【国際結婚ギャップ解消サバイバル 第2章】定期検診で産婦人科の主治医から怒られた話〜アメリカでの医療体験《天狼院書店 海外ローカル企画》
記事:武田かおる(READING LIFE 編集部公認ライター)
産婦人科の主治医から怒られた話
「3人目のお子さんは考えているの?」
「いえ、2人でもういいです」
「じゃあ、今、避妊はどうしているの?」
二人目の子供が生まれてから1年ほどが経った後、かかりつけの産婦人科のクリニックに婦人科の定期検診に行った時のことだ。
妊娠中から私の担当をしてくれているその女医は、体調で気になることに加えて、私の子どもたちの事や仕事、食事、アルコールやタバコの摂取量、運動量についてをインタビュー形式で詳しく私に質問した。かしこまった形ではなく、あくまでもカジュアルな会話でリラックスした状況で問診が行われていた。最後に一連の質問の流れで、その女医は冒頭の質問を私に投げかけたのだ。
プライベートなことも聞いてくるのだなぁと思いながら、私は正直に答えた。
「そういうことはしていないので、避妊は必要ないです」と。
当時1歳の乳飲み子に加えて4歳の息子の世話で毎日余裕のない生活を送っていたため、夜は子供の寝かしつけで自分も寝落ちするのが日課だった。
すると、女医は今までリラックスした雰囲気から一転して、血相を変えてこう言った。
「そんなんじゃだめじゃないの! 旦那さんがかわいそうよ! 男の人は定期的にそういう……」
今までの優しい感じの語り口調から、かかりつけ医の声のトーンが叱りのモードに変わったことを察した。その後も医師からの教育的指導は続いたが、夫婦間の夜の生活のことで指摘を受けるとは全く予想しておらず、恥ずかしさとショックで私は頭が真っ白になってしまい、先生の話が耳に入らなくなってしまった。いつもはきはきしていて、ストレートな言動の女医さんだったので、きつく聞こえることも普段からあった。だが、その日はいつもにまして言葉尻がきつかった。私は先生に怒られた生徒のように、ショックを受けて落ち込んでしまった。
今思えば、子供はもう2人で良いということならば、私がどういった避妊をしているかによって、医師が様々な避妊の選択肢を提案する流れで、必要ならば、避妊のための手術や処置などを受ける手続きになっていくのだろう。あくまで推測だが、私が悪びれることもなく、「避妊は必要ない」と答えたことで、担当医は私の態度に呆れ、夜の夫婦生活についてわかっていない私を説教するという始末になってしまったのではないだろうか。
冷静に考えるとこのような個人的なことで医師から指導される筋合いは無かったとは思うし、そういった事は夫婦間によって異なり、強制されてするものではないと思う。しかし、このことは、私にとってアメリカの一般的な夫婦生活と妻の役割というものについて考えさせられる一件になったことは間違いない。
額面通りではなかった請求書
アメリカの医療費は高額だ。救急車を呼ぶのだって有料なので気軽には呼べない。だから少々の体の不調ぐらいでは病院に行かないようにしているし、普段からできるだけ健康には気をつけている。だが、子供の怪我については気をつけていても起こってしまうものである。
今から数年前のことだ。当時小学校1年生だった娘が腕を骨折した事があった。いったいいくら支払わなくてはならならないのか、ドキドキしながら病院から請求書が届くのを待っていた。数週間後に送られてきた請求書には、医療保険に加入していたにもかかわらず、救急での処置、その後整形外科でのフォローアップ受診などを含めて支払額の総額が1400ドル(日本円に換算して約14万8千円)と記載されていた。
最初、医療保険が適応されていないのではないかと疑ったが、よく書類を確認すると間違いなく一部は保険でカバーされており、保険の支払い分を差し引いた我が家の支払い分が1400ドルだった。当時、夫が失業中で、我が家にとって経済的に1400ドルの出費は厳しかった。以前、誰かに無利子で分割で医療費を支払うこともできると聞いたことがあったので、夫が電話で問い合わせをしたところ、
担当者からの答えはこうだった。
「一括で払えるんだったら、1000ドルに値下げできるわよ〜」
軽い口調でそんな風に言われたと聞いて驚き、椅子から滑り落ちそうになった。「請求書って言い値なんかい!」とツッコミを入れたくなったほどだった。逆に言うと実際の支払額は1000ドルだが、400ドルは分割で払う場合の利息分を予め上乗せしているのかもと考えてしまった。
分割払いにすることで400ドルも余分に支払わなければならないことを知った私達は、そのオファーを断る理由はなく1000ドルを一括で支払うというオプションを選んだのだ。
また、請求額が間違っていたことも何度もあったので、時間はかかるが不明な点や高額な請求が来た場合などは、逐一請求書に書かれている問い合わせ先に確認した上で支払うようにしている。以前、支払う必要のない費用を病院に支払ってしまったことがあった。返金の手続きをするのに、電話をしてみても、担当部署ではないと何度もたらい回しにされ、交渉や手続きに異常な労力と時間がかかることも学んだためだ。もしかして、返金手続きをわざとややこしくして、返金手続きを諦めさせるためではないのかと思ったほどだ。
健康だと血液検査は不要なのか?
