おじさんの顔がチョビヒゲまみれになり、酷い有様である。悔しがる私の後ろで、
「これさぁ、お父さん絶対苦手なヤツだよね!」
妹が笑う。
「怒ってコントローラー投げそうじゃない?」
「いやいや! 絶対『ぬぅわぁあああ!』って叫んでるよ!」
ゲームに翻弄される父の姿が鮮明に想像できた。コントローラーを構え直しながら、よりリアルな父の姿はどちらかと、姉妹のバトルが白熱する。
その時だ。頭の上から、
チリーン! チリリン!!
と澄んだ音が響いてきた。見れば、さっきまでリビングを走り回っていたはずの双子の姿がない。ひっそりと階段を上へあがり、2階の仏壇でお鈴を鳴らしているのだ。
チリーン! チリーン!!
悪戯っぽくリズムを刻むお鈴の音色に、妹と私は思わず顔を見合わせて笑ってしまった。胸の中にあった「なむなむ」の引っ掛かりが、軽快なリズムと共に、みるみるほどけていくのを感じていた。
仏壇の前ではあんなに頑なで、どこか素直になれなかった私たち姉妹だけれど、今こうして、リビングの真ん中にお父さんを引っ張り出して、「絶対ヘタクソだよね」と笑い合っている時間は、ちっとも苦しくない。いつもお茶目だった父の姿を思い出しながら、2階から降ってくる無邪気なお鈴の音と一緒に、父も母も、ここに混ざっているような気がしていた。
ずっと、素直に手を合わせて親を偲ぶことすらできない自分に対して、小さな罪悪感も抱えていた。けれど、線香の煙の前で神妙に祈ることだけが、供養じゃない。いなくなった人の不器用さやお茶目なところを思い出して、生きている家族でゲラゲラと笑い合うこと。こうして私たちが交わす笑い声の真ん中に、きっと、あの二人はいる。
「よーし、もう一回!」
ボタンを押し、ご機嫌なリズムがまた部屋いっぱいに響き渡る。チリーンと鳴らしたお鈴よりもずっと賑やかなその音色を、2階の二人はきっと、苦笑いしながら聴いているに違いない。我ら姉妹に、大人しく寝かせてやる気なんかないのだから。
だって、これが私たち姉妹なりの「なむなむ」なんだもの。
《終わり》
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