週刊READING LIFE vol.15

あなたのホッチキス人生、変わります《週刊READING LIFE vol.15「文具FANATIC!」》


記事:青木文子(天狼院公認ライター)

 
 

「あぁ~ やっちゃった」
 
ホッチキスの針を外す時にこんな経験をしたことはないだろうか。女性であれば、ホッチキスの針を取ろうとしてせっかく伸ばしかけの爪が折れてしまった。男性であれば、ホッチキスの先端が指をついて血が滲んでしまった等々。
 
あなたはホチキスの針をどのようにしてとるだろうか。多くは自分の爪でなんとか外すか、ホッチキスの後ろについている平らになっている金属のヘラの部分で外すことが多いのではないだろうか。自分の爪で外せば爪や指を痛めることが多いし、ヘラの部分で外すと紙が破れかけたりする。そして、勢いをつけて外した時などはホッチキスの針がどこかに飛んで行方不明になったりする。
 
そうなると、ホッチキスをはずすことが億劫になる。ホッチキスはずすことが億劫になれば、無意識的にホッチキスで「ガチャリ」と紙を止めることにも億劫になる。
以前の私がそうだった。これはいけない。無意識の作用というのは目に見えないけれど、だからこそ、人の気持や行動に大きく関わっている。私は仕事柄、ホッチキスを使うことが多い。そのひとつひとつの作業が無意識的に億劫になるのはマズイ。気持ちにどんよりと雲が立ち込める。
 
ところが、ある時のこと。そんなどんよりと曇った億劫さの雲間から、太陽が差し込むような出会いがあったのだ。まさに運命の出会い。
その出会いは私のホッチキス人生を大きく変えてしまった。
 
その出会いの相手は机の上にキラリと光って置かれている、ある道具だった。
その道具の名前は「はりトルPRO」という。
 
結論からお伝えしよう。「はりトルPRO」は、すこし前まではホッチキス仕事が億劫だった私を、あっという間に、ホッチキスを外したいが故に、ホッチキスをしたくてたまらない体質にしてしまったのだ。
 
「はりトルPRO」はホッチキスの針を外す道具だ。
通称は「ステープラーリムーバー」という。
 
「ステープラー? リムーバー?」
聞き慣れない人もいると思う。ホッチキスという言葉は基本的に海外では通用しない。海外ではホッチキスのことをステープラーという。いや、逆だ。日本ではステープラーのことをホッチキスという。
 
日本で「ホッチキス」が登場したのは、1903年に伊藤喜商店(現、株式会社イトーキ)がアメリカから輸入したのが最初と言われている。このとき輸入したステープラーが、E.H.ホッチキス社のものであったことから、日本ではステープラー=ホッチキスという名称で定着したのが、ホッチキスの名称の由来らしい。
 
そのステープラーを外す道具がステープラーリムーバーだ。
 
「はりとりPRO」は、最初何の気なしに注文した道具だった。
 
「あ、ホッチキスをはずす道具があったら便利かも」
 
新しく独立して司法書士事務所を構えるために、事務所に揃える文具のついでとしてアマゾンで注文してみただけのもの。その程度の認識で、さして期待もしていなかった。
 
あたらしい事務所の開設は机や本棚、文具を揃えるのは大変な仕事であったが、ゼロから自分の居場所を作り上げていく楽しさがあった。そんなある日、まだ開けてないダンボールに囲まれて、事務所の机の上の整理をしていた。事務所のドアをノックする音がする。扉をあけると差し出されたのはアマゾンのダンボール。開けてみるとそこから出てきたいくつかの文具。
 
「あ、これ、ホッチキスの針を外す道具だったよね」
注文していたのも忘れていた「はりとりPRO」。
 
手近にある紙にホッチキスをしてみた。そしてパッケージからだしたばかりの「はりとるPRO」でホッチキスの針を外してみた。
 
「え?!」
 
思わず声が出た。
なに? この手の軽い感触。
 
思わずまたもうひとつ手近ないらない紙にホッチキスをしてみた。「はりとるPRO」でホッチキスの針をはずしてみた。
 
「?!」
 
今度は言葉が出なかった。
なに? この気持ちよさ。
 
なんでホッチキスの針を外すのがこんなに楽しいの?頭の上を天使が祝福のラッパを鳴らして飛び交った。そして、私はホッチキス仕事の億劫さから開放される道具を手に入れた。
 