話が戻るが、医療費が高いため、やはり病気にならないための予防が大事ということで、私は婦人科の定期検診に加え、年に一度、普段のかかりつけ医の健康診断も受けている。
数年前に健康診断を受けた時の話だ。体重を図り、血圧や体温などのをバイタルサインをチェックし、婦人科検診の時と同じように、落ち着いた面持ちのトム・ハンクスを彷彿させるかかりつけの医から、普段の生活に食事や睡眠、運動などについての問診があった。医師は自動音声入力の機能をフルに使って、私の問診の内容を文字化していた。
私は健康には人並みに気をつけている方だ。飲酒もほとんどしないし喫煙もしない。運動についても、ヨーガのインストラクターをしているため定期的に体を動かしていて、ウォーキングを日課にしている。問診の最後に、友達がいるかどうかとか、社会生活を楽しめているかなど、メンタルヘルスの面からのも問診もあった。
一連の質問を終えた後、かかりつけ医師は私にこう言った。
「君は極めて健康的な生活をしているね。この調子をキープするようにして。
去年の血液検査の結果も全く問題がない。
だから、今年の血液検査はもう必要ないね?」
私は即座に心の中で「いやいやいや、今年も血液検査してください!」
そう思った後、落ち着いて医師にこう伝えた。
「私も40代ですし、コレステロールの数値なども気になりますから血液検査をしてください」
と。
おそらく、問診で健康と判断された人、かつ昨年の血液検査に異常がなかった人は、血液検査は不要という医学的データに基づいた検診の流れだったのだろうが、今の血液検査の数値をチェックしたいと思うのは、私だけではないのではないだろうか。先生はしぶしぶ(少なくとも私にはそう見えた)血液検査のためのオーダーシートを私に手渡した。血液検査をするためには、ラボと呼ばれる血液検査を専門に扱っている部門までそのオーダーシートを持って行かなくてはいけないのだ。
受付を通って外に出ようとした時、エンタランスの壁に額縁に入れて飾られていた表彰状が私の目に止まった。それは、大手医療保険会社からトム・ハンクス張りの私の主治医へ送られたもので、その医師のパフォーマンスが良かったことへの表彰状だった。
私は即座に思った。
「問診で健康な生活をしていると判断した人の検査を省略することで、医療費削減に貢献したことが、パフォーマンスが良かったと保険会社から表彰された理由なのかもしれない」
と、あくまで勝手な推測だが、「先生のパフォーマンスに貢献できなくてごめんなさい。でもやっぱり私は今のコレステロールの数値が知りたいんです」と、そう思いながら血液検査のためのラボに向かった。
治療を拒否された日
雇用主が従業員のためにどういったタイプの医療保険に加入するか、どれだけ保険料を負担するかによって、個人が支払う毎月の医療保険の額や、保険でカバーされる内容が異なってくる。日本のように収入によって支払額が変わるのではなく、収入に関わらず一定の金額だ。(低所得者や高齢者、軍人や元軍人など、医療保険の仕組みが異なりこの限りでは無い保険もある)
あくまで一例だが、我が家は夫の会社の医療保険に月々日本円に換算して10万円以上を支払っている。それは、アメリカの平均よりもかなり上回っている。(1)
通常の医療保険以外にも、歯科用と眼鏡用の保険加入のために少額ではあるが別で毎月支払っている。歯科用の保険も別途加入しないと、いざ治療が必要なときには実費になる。医療保険の総計は我が家の場合、家系全体の割合からみて、住宅ローンに次ぐ出費となっている。
数年前に夫が仕事を辞めた時、医療保険が一時的になくなり大変だった。そういった場合、次の仕事が見つかるまでの間、以前に勤務していた会社の保険に継続して加入し続けるプログラムがある。当時の毎月の支払額は1400ドルだった。(日本円にして約14万8千円)多少の貯金はあるにしても、無収入の家計から1400ドルを毎月支払うのはかなり負担だった。いろいろ調べて、子どもたちは月々の支払いが無料の州の医療保険への加入が認められたのでそれに加入した。夫は元軍人のため、元軍人用の月々の支払いが無料の医療保険に加入できることが分かったので、早速手続きをした。私の医療保険はやむを得ず、一般の医療保険に加入することにした。幸い持病がないので、月々の支払額が一番安い保険に加入した。それでも一ヶ月の支払いは400ドル(4万8千円)ほどかかった。失業中の家計にとって決して安くはない金額だ。
