道を聞くのに、なぜ謝るの?
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:永石美香子(2026年9月ライティングゼミ with AI)
「すみません!」
さて、これを英語にしてください。
「Sorry!」と思った方、ちょっと待ってください。
では、街で道を尋ねたいときはどうでしょう。誰かにぶつかってしまったときは? 落としたペンを拾ってもらったときは?
実は、どの場面でも日本語では「すみません」と言えますが、英語では表現が変わります。
道を尋ねるなら「Excuse me.」。ぶつかったことを謝るなら「I’m sorry.」。ペンを拾ってもらったなら「Thank you.」。
どうして、同じ日本語なのに、英語では三つの表現になるのでしょう。
単語の意味を調べれば、答えが見つかるのでしょうか。それとも、もっと別のところにヒントがあるのでしょうか。
30年以上、高校で英語を教えてきました。その中で、英語の単語や文法を知っていることと、それを実際の場面で使えることは、同じではないと感じてきました。
英文を作るとき、知っている単語を並べるだけでは、言いたいことがうまく伝わらない場合があります。反対に、難しい単語を知らなくても、伝えたいことがはっきりしていれば、知っている表現から言い方を探すことができます。
では、英語を探す前に、何をすればよいのでしょう。
ここで、最初の「すみません」に戻ります。
道を聞くとき、相手に謝りたいわけではありません。相手の注意を引いて、話しかけたいのです。ぶつかったときは、相手に申し訳ない気持ちを伝えたい。ペンを拾ってもらったときは、お礼を言いたい。
つまり、三つの場面で違うのは、日本語の単語ではなく、伝えたいことです。
英語にする前に考えたいのは、「私は今、何を伝えたいんだろう?」という問いかけ。
この一歩が、英語の表現を選ぶ手がかりになります。
もちろん、これだけですべての英語表現が簡単に選べるようになるわけではありません。「Excuse me」が謝罪の意味で使われることもありますし、「Sorry to bother you, but …」のように、相手への気遣いを示してからお願いする表現もあります。言葉の使い方は、場面や相手との関係によっても変わるからです。
それでも、単語の意味だけを見て訳を決めるのではなく、場面と目的を考えることには意味があります。
この考え方は、英語教育の資料にも見られます。英語教育に関する情報を発信するBritish Councilの教師向けサイト「TeachingEnglish」では、学習者が実生活で英語を使えるよう、授業の中でも現実に近い場面を練習することを勧めています。例として、遅刻を謝る、助けを求める、お礼を言うといったやり取りが挙げられています。
参考:British Council, TeachingEnglish「Real-life speaking in class」(2023年10月1日公開)
この資料が、私の提案する方法そのものの効果を証明しているわけではありません。ただ、英語を実際に使う場面を意識して練習するという方向性は、私が長年の授業を通して大切だと感じてきたこととも重なります。
では、ここからは、あなた自身で試してみませんか。
今日から一週間、英語にしたい日本語が出てきたら、すぐに辞書を引くのを少しだけ待ってみてください。
まずは、その言葉を使う場面を思い浮かべます。次に、誰に何を伝えたいのかを考えます。そして、その目的に合う英語表現を調べ、例文と一緒に覚えます。
一週間後に振り返ってほしいのは、覚えた単語の数だけではありません。英語を調べる前に、自分の伝えたいことを考えられた場面があったかどうか。それも、振り返りの目安にしてみてください。
「大丈夫です」も、考えてみましょう。
何かを勧められて断るとき。体調を心配されて安心させたいとき。相手に「もう心配しなくていいですよ」と伝えたいとき。同じ言葉でも、場面が変われば英語の表現も変わります。
「いいです」も同じです。勧められたものを断る「いいです」と、提案に賛成する「いいです」では、伝えたいことが違います。
日本語を英語に置き換えるとき、いつも一対一の正解があるとは限りません。だからこそ、単語を探す前に、自分の意図を確かめることが役に立つのです。
英語は、日本語を単語ごとに置き換えるパズルではありません。誰に、何のために、何を伝えたいのか。その視点を持つことが、知っている英語を使うための一歩になります。
次に「すみません」と言いたくなったら、一秒だけ立ち止まってみてください。
「私は今、何を伝えたいんだろう?」
道を尋ねるなら「Excuse me.」から。まずは身近な一言で、試してみませんか。
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