「はりトルPRO」はごくごくシンプルに金属だけで作られている道具だ。形状ははさみやペンチに似ている。個人的には金属の質感や、フォルムの美しさを感じている道具だ。この金属だけでつくられている「はりトルPRO」は職人の道具のような佇まいがあると同時に、ニューヨーク近代美術館のミュージアムショップで売られていても見劣りしないモダンさを兼ね備えている。
 
「はりトルPRO」使い方は簡単だ。
先端のくちばしのような尖った三角形の部分を、ホッチキスの針と紙の間に差し入れる。そしてハンドルを軽く握り込むと音もなくあっけなくホチキスの針が外れる。外れた後はきれいに針の穴が開いているだけで髪が破れたりよれたりすることもない。
 
そしてもう一つの長所がある。ホッチキスの針行方不明事件がおこらないことだ。
こんなことはないだろうか。事務所の掃除をしていると、ゴミに紛れていくつものホッチキスの針が落ちている。クイックルワイパーで掃除をしていると、床とワイパーの間に落ちたホッチキスの針が挟み込まれて音をたてる。
これはおそらく、ホッチキスの針を外す時に「あっ!」とどこかにとんで見失ったホッチキスの針のなれのはてだ。
この「はりトルPRO」ではそんなことは起こらない。グッと握り込んでサックリとホッチキスの針が取れたあとは、「はりトルPRO」のくちばしが、しっかりとホッチキスの針を捕まえていてくれる。
 
この「はりトルPRO」でホッチキスを外すときの感覚は何と表現したらいいんだろう。以前、文具カフェという文具で交流する交流会を主催したことがある。この時に「はりトルPRO」を持参した。参加者のみなさんにこの「はりトルPRO」を実際に使ってもらうと、異口同音にこんな言葉が返ってきた。
 
「これ、気持ちいいですね~」
「うわっ! なにこれ! サックサク!」
「ホッチキスの針が外したくて探しちゃいますよ、これ」
 
つまりは気持ちいいのだ。仮説であるが、この「はりトルPRO」は使うと、脳内快楽物質がでる。この気持ちよさはそうとしか、説明できない。
 
先程お話したように「はりトルPRO」は金属製のごくごくシンプルなつくりだ。なので、壊れようもなさそうである。でも私の事務所にはいつも使っている「はりトルPRO」とは別に、いつも新品の「はりトルPRO」がいくつか常備されている。
 
なぜかって?
もちろん使うのは1つだけでいい。でも、誰かがこの道具に興味を持ったときすぐにプレゼントするための予備なのだ。そして私の手元からいくつもの「はりトルPRO」がプレゼントされていった。
 
この「はりトルPRO」こそ、ホッチキスリムーバーの決定版。新しく事務所を立ち上げる人、書類仕事が多い方にプレゼントすると喜ばれること請け合い。
 
ホッチキスでとめる資料をつくるあなたであれば、「仕事は楽しい!」という無意識の刷り込みがおこなわれるはず。もちろん、ホッチキスの針の掃除に辟易しているあなたも、単純に持ち良さを追求したいあなたにもこの「はりトルPRO」はオススメである。
 
そう、私は「はりトルPRO」伝道師なのだ。
「はりトルPRO」はあなたのホッチキス人生、変えてくれるはず。この天使が祝福のラッパを鳴らす出会いを、あなたにも是非多くの方に体験していただきたい。

 
 

ライタープロフィール
青木文子(あおきあやこ)
愛知県生まれ、岐阜県在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学時代は民俗学を専攻。民俗学の学びの中でフィールドワークの基礎を身に付ける。子どもを二人出産してから司法書士試験に挑戦。法学部出身でなく、下の子が0歳の時から4年の受験勉強を経て2008年司法書士試験合格。
人前で話すこと、伝えることが身上。「人が物語を語ること」の可能性を信じている。貫くテーマは「あなたの物語」。
天狼院書店ライティング・ゼミの受講をきっかけにライターになる。天狼院メディアグランプリ23nd season総合優勝。雑誌『READING LIFE』公認ライター、天狼院公認ライター。

http://tenro-in.com/zemi/66768


2019-01-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.15

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