その時に、私は風邪をこじらせてしまった。普通の風邪なら基本的には病院に行かない。診察してもらったとしても、風邪の場合、薬は処方してもらえず、薬局での市販の風邪薬を飲むように医師から言われるだけだからだ。子供でもちょっと熱が出たくらいだったら、まずかかりつけ医に電話して看護師に電話で病状を伝えて相談するが、大抵の場合、「市販のタイレノール(解熱剤)を薬局で買って飲ませて様子をみるように」と言われる。(市販の薬で症状が改善しない、呼吸が苦しそう等、その他の症状がある場合はもちろん受診を勧められる)
私の場合は、咳が2週間以上続いていた。寒気があり微熱もあった、一旦咳が続くと数分間止まらない状態で、呼吸も苦しく体力も消耗していた。今までの経験から気管支炎ではないかなと思い始めていた。
かかりつけの病院に受診の予約のため連絡したが、保険に未加入ということで診察を拒否された。保険の手続きは済ませ、保険料も支払ったが、保険のカードはまだ届いていなかったので証明できるものは手元にはなかった。私はゼーゼー言いながら、「保険の手続きはしている」と病院の事務員に伝えても、「保険に加入していない人は診察できない」の一点張りだった。おそらく、保険に加入しない人が受診して、結局医療費を払わないなどのトラブルがあるからだろうと推測した。特に私のような外国人の場合、そのまま国へ帰ってしまえば請求すらできなくなってしまうこともありうるだろう。だが、まるで犯罪予備者のような扱いを受け、体調も悪いこともあり気力も落ちていたので、心細く泣きそうな気持ちになった。結局、保険会社の人と病院との間で話をしてもらい、無事受診できた。診断の結果、やはり気管支炎で、抗生物質を処方された。だが、薬局でも保険未加入ということで、処方された薬が出せないと言われ、同じようなやり取りをしなくてはならずとても長い一日となった。
これが日本だったら、諸事情で保険に入っていなかったとしても、当日に支払いも済ませるため、こんな事にならなかっただろう。実際、日本に里帰りしたときに子供が怪我をし、夜間、救急病院にお世話になったことがある。その時も保険はなかったが、実費を支払うと伝えたら普通に受診させてもらえた。それ以外にも一時帰国中に病院にお世話になった事が何度かあったが、保険に未加入という理由で、受診を拒否されたことは一度もない。
後で調べて分かったことだが、アメリカでは生死に関わる症状ではない場合、私立の病院では保険に加入していない患者の診察を断ることができるそうだ。ただ救急医療施設で生死に関わる状態の場合は医療保険に加入していなくても、医療施設は治療を拒否していはいけないという法律が制定されているということだった。
病院にまつわる話で驚いたことは、ここには書ききれない。特に、治療費の支払いについては、複雑な事が多い。一度緊急で検査入院したことがあるが、あとから送られてくる請求書の事を考えるとストレスで落ち着いていられなく、血圧も普段より上がってしまったことがあった。
世界でも最先端の医療技術を誇る病院の近郊にすんでいる我が家だが、なるべく病院のお世話にはならなくてもいいように、健康に気をつけ、健康であることに感謝しながら日々過ごしている。そして、比較的気軽に受診できる日本の医療システムを懐かしく思っている。
《参考文献》
(1)Josh Miner, (August 12, 2020), Peoplekeep, What Percent of Health Insurance is
Paid by Employers? Retrieved October 21, 2020.
https://www.peoplekeep.com/blog/what-percent-of-health-insurance-is-
paid-by-employers
□ライターズプロフィール
武田かおる(READING LIFE編集部公認ライター)
アメリカ在住。
日本を離れてから、母国語である日本語の表現の美しさや面白さを再認識する。
『ただ生きるという愛情表現』、『夢を語り続ける時、その先にあるもの』、2作品で天狼院メディアグランプリ1位を獲得。
この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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